飲食業の仕事は「偉大なるマンネリ」である。飲食店で成功をめざすなら、最初にこのことをしつかりと理解してほしいと思う。まず、飲食店の仕事は毎日が同じ仕事の繰り返しだ。同じメニューをつくる。いつでも同じサービスを心がける。それを延々と続けていかなければならない。
しかも、自分で経営するとなれば、一日の労働時間は非常に長い。この労働時間についてはよく、素人の人たちが勘違いするのだが、働く時間はお店の営業時間だけではない。その前後に仕込みなどの準備、後片付け、清掃、翌日の準備などの仕事が山ほどある。スタッフはともかく、経営者は労働基準法などといってられないのだ。しかも、立ち仕事のうえに想像以上の重労働で、まとまった休日も取れない。
しかし、本当に成功したいなら、こんなことで尻込みしてはいけない。そもそも飲食業は、1年や2年で答えが出るようなビジネスではない。10年、15年という長い歳月を乗り切ってはじめて、確固とした経営基盤が固まるものだ。また、そうなってはじめて、経営の本当の面白さもわかってくるし、大きな成功の芽も出てくるのである。
たしかに最近は、何かの拍子で話題になってお客様が押しかける、といったケースがよくある。いまは情報の時代でマスコミなどの影響力はすごいから、ブームに乗ることができれば大したお店でなくても、あっという間に繁盛店の仲間入りをすることがある。しかし、何かのきっかけで一時的に集客できたとしても、実力がなければ繁盛は長続きしない。たとえば、オープン直後だけ、 一見繁盛することを「オープン景気」という。お客様は開店直後の目新しさに魅かれて来店しただけなので、あっという間にしぼんでしまう。問題はお店を支持してくれるお客様が何人いるかということなのだ。それでなくても、飲食店は時代の風潮とかブームの影響を受けやすい。
しかし、ブームに乗れただけではダメなわけで、本当の勝負はその先なのである。結局、飲食店で確実に成功するには、地道な努力を続けることが最良、最短の道なのである。しかし、それがわかっていても、やっぱり飽きてしまうのが人間というものだろう。最初の意志を強固に持ち続けるというのは、われわれ凡人にはなかなかむずかしい。
オープンからしばらくの間は気合が入っていても、仕事に慣れていくにしたがって、仕事自体の新鮮味もなくなっていくからだ。また、なかなか思うような売上が上がらないという焦りも出てくるだろう。それなのに、サラリーマン時代と違って休みもろくに取れないとなると、なんのために働いているのかわからなくなってしまう。実際、そういう悩みを抱える経営者はたくさんいる。
しかし、多くの成功者たちもまた同じような悩みと苦しみのなかをくぐり抜けてきたのだということを、ここで強調しておこう。どんなビジネスでも、最初から何年もの間ずっと絶好調のままなどということはない。山あり谷ありで、マンネリに陥ってしまう落とし穴もある。それでも飽きずに、イヤにならずに継続していくにはどうしたらいいのか。答えは「目的」をはき間違えない、ということだ。
だれでもお店をオープンする以上は、繁盛させたいと思っている。多くのお客様に愛されるいいお店をつくりたいと思う。当たり前である。だから、オープンに当たってはだれもが真剣になる。努力を惜しまない。ところが、せっかくいいお店をつくつても、オープンしてしばらくすると、オープンまでの情熱が薄れてしまいがちだ。なぜかというと、「目的」の持ち方が間違っているからだ。要するに、オープンすること自体が目的になってしまつている。つまり、お店をオープンしたことで目的が達成されてしまうわけである。これでは、どんなにいいお店をつくつて一時的に繁盛できたとしても、長続きするわけがない。
いまは飲食店の競争もシビアな時代だ。繁盛店をつくり上げても、その繁盛を持続させるノウハウと努力が伴わなければ生き残れない時代である。ヤル気を持続させるのはあなた自身なのだ。続させることである。昔から「商売は飽きない」というが、まさにその通り。長く続けることに意味があるのだし、ビジネスとしての本当のうまみも出てくる。だから、とにかく地道に頑張ることだ。