飲食店の開業を希望する人はたいていの場合、まず「何屋」をやろうかと考える。それはそれで別に悪いことではない。とくに脱サラなど飲食業の経験のない人は、技術的に無理がなく、自分が空きになれる業種を選ぶことが大切だ。それは、商売を長続きさせるための大事なポイントでもある。
しかし、業種だけ決めても、それですぐにお店をつくれるわけではない。もちろん、店舗だけならお金さえ出せばすぐにつくれる。しかし、実は業種を決めただけでは、どんな店舗にすべきなのかの方針すら立てられない。お店の方針を決定する根拠となるのは業種ではない。「業態」なのである。
業種とは、簡単にいえば主力商品のジャンルによる分類だ。 一方、業態とは「売り方」による分類である。言い替えれば、業種は「何を売っているか」であり、業態は「どのように売っているか」という違いになる。では、どうして「売り方」がそれほど重要な問題になるのか。それこそが、お客様のお店選びの最大のポイントだからである。
業態とは、どんな商品を、いくらで、だれに売るのか。その方針と仕組みのことであり、次のような要素に分解される。
・WHAT (何を)=業種および主力商品
・WHY (何のために)=お客様の利用動機
・WHO (だれに)=主要客層
・WHEN (いつ)=営業時間およびお客様の主な利用時間
・WHERE (どこで)=出店立地
・HOW (どのように)=売り方のスタイル、お客様にとっては楽しみ方のスタイル
・HOW MUCH (いくらで)=価格政策
私はこれら七つの要素を「飲食店の5W2H」と呼んでいるが、業種はこれらのうちのたった一つの要素にすぎない。残る六つの要素が決まらなければ、具体的にどんなお店をオープンすればいいのかわからないわけである。
たとえば、業種は「すし店」としても、どんなすじ店にすればいいのか決められない。すじ店には、客単価一万円以上の高級店から一個一〇〇円の回転ずしまでいろいろな業態がある。たんに「すし店」といっだけでは、どんなすし店なのかわからないが、業態で考えると、具体的な営業形態が浮かび上がってくる。だから、業態が重要なのである。
さて、このように業種業態の決定要素は七つもあるわけだが、これらのうちでもっとも重要な要素はHOW MUCH=価格である。つまり、「いくらで売るのか」ということだ。どうしてかというと、お客様が外食でお店を選ぶ時の最大の決定ポイントだからである。お客様の消費行動には必ず、予算があるものだ。大体いくらくらいまでなら出してもいいという腹づもりがある。
常識的に、1000円でも1万円でもいいなどというお客様はいない。そして、その予算は、お客様の消費動機=飲食店の利用動機(WHY)によつて決まる。たとえば、居酒屋を利用するといっても、会社の帰りに同僚と一杯やるお店と恋人とのデートで使うお店では、当然のことに予算が違う。なぜなら、お店に求める商品、サービス、雰囲気のレベルが違うからである。つまり、お客様はその時その時の利用動機によつて、利用する飲食店の業態を選択しているわけだ。
つまり、業態が曖味なお店は敬遠されやすいということだ。したがつて、確実にお客様を取り込むためには、自店がターゲットとする主要客層(WHO)や利用動機を絞り込み、どういう業態のお店なのかということを、わかりやすくアピールしていく必要がある。営業時間や出店立地、売り方のスタイルは、価格と利用動機、主要客層が決まれば、おのずと決まつていくものである。極端いえば、ビジネスに徹するのであれば、業種はそれら六つの要素が決まってから選択しても遅くはないということにもなる。
ところで、ここで大事なポイントがもうひとつ浮上する。それは、競合店とは必ずしも同業種のお店だけではないということだ。商圏内の同業態の飲食店はすべて、業種にかかわらず競合店となる。理由はもうおわかりだろう。お客様の消費行動には予算があり、お客様がもつとも優先するのは予算だからである。
こうして考えると、お店づくりとはたんに店舗をつくることではない、ということが理解できるはずだ。業種業態を明確にすることではじめて、どんな店舗にすべきかの方針が決められるのである。