オープン資金の見積もりの項で述べたように、オープン準備でもっとも重要かつ不可欠なことは、必要な資金を間違いなく調達することである。世の中には、資金が足りないばかりにオープンできないという事例が山ほどあるのだ。
ところで、個人がお店をオープンする場合、そのオープン資金を全額準備できるという人はほとんどいない。マイホームほどはかからないにしても、個人のレベルでは、マイホームに次ぐ「一生に一度」の出費といわれるくらいである。初期投資額を低く抑えられる居抜き店舗活用の場合でも、1000万円単位のまとまった金額を用意しなければならない。
また、素人が事業を始めるのに借金は好ましくないという人もいるが、私はそうは思わない。私はこれまでのコンサルタント活動で、3000店以上の飲食店を見てきているが、その経験からそう断言できるのだ。3000店もあればオープンまでの事情もさまざまだが、適正な借入、つまり返済可能な金額を借金してオープンしたケースのほうが、成功率がはるかに高い。これは事実である。
どうしてかというと、借入金がない=全額自己資金でのオープンの場合は、当然のことに返済というプレッシャーがない。そして、損益計算書の減価償却費は九々、現金として手元に残ることになる。そのため、どうしても経営が甘くなりがちだ。もしも帳簿上の利益が出なくても、減価償却費があるから、
という意識がそうさせてしまうのだ。それに対して、借入をしてオープンをした場合は、逆に返済のプレツシャーがプラスに作用する。きちんと返していかなければという意識がシビアな計数管理意識となり、それが利益を確保させる原動力にもなるわけだ。借金までしてオープンしたのだから、なんとしても成功させるのだという強い意志も持てる。この意識の違いがどういう結果の違いをもたらすか明らかだろう。
しかも、もともと飲食店の経営は、適正な範囲内(キャインュフロー)であれば、無理なく返済できて、ちゃんと利益も出る構造になっているのである。一般には政府系の公的資金である「かんえい融資」を利用するが、低利の固定金利で長期返済なので、これがもつとも有利で安心な融資である。設備資金としての一般貸付の上限は7200万円(返済期間一五年以内、据置期間は三年以内)だが、個人がオープンする小規模店のオープン資金としては十分の金額だ。
この融資は、脱サラなどこれまで飲食業に従事していなかつた人でも受けられる。国民生活金融公庫、または代理店(銀行、信用金庫、商工中金など)の窓口で相談すればいい。公的資金は資金の足りない事業者を国が支援することを目的としている融資だから、銀行などよりも好意的に相談に乗ってもらえるはずである。