看板の大切さの項でも指摘したが、飲食店が確実に成功するための最大の条件は、ひとりでも多くの人たちに自店の存在を知ってもらうことである。お店があることを知らせなければ、お客様になってもらえない。したがって、とにかく目立つための努力をしなければならないわけで、看板はそのためにある。
ただし、飲食業はビジネスだ。多くの人たちに知ってもらうまで、じっと待っているというわけにはいかない。オープンと同時に、自店の存在を広く知ってもらう必要がある。つまり、いきなり目立つためのアピールが不可欠ということだ。その戦術が開店宣伝なのである。
オープンは、飲食店の成功のカギを握っているといっても過言ではない。オープンがうまくいけばそのまま軌道に乗る確率が高いが、オープンで失敗するとなかなか取り返しがつかないからだ。
もちろん、将来のすべてがオープンで決まるということではない。しかし、オープンの失敗でお客様に植えつけてしまったマイナスイメージを帳消しにするには、かなりの時間と努力が必要になる。
しかも、居抜き店舗を活用してオープンする場合は、前のお店のイメージというハンデイがある。そのイメージを払拭して新しいお店が誕生したということをアピールするためにも、開店宣伝は非常に重要な意味を持つ。
では、オープンを最大限に盛り上げて、できるだけ多くの人たちに自店の存在をしっかりと覚えてもらうにはどうすればいいのか。そして、覚えてもらうだけでなく、実際に利用してもらうにはどうすればいいのか。実は、肝心なのはここである。派手に開店宣伝をすればいいのかという、必ずしもそうではない。いくら大々的な宣伝をかけても、盛り上がるのはお店の側だけということにもなりかねない。
たしかに、新店がオープンしたということは伝わるだろう。しかし、いまは飲食店のオープンなど珍しくない時代だ。外食に慣れているお客様は、オープンしたというニュースだけでは乗ってこないと考えるべきである。
できるだけ多くの人たちに確実に利用してもらうためには、それなりの開店サービスを提供しなければならない。お客様からすれば、オープンしたのは知っていても、まだ海のものとも山のものともわからない新しいお店なのだ。それを確実に足を運ばせるためには、それなりの見返りが必要ということになる。それが開店サービスだ。
そこで、町で配るティッシュやチラシに何らかのサービス券を付けるのが一般的になっている。しかし、中途半端なサービス内容では、いくらたくさんのティッシュを配ってみても、大した効果は期待できないと知るべきだ。
たとえば、普通のサービス内容はワンドリンク付きとか、せいぜい一割引き程度のものだが、これではたして、お客様のハートをくすぐることができるだろうか。トクすると思わせられるだろうか。はっきりいって甘い。
開店サービスとはたんなる御祝儀ではない。お客様の自店を知ってもらい、末長くお付き合いしてもらうための試食の場でもある。なにしろ飲食店は、どんなにいいお店でも利用してもらわないことには、そのよさは伝わらないのである。
それを考えれば、せせこましい形ばかりのサービスであっていいはずがない。本気で成功したいのなら、50パーセントOFFとか5枚つづりのサービス券にしてさらに別の特典も付けるなど、思い切ったサービス内容にして当然だろう。
それができないのは結局、開店サービスなど名ばかりで、通常営業の利益を出したいという本音があるからにほかならない。要するに、できるだけ損をしたくないというわけだが、昔から「損して得取れ」という言葉があるように、ある程度の投資をしなければ大きなリターンは望めない。それがビジネスというものだ。
サービス期間の長さについても一考を要する。ふつう、サービス券の有効期間はせいぜい3日間とか1週間程度に設定されているが、これではあまりに短すぎる。その期間中にたまたま来られなかった人は、オープンに駆けつけてくれたありがたいお客様と見なさないというのだろうか。また、サービス期間中は一度だけの来店でけっこうです、という意思表示ともとられてしまいかねない。私なら最低でも2週間、できれば1カ月は有効期間にする。その間は開業経費と割り切って、ひたすら自店のアピールに徹するのである。