接客サービスはお見送りで完結する。ということは、お見送りの仕方や感じで、お店のお客様に対する姿勢がわかるということになる。しかも、お客様の記憶にもつとも鮮明に残るのが、このお見送りでの印象だ。
せっかくいい気分で過ごしてもらつても、ここで悪い印象を与えてしまったら何にもならない。それまでのスタッフの努力が水の泡になっしまうのである。お見送りがおろそかであっていいはずがない。
お客様のお見送りの仕方はいろいろある。たとえば、もつとも多いのはレジ前でのお見送りだ。会計を済ませたお客様に「ありがとうございました。またお越しくださいませ」と、笑顔で声をかける。しかし、サービスはお客様が出て行くまで必要と考えているお店では、レジの後にお客様の背中に向かってもう一度「ありがとうございました」と頭を下げる。また、高級レストランなどでは、ドアの外まで出てお見送りをしているお店もある。
それぞれお店の考え方があるわけで、通常は客単価が高い業態になるほどていねいな見送り方になる。これは当然のことだろう。高いお金を払ってもらっておいて、ポピュラープライスのお店と変わらないようなお見送りしかしないというのでは通用しない。
ではポピュラープライスのお店なら、いい加減なお見送りでいいのか。もちろん、そんなことはあり得ない。客単価がいくらであろうと、お客様に変わりはないのだ。お客様に対する感謝の気持ちは高級店と同じでなければおかしい。ただし、やり方は業態によって違っていい。そういうことである。
こういうと当たり前のことと感じる人もいるだろうが、実はこの「お見送り」は、接客サービスのいちばんの盲点になりやすいのだ。飲食店に限らず、商売でもっとも大事な言葉は「ありがとうございました」である。これも当たり前のことだ。しかし人間、あまりに当たり前のことだと、ついつい注意不足になったり、気持ちが抜けてしまうものだ。この「ありがとうございました」は、その典型的なケースといってもいいだろう。
たとえば、暇な時ならきちんと「ありがとうございました」と挨拶するのに、ちょっと忙しくなるとお座なりになってしまうお店のなんと多いことか。もちろん、 一応は「ありがとうございました」と声は出している。しかし、言葉に心がこもっていないのだ。これでは意味がないどころか、お客様を馬鹿にしているような印象すら与えかねない。
あらためて考えてみよう。なぜ「ありがとうございました」が大切なのか。答えはいうまでもない。お金を払ってくれたお客様に対する感謝の気持ちを表す言葉だからである。
しかし、ただオウムのように繰り返せばいいというものではない。言葉に肝心の心がこもっていなければ、本心では全然感謝なんかしていないということになってしまう。お店側はそう思っていなくても、お客様はそう感じてしまう。たとえ感謝の気持ちがあっても、お客様に伝わらなければ、その気持ちはないのと同じ。それが飲食店なのだ。
したがって、スタッフの教育にはとくに注意して取り組む必要がある。ただし、マニュアルをつくって発声練習すればいいということではない。接客の基本用語として教えるのではなく、お店側の人間として絶対に忘れてはならない心がけとして教える。だから訓練ではなく「教育」なのである。
そもそも「ありがとうございました」は、どこのお店でも使う言葉だ。いまの人たちは子どもの頃からフアミリーレストランで食事をして育っているから、こんな言葉自体は教えられなくても知っている。
だから余計に、マニュアルっぼくなってしまう傾向があることも付け加えておこう。なお、 一般の小さな飲食店が高級店の真似をする必要はまったくないが、それでも、お客様が帰る時はできる限リドアのところまで行ってお見送りするようにしたい。小さなお店は広くはないのだから、それくらいの労力を惜しんではいけない。
また、レジでの対応にも十分注意すること。レジはお金を払う場所だ。したがって、お客様はレジで、お店に対してもっともシビアな評価を下す。お客様の満足度は、料金を支払ってはじめて決まるのである。
レジの仕事はたんなるお金のやりとりだけではない。かりにサービスなどで失敗や足りなかったことがあったとしても、ここでの対応次第で取り戻せる。その意味でも、「ありがとうございました」を考えてみることである。