メニュー構成を考える時にもっとも大切なことは、その品揃えに明確な根拠があるかどうかということだ。ただし、ここで問題にしているのは、メニューの品目数が多いか少ないか、ということではない。
たとえば、居酒屋などは100品日以上というのが一般的だが、 10品目もないカレーショップやラーメン店に比べて、ムダな品揃えをしているということにはならないし、品目数が少ないから根拠があるのかというとそんなことはない。
要は、何のために品揃えをしているのかという理由であり、その答えはただひとつ。お客様に喜んでもらうため、つまり売上を上げるためでなければならない。逆にいえば、メニュー表からはずしてもお客様が困らないメニューがあるとすれば、それはたんなるムダということになる。
ところで、多くの飲食店のメニュー構成を見てみると、業種によって品揃えが似ていることに気づく。要するに、業種ごとの「常識的な品揃え」というものがあるわけだ。試しに、同業種の何店かのメニュー表を集めて比較してみるといい。店名を隠してしまうと、どのメニューがどのお店のものかわからなくなってしまうはずである。
ではどうして、業種ごとに標準的な品揃えがあるのか。いちばんの理由は、それによって業種らしさを出すことが自店の存在理由になるという思い込みである。標準的な品揃えというのは、長い間の経験則で決まつてきたものだ。だから、それに従うのがもっとも安全という発想のわけだが、実はこの考え方が結果的にお店の競争力を奪ってしまっていることに気づいてほしい。
外食に慣れて豊かさを享受しているいまのお客様は、どこにでもあるようなメニューだからといつて喜んでくれるわけがない。お客様が求めているのは、他店では味わえないおいしさや楽しさである。もちろん、メニューのすべてがオリジナルメニューである必要はないし、常識的なメニューが含まれていること自体が悪いというのではない。最初に述べたように、その品揃えにお客様に喜んでもらうための根拠があるのかどうかが問題なのだ。
多くのお店が常識的な品揃えにしてしまうのは、自店の商品に自信がないからであり、お客様が何を求めているかがわかつていないためである。どんな客層のどんな利用動機に対応するのかというコンセプトがしつかりと立てられていないケースも少なくない。お客様にどのように過ごしてもらいたいのかという像を明確に描けていないから、とりあえずあれもこれもと揃えてしまうことになる。業態によるメニュー構成という発想ができないため、同業種の他店にあるメニューがないということが、不安になってしまうわけである。
本来、メニュー構成はコンセプトに則った商品政策によって決められるべきものだが、それは材料の仕入れから調理作業、そして材料のストックという問題を切り離して考えることはできない。たとえば、通常、メニューのなかの全商品がまんべんなく売れるということはあり得ない。いわゆる売れ筋商品と死に筋商品とに分かれてしまうのがふつうである。したがつて、飲食店はつねにメニューに対するお客様の支持度を見ながら、死に筋商品をカットして売れる商品を増やすというメニュー改定をしていかなければならないわけだ。
ところが、常識的品揃えは言い替えれば、あえて死に筋商品を抱え込んでいるのと同じである。その結果、不要な材料の在庫を常時抱えるようになり、当然、材料ロスが発生してしまう。
また、いたずらにメニュー品目数が多く、死に筋商品をたくさん抱えていると、ピーク時に何種類ものオーダーが殺到して調理場がバンクしてしまうということも指摘しておきたい。売れ筋商品ならあらかじめの仕込み調理によって効率的な提供が可能だが、たまにしか売れないような商品を仕込んでおくことはできない。
確たる理由もなく常識的な品揃えをしているということは、要するに「何でもあります」式の売り方のわけだが、お客様の日から見ればこれは、「自信を持ってお薦めできる商品は何もありません」という言い訳に映ってしまう。そのお店をわざわざ選ぶ理由がないわけだ。そのため、こういうお店はフリ客は来ても、目的客、固定客が少ない。
品揃えには、商品力、商品に対する自信のあるなしが如実に出てしまう。選ばれるお店になるためにはまず、品揃えの常識を捨てて戦略的に考えることである。