都市部の繁華街や郊外のロードサイドではチェーン店や大型店が目立つが、実は飲食店の大半は小規模の個店である。この30年、チェーン店は急速に店数を増やしてきたが、それで個店がなくなったわけではない。
たしかに、強力なチェーン店が進出してきたために、それまで繁盛していた個店が不振になるとか、撤退を余儀なくされるというケースはままある。しかし、大多数の個店はちゃんと生き残っているし、繁盛店もたくさんある。小さなお店だから成功できないということではないのである。
失敗したケースなら、チェーン店でも大型店でもいっぱいある。成功するのに、チェーンかどうか、規模が大きいか小さいかということは直接の関係はない。それぞれの立場で成功のポイントをしっかりと押さえたお店が勝ち残る。それだけのことだ。最初に、このことをとくに強調しておきたい。
そもそも、小さな個店がチェーン店や大型店と同じ土俵で戦おうとするから、話がおかしくなるのだ。たとえば、チエーン店や大型店は、メニューの開発手法からしてまつたく違う。材料の仕入にしても大量に仕入れるスケールメリットを生かして、個店よりもずっと安く仕入れることができる。だから驚くような低価格を実現できるのだ。個店が真似しようとしてみても始まらない。仕入にしてもメニュー開発にしても、個店ならではのよさを発揮すればいいことだ。
では、小さなお店ならではのよさとは何か。第一に挙げられるのは、小回りがきくということだ。とくにチェーン店はマンモスタンカーのようなもので、急に方向転換したいと思ってカジをきってもかなり先まで行ってしまう。しかし、ヨットだったら自在に動ける。この臨機応変な対応こそが、小さなお店の最大の武器なのである。
たとえば、チエーン店の場合、新メニューを導入するには、材料の調達や調理法の開発、各店舗への材料類の配送態勢など、さまざまな面での変更を伴う大仕事になるが、小さなお店ではいとも簡単なことである。場合によっては、メニューにのせていない料理を提供することもできるし、流行のメニューを試験的に出してみることなどもやりやすい。
サービス面でもそうだ。チェーン店では全店決められたマニュアルサービスしかできないが、小さなお店では、その場の状況に応じたきめの細かい対応ができる。どちらのお店がお客様の満足度が高いか、言うまでもないだろう。
メニューということでいえば、チエーン店の商品は基本的に、セントラルキツチンで一次加工された材料を各店舗で二次加工するというスタイルである。もちろん、だからこそアルバイトでも調理ができるのだし、個店が見習うべき点は多い。しかし、個店では当たり前の手づくりの商品を出すことはできない。ここが、個店ならではの魅力であり、どんなにチェーン店が増えても個店がなくならない最大の理由でもある。
飲食業で成功するには個性化が絶対の条件になる。他店との違いが明らかだからこそ、お客様はわざわざ自店を選んでくれるわけだ。そして、最も個性化しやすいのは小さな個店なのである。
いま手づくりの商品といったが、小さなお店はサービスの仕方にも個性を発揮しやすい。そして何よりも「オヤジの個性」がある。別に店主が男でなければならないということではないが、要するに、店主の個人的な魅力をお客様に直接アピールできるということだ。これは非常に大事なことである。
昔から、飲食店の常連客というのは、そのお店の商品のフアンというより店主のファンなのだ。お客様にとっていちばん「いいお店」とは、自分の感覚にぴったりくるお店のことだが、それは言い替えれば、店主の感覚と波長が合うということにほかならない。
チエーン店の論理というのは、簡単に言えば最大公約数的発想である。100%というのはあり得ないが、10人中8人とか9人の支持があればいいという発想だ。しかし、小さなお店がそんな発想をする必要はない。
そもそも、小さなお店にはそんなたくさんのお客様は入れないし、10人中1人のお客様で十分に経営が成り立つ。これが、チエーン店と同じ土俵で戦う必要がないということである。10人中1人というのはたんなるたとえだが、要するに、自店が成り立つだけの数のファンをつくりさえすればいいということであり、そう考えれば、小さなお店が繁盛することは、けっしてむずかしいことではないということが理解できるはずだ。
小さなお店でしかできないことは何か。そこを追求し続けることが、お客様の支持を広げていくのである。