諸経費の標準値は対売上高で14%である。材料原価率が35%とすると、その4割にもなる大きな経費である。お店の収益性を高めるには当然、この諸経費のムダをできるだけなくす努力が不可欠になる。
別項で見たように、飲食店の諸経費は実に細々とした経費の総体のわけだが、中でも大きな比重を占めるのは言うまでもない。電気・ガス・水道のエネルギーコストである。千不ルギーコストだけの対売上高比率は、通常5〜8%。この数字は、 一般に飲食店が適正な経費を使って得られる利益とほぼ同じだ。
だから、まともな経営者ならだれでも、このムダをなくしたいと考える。しかし、現実を見ると、千不ルギーコストのムダはどこのお店でも発生しているものだ。なぜか。漠然と削減したいと思っているだけで、削減のための具体的な手を打っていないからだ。
エネルギーコストに限らず、ムダをなくすにはまず、どこでムダが発生しているのかを発見することが第一歩である。そして、それぞれのムダの大きさと解決策を練る。当たり前のことだが、この地道な努力を重ねていく以外に方法はないのである。
さて、千不ルギーコストのムダはどんな形で現れているのか。お店の中を丹念に点検してみれば、日々の営業の中でいかにムダを見過ごしているかがわかるはずだ。
たとえば、水道の出しっ放しや、ちょっとした水漏れといつた水道料金のムダ。照明の消し忘れや、フイルターの汚れなどが原因のクーラーの電気料金のムダ。コンロの口火をつけつ放しなどのガス料金のムダ。
探せばいろいろと出てくるものだ。
これらのムダは、 一見大したムダには見えないかもしれない。しかし、その積み重ねが知らない間にコストを押し上げているのである。忙しいのにそんな細かいことを言っていられない。もしそういう発想しかできないようなら、諸経費の削減は絶対に実現できないだろう。
エネルギーコストの管理がいい加減になりがちなのは、営業の中での管理が面倒なばかりではない。公共料金のため、かかった分は自動的に支払うという感覚になりがちなことも、原因のひとつになっていると指摘しておきたい。
だから、請求書を見てもなかなかピンとこないという言い方もできるわけだが、そういう発想ではしっかりとした計数管理はできない。固定費と変動費とに分ければ、毎月一定ではないエネルギーコストは変動費である。毎月変わるのは当然だが、その使用量が売上高に対して適正なのか、という発想が必要なのだ。
計数管理に厳密な大手チェーンなどでは、メーターチェックを実施している。最低でも週に1回、シビアな会社では毎日実施して、標準使用量を設定しているのである。小さな個店でそこまで徹底してやる必要はないだろうが、この売上高に対して適正な数字かどうかという発想は、お店の規模には関係ない。収益性を高めるための、非常に大切な、最も基本的な考え方である。
ところで、千不ルギーコストの節約というと、極端に走ってしまうケースがあるので、注意しておきたい。
たとえば、電気料金の節約と称して冷暖房の効きを抑えてしまうとか、お店が空いているときは、店内の半分の照明を消してしまう、あるいは、トイレの流水量を少なくする、などだ。
もちろん、必要以上に冷暖房を効かせるのはたんなるムダであるばかりか、お客様の居心地も悪くなる。しかし、節約とケチることとは同じではない。モ不ルギーコストは、売上を上げるために必要な費用である。
その適正な費用までケチっていたら、上がるはずの売上も上がらなくなってしまう。お客様不在の発想では、結局はお客様を失ってしまうということを、肝に銘じておいてほしい。
諸経費の中でエネルギーコストに次いで大きい出費は、備品、消耗品関係である。中でも、食器類はどんなに注意していても必ず破損が起こる。これも大きなムダになるわけだが、問題は、その破損による損失だけではない。
たとえば、少し欠けたくらいの食器は捨てるのがもったいないとそのまま使用するお店が少なくないが、こういう姿勢ではお客様の信頼は得られない。お客様にケガでもさせてしまったらどうするのか。
また、経費を削減したいがために食器の補充をしないケースもままあるが、必ずピーク時に食器が足りなくなったり、洗い場が大混乱という事態を招く。そして、結局はお客様の信用を落として、売上が減ってしまう。つまり、食器代をケチったために、食器の代金どころではない、とてつもないムダをしていることになるわけだ。
このように、ムダの削減というのは意外とむずかしいものである。大事なのは、つねに「お客様の満足」を第一に考えること。飲食業はすべてのことをそこから発想しなければならないのだが、諸経費についても「必要な経費」という前提に立って節約を追求してほしい。