収益性を高めるには、まず経費を抑えることが基本になる。しかし、それだけではやはり限界がある。経費をギリギリまで抑えて利益率が上がったとしても、増えた利益の絶対額が小さいのでは努力の甲斐がない。
収益性を高める以上、儲かったと実感のできる利益の絶対額がほしい。
つまり、本当に収益性を高めるには、経費の節減と同時に、売上高を上げる努力をしていかなければならないわけだ。利益率というのは対売上高の比率である。売上高が上がれば、かりに利益率が変わらなかつたとしても、利益の絶対額は大きくなる。経費の削減努力によって利益率が上がれば、さらに儲けが増えることになる。
こんなことは当たり前のことだ。ところが、これを実現しているお店は意外と少ない。なぜなら、売上高を増やすのは簡単なことではないと信じられているからだ。
売上高を上げる方法は2つに分けられる。1つは客数を増やすこと。もう1つは客単価を上げることである。売上高は「客数×客単価」で決まるから、客数か客単価のどちらかを増やせばいいことになる。もちろん両方増えればそれに越したことはないわけだが、あまり欲張っても始まらない。
しかし、競争の厳しいいまの時代、客数の大幅アップはむずかしい。夜の時間帯となればなおさらだ。となると、客単価アップをめざすことになるが、これがまたむずかしい。最も簡単な方法は値上げだが、お客様が価格に対して敏感なこの時代に値上げをすることは、自分で自分の首を締めるようなものである。
では、値上げをしないで客単価を上げるにはどうしたらいいのか。まず考えられるのは、品数を多くオーダーしてもらうことだろう。いわゆる追加オーダーである。
しかし、これもまたむずかしい。たとえば、サラダとかデザート、コーヒーなどをおすすめできる業種業態なら可能性が高い。ただ、これを無理強いするようなオーダー取りをすれば、とたんにお客様の反発を食ってしまう。さりげなくおすすめして、オーダーしてくれたら儲けもの、という程度に考えなければいけない。また、セットメニューにして客単価を上げるという手もあるが、割安感を上手に表現しないと、材料費率を上げてしまい本末転倒という結果にもなりかねない。
この落とし穴に陥って衰退していったのが、かつての喫茶店だ。たしかに、ドリンクメニューは客単価が低い。しかし、コーヒー、紅茶などの原価率は非常に低いから、客数さえ確保できていれば利益を生み出せる構造だった。ところが、客単価ほしさにフードメニューをどんどん取り入れて、原価率の低さという本来のメリットを自ら放棄してしまったのだ。喫茶店の衰退の原因はこれだけではないが、大きな要因だったことは間違いない。
さて、前置きが少し長くなったが、こういう状況を踏まえて考えなければならないのが、お酒の売り方なのである。
居酒屋のようにお酒をメインに売るお店以外の業種業態、つまり一般の飲食店では、お酒の注文はいわば追加オーダーである。しかし、お酒のオーダーは通常の追加オーダーとは違う。
私はいつも外食はレジャーだといつているが、ビールを1本注文するだけで、たんなる食事がレジャーに変わるのだ。注目しなければいけないのはここである。レジャーという意識があるからこそ、お客様はお金を余計に使ってもいいという気になるのだ。だから、お酒をオーダーするお客様が多ければ、自然と客単価が上がっていく。
たとえば、ギヨーザとビールが売れているラーメン店の客単価は、ラーメン単品しか売れないラーメン店の1 ・5倍から2倍近くになる。しかもこの数字は、お客様が全員ギョーザとビールを注文する場合というわけではない。2人に1人がオーダーしただけで、2倍近くになるのだ。なるほどお酒は、料理一般に比べて原価率が高い。平均して50%程度になる。そのため、だから売れても利益が出ないと短絡してしまうお店が多いのだが、そんなことはない。1本当たりの利益が小さくても、数がまとまることで大きな利益になっていく。
また、お酒は料理と違い、調理という手間がかからない。オーダーを受けたら出すだけでいい。しかも、お酒しかオーダーしてくれないというのではないのだ。料理をオーダーした上に、追加としてオーダーしてくれる。それがお酒である。ここをしっかりと理解してほしいと思う。
いまはほとんどの飲食店がアルコール類を置いている。それなのに、どうしてもっと売るための努力をしないのか。私は不思議でならない。
お酒を売るには、ラーメン店のギョーザのような、ちょつとした、気のきいたつまみが大切な要素になる。そして、そういうつまみは原価率を低く抑えやすい。つまり、トータルとして見ると、お酒の原価率はほとんど問題にならないということになる。