材料費と人件費は、飲食店の2大原価である。あらゆるコストの中で最優先に管理されなければならない原価だ。当然、これら2つの原価率が高すぎれば利益は出ない。しかし、だからといつてあまりに低いのではお客様に支持されない。
それはそうだろう。材料費率が低すぎるということは、値段に対して商品がチープで割高感が目立つということだ。人件費率が低すぎるということは、サービススタッフの数が少なすぎる、あるいはレベルが低すぎるということだから、まともな接客サービスを受けられないことを意味する。これではお客様の支持など得られるはずがない。
では、材料費率と人件費率を高く設定すればいいのかというと、そうはならない。当たり前である。2つの原価をかけすぎれば利益が出なくなつてしまう。そこで、適正原価率という考え方が重要になるわけだ。別項で示したように、飲食店の標準原価率は、材料費率が35%、人件費率が25%である。しかし、ひと口に飲食店といっても、いろいろな業種業態がある。つまり、すべての業種業態がこの標準原価率でなければならないということではない。2つの原価率の合計が対売上高60%というのが標準=目標値という意味なのである。
業界では、材料費はフードコスト、人件費はレイバーコストと呼ぶが、この合計のことをそれぞれの頭文字を取ってFLコストという。そして、FLコストを60%以内に収めることが、健全経営の指標とされている。
材料費率と人件費率とを合わせて考えるのは、すでに述べたように、この2つの原価が2大原価だからである。収益性を高めるための最も重要なポイントだ。しかし、合計で考える必要があるという理由は、それだけではない。もうひとつ大切なポイントがある。それは「お客様の満足」の提供の考え方ということだ。
何度も言うように、飲食店の付加価値は商品、サービス、雰囲気の3つの価値のトータルで決まる。商品とサービスは切り離しては成り立たないわけである。そこで、お客様に適正価格として満足してもらうためには、お店の業種業態の特徴に基づいた、材料費率と人件費率のバランスが大事になる。
たとえば、ステーキ専門店は材料=牛肉が命だ。牛肉の品質そのものがお店の魅力の最大の訴求力になるため、材料費率は高く設定せざるを得ない。しかし、この業態は客単価が高い。そのため、粗利益の絶対額は確保できるし、調理の加工度が低いため人件費率は低く抑えられる。その結果、FLコストの割合は適正原価に収まるわけだ。
反対に、喫茶店は材料費率が低いが客単価も低い。粗利益率が少ないために人件費率は高くなるが、FLコストの合計は同様に適正枠内に収めることができる。
いま代表的な業態で例を示したが、要は、お店の業態=売り方でバランスを考えればいいということだ。料理に力を入れてそのお値打ち感で勝負するのなら人件費は抑える。サービスを重視して人件費をかけるのであれば材料費は抑える、というわけだ。