飲食店の商品の魅力は付加価値にあるが、この付加価値を言い替えれば、他店との違いということになる。要するに、お客様に「あのお店でしか食べられない」と思わせる商品である。そう思うからこそ、お客様は目当てのお店までわざわざ食べに行く。これが繁盛店のパワーである。
他のお店では食べられない、そのお店ならではの商品。お客様が本当に求めているのは、そういう明確なオリジナリティーのある商品である。お客様にとって、どこのお店でも大差がないようなありきたりの商品では、わざわざ出かける必要はない。いつまでたっても繁盛できないお店とは、お客様にそう思われているお店なのである。
もう一度言おう。あのお店でしか食べられない。これこそが、本来あるべき飲食店の商品の付加価値である。だから、お店の存在感を強烈にアピールする。飲食業の成功は、飲食店の最も大きな付加価値である商品の、オリジナリティーの追求から始まるのだ。
たとえば、ブームと熾烈な競争が続くラーメンを考えてみよう。ラーメンは最もポピュラーなメニューのひとつだ。だから、ラーメン店ならいくらでもある。しかし、本当に繁盛しているのは、ほんのひと握りのお店だけである。
どうしてこれほどの差がつくのかといえば、繁盛できない大半のお店のラーメンには個性がないからだ。わざわざ食べに行く価値がないと思われているから、繁盛できない。一方、繁盛ラーメン店のラーメンには、だれの目にも明らかな個性がある。そして、お客様は他のお店では食べられない、個性の強烈なラーメンを食べたいと思っている。それだけのことなのである。
実はポピュラーなメニューほど商品の個性がモノをいうのだ。なぜなら、ポピュラーメニューとは、だれもがふだんから食べる機会が多く、よく知っているメニューだからである。たとえば、ろくに食べたこともないようなフランス料理の話だとしたら、オリジナリティーが云々といわれても、たいていの人はピンとこないだろう。比較のしようがないからだ。
しかし、ふだんから食べなれているメニューなら、自分の好みもはっきりしている。だから、違いがひと日でわかるし、自分の評価もはっきりする。自分の好みに合うから、何度でも食べたくなるわけだ。
ラーメン店の場合は、ほとんどが単品商売だから、オリジナルラーメンだけで勝負することができるが、一般の飲食店の場合はそうはいかない。お客様の多様なニーズに応えるには、ある程度の品揃えが必要だ。
しかし、品揃えの中のわずか1品目だけでもいいのだ。魅力あるオリジナル商品があれば、それが看板商品となってお客様を引き寄せるパワーとなる。その1品だけで、お客様は支持してくれるものだ。
いまは飲食店の数が非常に多い。しかし、本当にそのお店だけの個性を打ち出しているお店は少ない。そして、お客様は外食に慣れているから、昔のように「並」のお店では満足できなくなっている。飲食店の情報はいくらでもあるわけだし、アンテナを張り巡らせてつねに「いいお店」を探している。その結果として、ひと握りの繁盛店にお客様が集中するようになっているのである。
こういう現状をよく考えれば、オリジナルメニューの開発がいかに大切なテーマであるかがよくわかるはずだ。飲食店の経営者であればだれでも、他店との差別化を図りたいと考えているだろう。個性が大切なことくらいはわかつているはずである。ところが、行動が伴わない。たしかに、人間、頭ではわかっていてもなかなか体が動かないものだ。しかし、そんな言い訳をしていても始まらない。成功したければ、オリジナルメニューの開発努力をするしかないのである。
オリジナリティーなどというと、すぐに自分には無理と諦めてしまう人がいるが、そんなことはない。調理技術に自信がないのなら、それなりの方法でやればいい。その方法については次項で説明しよう。大事なのは、自店だけのオリジナリティーを追求するのだという強い気持ちである。
ちなみに、オリジナルメニューは利益を確保しやすい商品でもある。なぜなら、オリジナルメニューの付加価値は、まさにそのオリジナリテイーにあるからだ。
たとえば、ラーメンといえども価格にはかなりの差があるが、安いから人気というわけではない。他店とはまったく違う商品であれば、お客様は比較のしようがないのである。
一般に、商品の魅力を高める方法は原価をかけることと思われているが、原価をかければ当然、利益は少なくなる。薄利多売というわけだが、 一般の小さなお店でそんなにたくさん売れるわけもない。これが、そこそこ売れても儲からないというジレンマだ。
しかし、オリジナリティーという魅力があれば、ことさらに原価をかける必要はない。つまり、オリジナルメニューとは、適正な利益を確保しやすい商品でもあるわけだ。