お客様に親しみをもってもらうことは、固定客づくりの一番の近道だ。親しみをもってもらうには、お客様とのコミュニケーションが欠かせないが、これも接客サービスの大事な役割である。
お客様は飲食店に「自分のオアシス」を求めているものだ。だから、自分を大切にしてくれるお店を探している。もちろん、多数のお客様が出入りすることくらいお客様もわかっているわけだが、できれば自分は特別な存在になりたいと思う。それがお客様の心理というものだ。お客様は口には出さなくても、お店の人間と親しくなって、心の触れ合いをしたいと期待しているのである。
しかし、お客様のほうから声をかけてくることを期待していてはいけない。こちらから積極的に声をかけるのである。たとえば、お迎えのときに、ひと言「今日は暑かったですね」と添えてみたり、雨の日なら「よく降りますね」と話しかける。何でもないひと言だが、お客様にとっては手を差し延べてくれたような
オーダーを受けるときはお客様と最も近い距離で接しているときだから、このときもコミュニケーションの絶好のチャンスである。たとえば、ただメニュー表を渡すだけでなく、「もしよろしかったら、今日はこんな料理ができるのですが」などと料理の説明をする。その料理をオーダーしてくれなくてもいっこうにかまわない。お客様を大事に考えているというお店の気持ちが伝わればいいのである。
お客様にもいろいろなタイプの人がいるが、ふつうは自分から話しかけるのは、なんとなく気恥ずかしいと思っているものである。話をしたいのだけれども、自分からは切り出せないでいる。それなら、お店のほうからきっかけをつくってあげればいい。
食事中なら、「何か御用はございませんか、なんなりとお申し付けください」と声をかけるのもいいだろう。そして、食後なら「お楽しみいただけましたか」と話しかける。もちろん、食事やお客様同士の会話の邪魔にならないように注意しなければならないが、お客様は、こういう「ひと言」に感動するのである。
ただし、お客様に親しみをもつてもらうことと、特別なお客様に過剰サービスをすることは別である。ここはきっちりと理解しておいてほしい。すべてのお客様と親しくなれるように心を配ることが大切なのだ。すべてのお客様に平等にというのは、飲食店のサービスの大原則である。
たしかに、一部の常連客との馴れ合いは一見、固定客ができたような気にさせてくれるだろう。しかし、それは結局、錯覚でしかない。なぜなら、一部のお客様だけ特別扱いするということは、他のお客様を軽く見ている、大切なお客様として認めていないということを公言しているようなものだからである。
常連客が大きな顔をして店主と馴れ合っているのは、だれにとっても気分のよくない光景だ。そんなお店にわざわざ通ってくれるお客様はいない。お客様はだれでも自分を大切にしてほしいと思っている。このことを忘れてはいけない。