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「あるべき飲食店サービス」とは何かを知る

「あるべき飲食店サービス」とは何かを知る

自店の「心」は何なのかを知る

QSCのあるべきレベルとはその会社のスタンダードであるから、実際には会社のトップ=経営者が決めるものである。店長の仕事は、そのスタンダードをお店の中で実現し、お客の満足を得ることであり、満足してくれるお客の数を増やした結果が売上高アップである。したがって、自店のサービスがどうあるべきかということは、すでに決まっているわけである。

それなら店長は、経営者の指示どおりにサービスをおこなえばいいことになる。それは言葉のうえでは正しい結論だが、実際はなかなかそうはいかない。サービスとはたんなる形、スタイルではないからだ。

飲食業とは、飲食というモノを通して心を売るビジネスである。この「心」の部分、サービス業としての精神的裏付けなくして、ただ形だけのサービスをおこなっても、お客にとって感動のあるサービスにはならない。このサービス業としての「心」を経営者がどう考えているのか。そのことを本当に理解できなければ、店長として失格なのである。

自店の「心」を従業員に教え、徹底させるためには、何よりもまず、店長であるあなた自身が、サービスの精神的裏付けについて、幅広く知っておく必要がある。

ひとつのレベルを理解するということは、たんにそのレベルの仕事を鵜呑みにすればいいということではない。その上のレベルも下のレベルも熟知することによってはじめて、自分の立つ位置を正しく認識することができるのである。

ボーダーラインを上回るサービスを意識する

さて、飲食店のあるべきサービスとは、いうまでもなく、お客を満足させるサービスである。ところが、これは国でいうのは簡単だが、実践するのはむずかしい。なぜなら、お客の満足感とは一定のものではないからだ。それは、個々人の違いもあるが、根本的にはお客のお店に対する期待度の度合いによって変わってくるものである。

たとえば、ファミリーレストランに入って、客単価1万円以上のフランス料理店のサービスを期待するお客はふつうはいない。逆に、そのフランス料理店で、ファミリーレストラン並みのサービスを受けたお客は、三度とそのお店に足を運ばないだろう。それでは、ファミリーレストランならサービスの手を抜いてもいいのかというと、そんなことはあり得ない。ファミリーレストランのお客は、その利用動機と代金の対価として十分なサービスを期待しているのである。

このように、お客の満足度は一概に定義することができない。しかし、お客の利用動機と客単価によって、おのずとサービスレベルのボーダーラインというものがある。ボーダーラインとは、その業態で最低限なされなければならないサービスレベルのことだ。

したがって、飲食店としてはまず、このボーダーラインのサービスを徹底することが基本になるが、それだけでお客が本当に満足してくれるとは限らない。なぜなら、同業態の競合店がいくらでもあるからだ。B店でもC店でもおなじようなサービスを受けているお客にとって、ボーダーラインのサービスは代金の対価として当然のことでしかない。だからとくに不満は抱かないかもしれないが、満足することもない。満足とは感動だからである。

それでは、どうすればお客を感動させることができるのか。答えは、ボーダーラインを上回るサービスということになる。といっても、大袈裟に考えることはない。ボーダーラインのサービスにもうひとつ、お客の心を動かすサービスを付け加えればいいのだ。

もう1度来たくなるサービスとは

お客が感動するのは、予期していないサービスを受けたときである。たとえば、高級店ではないのに店長が席まで来て挨拶してくれたとか、食後に「お楽しみいただけましたか?」と声をかけられたとか、もう一度熱いおしばりが出されたとか、そういうときお客は、「このお店を利用してよかった」という気持ちになる。

食事というのは多分に気分的なもので、そのときの気持ち次第で、おいしくもなればまずくもなる。そこでこういう期待以上のサービスを受ければ、料理を実際以上においしく感じるだろう。

このように、わずかな心づかいがお客を感動させ、その満足感は強い印象となってお客の心に残る。それは、お客の期待を上回るサービスをしたからである。そして、こういうサービスを心がけ実践することで固定客が増え、さらに固定客の回コミや新規客の同伴を期待することができるのである。

サービス業の本質はホスピタリティ

サービスは基本のサービスと応用のサービスとに大別される。基本のサービスとは、

①いつも絶やさぬ笑顔
②明るくテキパキとした態度と接客基本用語

の二つである。こんなことは、飲食業に従事している人なら誰でも知っていそうなことである。ところが、当たり前のことを当たり前にやるということが、実は意外とむずかしいことなのだ。

たとえば、いつも絶やさぬ笑顔を全員で実践できているお店がどれくらいあるのか。 一応は接客基本用語を話し、動作はテキパキとしているが、まるで怒ったような顔をしていたりする。たくさんの人を使うのだから、なかにはそういう人がいるだろうし、仕方がない大抵のお店は、そう言い訳するが、サービス業としてそんな弁解が通用するはずがない。

何ごとも基本がむずかしいというのは、基本にこそ、もっとも大切な要素のエッセンスが詰まっているからなのだ。お客に対していつも笑顔を絶やさずに、というのは、いわゆる愛想笑いの意味ではない。まず第一に、お客に感謝の気持ちをあらわすこと。そのうえで、温かなおもてなしをするためなのである。

サービス業の本質はホスピタリティである。ホスピタリティとはもともと、病気の人を手厚く看護する、ということから生まれた言葉だが、それはそのまま、サービスの基本はテクニックではなく、温かな真心なのだということを意味している。わが家に親戚知人を招いたときの気持ちでサービスせよ、というのは、この温かいおもてなし精神をいっているのである。

従業員にプロ意識をもたせよ

つまり、基本のサービスとは働く人の心の問題であり、技術的にむずかしいことではない。ところが往々にして、従業員にこのおもてなしの心、感謝の心を教えず、接客用語や基本動作だけ教えてよしとしている

しかし、そういうお店では、その形がかえってマイナスに作用する。心のこもらない形ばかりの接客は、ロボットがサービスしているのと同じである。極端にいえば、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」とテープが繰り返し、料理はベルトコンベアーで運ばれてくるようなものだ。これでどうして、お客を感動させることができようか。

もちろん、接客基本用語と接客態度を教えることは大事なことである。そして実は、それが見苦しくないレベルにまで身につけさせるには、相当の訓練の積み重ねが必要だ。

また、人間いつも笑顔でいることは、そう簡単なことではない。しかし、お客の前に出る以上、内心どんな不愉快なことがあろうと、つねに明るい笑顔でなければならない。それがサービスマンの役割だからだ。パートタイマーであっても、給料をもらう以上はプロなのだ。だから、従業員にそういうプロ意識をもたせるように指導するのは、店長の責任である。

プロ意識とはサービス精神のことだ。サービスマンとしての経験をそれなりに積んで、応用編になってくればそれがわかりそうなものだが、実際は逆に、表層的なテクニックにばかり気を取られてしまうことが多い。たとえば、妙に客あしらいがうまくなるとか、料理を運ぶ身のこなしがスマートだということが、ベテランサービスマンだと勘違いしやすいのである。

応用のサービスとは、状況に応じて素早く機転を働かせ、サービス精神を発揮できるレベルのことをいう。接客用語など、経験を積んでいけば自然と身につく。

しかし、それがたんなる反射行動では意味がない。とくに大型店の場合、こういう誤解が生まれやすい。ここにも、店長の従業員教育の大切さがある。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。