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過当競争の飲食業界にとっての差別化とは

過当競争の飲食業界にとっての差別化とは

飲食業界は過当競争時代

いま、飲食業界は大変な過当競争時代である。エリアによってはすでに飽和状態にあり、飲食店淘汰の時代といわれている。資本の大小にかかわらず、飲食店は非常に厳しい経営環境に置かれている。そのシビアさは、ちょっと町を歩いてみればわかるはずだ。多くのお店が苦戦を強いられている。繁華街や駅前、商店街の中心部といった一等地に立地していながら、不振をかこっているお店は数え切れないほどである。

ここで、もう少し日を凝らして飲食業の現状を見てみよう。そうすると、これほどたくさんの飲食店がひしめいていながら、その大半のお店が、各業種間であまり変わりばえのしない商品で競っていることが見えてくるはずである。Aチェーンのお店の看板を取り替えるだけで、Bチェーンのお店になってもおかしくはないような状況だ。別にチェーン店に限ったことではないが、とにかく本当に独自性を訴え得ているお店は、ほんのひと握りでしかない。

大半のお店がドングリの背比べである。類型化の枠の中におさまって大差のないお店が、押し合いへし合い、次元の低い競争を繰り広げている。実はこれが、わが国の飲食業界の過当競争の実情なのである。

こういうことは、たんなる知識ではなく、自分の実感としてとらえてはじめて、意味のある現状認識となる。あなたの働くお店の同業種店はもちろんのこと、いろいろな業種の同業種店を実際に見比べてみることを、強くおすすめする

商品の独自性が大切

そもそも飲食業は、付加価値を売るビジネスである。付加価値とはQSCの二要素である。この二要素のうち、どれが大事でどれはいい加減でいいなどということはあり得ない。しかし、飲食店である以上、看板は商品である。商品のクオリティが低いのでは話にならないのいまのお客は、たんに食事を目的にするのではなく、食事をとおしてその時間と場の気分を楽しむことが目的だといったが、食事の内容=商品自体に魅力がなければ、場の雰囲気は盛り上がらないし、楽しい時間になどなりようもない。

したがって、競合他店との差別化を実現し、繁盛店、儲かるお店になるためには、何よりもまず、商品の独自性、個性をもつことが大事になる。自信をもって売れる商品があれば、お客は遠くからでもわざわぎやってくる。しかし、並みの商品=他店と変わりばえのない商品しかないお店には、近所のお客にすら見向きもされない。せいぜい、ほかに行くお店や時間のないときに利用されるくらいが関の山である。

商品に自信のないお店は、メニュー表やサンプルケースをひと目見ればすぐにわかる。だいたい、品揃えからして没個性的である。その業種らしい商品ならなんでも、ひととおり揃っている。当店の売り物はこれですと主張できる商品がないから、無難な線で考える。その結果、どこのお店でもみな、似たり寄ったりのメニュー構成になってしまうのである。

品揃えにも重要な意味があることを知るべし

飲食店過当競争の時代になって、他店との差別化の必要性がやかましいほど叫ばれつづけている。差別化の決め手が個性化であることなど、いまや誰でも知っている。それにもかかわらずドングリの背比べ状態が目にあまるのは、結局のところ、商品に自信がないせいなのだ。本当に自信のある商品があるのなら、お客に無用な目移りをさせるだけしかない商品を横に並べる必要などまったくない。極端にいえば、ほかの商品は不要。単品商売が成り立つのである。

もちろん、商品政策は単純なものではない。ターゲットとする客層を利用動機を勘案して品揃えを決めるのだから、品目数の多少だけでお店の独自性を判断するわけにはいかない。

たとえば、売りたい商品を際立たせるためのおとり商品が必要になる場合もあるし、ファミリー客やグループ客の多様なニーズに応える必要のあるお店もある。お客にとっては、メニュー表を見ながら何にしようかと迷うことも、大切な付加価値なのだ。

このへんはお店のコンセプトの問題だから一概にはいえないが、商品自体の品質=クオリティばかりでなく、品揃えにも重要な意味があるのだということは、QSCに責任をもつ店長として知っておくべきだ。

商品発想をもて

私は飲食店の経営者に対して、業種発想ではなく商品発想をもて、といつもいっている。経営者向けの本や雑誌の記事にも、そう書いてきた。

商品発想とは、業種は売るべき商品のあとからついてくるものだ、ということだ。たとえば、最近は無国籍料理店とか中国小皿料理店といった新しいジャンルのお店が増えているが、これらは旧来の業種発想からは間違っても出てこない業種である。これらのお店のコンセプトや発想は、頭から業種を無視している。最初に売りたい商品があったのだが、それではお客にわかりにくいから「無国籍」とか「中国小皿料理」と便宜に名乗っただけなのだ。

ヒットコンセプトが出るとすぐに真似するお店があるが、肝心の商品が付け焼き刃ではやはりうまくいかない。業種というのは、そのお店で売っている商品から類似点、共通項を抽出し、便宜上ジャンル分けしただけのことでしかないのである。そして、お客が魅力を感じ、支持をするのは、業種ではなく商品に対してなのだ。だから、その発想の順序が逆になると、結果も反対になる。

こういう発想をもてば、他店並みのメニュー構成でいることに安心しているお店が、他店との差別化などできるはずがないということがよくわかるはずである。

そこには、商品政策のカケラもないのだ、ということが。飲食店の最大の差別化の武器は、強烈な個性を放つ商品だが、そういう商品は、商品発想からこそ生まれてくるのである。

オリジナル商品発想のカギ=五感に訴えろ

では、個性ある商品=オリジナル商品とはどういう商品なのか。こういうと、何かとんでもない変わった商品を思い浮かべる人がいるが、そんなことはない。

オリジナル商品とは、要するに自店独自の商品という意味である。同じメニュー名でも内容が違う、見た目が違う。ほかのお店では味わえない商品であれば、それは立派なオリジナル商品なのである。

頭を切り替えるために、人間の個性を考えてみるといい。十人十色といっても、顔だち、体型ともそう極端に違うわけではない。そのわずかな違いにその人その人の外見上の個性がある。内面的なものにしても、はっきりとした違いはそうあるものではないだろう。

それにもかかわらず、人の印象というのはそれぞれ大きな違いがある。飲食店の商品も同じことなのだ。そもそも「食」は保守的なもの。たんなる新奇性だけでは、一時的な話題にはなっても根を下ろすことはむずかしい。大事なのは、前からある商品を少しでも変革すること。それがオリジナル商品になるのだ。

また、オリジナリティとは別に味だけの問題ではない。形や盛りつけを変えればいいという人もいるが、それがすべてではない。味も見た日も、オリジナリティの表現の一要素にすぎないのである。外食はレジャ―といったが、レジャーであるなら、もっといろいろな角度から楽しさを追求する必要がある。

そこで、オリジナル商品の発想のカギとなるのは、人間の五感に訴えるということだ。視覚(日)、聴覚(耳)、味覚(舌)、嗅覚(鼻)、触覚(手)のうち、ひとつでも飛び抜けた要素があれば、それはオリジナル商品として通用するのである。

視覚・味覚のアピールについてはいうまでもないだろう。しかし、聴覚や嗅覚、触覚に対しての訴求については、まだまだ飲食店の意識は遅れている。とくに嗅覚については、日本人がもともと食べ物の香りを大事にしてきたことを思い出すべきである。そして、季節感の表現。日本人は四季の変化を非常に大切にする。

それぞれの季節には伝統的な行事もある。そういう要素を商品に盛り込めば、いっそう強力な差別化の魅力をもつ商品となる。このように、商品による差別化とは単純ではないが、しかしけっしてむずかしいことではない。とにかく飲食店は、まず商品ありき、なのである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。