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経営者代行としての飲食店長の仕事

経営者代行としての飲食店長の仕事

経営者の経営理念を実現するための責任

店長の職務をひとことでいえば、「経営者の代行」である。経営者から店舗、什器備品、材料、商品などの資産と従業員を預かり、経営者に代わってお店の営業活動を管理し、売上目標を実現することだ。

ここで大事なことは、店長とはたんなるお店の最高責任者ではないということだ。旧体質の飲食店では、店長が変わるたびにお店の雰囲気やサービスのレベルが変わるということがよくあるが、これは経営者も当の店長も、本来の店長の職務をきちんと認識していないからである。たしかに、こういう店長もお店の最高責任者として、一応の仕事をしているかもしれない。

しかし、もっとも大事な点が欠けている。経営者の経営理念を実現するための責任、という認識である。したがって、肝心の経営者に理念と呼べるようなものがなければ、店長は「代行」のしようがない。そして、かつては理念のない経営者が珍しくもなく、お店の経営は店長に「委託」されているのも同然だった。

経営者の関心はもっぱら利益の確保だけだったといってもいい。そういう水商売感覚の経営者の思惑に応える、いわば職人肌の店長が活躍した時代があった。

もちろん、近代的経営であっても、利益の確保は当然の命題である。しかし、それが目的のすべてではない。飲食は消費者の生活に欠かせないレジャーであり、同時に健康にも関わっている。そういう社会への貢献が実現されていてはじめて、消費者の熱い支持を獲得できるのだ。これは理想論でも何でもない。

店長のマネジメントを考えるうえで、絶対に欠かせない認識である。人を使うのがうまいとか、コストコントロールに長けているということだけでは、これからの店長は務まらない。なぜなら、売上高とはお客の満足の結果だからだ。いまのお客の選択眼は非常に厳しい。

つまり、経営者の代行業ということは、経営者に代わってお客に満足してもらうことにほかならない。いいかえれば、先に述べたQSCのスタンダード=商品、サービス、雰囲気のあるべきレベルをお店の中で実現することで売上げを上げ、その結果として利益を生み出すことである。

経営者と部下、店長がとる2つのコミュニケーション

店長はお店の最高責任者だが、日常の営業活動を通じてQSCのスタンダードをお客に対して直接表現するのは、部下である従業員たちである。したがって、店長はまず、部下に経営者の方針やスタンダードがどういうものであるかを的確に示す必要がある。そのためには店長自身が、QSCに対して経営者と共通の認識をもち、会社の経営方針を卜分に理解しておかなければならない、また、会社のビジョン=将来のあるべき姿についても、よく知っておく必要がある。

店長の仕事として部下の教育訓練が重要だとはよくいわれることだが、会社のスタンダードの認識とビジョンについての理解のない店長には、作業の訓練はできても、本当の意味での教育などできるはずがないのだ。また、できるだけ優秀な人材を採用することも店長の大事な職務だが、ダメな店長のお店では、優秀な人材から先に辞めていくことが多い。

会社という組織の中での店長の位置は、経営トップと一般従業員の接点にある。しかも店長は、売上げを上げ、利益を生み出す現場(プロフィット・センターという)をいちばんよく知っている管理者である。したがって店長はつねに、経営トップ(あるいは経営幹部)と部下との二つの方向のコミュニケーションを図るように努力しなければならない。

マネジメントとは、人、モノ、金を有効に管理、活用して経営の目的を達成する技術のことである。店長の最終的な責任は利益を生み出すことだから、さまざまなコストコントロールの技術が要求される。しかし、計数管理に長けていても、部下のレベルが低ければ、売上げは上がらない。もっとも大事なことは、お客に満足してもらえる態勢をつくること=スタンダードに従って部下のレベルを高めることなのである。

具体的な計画づくりは店長の仕事

経営管理活動は、計画←実施←評価←修正行動というサイクルの繰り返しである(マネジメントサイクル)。店長の管理業務もまた、年間、月間、週間といった管理サイクルでおこなわなければならない。

まず、お店の年間売上予算はふつう、コントローラーと呼ぶ本部の予算設定担当者が設定して、それが店長の責任として渡される。しかし、予算書はそれだけでは計画日標であるにすぎない。予算を達成するためにはどう店舗を運営していけばいいのか、という具体的な計画は店長が立てなければならない。

月によってはイベントを実施するとか、DM (ダイレトクメール)を打つとかといった、具体的な行動計画だが、このとき大切なのは、めざす方向と効果の予測(費用対効果)を明確にすることだ。そのためには、過去の営業実績を詳細に分析、検討し、なぜその計画が必要なのかをはっきりさせておく必要がある。

次に、計画の実施に先立って、まず、その計画を達成するにはどういう行動が必要なのかを、部下全員に周知徹底させなければならない。部下をとおして仕事をするのが店長である。その部下が計画の意義を理解していなければ、どんなによくできた計画でも絵に描いたモチでしかないの部下のヤル気を促す(動機づけ)には、まず部下の納得が不可欠なのだ。これは、QSCのスタンダードの徹底と同じことである。

また、店舗内だけでなく、本部の仕入れ部門など他部門とも関係のある計画の場合は、実施に当たって間題がおこらないように、事前に―分なコミュニケーションと意思の統一を図っておかなければならない。

仕事の割当てが明確でないと失敗する

計画の実施でのポイントは、部下への仕事の割当てである。いちばんいけないのは、「みなでこの仕事をやろう」というやり方で、これでは誰がこの仕事をすべきなのかが示されていないから、結局誰もやろうとしない、という結果になりかねない。

部下一人ひとりに対して、それぞれが担当する仕事と役割を明確にしなければならない。これを作業割当てという。分業は、店舗運営もオペレーションのすべてに共通する原則である。

ところで、 一般に計画とはかなかなそのとおりにはいかないものだ。逆にいえば、あまりにも簡単に達成されてしまうような計画では、計画としての設定自体に問題があるということになる。より高いレベルに挑戦してこその計画である。もちろん、実現可能なレベルでなければならないことはいうまでもないが。

そこで、店長はつねに計画がそのとおりに進行しているか、チェックしていなければならない。そして、もしも計画どおりに達成されていないようなら、
○計画と実績とのズレはどれだけあるのか
○そのズレが生じた原因は何か
○計画達成に近づけるために、どんな対策が必要かの三つの点について、明確に分析する必要がある。過程を見直すと同時に、計画そのものが妥当なものであったかどうかも、冷静に検討しなければならない。

修正行動はその分析と検証のうえで計画、実施されなければ、プラスの方向に働かない危険性があるからだ。計画自体が最初から無茶なものだったにもかかわらず、その責任を部下に転嫁する店長をよく見かけるが、それでは部下はヤル気をなくすだけである。

店長には、部下に命令し、部下を自由に動かす権限がある。これを指揮権といい、その権限行使が作業割当てなのだが、権限には必らず責任がともなう。計画の執行・達成についても部下の仕事ぶりについても、その責任は店長に帰するのである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。