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店長と調理長との役割分担をきちんと決める

店長と調理長との役割分担をきちんと決める

数多く見受けられる調理長との確執

店長のマネジメントで思わぬ障害となるのが、調理長との関係である。

要するに、店長と調理長との間で、お店の中の実権争いが起きやすいのだ。その結果、ホールの従業員は店長派、調理場の従業員は調理長派といった二つの派閥が生まれる。こうなると、飲食店は危険である。派閥同士の争いが、お店の付加価値を低下させてしまうからだ。

たとえば、お客のオーダーを通してもなかなか料理が出てこない。ホールはお客の催促を受けて気が気でないが、調理場のほうは悠然たるもので、どんなにオーダーがたまっていてもマイペースを崩さないとか、ひどい場合はわざと雑な盛りつけをしたりする。

こういう例は別に珍しいことではない。何が問題かというと、サービス業としてもっとも大切な「お客の満足のため」という基本が崩れてしまうことだ。

飲食店の付加価値はQSCの三要素の総和で決まるものである。それなのに、ホールと調理場に確執があるのでは、お店のスタンダードどころではない。また、働く従業員としても、こんな環境では働き甲斐など生まれるはずもないから、お店の雰囲気は暗くなり、定着率も悪くなる。

組織運営の視点から役割をきちんと決める

店長と調理長との実権争いは、お店の料理のレベルが高くなるほど起きやすくなる。高度な調理技術が調理長の職人としての誇りだというのは、当然のことである。調理技術はそう簡単に習得できるものではない。

下積みの苦労を重ね、辛い修行を乗り越えてようやく身につく技術である。ところが、ややもするとその誇りが高じて傲慢さになってしまう。その理由は、料理を出せなければお店が成り立たないからである。

そのため、昔から「総上がり」といって、気に入らないことがあると調理長が部下全員を引き連れて突然辞めてしまうということがよくあった。辞めないまでも「総上がり」をチラつかせることで、いわゆる「厨房王国」をつくってきたというのが、この業界の歴史であり、その風潮は未だに根強く残っている。

もちろん、そういう状態を許している経営者にこそ問題があるのであり、また、昔ほどひどくはなくなっているとはいえ、店長としてはあらかじめ、しっかりと心しておかねばならない問題である。つまり、調理長との役割分担を組織運営の視点から考え、理解しておく必要がある。

店長は予算管理とお客に対して責任をもつ

お店の最高責任者は店長である。これは誰でもよく知っている。ところが、なぜ最高責任者なのかがわかっていない店長(調理長)がいる。だから「どちらが偉いのか」といった低次元の争いになってしまう。

ここでははっきりと断っておくが、店長がお店の最高責任者とされるのは、売上予算と利益の実現に責任をもつのが店長だからなのだ。これは会社という組織でいえばひとつの職制であり、偉いとか偉くないということとはまったく別の問題である。

つまり、お店の最高責任者であるということは、お客の満足に対して責任をもつということだ。売上高はお客の満足の結果である。すでに何度か繰り返してきた。ここでもう一度いおう。予算管理の責任とはお客に対する責任なのだ。

そしてその責任を具体的にいえば、お店のQSC(商品、サービス、雰囲気) レベル維持である。先に挙げた例のように、調理長との確執が原因で商品のレベルに問題が生じたとすれば、それは店長の責任なのだ。ここが重要なポイントである。

店長と調理長との間のイザコザなど、お客にとってはまったく関係のないことだ。お客にとって大事なことは、店長と調理長のどちらが正しいとか間違っているとかではなく、期待したとおりの料理を適正なレベルのサービス雰囲気の中で提供してもらうことだけだ。

それがお客の満足である。だから、責任は店長にあるのである。このことをしっかりと理解し、頭に叩き込んでほしい。これがわからないようでは、飲食業のプロとはいえない。つまり店長失格である。

店長にはそのほか、上司や会社に対しての報告責任、人事に関する責任、経理事務の責任、安全、衛生の保持についての責任、そして店舗資産の保全管理責任がある。

調理長の責任と店長の責任

一方、調理長の責任だが、その第一歩はいうまでもなく、料理の品質の実現と維持である。つねに、お店のスタンダードの味とボリューム、盛りつけを維持することだ。

ここで、料理に対する責任が店長と重復しているのではないが、それが確執の原因となることもあるのではないか、と思う人もいるかもしれないが、それは誤解である。わかりやすくいえば、調理長の責任は料理をつくる責任であり、店長の責任は料理長に間違いのない料理をつくらせ、それをお客に提供してもらう責任である。

調理長の第二の責任は、正確な材料費管理である。ロス・ムダをできるだけ排し、材料予算を実現することだ。

ところで、店長の責任は料理の提供といったが、お客のオーダーを受けてから提供するまでの提供時間という問題がある。ぶつうはオーダーを通してしまったら、あとは調理場の責任、と考えがちだが、実はそうではない。

一般に調理場では、ピーク時を迎える前に仕込み作業をおこなう。仕込みとは、調理行程のうちあらかじめまとめてやっておける部分を準備しておくことだが、なぜそんなことをするのかといえば、オーダーが入ってから提供するまでの時間をできるだけ短縮させるためだ。

しかし、仕込みというのはやみくもにやっておけばいいということではない。もし仕込みをした分で売れ残りが出れば、その食材は廃棄しなければならなくなってしまう。結果的に材料費率を押し上げてしまうことになる。材料費率の管理だけを考えれば、仕込みはしないほうがいいのだ。現にそれを実践しているお店もある。

しかし、ふつうはそうはいかない。仕込みをせずにバイ・オーダーで調理していたのでは、提供時間がかかりすぎてお客の不満(お店離れ)を招くし、また、一度にすべての調理工程をこなすためには人手も余計に必要になるから、人件費もロスも出てしまう。

では、正しい仕込みの仕方とはどういうことか。その日の時間帯別売上げ予測にもとづいて仕込みをすることである。そして、その売上げ予測をするのは、売上げ責任をもつ店長の責任である。

つまり、調理長が正確な分量の仕込みを部下に指示するためには、店長の正確な売上げ予測とそれにもとづくメニューごとの出数予測の指示が不可欠なのである。したがって、お店の職制上、最高責任者は店長ということになる。

役割分担をスムーズに進めるために

このように、店長と調理長には、それぞれに分担すべき責任がある。その責任の所在をはっきりさせておけば、人格的な問題でもない限り、互いの役割分担はうまくいくはずである。

ただし、勘違いしてはいけないのは、お店の最高責任者だからといって、必ずしも店長が調理長より「偉い」(役職)とは限らないという点だ。給与が上だとも限らないのあくまでも仕事上の役割なのである。

役割分担をスムーズに進めるには、店長と調理長との間の円滑なコミュニケーションが不可欠だが、それについては次の項で述べる。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。