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正確な棚卸しの必要性とそのポイント

正確な棚卸しの必要性とそのポイント

食材の品質管理は店長の業務

一般に店長は、ホールでのサービス業務にばかり気をとられて、食材の管理への感心が薄れがちだが、これではいけない。店長は会社から、人、モノ、お金を預かってお店を運営している。このうち、人についてはいいとしても、モノとお金とは何なのか。食材(酒などの商品も含む)と店舗設計である。つまり、来客数に応じた人と食材を確保し、店舗がつねに快適な場所であるように管理することは、店長の責任である。

調理関係の仕事は調理長の責任と思われがちだが、そうではない。調理技術については調理長の管轄だが、食材の品質管理は店長の責任業務である。ふつう実際の管理業務は調理長がおこなうが、便宜上の役割分担をしているだけなのだ。なぜなら、売上高と利益の責任は、調理長ではなく店長が負うからである。

また、つい忘れがちなことなのであえて注意を促しておくが、食材はモノであると同時にお金でもある。

お金が形を変えただけのことなのだ。たとえばニンジン1本を腐らせて捨てるということは、その代金を捨てるに等しいのである。

正確な粗利益を把握するためには

利益=売上高-材料費-(人件費+諸経費)=粗利益-(人件費+諸経費)
飲食店の計数管理はすべて、この等式から出発するといっても過言ではない。たとえば、労働生産性や労働分配率がマネジメントできわめて重要な数値であることはすでに述べたが、これらの数値は粗利益率から算出される。つまり、
粗利益=売上高-材料費
この数値が正確でなければ、そこから導き出される労働生産性も労働分配率も正確に把握できないことになる。元になる数字の信頼性が低いのでは、計数管理の意味は半減してしまう。

正確な粗利益をつかむには、正確な材料費を計上しなければならない。そのために必要な作業が、食材の棚卸しなのである。正確な材料費は、次の算式によって計算される。

前月棚卸高+前月受入高-当月棚卸高=当月使用料
この式のうち、当月売上高(仕入高)は納品伝票を集計すればわかる。問題は、調理場や倉庫、ホールの一部などにある在庫である。この在庫高は棚卸しによってしか把握できないのだ。棚卸しが必要なのは、このためである。

よく、仕入高をそのまま材料費としているお店を見かけるが、これではまったく計数管理になっていない.もちろん、仕入高が材料費と等しいことは理屈上はありえる。前月未在庫量と当月末在庫量が等しい(前月棚卸高=当月棚卸高)場合だが、現実にはそんなことはない。

棚卸しをいい加減にやる店はない

別項でも述べたが、材料費、人件費(社員の固定給与を除く)、そして水道光熱費などの諸経費は、売上高に応じて増減する経費=変動費であり、店長の管理可能経費である。しかも、材料費は金額が大きいばかりでなく、商品のクオリティを決定する要因である。

その意味でも、店長は正確な材料費の把握が不可欠なのだが、現実には、棚卸しをろくにやらないお店や、やったとしてもいい加減に済ませているお店が多い。

理由は多忙だからとか人手が足りないからとかいったところだが、私にいわせれば、店長が棚卸しの意義を理解していないためにほかならない。

いいかえれば、正確な材料費をつかむことの重要性をまったく認識していないためである。ちょっとキツイいい方かもしれないが、そういういい方をしなければならないほど大切なことなのだ、ということをわかってほしい。

棚卸しが正確に実施されていない理由としては、
①在庫量自体が多すぎる
②材料のストック場所が一定していない
③材料の梱包単位がバラバラで、数量を把握しにくい

などが挙げられる。要するに、棚卸しをしようとしても時間がかかりすぎるcそれで面倒になってやめてしまうのだ。

棚卸しをやりやすくするポイントとは

正確な棚卸しを実施するにはまず、棚卸しをしやすくするシステムをつくっておく必要がある。1時間も2間もかかるからつい億劫になる。しかし、30分もかからずにおこなえば、人手不足を国にするほどの作業ではなくなるのである。

棚卸しをやりやすくするポイントを挙げておこう。

①適正な標準在庫量を決めておく
②棚卸表と原料単価表を準備しておく
③材料のストック場所を整理整頓する
④材料の配列の順序と棚卸表に記入する順序を一致させる(主な材料については、棚卸表にあらかじめ印刷しておく)
⑤材料の梱包の単位を統一にする
⑥液状の食材(ソース、スープ類) の計算方法を決めておく

また、棚卸し実施に当たっての注意点は、

①ストック場所(冷凍庫、冷蔵庫、倉庫、ホールなど)によって分担する
②棚卸し担当者は、カウント担当者と記入者の2名1組とする。
③棚卸表は冷凍品、冷蔵品、缶詰など、部門別、場所別に用意する
④カウント担当者と記入者は、品名、量を互いに復唱しながら集計し、記入する

つねに材料の品質チェックを心がけよ

棚卸しの目的は実は、正確な材料費の把握だけではない。食材の品質チェックと正確な発注も、棚卸しの重要な目的である。

在庫量といっても、材料に生鮮品が多い飲食店では、物販点の比ではない。しかし、生鮮品が多いだけに、品傷みしやすいため、在庫ロスが出やすい。そして、料理は材料の品質が命である。料理の質は、調理技術だけで決まるのではない。材料のよさを引き出し、生かすのが調理技術である。

材料の品質を落とさないようにするには、つねに過剰な在庫量を持たないようにすることと、先入れ先出しの鉄則を守ること。この二点を励行するしかない。

先入れ先出しの鉄則とは、古いものから順に使用するということだ。なんだ、そんなこと当たり前じゃないかと思うかもしれないが、意外と守られていない。

先入れ先出しは、材料の納品時から守られていなければ、とうてい実現できない。納品時に、冷凍庫や冷蔵庫の中のものをいったん外に出して、新しい材料を奥のほうから並べ、古い材料は手前に並べるようにしなければ、ロスはどんどん拡大していく。

しかし、この習慣は簡単なことのようでいて、なかなか身につかない。これを実現するのは、なぜ正確な棚卸しが必要かということが、店長以下、しっかりと理解したときである。

そして、つねに材料の品質チェックをおこなっていれば、店長は自然と材料の質を見抜く力をつけていくことになる。それによって、さらに、材料の品質管理をシビアにおこなうことができるようになる。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。