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ワークスケジュールの上手なつくり方(3) 月間人件費予算の立て方と手法

ワークスケジュールの上手なつくり方(3) 月間人件費予算の立て方と手法

「標準人件費率」を考える

月間人件費予算の作成は、前項で述べたパート・アルバイト採用計画の考え方の応用である。さて、ここでもう一度考えなければならないのが、標準人件費率ということだ。

経営である以上、会社はどうあっても必要利益を確保しなければならない。それが企業としての社会的責任だからだ。したがって会社は、すべての経費予算は売上高予算対比で決定することになる。その結果が、たとえば売上高対比25%といった数字として示される。

しかし、これはあくまで「標準」の人件費率である。

ここでいう標準というのは、 一年間をトータルしたときに適正である、という意味だ。理由は主として二つある。ひとつは、飲食店の売上高は季節による変動が激しいこと。

もうひとつは、お客の満足を前提とする飲食店の運営は、適正な人員配置によっておこなわれなければならず、その適正な人員数は必ずしも売上高の増減とは比例しないということだ。

一般に、売上高が高くなるときは人件費の効率はよくなるが、反対に売上高が低くなると効率は極端に悪くなる。光熱費にたとえれば、たとえまったく電気を使わなくても基本料金はかかってしまうからだ。

お店を開いている以上は、どんなにお客の入りが悪くても最低限そろえておかなければならない人員配置がある。それがお店のスタンダードを維持するのであり、結果としてお客の満足を得られ、トータルで売上高を確保できることになる。

A店のケースを考えてみると

つまり、毎月の売上高が季節による変動をほとんど受けず、なおかつ一定レベル以上の売上高を確保できるお店(それはほとんど例外だが)を別にすれば、1月から12月までのすべての月の人件費予算を、同一の基準値(標準人件費率)によって算出することはできない、ということだ。

ひとつ例題を挙げてみよう。
A店は年間の平均月商は1,100万円だが、もっとも落ち込む二月の売上げは700万円、もっとも稼ぐ12月は1,500万円を売り上げる。社員人件費は毎月150万円(1人平均30万円)。お店を経営するには、社員のほかにパート・アルバイトの労働が最低400時間必要で、ピークの12月には700時間必要である。

さて、A店で設定した標準人件費率を二五%として、これを各月の売上高に当てはめるとすると、
2月の人件費=700万円×0.25=175万円
12月の人件費=1,500万円×0.25=375万円

となる。

では、この人件費ではたして適正な運営ができるのかを考えてみよう。

まず、2月。社員人件費の150万円を引くと残りは25万円。これでは時給800円として312時間分のパート・アルバイトしか雇えないから、とてもまともな運営はできないことになる。

次に12月だが、この月は明らかにパート・アルバイトの予算が過剰である。使用可能な労働時間は、時給800円として2,800時間。1,000円でも2,250時間。余裕があるからといって人手を増やせば、従業員はラクはできるが、年間での標準人件費率をオーバーしてしまうことは確実である。

月の人件費予算をはじき出す方法

各月の人件費予算を、適正人員配置を崩さずに合理的に作成するには、パート・アルバイト採用計画で使った「人時売上高」と「人時接客数」を基準にする方法がある。

一般に、店長にとってわかりやすく、かつ使いやすいのは、従業員の生産性の指標である人時売上高を基準に算出する方法だ。

1人1時間当たりの売上高を基準とするため、各月の売上高の変動に対応し、予算と実績の誤差も小さくなる。ポイントは各月の正確な売上高予測と、季節変動に合わせた、各月ごとの適正な人時売上高の設定だが、これは少なくとも過去三年間のデータを分析する必要がある。

計算式は次のとおり。
当該月計画客数=当該月計画売上高/計画客単価
当該月計画労働時間数=当該月計画売上高/当該月計画人時売上高
当月パートアルバイト必要労働時間数=当該月計画労働時間数-当該月社員労働時間数

当該月パート・アルバイト人件費予算=当該月パート・アルバイト必要労働時間×パートアルバイト平均時給
当該月人件費予算=当該月パート・アルバイト人件費予算+社員人件費予算

店長は日標達成率を毎日確かめよ

繰り返し述べているように、店長がコントロールすることのできる人件費管理は、主としてパート・アルバイトの労働時間数である。そして、その目的はお客の満足を得ながら売上高を上げて利益を確保するための、適正人員配置である。

ところで、この項では各月の人件費予算の立て方について述べたが、実際にはなかなか予定どおりにいくものではない。毎日で見れば売上高には波があるし、ワークスケジュールをつくっても、来客数が多すぎて残業しなければならないこともあれば、遅刻や欠勤もある。

ところが、月末で集計してみたら偶然に予定どおりになっていた、ということがよくある。しかし、偶然はあくまで偶然である。月末の数字は、店長が確実にコントロールした結果でなければならない。つまり、毎日の来客数に応じた、適正な人員が働いた結果でなければならないのだ。

もちろん、そんなことをしようと思ってもできることではないが、店長の仕事とは、単なる帳尻合わせではないのである。

そのためには、店長は毎日の実績とその日までの累計実績をつねに正確に把握している必要がある。別のいい方をすれば、日標達成率を毎日確認するということだ。そのために必要なのが、デイリーチェック表である。人時売上高と人時接客数とは実は、このチェックのための指標なのだ。

なお、デイリーチェック表が有効なチェックであるためには、
①標準労働時間
②目標人時売上高
③目標人時接客数

の3つが設定されていなければならない。

バート・アルバイトの労働時間コントロール

標準労働時間が設定してあれば、累計労働時間の達成率が算出できる(表5参照)。また、日別計画売上高と日別実績売上高の累計によって、累計売上高達成率を算出できる。

パート・アルバイトの労働時間のコントロールは、この2つの累計達成率を対照することによっておこなう。
コントロール時間数=累計売上高達成率-累計労働時間達成率

この結果、プラスマイナス2%以内であれば、労働時間数のコントロールの必要はない。

マイナス3%を超える場合=労働時間数が多すぎる場合は、土曜日や日・祭日など、標準労働時間を多く設定してある曜日で調整するといい。

プラス3%を超える場合=労働時間数を増加できる場合は、新人の教育・訓練に当てるべきだ。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。