他店見学の目的は、繁盛事例をつぶさに観察して、その繁盛の要因を探り、他店の智恵や長所を学ぶことで、自店の欠点や弱点を解決し、より高いレベルのお店にしていくことだ。
繁盛の要因はいろいろある。商品の品質や個性、価格設定の巧みさ、お客の心をつかむサービス、居心地のよい内装やインテリア、等々。もちろん繁盛店といっても、ひとつのお店がこれらすべての要件を満たしているというわけではない。せいぜい一つか二つの要件で抜きん出ているというのが、ふつうである。
しかし、それだけでも立派に、繁盛はできる。たとえば、サービスや内装は平均点だが、商品力があり、かつお値打ちな価格で人気を得ているお店もある。反対に、商品はこれといった特徴もないのに、サービスと雰囲気づくりで千客万来というお店もある。
人気があるというのは、お客のハートをつかんでいるということだ。そのパワーの秘密は何なのか。どうすれば自店も、そのパワーをもつことができるのか
――店長にはつねに、この発想がなければならない。
他店見学はまず、できるだけ多くの事例を見て回ることが大切である。場数を踏まないことには的確な観察眼は養われないし、客観的なデータにはならない。たとえば、おいしい、まずいというのは、基本的には個人の主観である。しかし、自分の好みで他店の味を判断しているようでは、とてもプロとはいえない。
たくさんのお客に支持される商品の品質レベルという、客観的な尺度を明確にもってはじめて、飲食業のプロといえるのだ。
そういう客観性をもつには、品質レベルの高いお店での、食べる体験を積むことだ。また、同じお店ばかりではなく、いろいろな味を体験しなければならない。これを「舌を鍛える」という。
味ばかりではない。他店見学では、この客観的な視点が何より重要なのだ。主観の色メガネで見ても、そのお店のコンセプトは見えてこない。
「好きこそものの上手なれ」というが、まさにそのとおり。飲食業では、まず食べるのが何よりも好きだということ。それが本当のプロヘの第一歩になる。食べることが好きなら、いわれなくてもあちこちのお店に食べにいく。そして、価値あるお店をたくさん発見して、その味とサービスのレベルが身についていく。
ところが、飲食店の店長でありながら、ほとんど外食をしないという人が少なくない。たしかに、仕事が忙しいのはわかる。しかし、井の中のカワズ大海を知らずで、自宅とお店を往復しているだけでは、競合店の実力も飲食業界のトレンドも、何も見えてこない。
店長は自店のQSCのレベルを維持していく責任を負っているが、そのQSCとはほかでもない、お客のためのスタンダードなのである。つまり、他店と比較して自店は、お客にとって本当に価値のあるお店なのかと、つねにチェックしていなければならないのだ。
それには、他店見学しかない。業界紙・誌などマスコミの情報も参考になるが、あくまで参考にすぎない。飲食店は自分の日と舌で確認しなければ、絶対に本当の姿は見えてこないのだ。もつともつと、食べることを好きにならなければいけない。身体が疲れていれば、億劫にもなるだろう。
しかし、それが仕事なのだ。話題店や繁盛店、店舗などを回っているうちに、知らず知らずにプロ意識も高まってくるはずだ。そして、たとえ満腹状態でも味の評価は客観的に下せる実力がついてくる。
しかし、他店見学はたんなる食べ歩きツアーではない。最初にいった明確な目的がある。そこで忘れてはならないのは、そのお店の利益構造の観察である。
正確にいえば、繁盛と儲けは違う。いくら繁盛しても=客数が多くても、あまり儲からないお店もあれば、傍目には大して繁盛しているようには見えないのに、しっかりと利益を生み出しているお店もある。そして店長が最終的に負う責任は、「利益」である。
お店を見る日が肥えてくれば、店舗の投資コストもだいたい見当がつくようになる。店内で動いている従業員数とその動きを見れば、どの程度のコストで運営されているかもわかる。少ない人数で運営するには、店舗レイアウトにも工夫があるはずだ。
またメニュー表には、そのお店の商品政策のノウハウが隠されている。値付け、価格帯、品目数、調理法や主材料による分類など仔細に読み込む必要がある。
使用頻度の高い材料は何か、コストダウンの方法はどうかを念頭に置いて、仕入れ政策まで推理してみる。おとり商品の仕掛け方や、おすすめメニューのアピールの仕方なども大いに参考になるはずである。
他見見学のチェックポイントをリストとして下記に挙げておいた。ずいぶんたくさんの項目があるように見えるが、プロともなれば自然と、すべてのチェックポイントを押さえているものだ。
一方、他店見学は社員教育にも欠かせない。まず、他店のQSCレベルをお客の立場で感じ取ることからスタートさせるが、さまざまな評価の基準を少しずつ理解していくことで、自店のシステムがなぜそうなっているのかということが、わかってくるようになる。
ただ、新入社員や経験の短い社員の場合は、知識を与えすぎることがかえってマイナスになることが多いので、注意しておきたい。彼らにとっていちばん大切なことは、自分で感じとり、自分で考えるということなのだ。この習慣がしっかりと身についていないと、いわゆる頭デッカチとなってしまい、先入観にとらわれた見方しかできなくなってしまう。
また、たんに「よかった」冒小かった」という評価の仕方では意味がない。どこがどうよく、また悪かったのか、自店と比べてどうなのか、というところまで考えさせてはじめて、有意義な見学になる。その意味で、テーマを絞り込んでおくことも大切である。