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商品知識を豊富にする [プロ意識の磨き方]

商品知識を豊富にする [プロ意識の磨き方]

店長は商品について責任をもつ

一般に、店長はホールの責任者という意識が強い。実際、商品については調理長が絶対の権限をもっているお店もあるが、本来、店長はお店の売上高に責任をもつのだから、当然、商品についても責任を負わなければならない。それにもかかわらず、「ホールの責任者」の意識に縛られやすいのは、調理長との役割分担を誤解しているからだ。

たしかに、コックレスキッチンのお店を除いて、調理長は商品=料理のプロである。そして、店長の毎日の仕事の中心は、接客サービスと雰囲気づくりである。だから、店長がサービスについてのプロ意識をもつのは、当然のことだ。

しかし、忘れてはいけない。飲食業のサービスの原点は、お客に商品を提供することなのだ。なんといっても、商品あっての飲食店なのである。ということは、店長は商品についても、お客に対して責任をもたなければならないわけである。

たとえば、お客から商品についてのクレームが出たとしよう。そのとき店長は「料理については調理長の責任ですから」といって逃げることができるのだろうか。もちろん、そんなことが許されるはずもないのはいうまでもないだろう。

飲食店の売り物は、QSCのトータルな付加価値である。いわば総合商品である。調理長と店長は、その商品をつくりお客に提供し、気分よく食事を楽しんでもらうための作業を分担しているにすぎない。

個人経営の小規模店ではオーナーは店長と調理長を兼任している。しかし、お店の規模が大きくなれば、それは無理である。だから、作業上の役割分担が必要なだけであって、店長の商品についての責任が消えるということにはならないのだ。

店長はたんに、接客サービスのプロであればいいのではない。あくまで飲食業のプロでなければならない。そのためには、豊富な商品知識をもつことが絶対条件である。

調理師見習いに接客サービスを経験させる

最近、調理師見習いとして入社してくる若い人たちに、最初にホールの仕事を経験させるお店が増えてきている。期間は三カ月とか半年とかでそう長くはないが、ともかく、調理場に入る前に接客サービスをやらせるのだ。一部のホテルなどでは、以前から導入されていた教育システムだが、レストランでも実施されるようになってきた。これは素晴らしいことだと思う。

なぜこんなことをさせるのかというと、接客サービスを経験することで、調理はお客あっての仕事なのだという意識が強く植えつけられるからだ。昔から、調理場は「裏方」とされてきたの調理場の奥に引っ込んでいるため、お客からは見えないし、また、調理師はお客を見ない。

そのため、ややもすると調理場の人たちは、お客不在の発想になりがちだった。お客を喜ばせるための仕事という意識がしだいに薄れ、たんなる作業になってしまう傾向があった。そのため、ピーク時などは調理自体も手抜きをするようになるし、盛り付けもいい加減になりやすい。

しかし、サービス要員はそんなデタラメな料理をお客のテーブルに運びたくない。第一にお客に申しわけないと思うし、そんな料理を運ばなければならない自分が情けなくもなる。そういう気持ちを経験させることで、本当の意味でのプロの料理人に育てていこう、というのが、このシステムの考え方である。

全員で当店の料理を知る教育システム

そして、この考え方はそっくりそのまま、サービスする側にも当てはまる。素材、その品質、調理法、味つけの特徴、お酒との相性といった商品についての知識が十分になければ、お客に自信をもってすすめることなどできるはずがない。今日の料理はどんな出来ばえかもわからずに、お客のテーブルに運ぶだけというのでは、たんなる「お運びさん」でしかない。少なくとも店長と社員従業員は、十分な商品知識がなければ、サービスマンとして失格である。

そのため、パート・アルバイトも含めた全従業員に、お店の全商品を試食させ、どんな料理なのかを覚えさせる教育システムを取り入れているお店もある。そうすれば、お客に料理について聞かれても、一応のことはその場で説明できる。そこで手に負えなければ、より知識をもっている社員なり店長が代わって説明すればいい、というわけだ。

これもまた素晴らしい教育システムである。

ぜひともあなたのお店でも導入してほしいと思うが、いずれにしろ、店長は少なくとも自店の商品については完璧な商品知識をもつことが要求されるのである。

他店の味を知り、サービスを知る

しかし、より強い店長をめざすのであれば、自店の商品知識だけでは足りない。もっともっといろいろな知識を身につけなければならない。たとえば、世の中には同じメニュー名でも数え切れない種類がある。

素材選びに始まって、調理上の工夫や手間、味付けの加減、隠し味、提供の仕方や演出など、正確にいえばお店によってすべて違う。メニュー名はハンバーグでも、その内容は千差万別である。もちろん、お店のレベルによって取るに足らない商品も多いだろうが、自店の商品と比べて遜色のない商品、もっとすぐれた商品も必ずある。

他店との違いを出してお客を自店に引きつけることを差別化というが、商品はその差別性がもっとも端的にお客に伝わるものだ。自店の個性をもっとも明快にアピールすることができるのが、商品である。

しかし、他店と自店との商品の違いがわからなければ、そのアピールに説得力がない。ただ「当店の料理はおいしい」とか、「他店に負けません」というだけで、どこがどう違うのか、という点が欠けていては、お客を本当に説得することはできない。客観性に欠けるからだ。お店の一方的な自慢話を鵜呑みにしてくれるような気のいいお客は、そういないと知るべきだ。

そもそも、味覚というのは主観的なものだ。その主観にいかに客観性をもたせられるかいここが飲食店の成功のための最大のポイントである。その客観性のある味覚に鍛えるためには、他店見学の回数を重ねるしかないわけだが、同時に、たんなる自分の感覚だけでなく、普遍的な知識としての蓄積もなければならない。

店長はプロ意識をとことん磨け

ところで、ふつう商品知識といえば、料理についての知識を指す。よく勉強している人にとっては、その料理が生まれた時代や気候風土といった料理のもつ文化的背景まで含めて、料理の知識である。非常に幅広く、奥行きも深いわけだが、商品知識とは、たんに料理の知識を意味するのではない。なぜなら、何度も述べてきたように飲食業とは、総合付加価値業だからである。

たとえば、料理と食器は不可分の関係にある。どんな食器に盛るかで、料理の付加価値は大きく変わる。調度品や絵画、置き物などは、雰囲気づくりの重要な要素=売り物となる。つまり、食器も絵画も商品の一部であり、それらについての知識もまた、料理と同様に商品知識なのである。これは、高級店になればなるほど、大事な知識となる。場合によっては教養といってもさしつかえない。

たとえば高級料亭では、仲居の基礎教養として華道や茶道を教えているところが少なくない。お店内の花はすべて仲居が活け、書画骨童の類についての教育もおこなっている。お客に質問されても恥をかかないようにするためだが、お店の格というのは、こういうところで決まっていくものだ。

高級料亭はちょっと特殊な例だが、商品知識にはこれだけの広がりがあるのだということを、ぜひ心にとめておいてほしい。かりに、あなたのお店に画軸が掛けてあり、そこに漢詩が書いてあったとしたら、その詩の作者や題名、読み方、大意などは、店長として絶対に知っていなければならない商品知識なのである。

では、こういう商品知識はどうすれば身につくのか。結局、あなたの自己啓発に待つしかない。その自己啓発を促し、努力を持続させるのは、あなたのプロ意識である。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。