お客様の金銭感覚というのは、地域によってかなりの違いがあるものだ。都市と郊外でも違うし、繁華街と住宅地でも違う。また、同じ繁華街であっても中心部かはずれかなど、場所によってかなりの差が出る。
住宅地の場合は、住人の年齢層や家族構成によって違ってくるし、当然のことながら、収入レベルも大きな要因になる。
したがって、確実に成功するためには、お店が商圏とする地域の金銭感覚をできるだけ正確につかむ必要がある。お客様はいったい、いくらまでならリーズナブルと感じてくれるのか。そこがつかめなければ、メニュー価格を決めることはできない。
ところが、 一般に小さな個店では、こういう意識が希薄な傾向がある。地域の金銭感覚というよりも、なんとなく「常識」で価格設定してしまうのだ。常識とは、商圏内の同業他店の価格設定である。
たしかに、他店はその価格で成り立っているのだから、同じ設定にしておけばお客様の拒否感だけは避けることができる。しかし、成功できる確率が高くなるということではない。なぜなら、他店の価格設定が間違っていたら、同じ轍を踏むことになってしまうからだ。
念のために断っておくと、この他店の間違いとは、言い替えれば、ニーズの読教間違いのことだ。たとえば、客単価1000円の設定が当たり前の地域だったとしよぅ。そこに同じ1000円の設定でオ―プンすれば、少なくとも既存の他店と同じ土俵に立つことはできる。しかし、本当は2000円でも受け入れてくれる客層がいるのに、そのニーズを満たすお店がないために真空状態になつているのかもしれないのである。
もちろん、これはひとつの可能性にすぎないが、そういう可能性を追求する姿勢が大切だ。「あんな立地なのによく繁盛できるね」と言われるお店があるが、それは、こういう埋もれたニーズを嗅ぎ出して成功したケースなのである。
地域の金銭感覚をつかむには、まず地域内のできるだけ多くのお店にお客様として入ってみることだ。メニュー表を見ればそのお店の商品構成と価格設定がわかるし、客層も把握できる。そして、データはサンプル数が多いほど正確になる。
この調査は、出店物件を決めるための立地調査で行うものだが、自店と同じ業種業態のお店だけでなく、別業種別業態のお店も調査するのが大事なポイントだ。いろいろな業態を見ることではじめて、その地域にどんな客層のどんなニーズが、どれくらい存在しているかがつかめるからである。
どんなにいいお店をつくっても、地域の金銭感覚と合わなければ成立しない。これは絶対にくつがえせない事実である。その地域でのリーズナブルプライスを見つけることなしに、成功はあり得ない。
ただ、リーズナブルプライスにはある程度の幅がある。つまり、許容される価格の上限があるということだ。その幅の範囲内で、手薄になっている価格帯はどこなのか。そこを上手に突くことが、成功する価格設定の急所なのである。