• +03-5436-8908
  • info@egg-recruit.com

居抜き店舗で必要なコンセプトとは

飲食店経営はビジネスだ。したがって、お客様に支持されるのは「たまたまそうなった」ではなく、「必然の結果」でなければならない。つまり、コンセプトとはひと言でいえば、確実にお客様に支持されるためのお店づくりのプランを確立することである。

飲食業の世界では、このコンセプトという言葉がよく使われている。ところが、言葉だけがひとり歩きしていて、コンセプトの意味がよく理解されていないケースが非常に多い。たんなるイメージとしてしかとらえていないのだ。たとえば、地中海沿岸のビーチリゾートのような明るくリッチな雰囲気のお店とか、日本の伝統文化に触れながらお酒をゆったりと楽しめるお店、といった具合である。

これらの例がどうして「コンセプト」になっていないのかというと、これでは実際の営業方針は立てられないからだ。唯一できることは店舗をつくることだけだが、それとて大きな問題がある。たとえば、厨房の広さや規模はどうするのか。店舗デザインだけなら、デザイナーに依頼すれば簡単に出来上がる。

しかし、売り方の方針が決まらないのに厨房をつくるわけにはいかない。厨房というのは、メニューの種類の多少や調理工程の内容によって、必要な広さも機能も変わってくるからだ。

お店のイメージを決めるのはいい。しかし、同時に、そのイメージのなかでどういう売り方をするのかということを、きちんと詰めていかなければならない。それがコンセプトづくりなのである。

客層はどの辺に照準を当てるのか。どういう利用動機を取り込むのか。お客様の利用頻度はどのくらいと想定するのか。メニューの品目数はどれくらいにするのか。そのメニューで、昼と夜の客単価をいくらに設定するか。お客様のオーダーの仕方はどうか。お客様の滞席時間はどのくらいか。

こういうことをいちいち細かく煮詰めていってはじめて、お店の営業方針が決定されるのである。ところが、お店をイメージだけで考えても、これらの要素は何ひとつ決めることができない。要するに、確固とした方針のないままにお店をオープンするということになってしまう。

飲食店の営業方針とは、お客様に対する具体的な対応態勢である。たとえば、メニュー数を増やす。それはいい。しかし、そのためにはお客様のオーダーがばらついたとしても対応できる厨房とサービスのシステムを確立しておかなければならない。

先に客単価を想定するといったが、これは自分本位の期待値であってはならない。お客様のオーダーの仕方という視点から想定されていなければならないのだ。ディナータイムであれば、ドリンクを何杯飲むかということも想定しなければいけないのである。

こういうお客様にこういう利用の仕方をしてもらいたい。そのアピールが明快だからこそ、狙いどおりのお客様が来てくれるのだ。そのための基本プラン、それがコンセプトなのだ。繰り返すが、お店づくりはイメージだけではできないのである。

地域の飲食金銭感覚をつかむ

お客様の金銭感覚というのは、地域によってかなりの違いがあるものだ。都市と郊外でも違うし、繁華街と住宅地でも違う。また、同じ繁華街であっても中心部かはずれかなど、場所によってかなりの差が出る。

住宅地の場合は、住人の年齢層や家族構成によって違ってくるし、当然のことながら、収入レベルも大きな要因になる。

したがって、確実に成功するためには、お店が商圏とする地域の金銭感覚をできるだけ正確につかむ必要がある。お客様はいったい、いくらまでならリーズナブルと感じてくれるのか。そこがつかめなければ、メニュー価格を決めることはできない。

ところが、 一般に小さな個店では、こういう意識が希薄な傾向がある。地域の金銭感覚というよりも、なんとなく「常識」で価格設定してしまうのだ。常識とは、商圏内の同業他店の価格設定である。

たしかに、他店はその価格で成り立っているのだから、同じ設定にしておけばお客様の拒否感だけは避けることができる。しかし、成功できる確率が高くなるということではない。なぜなら、他店の価格設定が間違っていたら、同じ轍を踏むことになってしまうからだ。

念のために断っておくと、この他店の間違いとは、言い替えれば、ニーズの読教間違いのことだ。たとえば、客単価1000円の設定が当たり前の地域だったとしよぅ。そこに同じ1000円の設定でオ―プンすれば、少なくとも既存の他店と同じ土俵に立つことはできる。しかし、本当は2000円でも受け入れてくれる客層がいるのに、そのニーズを満たすお店がないために真空状態になつているのかもしれないのである。

もちろん、これはひとつの可能性にすぎないが、そういう可能性を追求する姿勢が大切だ。「あんな立地なのによく繁盛できるね」と言われるお店があるが、それは、こういう埋もれたニーズを嗅ぎ出して成功したケースなのである。

地域の金銭感覚をつかむには、まず地域内のできるだけ多くのお店にお客様として入ってみることだ。メニュー表を見ればそのお店の商品構成と価格設定がわかるし、客層も把握できる。そして、データはサンプル数が多いほど正確になる。

この調査は、出店物件を決めるための立地調査で行うものだが、自店と同じ業種業態のお店だけでなく、別業種別業態のお店も調査するのが大事なポイントだ。いろいろな業態を見ることではじめて、その地域にどんな客層のどんなニーズが、どれくらい存在しているかがつかめるからである。

どんなにいいお店をつくっても、地域の金銭感覚と合わなければ成立しない。これは絶対にくつがえせない事実である。その地域でのリーズナブルプライスを見つけることなしに、成功はあり得ない。

ただ、リーズナブルプライスにはある程度の幅がある。つまり、許容される価格の上限があるということだ。その幅の範囲内で、手薄になっている価格帯はどこなのか。そこを上手に突くことが、成功する価格設定の急所なのである。

飲食店ピークタイムでの機会損失をなくす

ちゃんとやっていれば売上が上がったのに、そのチャンスを失ってしまう。飲食店の経営では、そういう事態がたびたび発生する。得るべき利益をみすみす逃してしまうわけだ。これを機会損失と呼ぶ。

経営の収益性を高めるには、この機会損失をできるだけなくすようにしていかなければならない。なにしろ、何人分かの売上がそっくり消えてしまうのだ。そう考えれば、いかに重要なテーマかがわかるはずである。

機会損失の可能性は毎日の営業の中にゴロゴロころがっている。ところが、いつ、どこで発生したのか、気づくことは少ない。なぜなら、赤字という正確な数字で記録に残らないからだ。ちゃんと対応していれば得られた利益といっても、その金額は不明。だから余計に見過ごされやすいのだ。

たとえば、ランチタイムのピーク時。当然、店内は満席である。そこにお客様が入ってきたのだが、その満席状態をひと目見て帰ってしまったというヶlス。あるいは、食事をしているお客様が追加オーダーの合図を送ってよこしているのに、スタッフが気づかないために、気分を害してオーダーを取りやめてしまう。

これもよく見られるケースである。

いずれのケースも、スタッフの対応の仕方がまずかったことが原因である。きちんと対応さえしていれば、売上が上がったはずなのだ。これらの機会損失は、スタッフの教育を見直し、あるべきサービスの仕方を徹底することで、かなり防げるはずである。

満席状態といっても、いつまでも満席が続くわけではない。そんなことはわかりきっているはずなのに、お客様を引き留めようとしない。本来なら、お客様が入ってきた時点で待ち時間を告げるべきなのに、それをしない。

ウェイティング客に待ち時間を告げるのはお店側の当然の義務であり、礼儀でもある。どうしても断らなければならないときは、サービス券などで謝罪と、またの来店をお待ちしておりますという気持ちを表さなければいけないのである。

それをしないということは、たんにスタツフの怠慢というだけではすまない。経営者の姿勢の問題といえよう。そういうケースはあらかじめ想定できるのだから、どう対処すべきなのかを決めたマニュアルをつくり、きちんと守らせればいいだけのことである。

追加オーダーの合図を見逃してしまうのは、サービススタッフがお客様をきちんと見ていない証拠である。

つまり、ふだんからそういういい加減なサービスを許しているということだ。別項で詳しく説明したいが、お客様から目を離さないというのは、接客サービスの基本中の基本である。

といっても、これも別にむずかしく考える必要はない。たとえば、つねにお客様のコップの水に注意するように徹底させる。そうすれば、スタッフは自然とお客様の状態に注意を向けるようになるものだ。いつもお客様を見ていれば、食べ終えた食器を下げる作業も早くなるし、追加オーダーの合図を見落とすなどという初歩的なミスは確実に防げるはずである。

食器を下げる作業がてきぱきと行われていれば、お客様の回転もよくなり、満席状態も緩和される。満席が続いていたとしても、来店したお客様に対応する時間的な余裕も生まれるわけだ。このように、サービスというのは流れであり、ひとつ改善することで全体が改善されることが少なくない。

また、商品の売り切れというのも、よくありがちな機会損失のひとつである。この機会損失は、予測以上にお客様が来店したために起こる場合と、そもそも客数予測が甘いケースとに分けられる。いずれにしても、責任は厨房ではなく店長(経営者)にある。なぜなら、客数の予測は店長の仕事だからだ。

それはともかくとして、売り切れと聞いて、お客様はどう思うだろうか。なかには、わざわざその商品を食べに来店してくれたお客様もいるのである。品切れだから他の商品にしてください、というのは簡単だ。

しかし、いったん失ったお客様の信頼を取り戻すのは、簡単なことではない。別に話を大袈裟にしているのではない。メニューに載せている商品を出さないというのは、お客様に対する裏切り行為以外の何物でもないのである。

いずれにしろ、機会損失のダメージは売上を失うことにとどまらない。満席時のお客様への対応にしろ、追加オーダーの見逃しにしろ、売上と同時に、お客様の信頼をも失っていることを認識すべきなのだ。接客うのは、不信感を抱いたお店は利用しないものである。他にいくらでも飲食店があるのだから。つまり、お客様をしっかりとつかむチャンスは何度もないということだ。

機会損失は、そのことへの対処の認識がないとまず意識されることがない。なんとなく流れていってしまう。それが怖いのだ。スタッフ教育はもちろんのこと、まず経営者がどれくらいの問題意識をもてるか、防げるかどうかは、そこにかかっている。

できるだけ安く飲食店をつくるには

飲食店というのは、お金をかければお客様が来てくれるというものではない。そもそも高級店ならともかく、 一般の小さなお店に、お客様は「本物」の内装や調度類など期待していない。

お客様にとって「いいお店」とは、感じがいいお店である。気分よくすごせればいいわけで、いくら投資したということにはあまり興味をもたないものだ。逆に言えば、お金をかけたくなるのは、ビジネスのためではなく、経営者の自己満足であることが多い。

とくに、はじめてオープンする人は、この傾向が強い。要するにマイホームと同じ感覚で、できるだけ満足のいくものを、と考えてしまうのだ。しかし、お店はあくまでビジネスの場である。必要な投資をすればいいのである。この発想の切り替えができなければ、できるだけ安くつくるということは不可能といっていい。

さて、最も安くお店をつくる方法は、手頃な居抜き店舗を活用することだ。機器類から什器備品類はもちろんだが、食器まで揃っていれば、新しく買うものはほとんどない。

通常はカラ店舗を借りてオープンすることになるが、安くつくるには、まず知恵を使うこと。そして、すべてをビジネスと割り切って合理的に考えることだ。

一般に、客席ホールの内装にお金をかけすぎてしまうのは、いまも言ったようにマイホーム感覚が強いためだが、これはできるだけ長くもたせたいという発想でもある。そのため、つい「いい材料」に目が行ってしまうのである。お客様をもてなす場だから、という思いもあるだろう。

しかし、お店づくりは材料で決まるわけではない。大事なのはデザインというより、むしろ演出だ。お客様が求めているのは、他のお店と違って楽しく、くつろげ、豊かな気分になれる、そんな演出なのである。

雰囲気の演出とは、イメージのふくらみをもたせることだ、たとえば、外国のレストランをテーマにするのなら、その国の素朴な民芸品が2つ、3つ、ポイントとしてあれば十分。あとは、壁紙やカーテンなどで

雰囲気を盛り上げる工夫をすればいい。また、生花をさした一輪挿しひとつで、雰囲気はがらりと変わる。

要はセンスの問題である。

厨房関係ではズバリ言って、中古品を上手に利用することだ。中古品といっても、いまは昔とはまったく違う。ちょっと使っただけの、まだまだ使える機器類がたくさん出回っている。

ものによっては多少の汚れが気になるかもしれないが、たとえ新品を買ったとしても、いずれは汚れてしまうものだ。中古品でも、丹念に磨き上げれば、かなりきれいになる。せっかく念願のお店をつくるのだから、ピカピカの新品を使いたいという気持ちは理解できるが、安く上げたいのなら気持ちの切り替えが必要だ。

お店はビジネスの場といったが、内装や機器類は自己満足のためのものではない。飲食店としての付加価値を生み出すための道具にすぎない。自分のお店を愛することは大切だが、趣味ではないのである。そういう発想がきちんとできれば、お金をかけるべきところとかけないでいい部分の区別がわかってくるはずである。

部下にビジョン(具体的な計画)を語れるか

店長のマネジメント技術

店長にとっての最大のテーマは、いかにたくさんのお客に支持されるお店にするか、ということだ。そのためには、トップの思想、経営方針を、部下を通じてお店のなかに具現しなければならない。このことは、本書のなかで何度も繰り返してきた。

しかし、実際の営業は部下がするのだ。肝心なのはここである。つまり、部下を訓練し、適切な人員配置をおこなう技術が店長にとって必須の技術であることはいうまでもないが、何よりも大事なのは、部下の意欲をかきたてる技術なのである。店長のマネジメント技術は、ここに集約されるといってもいい。

ビジョンがなければ本当のヤル気は起こらない

では、どうすれば部下はヤル気になるのか、ひとことでいえば、確固としたビジョンが示せることが、その最大の条件である。

ビジョンとは将来の見通し、未来像である。たんなる夢や予定ではない。何年か後にこういう姿になっているという、具体的な計画だ。人間が仕事に意欲をもって取り組めるのは、このビジョンが明確なときである。

よく先のことなどわからない、という人がいるが、そういう人が真剣に仕事に取り組んでいることは、まずあり得ない。いまが大事だ、などというかもしれないが、実際は場当たり的な仕事になっている。どうなりたいのかという、日標も計画もないのだから、当然である。目標がなければ、成長もしない。

これはお店=会社も同じである。企業にとって経営理念と長期的戦略が大切なのは、それなくしてビジョンをもてないからだ。五年後、卜年後にどんな会社になりたいのか、という具体的な目標がなければ、お店の将来像など見えてこない。そんなお店では、あなただって本当のヤル気は起きないはずだ。こんなお店に勤めていていいのだろうか、自分の将来はどうなるのだろう、と不安に駆られるに違いない。ビジョンのないお店では、部下も不安になっているのだ。

繁盛の源は従業員のパワーだ

ところで、経営理念や長期経営計画で「従業員の幸せを築く」と謳っている会社が少なくない。もちろん、人間として従業員の幸せを願うのは当たり前のことである。あなたも国には出さなくても、同じ思いだろう。

しかし、ひと口に、幸せといっても、その条件は人それぞれである。そこで、会社として最低限実現してあげることのできる、また実現しなければならない「幸せ」を考えてみよう。というより、むしろ「幸せ」のための条件といったほうが適切かもしれないが、それは待遇改善である。

待遇にもいろいろな要素があるが、一般には、給与、労働時間、福利厚生、そして労働環境の四つが主な要素とされている。では、これらを改善するには何が必要かというと、それはおカネである。

従業員に十分な待遇を与え続けていくには、会社におカネがなければならない。そのためにはまず、お店が繁盛するとともに十分な収益性をもち、なおかつ会社としての安定性と成長性を有していなければならない。そして、その繁盛を実現するパワーの源は、ほかならぬ従業員なのである。

もちろん、会社としての財務戦略の裏付けがなければ成り立たないわけだが、ここで大事なことは、みなの幸せを実現するためのビジョンがあるということ、そして、そのビジョンをあなたが、部下に語ることができるかということなのだ。

店長として決して忘れてはならないこと

店長に強いリーダーシップが求められるが、リーダーシップとは、たんに部下に命令し、動かすことだけではない。部下に信頼されてはじめて、本当のリーダーシップが確立されるのだ。そしてその信頼感が生まれるのは、部下が、自分たちが幸せになれるという確信をもてるときである。

もちろん、会社としてのビジョンは、トップが策定するものだ。しかし、それを現場の人たちに直接語りかけることができるのは、店長だけである。

食文化の一端を担う誇りをもつ

自分たちの仕事に誇りと自信をもとう

「食文化」などというと、「そんな大げさな」と馬鹿にする人がいる。また、「ただの客商売をやっているだけで、そんな高尚なことには縁がない」などと妙に卑下する人もいる。私は別に「高尚な」話をして気どりたいのではない。

ただ、当たり前のことを当たり前に理解して、自分たちの仕事に誇りと自信をもってほしいと思っているだけなのだ。大袈裟とか高尚とか思うのは、文化がビジネスとは無縁のものだと考えているからだろう。しかし、実はそんなことはない。

たとえば、京料理といえば、たいていの人は食文化という言葉にふさわしいという。千年の都の料理であり、家庭料理や懐石料理、精進料理といった、日本古来の料理の伝統が継承されているからだ。しかし、京料理が今日まで発展してきたのは、料理屋という商売があったからである。パトロンのためだけの料理だったとしたら、いまの京料理はなかったはずだ。ビジネスとしての厳しさをお客が求め、お店がそれに応えようと努力してきた結果が、今日の京料理なのだ。

しかし、誤解してはいけない。高級だから文化なのではない。たとえば、同じ一示都でも、庶民の食べるおばんざいや漬け物といった伝統文化がある。

一方、外国の料理を消化吸収して独特の料理に仕立て上げるのも、日本人の得意とするところだ。身近なところでいえば、ラーメンやカレーがそうである。キャベツの千切りを添えたトンカツも日本独特の料理であり、日本ならではの食文化を形成している。そういっても別に異論はないはずである。

飲食業は総合付加価値業である

日本のほとんどの料理は、料理屋とか屋台といった飲食店を通して継承され、発展してきた。家庭料理というジャンルもあるが、大半の料理は飲食業=食べ物屋というビジネスなしには継承されなかった。それは、プロの料理だからである。プロの技術が料理を発展させてきたことを否定する人はいないだろう。

ところで、発展してきたのは料理ばかりではない。

サービス業としての成長も、食文化を語るうえで不可欠な点である。誤解を恐れずにいえば、私は、文化とは人びとの幸福をつくり出していくものだと思っている。文化と聞くとすぐに「高尚」なイメージを連想するのは、それが非日常的なものだと決めつけているからだろうが、私にいわせれば、少なくとも食文化は、たんなる飾りものではない。

それがない人びとの幸福感が満たされないもの、と考えている。そしてその幸福感は、たんに料理を食べるだけでは満たされない。飲食業がQSCの三拍子のそろった総合付加価値業でなければならないのは、そのためである。

店長は食文化の担い手だ

ただ空腹を満たすだけなら、ほとんどの飲食店は必要がない。少なくとも接客サービスをする必要はない。

サービスの必要があるのは、お客が楽しさとか豊かさといった情緒的満足を求めているからだ。こういうお客のユーズと、それに応えようとするレストランとが合致して、いまの日本の食文化を形づくっているのではないだろうか。そして、それができるのはビジネスという前提があるからである。

いま、家庭料理の伝統はどんどん崩壊しているという。男の料理がはやる一方で、包丁もまともに使えない女性が増えているという。懐かしいお袋の味がどんどん姿を消していくのは忍びないことだが、レストランはなくなることはない。今後、お客のレストランヘの要求はますますシビアになり、さらに人びとの生活に根付いていくに違いない。

レストランで働くということは、日本の食文化の一端を担うということなのだ。飲食業の素晴らしさについては先に詳しく書いたから、ここでは繰り返さないが、この食文化の担い手ということを、しっかりと胸

他店見学は積極的に[そのチェックポイント]

繁盛店のパワーを生かす

他店見学の目的は、繁盛事例をつぶさに観察して、その繁盛の要因を探り、他店の智恵や長所を学ぶことで、自店の欠点や弱点を解決し、より高いレベルのお店にしていくことだ。

繁盛の要因はいろいろある。商品の品質や個性、価格設定の巧みさ、お客の心をつかむサービス、居心地のよい内装やインテリア、等々。もちろん繁盛店といっても、ひとつのお店がこれらすべての要件を満たしているというわけではない。せいぜい一つか二つの要件で抜きん出ているというのが、ふつうである。

しかし、それだけでも立派に、繁盛はできる。たとえば、サービスや内装は平均点だが、商品力があり、かつお値打ちな価格で人気を得ているお店もある。反対に、商品はこれといった特徴もないのに、サービスと雰囲気づくりで千客万来というお店もある。

人気があるというのは、お客のハートをつかんでいるということだ。そのパワーの秘密は何なのか。どうすれば自店も、そのパワーをもつことができるのか

――店長にはつねに、この発想がなければならない。

他店見学は数多くおこなう

他店見学はまず、できるだけ多くの事例を見て回ることが大切である。場数を踏まないことには的確な観察眼は養われないし、客観的なデータにはならない。たとえば、おいしい、まずいというのは、基本的には個人の主観である。しかし、自分の好みで他店の味を判断しているようでは、とてもプロとはいえない。

たくさんのお客に支持される商品の品質レベルという、客観的な尺度を明確にもってはじめて、飲食業のプロといえるのだ。

そういう客観性をもつには、品質レベルの高いお店での、食べる体験を積むことだ。また、同じお店ばかりではなく、いろいろな味を体験しなければならない。これを「舌を鍛える」という。

味ばかりではない。他店見学では、この客観的な視点が何より重要なのだ。主観の色メガネで見ても、そのお店のコンセプトは見えてこない。

他店から貪欲に吸収する姿勢

「好きこそものの上手なれ」というが、まさにそのとおり。飲食業では、まず食べるのが何よりも好きだということ。それが本当のプロヘの第一歩になる。食べることが好きなら、いわれなくてもあちこちのお店に食べにいく。そして、価値あるお店をたくさん発見して、その味とサービスのレベルが身についていく。

ところが、飲食店の店長でありながら、ほとんど外食をしないという人が少なくない。たしかに、仕事が忙しいのはわかる。しかし、井の中のカワズ大海を知らずで、自宅とお店を往復しているだけでは、競合店の実力も飲食業界のトレンドも、何も見えてこない。

店長は自店のQSCのレベルを維持していく責任を負っているが、そのQSCとはほかでもない、お客のためのスタンダードなのである。つまり、他店と比較して自店は、お客にとって本当に価値のあるお店なのかと、つねにチェックしていなければならないのだ。

それには、他店見学しかない。業界紙・誌などマスコミの情報も参考になるが、あくまで参考にすぎない。飲食店は自分の日と舌で確認しなければ、絶対に本当の姿は見えてこないのだ。もつともつと、食べることを好きにならなければいけない。身体が疲れていれば、億劫にもなるだろう。

しかし、それが仕事なのだ。話題店や繁盛店、店舗などを回っているうちに、知らず知らずにプロ意識も高まってくるはずだ。そして、たとえ満腹状態でも味の評価は客観的に下せる実力がついてくる。

″利益構造″を観察する目

しかし、他店見学はたんなる食べ歩きツアーではない。最初にいった明確な目的がある。そこで忘れてはならないのは、そのお店の利益構造の観察である。

正確にいえば、繁盛と儲けは違う。いくら繁盛しても=客数が多くても、あまり儲からないお店もあれば、傍目には大して繁盛しているようには見えないのに、しっかりと利益を生み出しているお店もある。そして店長が最終的に負う責任は、「利益」である。

お店を見る日が肥えてくれば、店舗の投資コストもだいたい見当がつくようになる。店内で動いている従業員数とその動きを見れば、どの程度のコストで運営されているかもわかる。少ない人数で運営するには、店舗レイアウトにも工夫があるはずだ。

またメニュー表には、そのお店の商品政策のノウハウが隠されている。値付け、価格帯、品目数、調理法や主材料による分類など仔細に読み込む必要がある。

使用頻度の高い材料は何か、コストダウンの方法はどうかを念頭に置いて、仕入れ政策まで推理してみる。おとり商品の仕掛け方や、おすすめメニューのアピールの仕方なども大いに参考になるはずである。

他店見学のチェツクポイント

他見見学のチェックポイントをリストとして下記に挙げておいた。ずいぶんたくさんの項目があるように見えるが、プロともなれば自然と、すべてのチェックポイントを押さえているものだ。

一方、他店見学は社員教育にも欠かせない。まず、他店のQSCレベルをお客の立場で感じ取ることからスタートさせるが、さまざまな評価の基準を少しずつ理解していくことで、自店のシステムがなぜそうなっているのかということが、わかってくるようになる。

ただ、新入社員や経験の短い社員の場合は、知識を与えすぎることがかえってマイナスになることが多いので、注意しておきたい。彼らにとっていちばん大切なことは、自分で感じとり、自分で考えるということなのだ。この習慣がしっかりと身についていないと、いわゆる頭デッカチとなってしまい、先入観にとらわれた見方しかできなくなってしまう。

また、たんに「よかった」冒小かった」という評価の仕方では意味がない。どこがどうよく、また悪かったのか、自店と比べてどうなのか、というところまで考えさせてはじめて、有意義な見学になる。その意味で、テーマを絞り込んでおくことも大切である。

商品知識を豊富にする [プロ意識の磨き方]

店長は商品について責任をもつ

一般に、店長はホールの責任者という意識が強い。実際、商品については調理長が絶対の権限をもっているお店もあるが、本来、店長はお店の売上高に責任をもつのだから、当然、商品についても責任を負わなければならない。それにもかかわらず、「ホールの責任者」の意識に縛られやすいのは、調理長との役割分担を誤解しているからだ。

たしかに、コックレスキッチンのお店を除いて、調理長は商品=料理のプロである。そして、店長の毎日の仕事の中心は、接客サービスと雰囲気づくりである。だから、店長がサービスについてのプロ意識をもつのは、当然のことだ。

しかし、忘れてはいけない。飲食業のサービスの原点は、お客に商品を提供することなのだ。なんといっても、商品あっての飲食店なのである。ということは、店長は商品についても、お客に対して責任をもたなければならないわけである。

たとえば、お客から商品についてのクレームが出たとしよう。そのとき店長は「料理については調理長の責任ですから」といって逃げることができるのだろうか。もちろん、そんなことが許されるはずもないのはいうまでもないだろう。

飲食店の売り物は、QSCのトータルな付加価値である。いわば総合商品である。調理長と店長は、その商品をつくりお客に提供し、気分よく食事を楽しんでもらうための作業を分担しているにすぎない。

個人経営の小規模店ではオーナーは店長と調理長を兼任している。しかし、お店の規模が大きくなれば、それは無理である。だから、作業上の役割分担が必要なだけであって、店長の商品についての責任が消えるということにはならないのだ。

店長はたんに、接客サービスのプロであればいいのではない。あくまで飲食業のプロでなければならない。そのためには、豊富な商品知識をもつことが絶対条件である。

調理師見習いに接客サービスを経験させる

最近、調理師見習いとして入社してくる若い人たちに、最初にホールの仕事を経験させるお店が増えてきている。期間は三カ月とか半年とかでそう長くはないが、ともかく、調理場に入る前に接客サービスをやらせるのだ。一部のホテルなどでは、以前から導入されていた教育システムだが、レストランでも実施されるようになってきた。これは素晴らしいことだと思う。

なぜこんなことをさせるのかというと、接客サービスを経験することで、調理はお客あっての仕事なのだという意識が強く植えつけられるからだ。昔から、調理場は「裏方」とされてきたの調理場の奥に引っ込んでいるため、お客からは見えないし、また、調理師はお客を見ない。

そのため、ややもすると調理場の人たちは、お客不在の発想になりがちだった。お客を喜ばせるための仕事という意識がしだいに薄れ、たんなる作業になってしまう傾向があった。そのため、ピーク時などは調理自体も手抜きをするようになるし、盛り付けもいい加減になりやすい。

しかし、サービス要員はそんなデタラメな料理をお客のテーブルに運びたくない。第一にお客に申しわけないと思うし、そんな料理を運ばなければならない自分が情けなくもなる。そういう気持ちを経験させることで、本当の意味でのプロの料理人に育てていこう、というのが、このシステムの考え方である。

全員で当店の料理を知る教育システム

そして、この考え方はそっくりそのまま、サービスする側にも当てはまる。素材、その品質、調理法、味つけの特徴、お酒との相性といった商品についての知識が十分になければ、お客に自信をもってすすめることなどできるはずがない。今日の料理はどんな出来ばえかもわからずに、お客のテーブルに運ぶだけというのでは、たんなる「お運びさん」でしかない。少なくとも店長と社員従業員は、十分な商品知識がなければ、サービスマンとして失格である。

そのため、パート・アルバイトも含めた全従業員に、お店の全商品を試食させ、どんな料理なのかを覚えさせる教育システムを取り入れているお店もある。そうすれば、お客に料理について聞かれても、一応のことはその場で説明できる。そこで手に負えなければ、より知識をもっている社員なり店長が代わって説明すればいい、というわけだ。

これもまた素晴らしい教育システムである。

ぜひともあなたのお店でも導入してほしいと思うが、いずれにしろ、店長は少なくとも自店の商品については完璧な商品知識をもつことが要求されるのである。

他店の味を知り、サービスを知る

しかし、より強い店長をめざすのであれば、自店の商品知識だけでは足りない。もっともっといろいろな知識を身につけなければならない。たとえば、世の中には同じメニュー名でも数え切れない種類がある。

素材選びに始まって、調理上の工夫や手間、味付けの加減、隠し味、提供の仕方や演出など、正確にいえばお店によってすべて違う。メニュー名はハンバーグでも、その内容は千差万別である。もちろん、お店のレベルによって取るに足らない商品も多いだろうが、自店の商品と比べて遜色のない商品、もっとすぐれた商品も必ずある。

他店との違いを出してお客を自店に引きつけることを差別化というが、商品はその差別性がもっとも端的にお客に伝わるものだ。自店の個性をもっとも明快にアピールすることができるのが、商品である。

しかし、他店と自店との商品の違いがわからなければ、そのアピールに説得力がない。ただ「当店の料理はおいしい」とか、「他店に負けません」というだけで、どこがどう違うのか、という点が欠けていては、お客を本当に説得することはできない。客観性に欠けるからだ。お店の一方的な自慢話を鵜呑みにしてくれるような気のいいお客は、そういないと知るべきだ。

そもそも、味覚というのは主観的なものだ。その主観にいかに客観性をもたせられるかいここが飲食店の成功のための最大のポイントである。その客観性のある味覚に鍛えるためには、他店見学の回数を重ねるしかないわけだが、同時に、たんなる自分の感覚だけでなく、普遍的な知識としての蓄積もなければならない。

店長はプロ意識をとことん磨け

ところで、ふつう商品知識といえば、料理についての知識を指す。よく勉強している人にとっては、その料理が生まれた時代や気候風土といった料理のもつ文化的背景まで含めて、料理の知識である。非常に幅広く、奥行きも深いわけだが、商品知識とは、たんに料理の知識を意味するのではない。なぜなら、何度も述べてきたように飲食業とは、総合付加価値業だからである。

たとえば、料理と食器は不可分の関係にある。どんな食器に盛るかで、料理の付加価値は大きく変わる。調度品や絵画、置き物などは、雰囲気づくりの重要な要素=売り物となる。つまり、食器も絵画も商品の一部であり、それらについての知識もまた、料理と同様に商品知識なのである。これは、高級店になればなるほど、大事な知識となる。場合によっては教養といってもさしつかえない。

たとえば高級料亭では、仲居の基礎教養として華道や茶道を教えているところが少なくない。お店内の花はすべて仲居が活け、書画骨童の類についての教育もおこなっている。お客に質問されても恥をかかないようにするためだが、お店の格というのは、こういうところで決まっていくものだ。

高級料亭はちょっと特殊な例だが、商品知識にはこれだけの広がりがあるのだということを、ぜひ心にとめておいてほしい。かりに、あなたのお店に画軸が掛けてあり、そこに漢詩が書いてあったとしたら、その詩の作者や題名、読み方、大意などは、店長として絶対に知っていなければならない商品知識なのである。

では、こういう商品知識はどうすれば身につくのか。結局、あなたの自己啓発に待つしかない。その自己啓発を促し、努力を持続させるのは、あなたのプロ意識である。

経験で身につくこと、学習で身につくこと

店長は経験だけでは務まらない

従業員教育に教育。訓練・しつけの三つがあることは前述した。実は、店長のマネジメント訓練も一面ではない。マネジメント技術には、経験によって身につく技術と、そうでない技術とがあるからだ。

経験によって身につく技術とは、接客サービスの技術や部下をまとめて戦力化していく技術、顧客管理技術などである。これらの技術は、あなたの長いサービスマンとしての経験によって培われてきたものだ。自分ではそんな意識はなかったかもしれないが、何年にもわたってOJT (職場内訓練)を繰り返してきた成果として、いまのあなたの技術があるわけである。

経験はまた、人格をもつくっていく。お店の顔としてお客に接して恥ずかしくない貫禄は、ある程度の年月をかけなければ備わるものではない。

しかし、昔と違っていまの店長は、そういう経験だけでは務まらない。学習によってしか身につかない管理技術を要求されているからだ。その必須技術の代表的なものが、計数管理である。

計数管理の技術を自分のものにするには

飲食店の計数管理技術のうち、これだけはどうしても知っていなければならない技術に関しては、1章を設けて解説した(第3章)。

https://egg-recruit.com/book/category/book-b/book-b-3/

そこで取り上げた技術は、格別むずかしいものではない。計算式もすべて、加減乗降の算数である。慣れていない人には最初、ちょっととっつきにくいかもしれないが、公式を覚えてしまえば、計算自体は簡単なものばかりである。

ところが、実際にこれらの技術を使いこなして経営効率を高めていくことは、意外とむずかしい。一応は頭に入れたつもりでも、いざ実地となるととどまってしまう人が少なくない。身についていないのである。

たとえば、なぜ人時売上高や人時生産性を問題にしなければならないのか、なぜそれらのアップが必要なのか。そのことを本当に理解していないから、とまどってしまうのだ。なぜそれらの管理が重要なのかを、論理的に理解できてはじめて、技術は自分のものになる。仕事の日標を計数に置き替えることによって、現場の作業のどこをどう改善したらいいのかということを、数字でとらえることができるようになるのだ。店長が論理的であれば、部下も会社や店長の示す方針を理解しやすい。そのレベルまでいってはじめて、計数管理と呼ぶことができる。

得られた数字を評価して行動する

よく商売は理論どおりにはいかない、といわれる。そういい切る店長も少なくない。たしかに、理論どおりにコトが運ぶのなら、これほどラクなことはない。そうならないから、どこのお店でも店長は苦労しているわけである。飲食店の運営には、不確定の要素がたくさんある。

お客のニーズはどんどん変化していくし、従業員の人材もなかなかツブ揃いとはいかない。そこに「公式」を当てはめてみたところで、どんな意味があるというのか―― これが、大方の店長のホンネではないだろうか。

しかし、そう思うのは結局、それぞれの計数の意味を本当に理解していないからなのだ。たんに公式を暗記するだけなら、小学生でもできる。問題は、そこで出てきた数字をどう評価し、次の行動につなげるかなのである。ここで、経験で身につけたものが生きてくる。出てきた数字が、どこの改善点を指しているのかが判断できるのである。

理論どおりにはなかなかいかない

ものごとを論理的に考えるのと理想論を語るのとは、本質的に違う。理論どおりにいかないと決めつける人は、計数管理を一種の理想論と勘違いしている。

たとえば、基準値とか標準値というのがある。経営書を見ればたいてい、材料費率は何%、人時生産性は何円、という具合に、その数字が示されている。しかし、現実はなかなかそうはいかない。材料費率がかなリオーバーしていたり、人時売上高が標準値よりも低かったりする。しかし、これはある意味で当然のことなのだ。

たとえば、ステーキ専門店のように料理の加工度が低く、素材そのもののよし悪しが商品力を左右する業種の場合は、どうしても材料費率を高く設定せざるを得ない。その代わり、客単価は高いから、利益率は少々低くても利益額は確保できる。反対に、喫茶店のように客単価が低ければ人時売上高も低くなるが、材しかし、もしも利益が出なかったらどうするのか。

また、不確定要素の多い飲食店経営は、いま利益が出ていても、来年の保証はない。

自店を自己診断できる能力を身につける

利益が出なくなるということは、店舗運営のどこかに大きな問題点を抱いている証拠である。その問題点を探し出し、具体的な改善策を打つためには、運営状態の自己診断ができることが前提になる。また、一応利益は出ているのだが、本来ならもっと利益が増えてもおかしくない、という場合でも、自己診断ができなければ、利益のタレ流しを続けていくことになる。

これらの自己診断は、計数管理術なしには正確にすることはできない。計数管理は本来、予算達成のためのものだが、問題点の解明と改善にあっても、なくてはならない技術である。そして、この技術だけは、自分で勉強し、理解を深める努力を継続することによってしか、しっかりと身につけることはできないのだ。

ただ、ひとつ注意しておきたいのは、数字に縛られるようになってはいけない、ということだ。もちろん、最終的に利益を確保することが計数管理の目的だが、飲食店の運営は数字がすべてではない。お客とお店の関係は、人間対人間のコミュニケーションなのである。

いくら効率を高めるためといっても、商品やサービスの品質が悪くなるのでは本末転倒だ。飲食店のマネジメントは、物販店とは比較にならないキメ細かさが要求される。経営的判断によっては、数字よりもコミュニケーション要素を優先しなければならないこともある。しかし、結局は、そのほうが売上高は伸びる。お客の支持は、机上の計算だけではつかめないものなのだ。

全従業員を「経営」に参加させる

「自分の力を試したい」気持ちを尊重する

お店の運営効率を高めるためには、仕事の標準化が不可欠である。それはまた、QSCのスタンダードを守るための必須条件である。

しかし、ここで忘れてはならないことは、働く人たちは人間だということだ。これほどわかり切ったことはないはずなのだが、案外と盲点になりやすい。

お店はひとつの組織体であり、経営者←管理者(店長)←監督者(調理長、店長代行者)← 一般従業員というように階層が分かれているのがぶつうである。よく大企業のサラリーマンを機械の歯車にたとえるが、飲食店のような小さな組織でも事情は変わらない。

一般従業員は、社員、パート・アルバイトともに歯車のひとつとして動いている。基本的マニュアルの手順に従って決められた仕事をする、というのが彼らの役割である。

こういう組織づくりをするのは、それがもっとも費用と効率の論理に合致していると考えられているからだが、こういう組織であることがかえって、従業員の働く意欲を失わせることになりかねない。人間には本質的に、仕事においての自己実現の欲求があるからだ。

もちろん十人十色なのだから、与えられた仕事を決められたとおりにこなして給与をもらえれば、何も文句はないという人もなかにはいるだろう。しかし、私は心理学の学者ではないから断言はできないが、国ではそういっている人でも、内心、「もっと自分の力を試したい」とか「もっと自分の能力を発揮したい」と思っているものだ。

つまり、仕事の分業と標準化を推し進めていけばいくほど、働く人たちに一種の疎外感をもたらすことになる。それがヤル気を失わせてしまうのだ。そして、そういう部下を、「生意気だ」などとけなす店長も少なくないのだが、はっきりいってそういう態度は間違っている。人間であれば当然のことなのだ。

従業員に参加意識をもたせる

組織が機械的なのは仕方がないの問題は、その動かせない前提のなかで、いかに人間らしく彼らが働けるようにしてあげられるか、ということだ。

誤解のないように断わっておくが、飲食店の仕事が非人間的だなどといっているのでない。ただ、経営者や店長の考え方しだいで、もっと生き生きと働ける職場にすることができるということ、そこを真剣に考えてほしいのだ。

いちばん大事なことは、従業員一人ひとりに「自分もお店の運営に参加しているのだ」という意識をもたせることである。

誰でも自分がお店の一員だ、というくらいの意識はある。しかし、それだけでは積極的に組織に協力しようという意欲にまでは高まらない。自分の考え方や力がお店をよくしている、という充実感があってこそ、チームワークもよくなるし、仕事の効率も高まるのである。

従業員との信頼関係を築く3カ条

では、従業員に「参加」意識をもたせるにはどうすればいいのか。まず前提として、店長と従業員の間の強い信頼関係がなければならない。そのうえで、

①知らせるべき情報を的確に知らせること
②自由に提案できる雰囲気をつくる
③任せてよい仕事は部下に任せる

以上の3点が大事なポイントになる。

組織内コミュニケーションの項でも触れたが、店長はお店の最高責任者であり、命令者である。しかし、部下(従業員)が十分にその命令の意図を理解していなければ、笛吹けど踊らず、という結果を招く。また、会社の方針について店長が話すことで、部下の意欲が高まるばかりでなく、知識も増える。これも大事な点である。

たとえば、店長はいつも人時売上高を気にしているが、その人時売上高とはどういうことなのかを知るだけで、毎日の仕事の励みになるものなのだ。同じイベントを実施するにしても、その目的を細かく語ることで、部下は自分の行動目標をより明確に理解できるようになる。

提案が「参加」意識を増大させることは、いうまでもないだろう。ただ、国でいくら「提案しなさい」といっても、それが自由にできる雰囲気がなければ、部下は目を開かない。大事なことは、職場が権威主義に支配されていないことである。

そして、権限の移譲である。よく自分がやったほうが早いからと、何でも自分でやってしまう店長がいるが、店長のこういう行動が部下に疎外感を味わわせてしまうのだ。

もちろん仕事を任せられるように日ごろから訓練しておかなければならないわけだが、逆にいえば、権限を委譲することが訓練の目標になっているべきなのだ。部下は国には出さなくても、「もっと任せてほしい」と思っているのである。

最強のチーム編成をつくる

部下の能力は一人ひとり違う。当たり前である。しかし、組織内の仕事とは必ずしも個々の能力だけで決まるものではない。

部下のヤル気はもちろんのこと、店長と部下、そして部下同志の人間関係によって、仕事の成果は大きく違ってくる。

つまり、よく訓練された部下が強い協力関係にあり、かつ店長との信頼関係が確固としていれば、最強のチームを編成できるわけだ。そのチームの要となるのが、一人ひとりの「参加」意識である。

個々の能力が違えば、当然、部下一人ひとりの行動目標は違ってくる。しかし、売上予算達成という最終日標が全員同じであれば、役割分担がスムーズにおこなわれ、相乗効果が発揮される。

チームでは1人プラス1人、イコール2人とは限らない。2人にもなるし1.5人にもなる。そのカギを握っているのが、部下のお店の「経営」に対する「参意識なのである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。