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居抜き成功には店舗物件を重層的に診る目が不可欠

前節で説明した立地調査によって、候補物件の立地条件はひとまずつかめると思う。しかし、ここで注意しておきたいのは、店舗の立地条件は必ずしも平面の条件だけではない、ということである。

平面というのは、駅からの距離とか商店街のどこに位置するのかといった、通常の立地条件である。一軒家なら別だが、テナントビルに出店する場合は、これにタテの条件が加わる。つまり、 一階、三階、それ以上の上層階、そして地下という条件だ。

もちろん、不動産業者の提示する賃貸条件には、これらタテの条件も勘案されているわけだ。常識的には階数によつて家賃・保証金が違ってくる。ただし、ここで大事なのは単純に家賃・保証金が安いかどうかということではない。安いに越したことはないが、いくら安くても成功できなければ意味がない。

つまり、その階数が自分の考えている業種業態に適合しているのかどうか、そこを診断しなければならないのだ。あるいは、その階数ならどんな業種業態が成り立つかという発想で判断する必要がある。

また、別項で詳しく説明したが、居抜き物件の場合はカラ店舗と違って、譲渡される内装や設備機器類(厨房関係、空調関係など)が再利用できるのかどうかということも、入念にチェツクしなければならない。業種業態あるいはメニューの違いなどで使えないというのでは困る。

したがって、立地調査ではたんなる場所(平面として2立地)だけでなく、タテの立地条件も含めて、物件そのものと業種業態との相性を的確に判断する必要があるわけだ。

さらに、もうひとつ注意しておきたいのは、物件の使い勝手である。店舗面積が適正規模かどうかということはもちろんとして、店内の形状や間国の広さなども重要なポイントになる。

たとえば、正方形に近い店舗と細長い店舗、あるいは奥でカギ型に折れている店舗では、席の取り方が違ってくるばかりではない。厨房のレイアウトによっては、オープンキツチンにできないなどの支障が出てくることがある。オープンキツチンは席数を取りやすいため小さなお店で採用するケースが増えているが、効用はそれだけではない。臨場感のある調理による演出とかサービス動線の短縮化なども図れるのだ。

その他、看板やサンプルケースについての条件や、ガス・水道。電気の容量、そして食材の搬入やゴミ出しなどの条件についても、キメ細かく確認する必要がある。

ここで、タテの立地条件について説明しておこう。

同じビルのなかでも、 一階、三階、地下の物件の店舗適性はかなり違い、通常の評価では、 一階は一等地、三階と地下は二等地となる。なぜなら、親客のお店へのアプローチの条件がまったく異なるからである。これを「立地内立地」という。

まず一階の路面店舗の場合、アプローチの距離はゼロに等しい。そのため、フリ客でも抵抗なく入りやすいという特長がある。また、遠くからでも見える。目立ちやすいといったメリットもある。

この条件で比較すると、二階と地下は一階に比べて明らかに不利になる。三階の場合は階段を上がらなければいけないという抵抗感があるし、道路からは目立ちにくい。階段を降りる地下の場合は上がる

よりも楽だが、アプローチの距離感は出てしまうし、三階と同様にお店は目立ちにくい。ただし、階段については、角度や幅の違いで評価は変わってくる。また、エレベーターの有無も大きく影響する。

ところで、これらの評価はあくまで一般論でしかない。ここが大事なところである。たしかに、 一階路面の店舗は、ほとんどすべての業種業態にとって好立地である。しかし、飲食店は必ずしも一階路面でなければならないというわけではない。 一階が必須条件になるのは、ファーストフードショップなど日常的利用動機をターゲットにする業種業態の場合だけなのだ。

また、見方を変えると、三階には道路の喧躁から隔離されるというメリットがあるし、地下には隠れ家的な雰囲気を演出しやすいという特長がある。

店舗繁盛の鉱脈を掘り当てる立地調査方法

立地調査の目的は、その立地の条件が自分の考えるお店のコンセプトに合致しているかを判断することだ。

そして、居抜き店舗活用の場合は、二つの視点で考える必要がある。まず、前のお店の業種業態がその立地に適合していたのかという視点。もうひとつは、この立地ではどんな業種業態が成功しやすいのかという視点である。通常、居抜き店舗は、前のお店が経営に失敗して撤退した店舗だが、そこで確実に成功するためには、その失敗の原因を分析し、最適な業種業態を選択することである。

立地調査は二つの段階に分けて行うといい。まず、マクロの視点から立地の性格を大まかにつかむ。次に、その店舗物件に適合する業種業態を検討して、総合的に判断するわけである。

マクロの視点の調査ではまず、物件を中心にして商圏を設定する。商圏の範囲は前のお店の業態の範囲からスタートするが、その業態に無理があると判断したら、自分の考える業種業態で設定し直す必要がある。

ここで、参考までに、業態別の標準的な商圏人口と来店所要時間の目安を挙げておこう。なお、所要時間は徒歩だけでなく自転車やクルマも考慮に入れる必要がある。

上記はあくまで目安であって、この条件を満たさなければ成功できないということではない。とくに客単価の高い業態の場合、立地によつてはもっと少ない商圏人口と所要時間で成り立つケースが少なくないが、その辺の見極めは素人では無理である。

さて、商圏は物件から周辺に向かつて、1次商圏から3次商圏まで設定する。標準所要時間の半分のエリアを一次、ぎりぎりのエリアを2次とし、2次商圏の1.5倍程度の所要時間のエリアまでを3次商圏とするといい。

調査は、この商圏内をくまなく歩いてみることからスタートする。それも、いろいろな曜日、時間帯、天気と条件を変えて歩いてみる。そうすると、その街の様子や人の動きを大まかにつかめるようになる。

次に、地元の役所や商工会などに出向き、人口動向(人口構成、世帯数、年齢構造、男女比など)や消費水準、職業構成などを調べる。とくに事業所は一軒で多数の人数がいるから、注意して調べることだ。

また、立地条件は再開発や大型商業施設のオープンなどで大きく左右される。したがって、街の将来像を自然につかんでおくことも非常に大切な調査になる。商圏の内外にどんな飲食店が何軒営業しているのかも調査する。これがマクロの視点の調査である。

街の様子が大体つかめたら、次はミクロの視点の調査=物件自体の調査に移る。この調査は店前通行量調査が中心になるが、単純に一日の通行量を調べればいいというものではない。自店のターゲットがどれくらい存在するのか、そこを調べなければ意味がない。これは非常に重要なポイントだ。

店前通行量調査の時間帯は一時間ごとに区切り、予定している営業時間帯の前後一時間まで調べること。ただし、フアーストフードなど店前通行量が直接集客力を左右する業態以外の場合は、カウンターまで使用する必要はない。人数は概算でいいから、男女別、年齢別、職業別といった客層の特徴をできるだけ性格につかむことが大切だ。また、飲食店の売上は曜日で大きく左右されるから、平日、土曜日、日曜・祭日の三回は調査する必要がある。

もうひとつ重要な調査は、競合店調査である。店舗の立地条件として問題がなくても、有力な競合店が多数ひしめき合っているのでは大変だ。マクロの視点の調査で、ある程度どんなお店があるのかはつかんでいるはずだが、最後にもう一度、綿密な競合店調査をする必要が出てくる。競合店と目されるお店はすべて、お客様として利用してみるといい。実際に商品も食べてみることで、そのお店の実力だけでなく、お客様がどんなお店を求めているのかもつかむことができる

立地特性を見抜く(5) -ロードサイド-

クルマ社会の成熟がいわれて久しいが、この傾向はますます強くなっている。とくに都市近郊のエリアでは、郊外型の大規模なスーパーやショッピングセンターなどが次々にオープンして、マイカー利用の郊外型の行動パターンに拍車をかけている。そして、人が動けば飲食需要も生まれる。ロードサイドの飲食店立地としての可能性はどんどん大きくなっているといえるだろう。

ところで、ロードサイド立地というと、ファミリーレストランなどの大手チェーンの独壇場と思われているようだが、実はそんなことはない。最近はこの立地での個店の成功例が非常に増えている。いまお客様はお店選びの目が肥えている。最近、フアミリーレストランが頭打ちといわれるのは、お店の雰囲気から商品まで、何から何まで画一的なチェーンにお客様が飽きてしまったからである。もちろん、フアミリーレストランしかなければ利用する。しかし、ほかにもっと個性的で楽しいお店があれば、そっちに行きたいと思っている。だから、個店のよさを強烈にアピールするお店づくりができれば、

ただし、この立地を開拓しただけに、フアミリーレストランに学ぶことはある。たとえば、看板。どのファミリーレストランでも、かなり遠方から見分けのつく大きな見やすい看板を出しているが、これには大事な理由がある。

クルマはスピードを出して走ってくる。そして、ギャグではないが、クルマは急には止まれない。つまり、クルマ客にお店の存在に気づいてもらうには、看板の遠視性が非常に重要になるわけだ。チエーンは別に見栄で大きな看板を掲げているわけではない。

ただ、こういう看板はお金がかかる。この投資ができないのであれば、ロードサイド立地での出店はやめておくべきである。住宅地立地などの場合なら、路地奥の目立たない、隠れ家的なお店づくりというコンセプトも成り立つが、この立地ではそれはあり得ない。とにかく遠くからでも目立つこと。このアピールに全力を傾けなければ成功はない。

さて、この立地での最大のポイントはいうまでもない。お店の前のクルマの通行量である。近隣に住宅地が控えていれば、徒歩や自転車利用などの地元住人の来店も見込めるが、基本はあくまでクルマ利用客である。ある程度の通行量がなければ成り立たないというのが、この立地の最大の特徴なのだ。

したがって、店前通行量調査は念入りに行う必要がある。そして、この時に注意しなければならないのは、自店を利用できるクルマの通行量を調べるということだ。たとえば、幹線道路など中央分離帯のある道路だと、反対車線のクルマはお客様にならない。分離帯がなくても、通行量の激しい道路の場合、

反対方向のクルマはほとんどアテにできないことになる。また、十分な駐車場のスペースも確保しなければならない。

立地特性を見抜く(4) -住宅地-

かつては飲食店の成り立たない立地とされていた住宅地だが、最近は飲食店の出店事例がぐんと増え、成功例も増えている。むしろ、あえて住宅地に出店するケースも少なくないほどだ。マスコミなどでも話題店がどんどん紹介されている。

住宅地が飲食店の適合立地になった理由は、何といってもお客様が外食に慣れたことである。外食がたまのごちそうだった時代には、外食する場所はもっぱら繁華街とか駅前とか、とにかく人が集まるエリアだった。当時は住宅地に飲食店が少なかったということもあるが、人がたくさん来るということが安心感になっていたことが大きい。

しかし、いまのお客様は、そういうことにはこだわらない。お客様にとって大事なのは、おいしいお店、楽しいお店であることだ。どこにあるのかということは大した問題ではなくなっているのである。

しかも、自分の家の近所にあるのならこれほど便利なことはないし、お店にも覚えてもらいやすいから、「自分だけの行きつけのお店」をほしがるといういまの消費者のニーズにも合致している。もはや、だれもかれもが判で押したようにフアミリーレストランに行く時代ではない。個性のあるお店が求められているということは、小さな個店にとって願ってもない変化だが、住宅地は、その変化が掘り起こした立地ということもできる。

ところで、ひと口に住宅地といっても、古くからの住宅地と、新しいマンションやアパートが建ち並ぶ新興住宅地とに分かれるが、飲食店の立地として有望なのは後者、新興住宅地である。

なぜなら、住人の層が違えば、飲食店の利用動機も利用頻度も違うからだ。 一概にはいえないが、新興住宅地のほうが住人の年齢層が低い傾向が強いし、それだけに外食への依存度も高い。また、年齢が若いほど外食の楽しさをよく知っていて、より気軽に飲食店を利用する傾向も強い。そこが狙い目だ。

ところで、住宅地立地は、駅前商店街などの飲食店が競合店になると思われかちだが、意外とそうでもない。理由は簡単。先にも説明したように、地元の住人がターゲットだからである。通勤客なら、駅からの距離が問題になるが、住人にとってはむしろ自宅に近くなったりする。また、多少遠回りになったとしても、自分の地元という意識が強いため、わざわざ歩いて行くことに抵抗感がないのである。

もちろん、店前通行量は期待できない立地なのだから、「わざわざ客」を呼び込めるだけの魅力のあるお店でなければ繁盛はむずかしい。しかし逆にいえば、実力のあるお店なら、余計な競合を避けて安定した経営がしやすい立地ということになる。

しかも、この立地は商業立地ではないから、家賃・保証金は低く抑えられる。問題はテナント店舗があるかどうかということで、居抜き店舗の場合はさらに範囲が制約される。しかし、掘り出し物にぶつかる可能性は十分にある。

立地特性を見抜く(3) -オフイス街-

サラリーマン経験のある人ならわかることだが、オフイス街というのは、飲食店立地としては非常に特殊な立地特性を持っている。まず、その特徴を見てみよう。

当然のことながら、オフイス街はオフイスビルが中心の地域である。したがつて、エリア内にいるのは、そこの企業に勤めるサラリーマン、O」、または営業マンなど、エリア内と周辺の企業に関わる仕事をしている人たちにほぼ限定される。 一般の人たちがわざわざ出かけてくる地域ではない。ここがまず、繁華街や商店街との大きな違いである。

また、エリア内の企業活動によつて成り立っている街だから、ウイークデーは人がたくさんいるが、週末、休日は閑散としてしまう。時間帯で見ると、昼間人口は非常に多いが、夜間人口は極端に少なくなる。

同時に、人口の大半はオフイスで仕事をしている人たちだから、飲食店の利用動機の発生する時間底もほぼ限られる。そして、夜間人口の少なさからわかるように、地元の住人は非常に少ない。

これが、オフイス街の通常のパターンである。したがつて、繁華街や商店街と単純に比較すれば、飲食店立地として非常に不利な立地ということになるわけだ。しかし、 一見不利に見えるのは、実は繁華街、商店街でのビジネスを想定しているためなのだ。つまり、立地特性を無視して考えるからそういう結論になってしまう。オフィス街にはオフィス街のメリットがぁる。そのメリットを上手に取り込めばいいのである。

では、オフィス街の飲食店の立地特性は何かというと、まず、客層が固定されているということが挙げられる。しかもその客層は、朝から夕方までの時間帯は確実にエリア内にいてくれるのだ。したがって、一定の客数を見込みやすく、固定客づくりがしやすいというメリットが出てくる。

では、デメリットは何か。まず、何といっても大きいのは、営業日数が限定されてしまうことだ。ほかの立地なら年中無休も可能だが、オフィス街で商売になるのは週に五日間、多くても土曜日を入れた六日間である。ふつうは飲食店にとってもっとも稼ぎ時になるはずの日曜・祭日は商売にならない。

また、有効営業時間帯についてもかなりの制約を受ける。オフィスが一斉に昼休みとなるランチタイムはお客様が集中するが、ランチが終わった後の午後の時間帯は、集客しようにもなかなかむずかしい。

夜の時間帯も正直いって有利とはいえない。なぜなら、仕事の終わったサラリーマンやOLは、いつまでも会社の近くにいないものだからだ。同僚とのアフターファイブの一杯や、軽い食事をしながらのおしやべりを楽しむにしても、周辺の繁華街などに流れて行きやすい。

また、もうひとつのオフィス街の特徴として、家賃・保証金が意外と高いということも忘れてはいけない。地価が高いためだが、とくに新しいビル内のテナントとなると、けっこうな金額になることが少なくない。

したがって、この立地で成功するためには、いくつもの制約要素をメリットに変えてしまうコンセプ卜が不可欠になる。要するに、逆転の発想である。

たとえば、週に五日間しかないと思えば不利になるが、週に五日間で成り立つビジネスと考えたらどうか。サラリーマンと同じ週休二日を実現できるのだ。客層が決まつているということは、ターゲットを絞り込みやすいことでもある。固定客をつくりやすいから、売上が安定しやすいというメリットも大きい。

限られた営業日数と時間で成り立つためには、坪効率の高いコンセプトを組み立てる必要がある。たとえば、勝負の時間帯はランチタイムだが、これを最大限に生かすには、弁当のテイクアウトや出前を導入するという方法がある。稼げる時にどれだけ稼ぐか。この方針を徹底することが大切だ。

一方、夜の時間帯は当然、お酒を中心とした居酒屋的な要素を売らなければならないわけだが、繁華街などのお店との違いをアピールできるかどうかがポイントになる。業態としては、いつでも気軽に利用できる低価格帯でのお店づくりだ。お値打ちで落ち着くお店という評判を取れれば、個店の経営は十分に成り立つ。

オフィス街だからといつて飲食店がないわけではない。むしろ、競合店は多い。その事実が、立地と飲食店はやりようだということを端的に証明している。

立地特性を見抜く(2) -商店街-

商店街は飲食店に限らず、小さな個店にとって典型的な立地である。さまざまな商店があるが、ほとんどは昔からの生業店というケースが圧倒的に多い。最近は有名チェーン店も積極的に出店するように用するお店ばかりである。

商店街にもいろいろあるが、ここでは、小さな飲食店が出店しやすい、私鉄沿線などの駅前商店街について考えてみよう。

商店街は地域のニーズのある商店、飲食店が集まっているわけだから、メインストリートは人通りが多い。その意味では一見、繁華街に似ている立地ともいえる。

しかし、繁華街とこの立地が決定的に違うのは、商店街の通行人には土地カンがあるという点だ。なにしろ、地元の人たちの生活圏内なのである。しかも、繁華街と同様に客層は幅広い。いろいろな商店、飲食店が成り立つのもそのためであり、だからこそ無名の小さな個店が出店しやすいのである。

したがってこの立地では、お店の営業方針は地元密着が大原則である。地元密着は小さな個店の成功のポイントでもあるわけだが、とりわけこの立地では、地元客の評判を取って固定客化することが成功の最大のポイントになる。

次に、この立地に適した業態だが、繁華街のようなハレの場所ではないということに注意したい。商店街はあくまで、地元の人たちの生活の場である。日常生活の延長線上にある。そのため、お客様の消費単価はそれほど高くない。たまにちょっとぜいたくするとか、応接問代わりに利用するといった、気軽な利用動機が多いからだ。

したがって、この立地では高級業態は成立しにくい。ちょっとぜいたくするといっても、サイフが痛むほどの出費は期待できないのである。価格設定はあくまでポピュラープライスの範囲内に収めて、なおかつ非日常的な利用動機にも対応する。そういうお店づくりに徹することができれば、成功しやすい。

もちろん、日常的利用動機を狙うというやり方も十分通用する。要はコンセプトの立ち方次第なのだが、日常的利用動機狙いの場合は、有名チェーン店や大型店とバッティングしてしまうことがよくある。

また、いまは出店していなくても、そのうち進出してくるという可能性もある。そこは慎重に検討しなければいけない。

また、この立地の場合、土地カンのある地元客が相手なのだから、家賃・保証金の高い駅前とか商店街の中心部にこだわる必要はない。裏通りとか路地裏といった二等地でも、やり方次第で十分に成り立つ。

しかし、一般の商店街では、一等地といっても繁華街のように家賃・保証金がべらぼうに高いわけではない。それなら、無理のない範囲内であれば、多少高くてもできるだけ有利な立地を確保したほうがいい、という考え方もできる。

立地特性を見抜く(1) -繁華街-

いうまでもなく繁華街とは、人がたくさん集まる街である。朝から晩まで、とにかく人が多い。そして、人が集まれば、その人たちを目当てにしたさまざまな商業施設も集中する。飲食店もそのひとつで、どこの繁華街も飲食店を探すのに苦労することはない。名前の通ったチェーン店や大型店もほとんどが出揃っている。

繁華街を歩く人たちの目的はいろいろだ。デパートに買い物に来た人もいるし、映画を見に来た人もいる。なんとなくブラブラ散歩するとか、ウインドーシヨツピングを楽しむという人も少なくない。

目的が何にしろ、繁華街に来た人たちに共通するのは、まず「わざわざ出かけてきた」ということと、必ずといっていいほど外食するということだ。昼間ならランチやお茶を楽しみ、夕方からはデイナーとなるが、せつかくわざわざ出てきたのだからと、ふだんよりも予算が高い人が圧倒的である。つまり、非日常的利用動機も豊富に存在しているということだ。

繁華街のもうひとつの特徴として、土地カンのない人が多いということがある。なにしろ、この街に集まるのは、大半がわざわざ出かけて来た人たちだ。デパートとか映画館ならどこにあるか知っているが、たまにしか来ないのだから飲食店の利用経験は極端に少ない。そのため、飲食店のお客様の大半はフリ客ということになる。

フリ客とは、たまたま入ってくれるお客様のことである。ふつうの立地なら、フリ客を固定客につなげることが可能だ。ところが、この立地のフリ客は、ほとんどが再来店を期待できない。一過性のお客様で終わってしまう。それでも繁盛しているお店が多いのは、人の数が圧倒的に多いためである。

また、街の様子をよく知らないフリ客の行動パターンとして、名声に弱いということもある。名前の通ったお店なら安心という心理が働くのである。そのため、有名チェーンや大型店は有利だが、小規模の一般のお店は不利になるという傾向が強い。

しかも、フリ客は安心できる場所を選びたがる。だから、気軽に利用してもらえるのは、メインストリートに面した立地が圧倒的で、路地に入ってもせいぜい一、二本までである。繁華街といっても路地裏に入れば、家賃・保証金も少しは安くなるが、繁華街らしい人通りはとても望めない。

したがって、 一般の小さな個店にとって、繁華街はけっして有利な立地ではないわけだ。もちろん成功例もたくさんある。しかし、成功のハードルは非常に高いということを覚悟しなければならない。それでも確実性のあるコンセプトという自信がなければ、高い家賃・保証金を払ってまで出店する意味はないだろう。

あえて小さな個店の狙い目を探せば、デパートなどで働く人たちをターゲットにすることくらいである。

一等地と二等地の違いとは

飲食店の立地には、 一等地と二等地の区別がある。これは事実である。なぜ区別されるのかといえば、飲食店の経営は立地の優劣に左右されやすいからだ。当然、 一等地と二等地とでは、テナント物件の家賃・保証金が大きく違ってくる。

立地がよければ成功の確率が高い。それは間違いない。だから、資金力のある大手などは、競って一等地に進出している。しかし、忘れてはならないのは、 一等地だからといつて、 一〇〇パーセント成功できるというわけではないということだ。

実際、繁華街のメインストリートに面していながら繁盛できないお店は珍しくないし、反対に、商店街のはずれとか裏通りといった一見不利な立地でありながら大繁盛、というケースも多い。つまり、立地は飲食店の経営を左右する大きな要素ではあるが、決定するものではないということだ。

立地も大切だが、それ以上に大きいのは、お店に本当に魅力があるかどうかなのである。要はコンセプトの問題だ。魅力さえあれば、それがアピールできていれば、二等地でも立派に繁盛できる。 一等地でも伸びないのは、そもそもお店がお客様に選ばれるだけの魅力がないせいである。

また、立地によって、発生する利用動機や客層が違うということも見逃してはいけない。業種業態によっては成功しやすい立地もあれば、成功しにくい立地もある。立地特性の見極めが甘ければ、一等地に出店しても成功できないわけだ。

つまり、 一等地、二等地というのは、あくまで大ざっばな評価にすぎないのである。そして、すべての業種業態に適合する立地などはあり得ない。大事なのは、自店のコンセプトに合致するかどうかという一点である。だから、もしもコンセプトにぴったり合うのなら、家賃・保証金が多少高くなってもやむを得ないという考え方も成り立つ。

ただ、居抜き店舗を活用する場合、自分の考えているコンセプトと合致する立地を探すのは新店舗の場合に比べてむずかしい。やはり、新店舗のほうが立地の選択肢は幅広い。それは仕方がない。しかし、仕方がないと諦めることはない。それなら、その立地に合ったコンセプトを組み立てればいい。

一等地が有利といわれるのは、要するに人が多いという理由である。人がたくさんいれば、いろいろな利用動機が発生するし、客層も多様だ。ニーズ事態も豊富になる。その意味では断然有利といえるが、必ずしもそうではない。なぜなら、人が多ければ出店数も増え、それだけ競争が激しくなるからだ。

また、 一等地は家賃・保証金が高いが、そうなると損益分岐点売上高も高くなる。そのため、そこそこお客様が入ったとしても、経費に足を引っ張られてなかなか儲からないということになる。 一方、二等地の場合はその反対だ。家賃・保証金の負担が小さいだけに、小さな売上高でも利益を出しやすくなるのである。

商圏とは何か

飲食店で確実に成功するためには、お店の商圏というものをきちんと理解しておく必要がある。これがわかつていないと、どこのだれに対して自店をアピールすればいいのかという、営業の基本方針が立てられない。

商圏とは要するに、自店の影響力の及ぶ範囲、つまりお客様を呼び込むことができる範囲のことだ。お店に来店するお客様が住んでいたり勤めていたりする地域である。もちろん、通勤や通学の通り道ということもあるが、いずれにしろ、その範囲内の地域であれば、自店を知ってもらい、利用してもらえる可能性があるわけだ。

この範囲がどこまであるのか。これをつかまないことには、自店に対するニーズがどれくらいあるのかという、成功のもっとも重要なポイントも判断できないことになる。商圏も考えずに、ただ漠然と営業している多くのお店が繁盛できないのは、その意味では当然のことでもあるのだ。

次に、商圏の範囲といものを具体的に考えてみよう。 一般に、商圏は「半径何キロ内に何人」というように、お店からの距離とエリア内の人口で表されることが多い。しかし、実は距離をモノサシにするのには問題がある。なぜなら、価格を別にすれば、お客様がどの飲食店を利用するかを決める時の基準は、お店までの単純な距離ではなく、所要時間だからである。

たとえば、徒歩と自転車を比べてみよう。同じ所要時間でも進む距離は全然違う。バスや電車、マイカー利用になると、さらに開きが大きくなり、とても比較の対象にはならなくなる。しかし、お客様は必ず徒歩で来店するとは限らないし、通勤。通学途中のニーズを取り込むには、彼らの交通手段も考慮に入れなければならないわけだ。したがつて、より正確を期すには、商圏の範囲は自店からの時間と人口で測るべきなのである。

また、商圏の広さはお店の業態、つまり価格設定と密接に関係していることも知っておくべきである。お客様は、その時の利用動機=予算によつて利用するお店の業態を決める。そして、特別な意味合いの強い利用動機=非日常的利用動機の場合は、わざわざ歩いてでも、電車に乗ってでも「あのお店」を利用しようと思うものだ。反対に、毎日のランチなど日常的利用動機の場合は、とりあえず手近なお店で済ませてしまう。たまには気分を変えてということもあるだろうが、ふだんの行動範囲は狭いのがふつうである。

利用動機による違いはまた、お店の利用頻度の違いでもある。常識的に考えて、非日常的利用動機で利用する価格の高いお店は、お客様の利用頻度が低い。ふつうの消費者が、そうそう高いお店に通えるわけがないからだ。反対に、価格の低いお店になればなるほど、お客様の利用頻度は高くなる。ファーストフードがいい例である。

そのため、価格の高い業態になるほど商圏を広く設定しなければならないが、価格の低い業態なら狭い商圏でも十分に成り立つことになる。

さらに、商圏の範囲は商品の特性によっても変わる。たとえば、ステーキ店や焼肉店のようにヘビーな料理を出すお店は、当然のことにお客様の来店頻度が低くなるから、商圏は広く設定する必要がある。

フレンチやイタリアン、中国料理なども同様だ。しかし、ラーメン店などのように日常的利用動機を狙う商品のお店の場合は、毎日食べても飽きないから来店頻度が高い。だから、狭い商圏でも成り立つ。

このようなことから、 一般に、高級店は大商圏主義が、ポピュラープライス店の場合は小商圏主義が適しているといわれるわけだ。ただし、商圏内の同業態店はすべて競合店になる、ということに注意しなければいけない。競合店とは同業種内での競争相手だけではない。同業態、つまり客単価が同じ業態のお店は、業種にかかわらずすべて直接のライバルなのだ。

しかも、商圏は価格が低くなるほど狭くなり、同一エリア内での出店数は増える関係にある。利用動機が日常的であるほどお客様の利用頻度が高くなり、ニーズが豊富になるからだ。しかし、ニーズが豊富でも競争が激しければ、当然、成功の確率は低くなってしまう。多数の競合店による価格競争が起こるからである。

したがって、居抜き店舗を活用する場合でも、どの業態を選ぶかは商圏内の競合状況をよく勘案して決めなければいけない。そのエリアでもっとも手薄な業態を選べれば成功しやすくなる。

成功には立地を診る目が不可欠

飲食店の成功要因は「店舗力」が七割、「経営者力」が三割というのが私の持論である。
https://egg-recruit.com/book/2019/07/05/繁盛は店舗力70%と経営者力30%で決まる/
店舗力の第一の基本は、立地の選定と、その立地特性への適応力だ。いかに立地にマッチした業種業態のお店をつくるかが成功の別れ日になるわけで、確実に成功するには、立地を正しく診断する目が不可欠になる。

では、立地を診るとはどういうことなのか。これには二つの視点がある。

まず、自分の出店したいお店の業種業態が決まっている場合。この場合は、その業種業態のターゲットとなる客層が十分にいるかどうかということが、最大のポイントになる。立地調査ではよく店前通行量調査を行うが、大事なのは人通りの数ではない。どんな層の人たちが多いか少ないか、その内容なのだ。

ということは、どんな客層と利用動機が多いのかを正確につかむことで、その立地に適した業種業態を決めることもできる。これがもうひとつの視点である。

たとえば、何か飲食業をやりたいと思っていたところ、手頃な値段の居抜き物件が見つかったとする。さて、どんなお店をオープンするか。迷うところだが、ここで安易に業種業態を決めてしまってはいけない。立地の特性を見極め、その特性を生かせる業種業態のお店づくりをめざす。これが成功の鉄則なのである。

したがって、もしもどうしても自分のやりたい業種業態があるのなら、なんとしてもその業種業態に適合する立地を探し出さなければならない。実際、繁盛店のなかには、物件探しに1年も2年もかけたというケースが少なくないが、そういうお店は、中途半端な妥協をせずに適合立地を探し続けたからこそ、成功できたのである。

物件探しをしていると、不動産業者が「お薦めの物件」とアピールしてくることがよくある。しかし、その言葉を鵜呑みにしてはいけない。別に業者を信用するなといいたいのではない。なにしろ物件の専門家だ。業者の話は大いに参考になるだろう。しかし、不動産業者のいうことはあくまで一般論であって、特定の業種業態の立地としてどうかということに精通しているわけではないのだ。

だから、立地条件の診断では、土地勘をつかめるかどうかが非常に大事なポイントになる。不動産業者の話で判断するのではなく、オープンするお店の業種業態を前提にした自分の頭で診断しなければならないからだ。

立地調査の方法については別項で述べるが、土地勘をつかむには、とにかく足を使うことである。何度も何度もその場所に通い、物件の周辺をくまなく歩いてみる。それを繰り返しているうちに、自然と町の様子が見えてくるようになるものだ。

次に、町を観察するポイントを挙げておこう。
・どんな業種業態のお店が多いのか、逆に少ないのか
・それらのお店の競合の状況はどうか
・どんな人たち(客層)が多く歩いているのか
・時間帯や曜日によって客層はどう変化するのか

主要な客層から考えて、あってもよさそうな業種業態(実際にはない、または極端に少なじは何か。これらのポイントを頭に入れて町を歩いてみると、景色の見え方がそれまでとはまったく違ってくるはずだ。こんなところにお店があるとか、あっていいはずの場所にないとか、こんな業態のお店はこの場所ではむずかしいだろうと思うなど、飲食店立地として町を見る目が肥えてくるのである。

飲食店ビジネスは、店舗をつくつてオープンすればいいというものではない。確実にお客様を呼び込むことができてはじめて、オープンする意味がある。だから、なんといってもオープンする場所(立地)とその立地条件への適応力が重要になる。この二つをクリアしないでオープンするのは、はっきりいつてバクチ以外の何物でもない。

とくに、居抜き店舗はほとんどの場合、前の経営者が失敗した店舗である。それを活用して成功しようというのだから、立地を診る日はよリシビアで正確でなければならない。たしかに簡単なことではない。しかし、そこをクリアするからこそ、低投資での成功を実現できるのである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。