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飲食店経営では各月売上計画の立て方はこうする。

予定の売上高と利益を達成する

店長の責任は売上高と利益に集約される。ただし、その評価はたんなる売上高や利益の額だけでおこなわれるわけではない。いちばん大事なことは、予定したとおりの売上高と利益を達成したかということだ。会社は中長期計画に従って成長と事業拡大をめざしていくが、それを実現するのは短期(一年間)の資金繰りである。予定どおりの数字(予算)を確実に達成していくことは、企業としての社会的信用、業界内での地位の確保、そして銀行対策上欠かせない要素である。

したがって、店長はまず、会社のめざす方向やビジョン、そして中長期計画を理解し、そのなかで自分が果たすべき責任を数字によって理解する必要がある。

月間比を算出する

売上予算はふつう、年度の年間売上計画として会社から示される。そこで店長は、年度の予算を各月に割り振らなければならない。これが各月売上計画だ。

年間計画を各月計画に割り振るには、次年度の売上推移をできるだけ正確に把握する必要がある。いいかえれば、過去の売上げの趨勢に基づいて、将来の売上一局を予測するわけだ。そのために用いられるのが、月間比と呼ばれる数値である。

月間比とは、年間売上高を100%としたときの、各月の売上高の年間売上高に対する割合(年間売上構成比)のことで、次の式で算出する。
月間比=(各月売上高/年間売上高)×100

上記2表の(表2)は、(表1)の売上実績を基に算出した月間比の例である。表1には、過去三年間(三期分)の各月売上高の平均値も出ているが、この平均値を利用して算出する売上高趨勢予測の数値を、季節指数と呼ぶ。これも将来予測の基準のひとつで、毎月の月次売上高管理に便利である(本章3項を参照)。

月ごとに売上高を見ると同じ動きを示す

月間比の算出が必要な理由は、飲食業の売上高は各月ごとにほぼ同じ動きをするからである。

たとえば、忘年会シーズンの12月は必ず売上げが上がるが、2月と8月は毎年ばったりと落ち込むとか、春休みや夏休み、冬休みのある月は毎年好調な売上げを記録する、といった月別パターンが必ずある。もちろん、飲食需要は景気その他の影響を受けやすいため、年度によって売上高の大小の変化はつきものだが、各月の傾向はほとんど変わらない。したがって、次年度においても、各月売上高の年間売上高に対する構成比の傾向は維持されると考えてさしつかえない。

過去三年間のデータを使えば予測精度は高まる

とはいえ、表2を見ればわかるように、月間比には年度によって多少のブレはある。当然のことである。

そのブレはほとんどの場合、コンマ以下のパーセンテージにおさまるのだが、売上げ規模が大きくなると、その多少の違いも大きな金額となってあらわれる。したがって、前年度だけの月間比によって次年度の各月売上計画に割り振るよりも、過去何年間かのデータを総合して割り振るほうが、予測精度が高くなる。 一般には、過去三年間のデータを基に算出する。その場合の算出式は、次のようになる。
予測月間比=(過去3年間の各月売上高合計/過去3年間の年間売上高合計)

また、過去のデータのなかでも前年度の売上実績を重要視する場合は、各月売上高、年間売上高ともに前年度を3倍したうえで3年分を合計する。

各月売上計画の算出法

各月売上計画は、この予測月間比によって作成する。その例が表3で、計算式は、次のようになる。
各月売上予算=年間売上予算×予測月間比
表3の場合は、年間売上予算1億7,000万円、過去三年間の売上実績は表1として算出してある。
なお、月間比は小数点第二位以下は四捨五入するため、若千の誤差が出る(合計がぴたり100%にならない)が、振り分けやすい月の売上予算で調整する。

飲食店長は組織内コミュニケーションの重要性を知るべき

店長は経営者と部下とのパイプ役

良好な人間関係を保つのにコミュニケーションが大切なことはいうまでもないだろう。また、よい仕事がよい人間関係から生まれることも常識である。ところが、実際問題となると、コミュニケーションの軽視が起こりやすい。

たとえば、部下に対して適切な指示を与えない店長、部下の不満がたまっているのを知りながら、知らんぷりをしている店長。部下に悩みや問題行動の兆候が見られるのに、相談に乗ろうともしない店長。調理長との関係が疎遠で、ろくに話もしない店長。営業日報をきちんとつけない店長っこれらは、組織内のコミュニケーションを軽視ないしは無視している店長の例である。

ところで、勘違いしている人が多いようなのだが、店長として求められているコミュニケーションは、何もお店の中の人間関係についてだけではない。いま例として営業日報を挙げたが、経営者(会社組織が大きい場合は直属の上司)とのコミュニケーションと、経営者と部下とをつなぐためのパイプ役としてのコミュニケーションを円滑にすることもまた、店長に課せられた重要なマネジメントなのである。

では、組織内コミュニケーションはどうあるべきなのか。経営者(上司)との関係から考えてみよう。

報告の重要性と注意すべきポイント

経営者とのコミュニケーションは大きく二つに分けられる。ひとつは報告。もうひとつは経営政策の確認である。まず報告には、営業日報や月例報告のような定例報告と、必要に応じておこなう臨時報告とがある。

では、なぜ営業日報が必要なのだろうか。よく経営者が店長を管理する(というより縛りつける)ために書かされている、と内心不満に思っている店長を見かけるが、こういう店長は組織内コミュニケーションというものをまったく理解していない。

営業日報が必要なのは、第一に店長がお店の計数を管理するためだが、同時に、その数字を経営者の意思決定や経営方針の変更などの経営行動に生かすためなのだ。営業日報のフォームは会社によっていろいろあるだろうが、ふつうは売上高や客数、材料原価、人件費など、営業関係の数字はひととおリチェックできるようになっているの店長にはトップの代行者としての計数管理責任があるが、それはあくまで経営者から示されたひとつの方針内での責任であり、行動である。

しかし、経営は生きものであり、つねに外部環境の変化に柔軟に対応していかなければならない。方針はつねに変更される可能性がある。その意思決定のための材料(内部情報)を経営者に提供することは、まさに代行者としての店長の基本的なつとめなのである。

臨時報告でいちばん大切なことは、その目的性だ。つまり、本当に報告する必要があるかどうか、その判断が重要なのである。報告に当たっては、次の点に注意する。
①事実と推測、自分の意見を的確に区別する
②タイムリーであること
③わかりやすく整理して報告する

とくに①については十分に気をつけたい。この区別が曖昧だと、かえって経営者の判断を狂わせる元になってしまうからだ。内容を客観化させるには、数字で表現できることは数字にすることが大切だ。

経営政策の確認

次に、経営者の経営政策の確認である。これは、複数の店舗をもつ会社の場合は店長会議になる。

店長会議の形態は、同一業種業態のチェーン店組織の場合と、いくつかの業種業態を運営している会社の場合とで違ってくるが、ポイントは、経営者がいま、お店の経営について何をどう考えているか、ということの確認である。

店長は経営者の代行者なのだからあまりにも当然のことなのだが、意外と目先の数字(売上高予算と実績)にばかり気をとられてしまうことが多い。もちろん、売上高は大切であるが、売上高とは経営者の考えるスタンダードと杢晏一体のものでなければならないものだ。したがって、かりに売上高予算を達成していても、お店のQSCがスタンダードとズレていたら、会社としては大きな問題を抱えていることになる。

とくにメニューや価格などの政策を変更すると発表された場合は、それによってお店のQSCはどう変わるのか、どうあらねばならないのかについて、しっかりと理解できていなければならない。そうでなければ、自分は何をすべきなのか、そして部下に何をどう要求していいのかがわからないことになる。

命令者として心がけたい3カ条

部ドとのコミュニケーションは、命令者と部下の話の間き役の二つに大別できる。

命令者としての立場で大事なことは、部下に店長の意図を十分に理解してもらうためのコミュニケーションだということだ。そして、店長の意図とは、経営者の意図でなければならない。これが、店長は経営者と部下とのパイプ役ということの意味である。

もちろん、店長会議の内容を何から何まで部下に知らせる必要はない。秘密にすべきもの以外の情報提供ということだが、会社の方針や重要課題を知ることで、部下のヤル気は確実に高まる。行動目標が明確になり、チームとしての団結力も強くなる。

命令者としてのコミュニケーションで注意しなければならないのは、次の三点である。

①自分の言葉で話す=社長はこういっていた式の話し方や、社長の命令だからといった自分の責任を回避する話し方では、部下の信頼を得られない。

②どんなことでもわかりやすく説明する=こんなことはわかりきったことだから、という態度であってはならない。また、主任、社員、パート・アルバイトと、部下にはそれぞれの職位があるが、同様に、仕事についての知識や理解度もそれぞれ違う。それを無視して画一的に話しても、意図することを正確に伝達することはできない。

③部下の関心をそそるように話す=なぜそうしなければならないのか、それがどれくらい重要なことで、どんな成果が期待されているのか、成果が出れば、職場はどう変わるのか。部下1人ひとりの行動日標につながるような話し方の。工夫が大切である。

ミーテイングの機会は多くもとう

一般に店長がおろそかにしがちなのは、部下の話の聞き役としての立場である。毎日同じ職場で働いているのだからとか、忙しくてそんな暇はないとか理由をつけたがるものだが、部下とのコミュニケーション不足は間違いなく、お店の組織力も低下させていく。そもそもコミュニケーションとは、お互いに意思や感情を伝達し合うことで、一方的なものではあり得ない。

部下の話の聞き役として最悪なのは、うわべだけで聞いているフリをすることだ。人間は、相手がちゃんと聞いてくれているかどうかくらい、すぐにわかるものだ。一方的に命令ばかりして、部下の話には耳を傾けようとしない店長を、誰が信頼できる店長、素晴らしい監督と思うだろうか。部下は、自分の話を聞いてくれるからこそ、店長の話もよく間き、その意味を理解しようと努力するものなのである。

部下にとって店長は、お店で唯一の頼れる人、頼りたい人である。また、毎日仕事をしていれば、誰しも悩みや不安が出てくる。店長に話しかけるときとは、部下が自分のほうを向いてほしい、相談に乗ってほしいというサインを出しているときなのだ。

表面的な話題は他愛のないことでも、その言葉の裏に隠された本音があることも多い。そういう気持ちを汲み取ってあげる心の広さ、深い観察力がなければ、店長の資格はない。人間は、自分をわかってくれる人のために働きたい、という気持ちをもっている。これは、あなたと経営者との関係でも同じことのはずだ。

ただ、部下にいい顔をしたがる店長になってはいけない。職場でのコミュニケーションは、たんに人間関係を良好にするために必要なのではない。それによって行動目標を達成することが目的なのだ。このことをつねに部下に意識させるためには、日ごろからミーティングの機会をつくり、組織内コミュニケーションの大切さを教えていくことが大切である。

店長と調理長との役割分担をきちんと決める

数多く見受けられる調理長との確執

店長のマネジメントで思わぬ障害となるのが、調理長との関係である。

要するに、店長と調理長との間で、お店の中の実権争いが起きやすいのだ。その結果、ホールの従業員は店長派、調理場の従業員は調理長派といった二つの派閥が生まれる。こうなると、飲食店は危険である。派閥同士の争いが、お店の付加価値を低下させてしまうからだ。

たとえば、お客のオーダーを通してもなかなか料理が出てこない。ホールはお客の催促を受けて気が気でないが、調理場のほうは悠然たるもので、どんなにオーダーがたまっていてもマイペースを崩さないとか、ひどい場合はわざと雑な盛りつけをしたりする。

こういう例は別に珍しいことではない。何が問題かというと、サービス業としてもっとも大切な「お客の満足のため」という基本が崩れてしまうことだ。

飲食店の付加価値はQSCの三要素の総和で決まるものである。それなのに、ホールと調理場に確執があるのでは、お店のスタンダードどころではない。また、働く従業員としても、こんな環境では働き甲斐など生まれるはずもないから、お店の雰囲気は暗くなり、定着率も悪くなる。

組織運営の視点から役割をきちんと決める

店長と調理長との実権争いは、お店の料理のレベルが高くなるほど起きやすくなる。高度な調理技術が調理長の職人としての誇りだというのは、当然のことである。調理技術はそう簡単に習得できるものではない。

下積みの苦労を重ね、辛い修行を乗り越えてようやく身につく技術である。ところが、ややもするとその誇りが高じて傲慢さになってしまう。その理由は、料理を出せなければお店が成り立たないからである。

そのため、昔から「総上がり」といって、気に入らないことがあると調理長が部下全員を引き連れて突然辞めてしまうということがよくあった。辞めないまでも「総上がり」をチラつかせることで、いわゆる「厨房王国」をつくってきたというのが、この業界の歴史であり、その風潮は未だに根強く残っている。

もちろん、そういう状態を許している経営者にこそ問題があるのであり、また、昔ほどひどくはなくなっているとはいえ、店長としてはあらかじめ、しっかりと心しておかねばならない問題である。つまり、調理長との役割分担を組織運営の視点から考え、理解しておく必要がある。

店長は予算管理とお客に対して責任をもつ

お店の最高責任者は店長である。これは誰でもよく知っている。ところが、なぜ最高責任者なのかがわかっていない店長(調理長)がいる。だから「どちらが偉いのか」といった低次元の争いになってしまう。

ここでははっきりと断っておくが、店長がお店の最高責任者とされるのは、売上予算と利益の実現に責任をもつのが店長だからなのだ。これは会社という組織でいえばひとつの職制であり、偉いとか偉くないということとはまったく別の問題である。

つまり、お店の最高責任者であるということは、お客の満足に対して責任をもつということだ。売上高はお客の満足の結果である。すでに何度か繰り返してきた。ここでもう一度いおう。予算管理の責任とはお客に対する責任なのだ。

そしてその責任を具体的にいえば、お店のQSC(商品、サービス、雰囲気) レベル維持である。先に挙げた例のように、調理長との確執が原因で商品のレベルに問題が生じたとすれば、それは店長の責任なのだ。ここが重要なポイントである。

店長と調理長との間のイザコザなど、お客にとってはまったく関係のないことだ。お客にとって大事なことは、店長と調理長のどちらが正しいとか間違っているとかではなく、期待したとおりの料理を適正なレベルのサービス雰囲気の中で提供してもらうことだけだ。

それがお客の満足である。だから、責任は店長にあるのである。このことをしっかりと理解し、頭に叩き込んでほしい。これがわからないようでは、飲食業のプロとはいえない。つまり店長失格である。

店長にはそのほか、上司や会社に対しての報告責任、人事に関する責任、経理事務の責任、安全、衛生の保持についての責任、そして店舗資産の保全管理責任がある。

調理長の責任と店長の責任

一方、調理長の責任だが、その第一歩はいうまでもなく、料理の品質の実現と維持である。つねに、お店のスタンダードの味とボリューム、盛りつけを維持することだ。

ここで、料理に対する責任が店長と重復しているのではないが、それが確執の原因となることもあるのではないか、と思う人もいるかもしれないが、それは誤解である。わかりやすくいえば、調理長の責任は料理をつくる責任であり、店長の責任は料理長に間違いのない料理をつくらせ、それをお客に提供してもらう責任である。

調理長の第二の責任は、正確な材料費管理である。ロス・ムダをできるだけ排し、材料予算を実現することだ。

ところで、店長の責任は料理の提供といったが、お客のオーダーを受けてから提供するまでの提供時間という問題がある。ぶつうはオーダーを通してしまったら、あとは調理場の責任、と考えがちだが、実はそうではない。

一般に調理場では、ピーク時を迎える前に仕込み作業をおこなう。仕込みとは、調理行程のうちあらかじめまとめてやっておける部分を準備しておくことだが、なぜそんなことをするのかといえば、オーダーが入ってから提供するまでの時間をできるだけ短縮させるためだ。

しかし、仕込みというのはやみくもにやっておけばいいということではない。もし仕込みをした分で売れ残りが出れば、その食材は廃棄しなければならなくなってしまう。結果的に材料費率を押し上げてしまうことになる。材料費率の管理だけを考えれば、仕込みはしないほうがいいのだ。現にそれを実践しているお店もある。

しかし、ふつうはそうはいかない。仕込みをせずにバイ・オーダーで調理していたのでは、提供時間がかかりすぎてお客の不満(お店離れ)を招くし、また、一度にすべての調理工程をこなすためには人手も余計に必要になるから、人件費もロスも出てしまう。

では、正しい仕込みの仕方とはどういうことか。その日の時間帯別売上げ予測にもとづいて仕込みをすることである。そして、その売上げ予測をするのは、売上げ責任をもつ店長の責任である。

つまり、調理長が正確な分量の仕込みを部下に指示するためには、店長の正確な売上げ予測とそれにもとづくメニューごとの出数予測の指示が不可欠なのである。したがって、お店の職制上、最高責任者は店長ということになる。

役割分担をスムーズに進めるために

このように、店長と調理長には、それぞれに分担すべき責任がある。その責任の所在をはっきりさせておけば、人格的な問題でもない限り、互いの役割分担はうまくいくはずである。

ただし、勘違いしてはいけないのは、お店の最高責任者だからといって、必ずしも店長が調理長より「偉い」(役職)とは限らないという点だ。給与が上だとも限らないのあくまでも仕事上の役割なのである。

役割分担をスムーズに進めるには、店長と調理長との間の円滑なコミュニケーションが不可欠だが、それについては次の項で述べる。

今こそ従業員への「教育・訓練・しつけ」が大切な理由

店長の責任と教育・訓練・しつけ

よく、 一口に教育・訓練。しつけという。また、これらの言葉が混同されて使われることが多い。たしかに、これら二つには、きちんとした境界線を引くことはむずかしい。しかし、従業員の育成にあたっては、この三つを区別して考え、実践する必要がある。それぞれに目的性をもたせることで、育成される側の従業員が理解しやすくなるからである。

ところで、従業員の育成が大切なことはわかるが、それがなぜ店長の責任なのか。育成が重要な理由については、いうまでもないだろう。お店の売上責任をわきまえている店長なら、誰でも従業員の戦力としての強化に日を向ける。

では、なぜそれが、店長の責任なのだろうか。店長は現場の責任者だから。店長は従業員のもっとも身近な上司だから。個との従業員の性格やレベルをもっともよく知っているから――ふつうはこういう答えが返ってくる。どの答えも、それぞれ正しいが、それで十分とはいえない。肝心なことが二つ抜けているからだ。

それは次の二つの理由である。
①店長は部下の待遇を求める評価者だから
②売上予算にもとづく毎日の行動目標をつくるのは店長だから

これらは「現場の責任者」という答えと一見、同じように見える。事実、現場の責任者というだけで、ほかのすべての理由を呑み込んでいる店長もいる。しかし、私の経験では必ずしもそうではない店長が少なからずいるのである。

以上の「店長の責任」を頭に叩き込んだうえで、従業員の教育・訓練。しつけについて考えてみよう。

店長の責任でおこなうべき教育の内容

教育という言葉は定義がむずかしいが、お店という限定されたなかでは、飲食業という仕事についての基礎知識を与え、お店で働くことの意義を教えること、というふうに理解して間違いない。つまり、仕事の目標を明確にしてあげることで、ヤル気を引き出すことだ。明確な目標が見えて、そこでの自分の存在意義を理解できると、人間のヤル気はどんどん高まっていく。

もちろん、飲食業に従事する者として恥ずかしくないだけの教養を身につけさせることも、大事な従業員教育ではあるが、ここまでカバーできるかどうかは、経験者の経営思想にかかってくる問題だ。

店長の責任でおこなうべき教育とは、会社の経営理念(社会的使命に対する考え方や明日の会社像など)を教えることと、社会人としてお店の仕事に取り組む姿勢を教えることで、お客に対するサービス精神の教育は、どらちのテーマにとっても大事な柱になる。

飲食店に必要なのは訓練としつけで、教育など意味がない、という経営者もいるが、それは間違いだ。サービス業とは人間対人間の仕事、モノを通して心を売る仕事である。お客の満足感は、接客技術だけでは得られないということを、肝に銘じるべきである。

0JTを上手におこなうのも店長の能力次第

教育は従業員の精神面での育成であり、一種の人格形成活動である。したがって、実施したからといってすぐに、日に見える形で効果のあらわれるものではない。教育を軽視するのはそのためなのだが、それに対して訓練は、具体的な作業を身につけさせることであり、効果は段階的にはっきりとあらわれる。

訓練でもっとも大事なことは、決められた作業を100%できるようにすることだ。つまり、お店のスタンダードをマスターさせることであり、完全に身につくまで繰り返しやらせることが大切だ。訓練は、店長がもっとも時間を費やさなければならない部下の育成活動である。店長が見本を示しながらお店の現場でおこなう訓練のことをOJT (現場訓練)という。

OJTで注意するべきなのは、部下ひとりひとりの理解・習得レベルをよく観察すること。そして、訓練は教育と違って習得までの期間を決めなければならない。一定の期間内でいかに効率よく技術を身につけさせられるかは、店長の能力しだいなのである。

「しつけ」対策には信念と気迫でもって

接客サービスの仕事は奥が深いが、とりあえずパート・アルバイトにこなしてもらうレベルはそれほど高いものではない。パート・アルバイトの足りない部分は店長がカバーすればいいのであり、お店の基準どおりの動作・言葉遣いができれば、一応は合格である。

人間にはやはり向き、不向きがあって、まれにどうしても身につかないという人もいるが、ふつうは反復訓練によって一定のレベルには育成できるはずである。

「はずである」というのは、現実には、訓練の効果の見られないお店が少なくないからだ。その原因は、しつけ教育がしっかりとなされていないことにある。

たとえば、飲食業に携っている者として、お客に対して心を込めて「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」というのは常識である。お客もそう対

応されることが常識だと思っている。ところが、そういう「常識」のない人もけっこういるのである。そういう人に、たんに接客用語を教え、暗唱させたところで、いっこうに言葉に心がこもらない。また、日上の人(お客)に対する言葉遣いを知らないと、とんでもないところでボロを出してしまったりする。

人それぞれ、育ってきた環境が違うし、現在置かれている環境も千差万別である。礼儀についての常識もまた、人それぞれなのだ。とくに、いまの若い人たちは、礼儀に対しての認識が希薄な傾向がある。その原因が家庭にあるのかとか、学校教育にあるのか、といった議論はおいて、お店としては、必要な礼儀は身につけてもらわなければならない。つまり、お店の「常識」を教え込む必要があるということだ。この教育を「しつけ」という。身だしなみや勤務時間の厳守、チームワークなども、しつけによって揃えなければならない「常識」である。

しつけとは、簡単にいえば人をひとつの型にはめ込むことである。そのため、人によっては抵抗感をともなうものだ。したがって店長は、ここではこれが絶対に正しいのだ、という信念と気迫をもって従業員に対さなければならない。

飲食店長が押さえておくべき、人件費管理の基礎知識

人件費をどうコントロールするか

店長の管理可能経費のうち、最大の経費は人件費である。このコストをいかにうまくコントロールするかは、店長の腕の見せどころだ。客数に応じた人員態勢をつねに維持すると同時に、社員の総労働時間を抑えてパート・アルバイトの労働時間を高めることが、そのコントロールの基本になる。

本書では人件費を変動費として扱っているが、このコントロールが適切におこなわれないと、人件費は回定費になって、損益分岐点を押し上げてしまう。つまり、人件費管理のできない店長は、みずから利益の出にくい体質をつくっていることになるわけだ。

ここでは、店長の人件費管理に最低限必要な公式を挙げて、その意味を把握しておこう。

人件費管理は「換算人員」で考えることから

よく、 一日に何人の従業員を使っているかと聞かれて「昼が何人で夜が何人、でも、昼と夜通しの従業員もいるし……」とまごついてしまう店長がいる。これは、従業員数を単純に個別の頭数でしかとらえていない証拠である。だから、1日10時間働いた従業員も3時間の従業員も、同じく一人と数えている。

こういう大ぎっばな人の使い方をしていれば当然、ムダな人員が出る。人員配置はお店の繁閑に応じて決められていなければならないのだが、とてもそんなコントロールはできない。早番の従業員がアイドルタイムにブラブラして時間を過ごし、夜のピークタイム前に帰ってしまうというのは、このムダな人使いの典型である。そして、ひと昔前までは、大半の飲食店がこういうムダを平然とくりかえしていた。それでも経営が成り立ったのは、給料が安かったからである。

しかし、パート・アルバイトの時給水準を見れば一目瞭然なのだが、いまの飲食店経営ではドンブリ勘定は適用しない。人件費管理はまず、従業員数を換算人員で考えることからスタートしなければならない。

換算人員とは、1日1人の標準労働時間を決めて、その標準労働時間の従業員が何人働いたか、と考える考え方である。これは各社の就業規則にもよるが、ふつうは一日八時間、 1カ月25日労働とする。したがって、1カ月で見る場合は、8時間×25日=200時間をもって一人とみなすわけである。

労働生産性を上げる4つの方法

自店の従業員数が適正かどうかを判断するには、従業員一人当たりの労働成果を見ればいい。この成果を生産性というが、その基本的尺度とされているのが労働生産性である。労働生産性とは、従業員一人当たりの粗利益高のことで、次の式で求められる。
労働生産性=月間粗利益高/従業員数(換算人員)=売上高-材料費/従業員数(換算人員)

この場合の粗利益高とは月間の粗利益高のことだ。要するに、従業員一人が一カ月にいくら稼いだかをあらわしているわけで、その額は給与水準と利益水準を決定する。

一般には、適正な利益を確保するためには、人件費の2.5〜3倍の粗利益高が必要とされている。これが労働生産性の日標額である。人件費から考えれば、粗利益高の32〜40%が適正ということで、かりに平均月給が30万円とすると、月間粗利益高は75〜90万円ということになる。

労働生産性を挙げるには、次の四つの方法がある。

①売上高を大きくする
②粗利益率を高くする
③従業員数を減らす
④省力機器を導入する

このうち、②と④ (結果的に従業員数が減る)は、会社のトップが戦略的見地で決定することであり、店長が責任をもつのは①と③である。①は販売促進努力であり、③は客数に応じた適切な人員配置である。

「人時生産性」を知る

労働生産性は一人当たりの粗利益高はつかめるが、1カ月単位なので、経営者のマクロ的分析には適している反面、現場の店長にとっては使いにくい数字である。パート・アルバイトなどの変則勤務態勢が常態となっているからで、一時間当たりの管理を重視する場合は、別の尺度が必要になってくる。その尺度が人時生産性である。

人時生産性は一人一時間当たりの粗利益高を示すもので、人の効率をはかる経営指標として、もっとも一般的に使われている値である。算出式は次のとおり。
人時生産性=月間粗利益高/総労働時間数=売上高-材料費/総労働時間数

日標額は平均時給の2.5〜3倍の粗利益高(1人1時間当たり)である。

従業員の働きによる成果は売上高

ところで、労働生産性と人時生産性は、月間および1時間当たりで従業員一人が稼ぎ出す粗利益高を問題にしている。従業員一人当たりの労働成果を見るのなら、基本になるのは売上高ではないのか――。

もちろん、店長のマネジメントの第一歩は売上高の確保である。なぜなら売上高とは、お客が支払った料金の集積だからだ。お客は商品、サービス、雰囲気(Q、S、C)の三要素のトータルな付加価値を判断して、飲食店を利用する。つまり売上高とは、お店の付加価値を認めてくれたお客の数をあらわしている。

売上高が上がるということは、客数が増えていることである。したがって、従業員による付加価値創造のもっとも直接的な成果は売上高ということになる。

ところが、ここで大きな問題が生じる。粗利益高は業種業態によってかなりの違いがあるからだ。つまり、従業員1人当たりの売上高(これを販売生産性という)の多寡が、そのまま労働生産性の大小をあらわすことにはならないのである。一方、粗利益高とは、売上高から材料費を引いたものである。

つまり、売上高のうち、お店の努力によって創造した付加価値は、直接コストである材料費を引いた粗利益にほかならない。したがって、粗利益高の高低はあらゆる業種業態の共通の、人の効率をはかる尺度となり得るのである。

「人時売上高」と「人時接客数」を把握せよ

しかし、現場の店長が最優先しなければならないテーマは売上高であり、粗利益高を決める材料費率は会社の戦略の問題である。したがって、店長にとってもっとも管理しやすい目標となる数字は、やはり売上高なのだ。

そこで、店長の現場管理の目標値をして用いられているのが、1人1時間当りの売上高を示す人時売上高である。人時売上高は次の式によって求められる。
人時売上高=月間売上高/総労働時間数

この数値は当然、高ければ高いほどいいわけだが、これまた当然、客単価の高い業態のほうが高くなることに注意しておいてほしい。また、一時間当たりの給与が正社員よりも低いパート・アルバイトが多いお店では、同業態の社員中心のお店よりも、目標額は低く設定してもいいことになる。一般に、日標額とされているのは、4,000〜5,000円である。

したがって、人件費の支払能力の裏付けとなる粗利益高の確保=労働生産性と人の効率を管理するためには、人時売上高とともに人時接客数と併せてチェックしていく必要がある。

人時接客数とは、従業員一人一時間当たりの来客数のことで、人時接客数とか接客生産性、労働指数などを呼ぶ人もいる。算式は次のとおり。

人時接客数×客単価=人時売上高

となる。つまり、人時来客数とは従業員1人1時間当たりの効率と労働生産性を示す数値である。なお、人時生産性は次の式で導き出される。
人時売上高=粗利益率=人時生産性

人件費の適正値とは

お店の損益から見れば、人件費は少なければ少ないほどいいわけだが、必要以上に人件費を削ってしまうと、お店のスタンダードが保てなくなる。人数が少すぎれば商品、サービスの質は低下するし、クレンリネスも維持できなくなる。給与が低すぎれば従業員の働く意欲が低下するから、やはり同じ結果を招く。そこに、人件費の「コントロール」の意味がある。

では、人件費はどれくらい適正なのか。別項で、売上高対人件費は25%が標準値だといった。算出式は次のとおりである。
売上高人件費=(人件費/月間売上高)×100

しかし、材料費と同様に人件費も、業態によって適正値がかなり違ってくる。これについては別項(第3章4項)で詳しく述べるが、単純に対売上高25%とはいかない。

人件費の適正値を求める指標は、労働分配率と呼ばれ、次の式で示される。

労働配分率=(人件費/月間粗利益高)×100

つまり労働分配率とは、粗利益高のなかに占める人件費の割合をパーセンテージで示したものである。なぜ、売上高でなく粗利益高が分母なのかというと、人件費や諸経費、つまり材料費を除くすべての費用は粗利益から支払われるからだ。
月間粗利益高=月間売上高-材料費
利益=粗利益高-(人件費+諸経費)

なぜ、人件費だけを労働分配率として特別に扱うのかというと、人件費の管理がお店の収益性にとっても大きな影響を及ぼすからである。

さて、労働分配率の適正値は、一般的に40%が限度とされている。かつては32%が理想とされていたが、世間並みの給与を支払うには事実上、不可能な数字になっている。現在の給与水準での目標値は32〜38%程度である。労働分配率が40%を超えなければ、お店のスタンダードを維持しながら適正な利益を確保でき、50%を超えるようだと危険である。

飲食店経営の損益分岐点と必要売上高をしっかり知る

利益計画の第一歩として損益分岐点を知れ

飲食店の経営にはさまざまな費用がかかるが、その費用を分解すると、固定費と変動費に分けられる。固定費とは売上高の高低とは無関係に毎月出費される経費で、地代、家賃、支払金利、減価償却費などの初期条件である。一方、変動費とは売上高に応じて変化していく費用のことで、材料費、人件費、諸経費である。

この費用の性質を頭に入れて、損益分岐点について考えてみよう。損益分岐点売上高とは、売上高と経費の総額が同じである状態をいう(俗にいう収支トントンの状態)。つまり、売上高が損益分岐点を超えてはじめて、お店の利益が出るわけだから、店長としては絶対に把握しておかなければならない数字である。

上記は損益計算書のモデルである。わかりやすいように、各費用の対売上高比率は一般的指標として、客単価は1,000円に設定してある。問題は、この損益計算書からどのようにすれば損益分岐点売上高を算出することができるか、ということだ。

次に以下は売上高と費用と損益分岐点の関係を示したものである。 

a),b) 両グラフとも同じ内容をあらわしており、損益分岐点はP点である。また、どちらのグラフも売上高線は原点から伸びる対角線だが、固定費と変動費のあらわし方が違っている。

a)では、まず変動費線が売上高に比例して伸びており(理論上は、売上高がゼロの場合、変動費もゼロになる)、その上に平行して固定費線がある。固定費は売上高の高低にかかわりなく一定なのだから当然である。そして、総費用は固定費と変動費を足したものだから、固定費線は売上高線と交わる点(P点)が損益分岐点売上高となる。

b)では、固定費は売上げがゼロでも一定額かかることから、まず固定費線を引き、その上に変動費線をのせている。したがって変動費線以下が総費用となり、変動費線と売上高線とが交わる点(P点)が損益分岐点売上高となる。

どちらのグラフもP点の位置は同じであり、タテの点線は売上高1000万円のときの損益をあらわしている。このモデルケースの場合は、結果として1000万円の売上高があり、60万円の利益が出ているわけだが、経営においてもっとも大事なことは、どの時点(損益分岐点)から利益が出るのかを、あらかじめ知っておくことである。

たまたま利益が出た(売上高-原価=利益)ではなく、いかにして利益を確保し増大させるか(利益=売上高-原価)が大事なのだが、損益分岐点を知ることは、利益計画の第一歩なのである。

「限界利益」とは

ここでもう一度、損益計算書に戻ろう。この損益の総費用のうち、変動費率は材料費プラス人件費プラス諸経費で74%である。

さて、客単価は2,000円だから、お客が一人来店すると、売上高は1,000円。そのコストとしての変動費は1,000円×74%=740円で、お客が2人になれば2,000円×74%= 1,400円となる。つまり、お客が一人増えるごとに、1,000円-740円=260円が利益として手元に残る計算になる。客数が2人なら520円が残る。こうして残った価値を会計用語では「限界利益」と呼ぶ。

上記は、この限界利益が客数の増加と比例して増加する関係をあらわしたものである。

限界利益=売上高-変動費
限界利益率=1-変動費率

ところで、損益分岐点売上高とは、売上高と総費用が同じになる売上高である。つまり、損益分岐点売上高とは、固定費と限界利益とが同額になるときの売上高、ということになる。そして、固定費は売上高に関係なく一定なのだから、売上高が損益分岐点を超えると、限界利益から固定費を引いた分が利益となるわけである。損益分岐点売上高は次の式で算出される。

損益分岐点売上高=固定費 / ( 1-[変動費/売上高] )=固定費/限界利益率

以上の算式を、モデルケースの損益計算書に当てはめてみよう。
限界利益=10,000千円-7,400千円=2,600千円
限界利益率=1-0.74=0.26
損益分岐点売上高=2,000千円/0.26=7692.34千円

つまり、このケースでは、売上高が769,3200円を超えたときから、お客一人当たり260円の利益が出て、逆に、損益分岐点に満たないときは、お客1人当たり260円の赤字となるわけである。

損益分岐点客数を知る

では、損益分岐点売上高をクリアするにはどれだけの客数が必要なのか。売上高=客数×客単価なのだから、店長としてはこの客数が、もっとも関心のある数字のはずである。

もちろん、売上高と客単価がわかっていれば、客数は簡単な割り算で求められる。しかし、損益分岐点売上高に引きつけて考えるには、別の方法が適している。

以下は限界利益グラフのa)のタテ軸を売上高に、横軸を客数に取り直したグラフだが、こうすれば、損益分岐点売上高と同時に、損益分岐点客数も示すことができるのである。

計算式は次のようになる。

損益分岐点客数=(固定費/顧客1人あたりの限界利益)=2,000千円/260円=7692.3人

なぜなら、損益分岐点売上高における限界利益は回定費と同額だからである。この客数に客単価をかければ、損益分岐点売上高が算出できる。

店長としてゼツタイ頭に入れるべき数式

損益分岐点売上高を求める必要があるのは、この売上高が最低目標値だからである。これ以下になったら赤字なのだから、それは絶対に許されない。本来の目標はあくまで利益を上げることである。

ここで、ちょっと視点を変えてみよう。損益分岐点売上高とは収支トントンの売上高である。ということは、日標利益がゼロ(赤字ではない)の場合の売上高である。

一方、限界利益とは、売上高のうち固定費をまかなわなければならない部分のことである。損益分岐点売上高では、固定費と限界利益が同額になるが、それを超えれば利益が出てくる。それなら、日標利益も固定費と同じと考え、限界利益でまかなわなければならない金額と考えればいい。つまり、日標利益を確保できる売上高(必要売上高、また採算売上高という)を、損益分岐点売上高と考えるわけだ。これを計算式であらわせば、次のようになる。
必要売上高=(固定費+目標利益/限界利益)

限界利益グラフ a)の固定費線の上に目標利益分の平均線を引けば、どの売上げ時点で目標利益を達成できるかがひと目でわかる。

つまり、損益分岐点図はまた、利益計画図でもあるわけだ。これを活用すれば、必要売上高ばかりでなく、ある売上げ時点での総費用および利益(あるいは損失)の状態を簡単につかむことができる。

店長のキメ細かな計数管理こそ店に利益をもたらす

お客に満足される商品、サービス、雰囲気を提供することが前提だが、その前提の許容内であれば、損益分岐点は低ければ低いほど利益が出やすくなる。逆に、損益分岐点が高いと、売っても売っても利益が出ないということになってしまう。また、同じ売上高とすれば、損益分岐点が低いほうが経営効率がいい=楽な経営ができる。

自店の損益分岐点のあり方を判断する指標としては、損益分岐点売上高比率と経営安全率とがある。計算式は次のとおり。

損益分岐点売上高比率=(損益分岐点売上高/売上高)×100
経営安全率(1-[損益分岐点売上高/売上高])×100

損益分岐点売上高比率の日標値は七五%以下。もしも売上高が現状の75%にまで落ち込んでも赤字にはならない、という意味であり、最大でも80%といわれている。一方、経営安全率は大きいほどいいが、日標値は20%である。

損益分岐点を下げるには、①固定費を下げる②変動費を下げるの2つの方法がある。しかし、①固定費については、現場の店長の努力では、どうにも動かしようがない。

初期条件にしても、社員の給与にしても、これを下げるのは店長ではなく経営者の仕事である。

店長の仕事(一部は料理長の仕事)は、②変動費をできるだけ抑えることである。変動費は、店長の管理努力によって増減することから管理可能経費と呼ばれている。キメの細かい計数管理をすることによって、大きな利益を生み出すのである。

飲食店の損益計算書と経営効率表の見方・読み方

材料費と人件費率の合計は60%以内に

飲食店を運営するうえでの計数管理の重要ポイントは、
①損益計算書 ②経営効率表の二つである。

損益計算書とは、 一定期間(一営業期間)における企業(お店)の営業成績を明確にするため、すべての費用と収益を対照して一覧表にしたものである。したがって、損益計算書を見れば、どれだけ儲かったか、あるいは儲からなかったかがひと目でわかる。

と同時に、すべての費用を計上してあるわけだから、売上高と比べた各費用の割合を知ることができる。銀行から借り入れをするとき、必ず損益計算書の提出を求められるのは、これを見ればそのお店の収益性と健全な経営がなされているかがわかるからである。

上記は飲食店の損益計算書の一例である。管理会計の勘定科目によって作成されているから、分類は細かくなっているが、よく見ると、大きな枠でいくつかにくくられていることがわかる。

一月の欄にパーセンテージだけ記入してある項目がそれで、売上高、材料費、粗利益高、人件費、諸経費、初期条件、経常利益と、七つの項目で大別されている。

実際の費用はもっと細々としているが、この七大項目の中で調整すれば問題はないということだ。表中に記入してある数字(%)は、一般に7大項目それぞれの適正値=指標とされている数値である。

粗利益高は売上高から材料費を引いた残りで、売上総利益高ともいう。材料費以外の経費の支払い能力と利益高は、この粗利益高がどれくらいかで決まるわけだが、とくに重要なのは人件費の支払い能力である。

一般に人件費は、粗利益高の40%が限度とされている。と同時に、材料費とのバランスも重要だ。つまり、材料費率と人件費率の合計で六〇%以内に抑えられないと、利益を確保するのがむずかしくなってくる。

ギリギリでも62%が限度である。なお、粗利益率はここで65%としたが、業種業態によって変わる。また、諸経費も業種業態によって幅があるが、 12〜14%前後が適正値である。初期条件は20%以内。

これを超えるようだと、多少売上高が増えても利益が出ないということになる。20%ということは、売上一局はその五倍である。したがって、売上目標額は初期条件の五倍以上でなければならないことになる。

マネジメントの基本は原価管理だが、コストコントロールの出発点は、まず適正な経費率を設定することである。

損益計算書はお店の収益性と問題点を教えてくれるが、もし実績と指標との差異があった場合は、その原因を徹底的に究明し、改善していかなければならない。店長の計数管理は、この改善を日的としているのである。

経営効率表によってチェックする

売上予算の管理とは、日標利益の確保を目的として、売上高、材料費、人件費などの予算を実現することである。店長は、各月ごとに実績と予算を対照し、損益計算書によって各経費の対売上高比率などをチェックし、最終的に予算を実現しなければならない。

損益計算書で儲かっていないということは、お店の運営方法は何らかの問題があるからであるのしかし、その本当の原因と改善すべき点については、損益計算書では具体的につかむことができない。その検討材料として作成するのが、以下の経営効率表である。

もちろん、利益が出ている場合にも、この帳票は必要だ。どうすれば、もっと儲かるのか、そのポイントも教えてくれるからである。

次に、経営効率表の各項目の数値の算出方法を説明しておこう。

実績=物販売上高、サービス料金(消費税は除く)
・売上予算対比=売上実績+売上予算×100
・売上前年対比=売上実績+前年売上実績×100
・粗利益率=粗利益高+売上実績×100
・経費予算対比=経費実績十経費予算×100
・経常利益予算対比
=経常利益実績+経常利益予算×100
・営業日数一1 力月の営業日数
・客数=1カ月の全客数
・面積=店舗坪数
・坪当たり売上高=売上実績+面積
・客単価=売上実績/客数

総合客単価のほかに、ランチタイム、ディナータイムの時間帯別客単価も算出する。したがって、時間帯別売上高と客数を計算しておく必要がある。

・客席回転=客数/(営業日数×客席数)

これもランチタイム、ディナータイムについても算出する

・料理比率=料理売上高/売上実績×100
・酒類比率=酒類売上高/売上実績×100

※昼の喫茶利用の多いお店、また、追加注文等で喫茶メニューの販売が見込めるお店の場合は、このほかに[喫茶比率-喫茶売上高+売上実績×100]を算出する。

・客数伸率=客数/前年度同月客数×100
・売上高伸率=売上実績/前年度同月売上実績×100
・客単価伸率=客単価/前年度同月客単価×100
・1 日平均売上高=売上実績/営業日数
・1 日1 席売上高=売上高/営業日数/席数=1 日平均売上高/席数
・換算人員=総労働時間数/200
(1日8時間労働25日間-200時間を従業員の標準と考える)
・平均人件費=人件費/換算人員
・労働生産性=粗利益高/換算人員
・労働分配率=人件費/粗利益高×100
・従業員1 人当たり売上高=売上実績/換算人員
・人時売上高=売上実績/総労働時間数

店長マネジメントの基本は原価意識から

利益に関する2つの式

店長の最終責任は利益目標の達成だが、この利益についての考え方は、次の二つの式であらわすことができる。
(1)売上高-経費=利益
(2)利益=売上高-経費
一見、何の連いもないように思えるかもしれない。
単純な等式の右辺と左辺を入れ替えただけである。しかし、経営としての考え方として見ると、この二つには根本的違いがあるのだ。

うに思えるかもしれない。
単純な等式の右辺と左辺を入れ替えただけである。しかし、経営としての考え方として見ると、この二つには根本的違いがあるのだ。

①の考え方をひとことでいえば、利益とは「売上げから材料費、人件費その他を差し引いた残り」ということになるっいわゆる「結果オーライ」で、典型的な水商売感覚である。

一方、②には、H標利益を確保するためでは売上高はいくら必要で、経費はいくら抑えなければならないか、という見通しがある。この見通しを計数的な視点でもつことが、経営の基本である。

経営は支出と収人の繰り返しである。そこで確実に利益を出していくためには、売上高を大きくする努力と、原価を適正な範囲に収めるようにするための管理が不可欠である。

ここで、あなたが今度、新規開店するお店の店長になると仮定して、お店の原価について考えてみよう。

お店を開店するためには、店舗物件の保証金と内装工事費、諸設備等の費用がかかる。そして、営業を開始すると、材料費、人件費、水道光熱費、家賃などの費用のほか、開業費用として調達した借入金の元金の返済分も支払わなければならない。利益はこれらの支出を超える金額の売上げがあってはじめて、確保できるのである。いいかえれば、原価意識を徹底させることが先決なのだ。

固定費にはどんな費用があるか

飲食業にはさまざまな原価がかかるが、それらの原価は、
①固定費
②変動費
の二つの費用に分けられる。

固定費とは読んで字のごとく、売上げの多少増減にかかわりなく固定的に必要な一定の費用であり、かりに売上げがゼロだとしても営業している限り支払わねばならない費用である。

代表的な固定費は社員人件費のうちの本給、家族手当等の部分と、地代・家賃といった賃借料だ。社員の本給は就業規則に定められている範囲内での休日であれば、その日数に関係なく一定額を支払わなければならない。家賃についても、営業日数・時間にかかわりなく発生する。したがって、売上げが伸び悩んでいるときの家賃は、かなりの経費負担になる。

減価償却費とは、店舗の内装設備に要した費用を法定の耐用年数に基づいて、毎年、損金として落としていくための費用である。

内装や設備機器は、何年にもわたっての使用が可能な固定資産である。それを使って何年にもわたって儲けを得られる。そうすると、内装工事や機器の購入をした年に一度に損金処理するのは不合理なので、稼働期間(耐用年数)に核分して処理するわけだ。したがって、帳簿上では経費として処理されているが、ほかの経費のようにお金が支出されるわけではない。すでに固定資産の取得時にお金は支出されているからである。そのため企業に内部留保されるお金ということになる。実際には借入金の元金返済に当てられるのがふつうだ。

なちみに、この減価償却費に税引後利益を加えた金額をキャッシュ・フローと呼ぶ。毎月返済しなければならない借入金がキャッシュ・フロー以内に収まらな

また、支払金利も毎月必ず返済しなければならない固定費だ。これら地代、家賃、減価償却費、支払金利の三つの固定費を合わせて初期条件と呼ぶ。開店の最初から決まっていて、動かすことのできない条件という意味である。ただ、厳密に考えるなら、厨一房設備なので、初期条件のひとつとしてとらえる必要もある。

その他の固定費には、諸税(固定資産税、自動車税)、火災保険料、法定福利費、各種基本料金(電気、ガス、水道、電話)などがある。

人件費の変動費化を高めよ

一方、変動費とは、固定費とは逆に売上げの増減にともなって支出される費用のことをいう。代表的な経費は材料費(飲食費、外注費も含む)で、そのほかに、社員人件費の一部とパート・アルバイト人件費、諸経費がある。

ここで注目してほしいのは、人件費の分解である。従来、人件費は固定費として考えられてきたが、それでは適正なコストコントロールができないことから、最近は固定費と変動費の両方の性格を併せもつ準変動費として扱われるようになっている。

たとえば、社員三〜四人のみで運営しているような小規模店なら、人件費はほとんど固定費ととらえてさしつかえない。しかし、従業員の総労働時間に占めるパート・アルバイトの労働時間比率が高くなればなるほど、人件費は準固定費の性格が強くなっていく。

そして大事なことは、変動費はコントロールが可能だということだ。このコントロールについては後で詳しく述べるが、店長として心しておかなければならないのは、固定費とされてきた人件費をいかに変動費化するかということである。

ところで、ひと国に人件費といっても、いろいろな費目がある。ふつう人件費と聞いて思い浮かぶのは、すでに挙げた社員の本給・手当にパート・アルバイトの給与くらいだろうが、そのほかに、賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費、教育費、そして求人費も人件費に含まれる。

賞与とはボーナスを支給するための引当金だから、毎月、年間賞与を予定金額の十三分の一ずつ積み立てておかなくてはならない。退職金は賞与と違ってそれを支払った時点で会計に計上するが、会計勘定科日では法定福利費に計上するのが一般的だ。

社会保険料や厚生年金、雇用保険、労災保険などの会社負担金も、この法定福利費に計上する。福利厚生費には、従業員の慰安・レジャーなどの一般的な費用のほか、賄費(食費)、寮費、社宅費などの住居費、そしてお店に通勤するための従業員の交通費が含まれる。

教育費は図書購入費や研修費などの従業員教育にかかわる費用、求人費は従業員募集のためにかかる費用で、紹介者への謝礼もこれに合まれる。

人を一人雇うということが、いかに出費を要することかよくわかると思う。とくに社員の場合は、時間給に換算するとパート・アルバイトの2〜二・五倍になってしまうのが常識だ。この意味でも、人件費の変動費化=パート・アルバイト比率を高めることが、利益を生み出す大事なポイントになるのである。

諸経費のなかで最も大きい原価は水道光熱費だ

諸経費は表では便宜上ひとつくくっておいたが、会社の経営管理のための管理会計では一般に、
① エネルギー費 ②物件費 ③販売促進費 ④その他の雑費
の四つのグループに分けられている。

①のエネルギー費とは、水道光熱費と冷暖房費のことである。諸経費のなかでもっとも金額が大きい原価である。厳密にいえば基本料金分については固定費ということになるが、とりあえず変動費と考えてさしつかえない。

②の物件費とは、お店の中のモノに関する費用の合計である。具体的には備品・消耗品費(食器、箸、テーブルマット、紙ナプキンなど)、事務用品費、装飾品費、サンプル費、メニュー費などで、修繕費もこの中に含まれる。

③の販売促進費は、②のモノに対して形のない費用をまとめたもので、販売促進費、広告宣伝費、接待交際費、寄付金、諸会費などがある。

④のその他の雑費には、①、②、③に含まれない諸経費をまとめて計上する。主な内訳は、通勤交通費以外の旅費交通費、通信費(電話代や郵便代)、火災保険や食中毒保険などの保険料、車両費、租税公課(特別地方税や固定資産税、収入印紙代など)支払手数料、それにサービス費などである。サービス費というのはお客のサービスに関する費用で、貸おしぼり代や貸植木、貸マット、ユニフォームのクリーニング代、ゴミ処理費用などが含まれる。

店長の力量によって原価は変動する

このように、飲食店の運営にはいろいろな原価がかかるわけだが、いま見てきたように、家賃や支払い金利、減価償却費、租税公課、そして社員の給与などは現場の店長がいくら努力しても、どうにも動かしようのない経費である。

しかし、それら以外の経費、つまり変動費の大部分については、増減の余地があることがわかる。この店長の力量によって増えたり減ったりする経費のことを、店長の管理可能費という。

管理可能費の中の最大の経費は人件費である。人件費に対して厳しい原価意識をもつことが、店長のマネジメントのスタートとなる。まず、客数に応じた人員態勢をいかに正確に整えることができるか。そして、社員の総労働時間をいかに抑えて、できるだけパート・アルバイトの労働でまかなうようにしていくか。つまり、人件費の変動費化にこそ、店長の力量は如実にあらわれる。

材料費や水道光熱費に関しては、調理長や調理担当者の協力が不可欠だが、コストコントロール推進の原動力は何といっても、店長の原価意識とリーダーシップなのである。厳しい原価意識をもつことは、店長のマネジメントの基本ということができる。

初期投資額に対して毎年いくら売上げればよいのか

ところで、店舗をオープンするまでに要した費用の合計を初期投資という。その内容についてはこの項の最初で見たが、投資はすべて回収されなければならない。最初に、新規開店するお店、という前提をつけたのは、経営者の代行者である店長として、ぜひともこの投資の回収という視点をもってもらいたかったからなのだ。

そしてまた、投資はできるだけ早く回収しなければならない。回収しなければ、お店の利益が会社の利益にならないからだが、それでは、できるだけ早く回収するには、いったいどれくらいの売上高が必要なのだろうか。これがわかっていなければ、売上目標もその結果としての利益日標も立てられないのである。

投下資金が一年間に稼ぎ出した利益を総資本利益率と呼ぶ。資本効率をあらわす数値で、経営の最終日標=店長の評価である。総資本利益率は次の式によって求められる。
総資本利益率=資本回転率×売上高利益率=(売上高/投資額)×(利益/売上高)
一般に、初期投資額は最低でも年間売上高と同額でなければならないとされるが、売上高利益率を10%としてこの式で計算してみると、
総資本利益率=1×0.1=0.1
となるのつまり、毎年投資額の10%ずつ回収してていくわけだから、回収速度は10年ということになる。

しかし、ホテルや高級レストランのように投資額が非常に大きい場合はともかく、一般の飲食店で10年では、回収速度が遅すぎる。ふつうの回収速度の目安は7年くらいが常識とされ、成長いちじるしいお店の場合は五年で回収している。

5年で回収ということは、初期投資の20%を毎年回収しているわけだから、利益率を同じ10%として先の式に当てはめると、
0.2=(x)×0.1 x[基本回転率]=2
となって、投資額の三倍の売上高があることがわかる。一億円投資したのなら、二億円の売上高があるということである。

お店の条件によって一概にはいえないが、最低でも投資額の1.5倍以上を売るというのは、店長として当然の目標である。

経営者代行としての飲食店長の仕事

経営者の経営理念を実現するための責任

店長の職務をひとことでいえば、「経営者の代行」である。経営者から店舗、什器備品、材料、商品などの資産と従業員を預かり、経営者に代わってお店の営業活動を管理し、売上目標を実現することだ。

ここで大事なことは、店長とはたんなるお店の最高責任者ではないということだ。旧体質の飲食店では、店長が変わるたびにお店の雰囲気やサービスのレベルが変わるということがよくあるが、これは経営者も当の店長も、本来の店長の職務をきちんと認識していないからである。たしかに、こういう店長もお店の最高責任者として、一応の仕事をしているかもしれない。

しかし、もっとも大事な点が欠けている。経営者の経営理念を実現するための責任、という認識である。したがって、肝心の経営者に理念と呼べるようなものがなければ、店長は「代行」のしようがない。そして、かつては理念のない経営者が珍しくもなく、お店の経営は店長に「委託」されているのも同然だった。

経営者の関心はもっぱら利益の確保だけだったといってもいい。そういう水商売感覚の経営者の思惑に応える、いわば職人肌の店長が活躍した時代があった。

もちろん、近代的経営であっても、利益の確保は当然の命題である。しかし、それが目的のすべてではない。飲食は消費者の生活に欠かせないレジャーであり、同時に健康にも関わっている。そういう社会への貢献が実現されていてはじめて、消費者の熱い支持を獲得できるのだ。これは理想論でも何でもない。

店長のマネジメントを考えるうえで、絶対に欠かせない認識である。人を使うのがうまいとか、コストコントロールに長けているということだけでは、これからの店長は務まらない。なぜなら、売上高とはお客の満足の結果だからだ。いまのお客の選択眼は非常に厳しい。

つまり、経営者の代行業ということは、経営者に代わってお客に満足してもらうことにほかならない。いいかえれば、先に述べたQSCのスタンダード=商品、サービス、雰囲気のあるべきレベルをお店の中で実現することで売上げを上げ、その結果として利益を生み出すことである。

経営者と部下、店長がとる2つのコミュニケーション

店長はお店の最高責任者だが、日常の営業活動を通じてQSCのスタンダードをお客に対して直接表現するのは、部下である従業員たちである。したがって、店長はまず、部下に経営者の方針やスタンダードがどういうものであるかを的確に示す必要がある。そのためには店長自身が、QSCに対して経営者と共通の認識をもち、会社の経営方針を卜分に理解しておかなければならない、また、会社のビジョン=将来のあるべき姿についても、よく知っておく必要がある。

店長の仕事として部下の教育訓練が重要だとはよくいわれることだが、会社のスタンダードの認識とビジョンについての理解のない店長には、作業の訓練はできても、本当の意味での教育などできるはずがないのだ。また、できるだけ優秀な人材を採用することも店長の大事な職務だが、ダメな店長のお店では、優秀な人材から先に辞めていくことが多い。

会社という組織の中での店長の位置は、経営トップと一般従業員の接点にある。しかも店長は、売上げを上げ、利益を生み出す現場(プロフィット・センターという)をいちばんよく知っている管理者である。したがって店長はつねに、経営トップ(あるいは経営幹部)と部下との二つの方向のコミュニケーションを図るように努力しなければならない。

マネジメントとは、人、モノ、金を有効に管理、活用して経営の目的を達成する技術のことである。店長の最終的な責任は利益を生み出すことだから、さまざまなコストコントロールの技術が要求される。しかし、計数管理に長けていても、部下のレベルが低ければ、売上げは上がらない。もっとも大事なことは、お客に満足してもらえる態勢をつくること=スタンダードに従って部下のレベルを高めることなのである。

具体的な計画づくりは店長の仕事

経営管理活動は、計画←実施←評価←修正行動というサイクルの繰り返しである(マネジメントサイクル)。店長の管理業務もまた、年間、月間、週間といった管理サイクルでおこなわなければならない。

まず、お店の年間売上予算はふつう、コントローラーと呼ぶ本部の予算設定担当者が設定して、それが店長の責任として渡される。しかし、予算書はそれだけでは計画日標であるにすぎない。予算を達成するためにはどう店舗を運営していけばいいのか、という具体的な計画は店長が立てなければならない。

月によってはイベントを実施するとか、DM (ダイレトクメール)を打つとかといった、具体的な行動計画だが、このとき大切なのは、めざす方向と効果の予測(費用対効果)を明確にすることだ。そのためには、過去の営業実績を詳細に分析、検討し、なぜその計画が必要なのかをはっきりさせておく必要がある。

次に、計画の実施に先立って、まず、その計画を達成するにはどういう行動が必要なのかを、部下全員に周知徹底させなければならない。部下をとおして仕事をするのが店長である。その部下が計画の意義を理解していなければ、どんなによくできた計画でも絵に描いたモチでしかないの部下のヤル気を促す(動機づけ)には、まず部下の納得が不可欠なのだ。これは、QSCのスタンダードの徹底と同じことである。

また、店舗内だけでなく、本部の仕入れ部門など他部門とも関係のある計画の場合は、実施に当たって間題がおこらないように、事前に―分なコミュニケーションと意思の統一を図っておかなければならない。

仕事の割当てが明確でないと失敗する

計画の実施でのポイントは、部下への仕事の割当てである。いちばんいけないのは、「みなでこの仕事をやろう」というやり方で、これでは誰がこの仕事をすべきなのかが示されていないから、結局誰もやろうとしない、という結果になりかねない。

部下一人ひとりに対して、それぞれが担当する仕事と役割を明確にしなければならない。これを作業割当てという。分業は、店舗運営もオペレーションのすべてに共通する原則である。

ところで、 一般に計画とはかなかなそのとおりにはいかないものだ。逆にいえば、あまりにも簡単に達成されてしまうような計画では、計画としての設定自体に問題があるということになる。より高いレベルに挑戦してこその計画である。もちろん、実現可能なレベルでなければならないことはいうまでもないが。

そこで、店長はつねに計画がそのとおりに進行しているか、チェックしていなければならない。そして、もしも計画どおりに達成されていないようなら、
○計画と実績とのズレはどれだけあるのか
○そのズレが生じた原因は何か
○計画達成に近づけるために、どんな対策が必要かの三つの点について、明確に分析する必要がある。過程を見直すと同時に、計画そのものが妥当なものであったかどうかも、冷静に検討しなければならない。

修正行動はその分析と検証のうえで計画、実施されなければ、プラスの方向に働かない危険性があるからだ。計画自体が最初から無茶なものだったにもかかわらず、その責任を部下に転嫁する店長をよく見かけるが、それでは部下はヤル気をなくすだけである。

店長には、部下に命令し、部下を自由に動かす権限がある。これを指揮権といい、その権限行使が作業割当てなのだが、権限には必らず責任がともなう。計画の執行・達成についても部下の仕事ぶりについても、その責任は店長に帰するのである。

飲食店長の絶対条件(2) 管理的思考をチェックリストで身につける

利益の獲得を目標に合理的に思考する

管理的思考を身につけるということは、すべてにおいて、売上高を上げるために合理的に考えるということだ。管理というと、締めつけるとか行動を規制するといった意味に受け入れる人がいるが、それは違う。

たしかに、従業員に職場規律を守らせることは、ひとつの規制である。しかし、規制したからといって売上げが上がるわけではない。それがお店の雰囲気をよくし、サービスレベルを向上させてはじめて、規制が意味のあるものになるのだ。また、サービスをよくするためといっても、人件費をかけすぎたら、売上高の結果としての利益が飛んでしまう。したがって、つねに必要最低限の的確な人員配置をおこなわねばならないわけだが、そのためには、従業員の個々の能力を向上させておかなくてはならない。

このように、つねに売上高=利益の確保を目的として考えることを、管理的な思考という。

上記は店長の日常管理業務をまとめたものである。お店を運営するためにはじつにさまざまな管理業務があることがわかるだろうが、これらはすべて、売上高を上げるために必要な業務なのだ、ということに着目してほしい。この発想が抜けていると、いわゆる管理のための管理になり下がってしまう。

よく目的と手段を混同するな、という。店長にとって目的とは売上高を増大させ、その結果としての利益を確保することで、毎日の管理業務がその手段である。

ところが、ややもすると、管理自体が目的になってしまいがちなのだ。たとえば、先に挙げたように、職場規律を守らせることにばかり気をとられている店長が、その典型例である。

店長は計数感覚をみがかなければならない

売上高を上げるために合理的に考えるということは、すべての管理業務を計数感覚によってとらえ、実践するということだ。なぜなら、すべての管理業務の結果は数字であらわれるからである。いかに儲けたかということは、いかにお客に満足してもらったか、ということだが、それは数字=売上高と利益でしか確認できないのだ。

こういうと、何か冷たいいい方に聞こえるかもしれない。数字にばかりこだわり、人間らしさのない店長像が思い浮かぶかもしれない。しかし、それは違う。

たとえば、従業員思いの店長なら、何とか部下の給料を上げてあげたいと考えるだろう。労働時間や労働日数も減らしてあげたいし、労働環境も改善してあげたいことだろう。しかし、売上高が増え、利益が増えない限り、経営者は待遇改善をしたくてもできない。

店長しだいで売上高は1-2割は変わる

一般に、飲食店の売上高は店長の能力によって10%〜20%の違いが出る、といわれている。これは、私の指導経験からも間違いないといえる事実である。

これだけの差があるということは、理屈では、ダメ店長のお店とできるお店とでは、標準店の売上高の40%の違いが出るということになる。しかも、利益の違いはもっと大きいのである。

上記は、わかりやすいように月商1,000万円を標準店として、売上高のプラス・マイナス10%と20%のケースをシミュレートしたものである。利益の欄に注目してほしい。飲食店の運営においては、売上高の増減と利益の増減は比例しないのである。

売上高は20% マイナスなだけなのに、利益は85%も減少してしまう。反対に、売上高が20%増えただけで、利益はほぼ2倍に増大するのである。売上高の増減が10%でも、かなりの違いが出ることがよくわかるはずだ。

私が売上高、売上高と繰り返すのはまさにこのためなのだが、マイナスの店長になり下がるか、それともプラスの店長として高く評価されるかは、つまるところ計数管理能力にかかわってくるのである。

計数感覚が身につくと管理精度が飛躍的に高まるところが、現実には計数管理はむずかしくて苦手だ、と尻込みする店長が多い。たしかに、経営に関する計数管理技術をすべてマスターするとすれば、大変なことである。しかし、店長が実際に必要とする計数管理技術はそれほど多くはないし、実務技術自体、それほどむずかしいものではない。

それをむずかしいと感じてしまうのは、要するに慣れていないからなのだGとりあえず必要な計算は、加減乗除(+ 一×÷)ですむのだから、小学校の算数レベルである。最初はとっつきにくくても、根気強く努力すれば、誰でも必ずできるようになる。ウエイターの仕事と同様、反復練習が大切なのだ。

計数感覚を養うと、従業員管理のように直接数字に関係のない管理事項についても、管理精度がぐんと高くなる。なぜなら、ものごとを分析し、合理的判断のうえで的確な答えや対策を導き出そうとする論理的な思考が身につくからである。

会社が儲かるということは、お客が喜ぶということだ。そして、それはそのまま、あなたと従業員の待遇がよくなることでもある。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。