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第2章「準備」の常識編

お客様の飲食店利用動機を知る

意外に思うかもしれないが、お客様の利用動機をきちんと想定し、そのうえで運営方針を決めているお店はそれほど多くはない。極端に言えば、なんとなくお店を開けていて、なんとなくお客様が入ってきてくれるのを待っている、というお店が大半だろう。

ちょっと厳しい言い方かもしれないが、お客様の利用動機を想定するというのは、それほど大切なことなのだ。

たとえば、毎日のランチにも仕事の接待にも使い、さらに恋人とのデートにも使う。そんなお店があるだろうか。常識的に考えて、ほとんどあり得ないはずである。なぜなのか。お客様はそのときそのときの利用動機によって、飲食店を使い分けているからだ。

たしかに、飲食店を利用する主な目的は「飲食」である。ただし、ひと口に言えば飲食でも、シチュエーションが違えば予算が違うし、選ぶお店も変わってくる。

これをお客様の側から考えると、そのときどきの利用目的によって、飲食店に期待するものが違ってくるということになる。ランチのときに接待向けの料理やサービスなど期待しないが、接待やデートのときにランチ同然の料理とサービスでは困るわけだ。当たり前のことだろう。ところが、この当たり前のことを真剣に考えないお店が多い。なんとなくお客様を待っているというのは、そういうことである。

お客様の飲食店の利用動機は、「日常的利用動機」と「非日常的利用動機」とに分けられる。ふだんのランチは、空腹を満たしたり栄養補給をすることが目的だから「日常的利用動機」である。日常的な利用なのだから、予算は切り詰めなければならないし、お店の選択にもさほどこだわらないというのがふつうだろう。

一方、恋人とのディナーとか家族の団彙で飲食店を利用するときは、飲食という場を通して、ふだんとは違った心の豊かさや楽しさを味わうことが主な目的になる。それが「非日常的利用動機」である。当然のことに、使う予算もぐんと高くなる。

繰り返すが、お客様は利用動機によつて予算を決め、お店を選ぶ。このことが何を意味するのか。お客様の目的からはずされたら、いくら待っていても来店してくれないということなのだ。

たとえば、近所にオフイスがたくさんあるとか、買い物客が多いような立地なら、ランチタイムでさほど苦戦することはないだろう。そこそこの価格内容のランチを出してさえいれば、黙っていてもお客様が来てくれるに違いない。

問題は夜の時間帯である。いま大半の飲食店は夜の売上が上がらないで苦しんでいるが、お客様の非日常的な目的にふさわしいお店になっていないところに原因がある。

といっても、別に高級店でなければ夜のお客様が取れないということではない。非日常的利用動機といつても、ふだんとは違うというだけで、大金を使うということではない。要は、豊かな気分にさせてくれ、楽しくすごせるお店かどうかということだ。

お客様にどんなときにどのように利用してもらいたいのか。それをわかりやすい形でアピールすることなしに、非日常的利用動機は取り込めない。そこをよく考えてほしい。

自分流の飲食店をつくる

人間、人と違ったことをするのには勇気がいる。日本人は、みんなと同じなら安心という横並び意識が強いとよく言われるが、飲食業でもこのことが当てはまる。

個性が大切と口では言いながら、実際のお店づくりを見ると、ありきたりのお店のオンパレードである。そんなことだから、いつまでたっても繁盛できない。確実に成功したいのなら勇気を出して、自分流のお店づくりに徹することだ。たしかにいまは、飲食店の数が増えて競争の激しい時代だが、だからこそ、他店との違いを明確にする必要がある。そうでなければ、どこにでもある似たようなお店の一店にしかなれない。

つまり、自分から繁盛店になることを諦めることになってしまうわけだ。

繁盛するために他店とは違うお店にすることを差別化という。差別化には、商品、サービス、雰囲気づくりのさまざまな面でいろいろな方法があるが、基本は「右へならえ」の「常識」の発想をきっぱりと拒否することである。あえて極端な言い方をするが、要するに、自分の好きなことを好きなようにやるという、独断と偏見を大事にすることが必要なのだ。

ただし、お店はビジネスであって趣味ではない。当然、たんなる独りよがりではダメなわけで、あくまで「お客様の満足」という視点に立ってお店づくりを組み立てなければならない。アイデアとしてはいくら面白くても、お客様に支持されなければ話にならない。

ただ、注意しておきたいのは、「お客様の満足」を追求するのは必ずしも八方美人になることを意味しない、ということだ。どんなことでも、認める人がいれば必ずけなす人もいる。当たり前の話である。それなら、認めてくれる人にお客様になってもらえばいい。

そもそも、席数の限られた小さなお店なのだ。10人中8人、9人に認めてもらう必要などまつたくない。それを欲張るから、妥協の産物、つまり没個性のお店になってしまうのである。たとえば、無難な線を狙って60点のお店をつくったとしよう。達成率が80%とすると、実際は50点そこそ

このお店でしかない。現実問題として、100%の達成率などあり得ないのだ。それなら、あえて100点満点をめざすべきである。そうすれば、たとえ70%の結果だったとしても、70点を稼ぐことができるのだ。

しかも、無難な線の50点と勇気ある70点の違いは、たんなる20点以上の違いになる。ここに飲食店経営のむずかしさと面白さがある。

50点のお店とは、個性のかけらもない、当たり障りのないお店である。だから、お客様の好き嫌いの落差は小さいが、ハートをしっかりとつかむことはできない。 一方、100点をめざしたお店には確かな個性がある。個性的であるほど好きな人と嫌いな人とに極端に分かれるが、それだけに好きな人の支持はより強くなる。お店に共感してくれたお客様は、熱烈なファン=固定客になってくれる。

不安からつい八方美人になってしまう気持ちはわかるが、勇気をもつことだ。 一歩踏み出して「自分流」のお店づくりをめざすこと。成功への突破回はそこから生まれる。

飲食経営者が好きにならなければいけないもの

飲食業は「人」のビジネスである。お店とお客様の関係もお店の運営も、すべて人間関係で成り立つわけだが、とりわけ「おもてなし業」ということが重要なポイントになる。飲食業とは言い替えれば、飲食というモノを通して「おもてなしの心」を提供するビジネスである。

とすれば、このビジネスで確実に成功するにはまず、人を好きにならなければいけない。「人が好き」ということこそが、飲食業で成功するための最大のキーワードなのだ。

たとえば、腕のいい調理師が独立したのにうまくいかないという例はいくらでもある。どうしてうまくいかないのかというと、「おもてなしの心」をもつていないからだ。調理という仕事は好きでも、お客様、つまり人を本当に好きになっていないから、そういうことになる。

接客サービスでも同じだ。自分ではプロのサービスマンと自認しているのに、どのお店に行ってもうまくいかない人がいる。たしかにベテランだけあつて接客技術はすぐれているし、料理を運ぶのでも何でも手際はいい。ところが、肝心なところが欠けている。お客様をもてなす「心」が感じられないのだ。要するに、仕事自体は好きかもしれないが、人が好きなわけではないのである。

本当に人が好きでなければ、その仕事は本当の意味での「お客様のための仕事」になっていない。だから、お客様を感動させることができないのだ。

これは、自分がお客様になった立場で考えれば、すぐにわかることである。あなたがお客様として感動したのは、どんなときだったろうか。そのときのことを思い出してみてほしい。要は、あなたがお店に「大事にされている」と感じたときだったはずだ。

お客様を大事にできるのは、お客様=人が好きだからである。好きだからこそ、調理にも熱が入る。つねに、お客様はどうしてほしいと思っているのか、本当に満足してくれているだろうかと気にかかる。だから、自然とお客様に尽くす姿勢になっている。これが「お客様のための仕事」であり、サービス業の本質である。飲食業はサービス業とはだれでも目にすることだ。しかし、問題はその意味を正しく理解できているかどうかである。

お客様のための仕事とは、お客様が少しでも楽しく豊かな気分ですごせるようにと尽くすことだ。そして、こういう心づかいは必ずお客様に伝わるものだ。形ばかりのお仕着せサービスとは明らかに違うことがわかるから、お客様は感動する。しかし、たんに仕事が好きとかマジメというだけではそうはならない。

こんなに一生懸命働いているのにどうして繁盛できないのか、とこぼす経営者は多い。しかし、その前に考えなければならないのは、一生懸命働いていることが、たんなる自己満足になっているのではないか、ということだ。お客様のための仕事ではなく、「自分のための仕事」になってしまっていたら、お客様が支持してくれなくても当然だろう。

飲食業の本当のやりがいとは、お客様の喜びがそのまま自分の喜びになるというところにある。しかも、お客様が喜んでくれればくれるほど、お店は繁盛する。売上高とは、お客様の満足=喜びの結果なのである。

飲食店の価値を決める3つの要素

飲食店で確実に成功するためには、飲食業とは「付加価値」を売るビジネスなのだということを、きちんと理解しておかなければいけない。

前項で述べたように、飲食業の粗利益率はきわめて高いが、お客様はなぜ、それを認めてくれるのだろうか。いまはコンビニやスーパーに行けば、たいていの食品が揃っている。しかも飲食店に比べてはるかに安い。それにもかかわらず、お客様は飲食店を利用する。なぜなのか。それは、飲食店はたんなる食べ物や飲み物を売っているだけではないからだ。食べ物、飲み物に付加価値をプラスして売っているからなのである。

飲食店の付加価値は次の3つの要素からなつている。
①商品(料理、飲み物)
②サービス
③雰囲気

そして大事なことは、お店の価値とはこれら3つの付加価値の総合力で決まるということだ。たとえば、お客様のお店への評価として、「このお店は料理はおいしいけど、どうもサービスが悪いね」とか「あのお店は感じはいいんだけど料理がまずいね」とか「料理もサービスもいいんだけど、店内が汚いからあまり行きたくないね」といつた声をよく聞くが、これはまさに、飲食店の価値が総合力であることを言い当てている。3つの要素のうちのどれが欠けても、お客様の満足度は低くなってしまう。

いま、飲食店の最大のライバルはコンビニといわれるが、小売業のコンビニとサービス業の飲食店が競合してしまうのは、付加価値の足りない、感じられない飲食店が増えているからなのだ。

誤解のないように断っておくが、ここで言う付加価値とは、お客様にとっての価値である。たとえば、粗利益率が高いのは調理の手間賃が入っているからだとか、食べる場所を提供しているから当然、という経営者がいるが、そういう発想からは、お客様が求めているものが見えてこない。だから繁盛できない。

たしかに飲食店には、調理代行業や場所提供業の要素が含まれる。しかし、それが付加価値として認められるためには、料金を支払う対価としてお客様が期待するレベルをクリアしていなければならない。高い粗利益率に見合った付加価値が感じられなければ、お客様は支持してくれないのだ。いわゆる繁盛店と不振店との差は、この付加価値の大きさや質の違いである。

飲食店の売り物は商品だけではない。いくら料理がおいしくても、サービスに不満があったり不潔感を感じるようではお客様は満足してくれない。当然のことである。

料理や飲み物、プラス人的サービス、お店の内装の醸し出すムード、そして飲食するのにふさわしい清潔感が一体となったもの。それが飲食店の価値なのである。とくに、外食にレジャー性を強く求めるいまのお客様にとって、気分よく楽しくすごせることは大きな意味をもつ。

少しくらい料理がおいしくても、それだけでは材料原価の3倍の価格をお客様に納得させることはできない。もはや料理=商品だけでお客様を呼べる時代ではないのである。

飲食業はだれにでもできるビジネス

だれにでもチヤレンジできるし、だれにでも成功のチャンスがある。これが飲食業のよさである。リストラや倒産が当たり前の時代になり、独立志向の人が増えているが、転職先として最も注目されているのが飲食業界だ。飲食業界はもともと、脱サラ。独立開業の最大の受け皿だったが、それは、だれでもチャレンジできて、しかも成功の夢をもてるからにほかならない。とくにいまは先の読みにくい時代で、どの仕事なら将来性が見込めるのか判断がむずかしくなっている。しかし飲食業には、外食の需要は絶対になくならないという、この業界ならではの強みがある。

さて、だれでもチャレンジできるのは、まず投資額がそれほどかからないからだ。 一般的な小規模のお店であれば、初期投資額はせいぜい2〜3000万円以内だ。脱サラの人でも十分に用意できる資金の範囲内で、自由に独立することができるのだ。

また、 一般的なお店であれば、特別な調理技術を身につける必要はない。もちろん、日本料理やフランス料理などの専門性の高いお店の場合は、高度な技術をもつプロの調理師が不可欠になるが、それ以外の小さなお店の場合、技術的にはそれほどのレベルは要求されない。素人でも心配無用。ある程度の練習を繰り返せば、十分にやつていける。だからこそ、たくさんの脱サラ店主が成功できているのである。

飲食店はプロの料理を出すところと思っている人もいるようだが、ちょつと頭が固すぎる。いまは機械もいろいろあるし、加工食品の品質も高くなっている。それらを上手に利用すれば、かなりの調理技術に匹敵するし、労働としても非常に楽になっている。

そしてもうひとつ、飲食業ならではの大きなメリットがぁる。それは、他のビジネスに比べて粗利益率が抜群に高いことだ。粗利益率というのは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額で、通常65〜70%前後が標準。 一般的な小売業が10〜20%程度なのとは比較にならない高率である。あまり繁盛しているようには見えないのにちゃんと営業できているお店を見ることがあるだろうが、その秘密は、この粗利益率の高さにあるのだ。

最近はディスカウントの波が飲食業にも押し寄せているが、飲食業は小売業のように仕入値の決まった商品を値引きするわけではない。材料原価その他の費用調整や売り方による付加価値の付け方で対応できる部分が大きいため、利益を確保しやすいのである。こんなに有利なビジネスはめったにない。

また、食材という性格上、余分な在庫を抱えないですむうえ、売上は毎日、日銭として入ってくる。在庫を抱えれば、その仕入の代金を寝かせておかなければならない。その期間が長くなればなるほど資金繰りが苦しくなるわけだが、飲食業にはそんなリスクはない。

ただし、世の中いいことばかりではない。だれもが取り組みやすいということは、チャレンジする人の数が多いということだ。飲食店の数が増えてサバイバル時代などと言われるのもそのためで、競争相手が多ければ当然、いろいろと工夫する必要が出てくる。そのことを忘れずに努力することが、飲食店成功の鉄則なのである。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。