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飲食開業知識 / 絶対成功する飲食店開店・経営の教科書

飲食店営業方針の基本は地元密着

自店の影響力が及ぶ範囲を商圏という。商圏については別項で詳しく説明するが、要するに、お客様を見込めるエリアの範囲と理解していい。

ところで、はじめて飲食店をオープンする人は、商圏は広ければ広いほどいいと考えがちだ。商圏が広ければ商圏人口(潜在顧客数)が多いのだから、当然、お客様の来店確率も高くなるというわけである。

しかし、この考え方は非常に危険である。商圏を設定するのは勝手だが、実際に来店してくれる保証はないのである。ポピュラープライスの一般の小さなお店は、商圏を小さく設定し、地元に密着するべきなのだ。

最近は遠くからでもお客様が押し寄せるラーメン店など、大繁盛飲食店の話題がマスコミをにぎわしている。そういうお店をめざすのは素晴らしいことだ。しかし、マスコミで話題のお店も、最初から超有名店だったわけではない。当初は地元客相手に営業していたのが、有名になったことで遠方からの客がわざわざ来店するようになった、というのが一般的なパターンだ。夢は大きくもちたいが、お店づくりの計画は堅実でなければならない。あくまで地元密着が基本と、肝に銘じてほしい。

地元密着の営業方針が有利なのは、何と言ってもお店がお客様の生活圏内(仕事圏内)にあることだ。近くにあるということは、まず利便性が高いし、お店の存在も知られやすい。したがって、 一度利用してもらえば来店頻度が高くなるし、お客様に「地元にあるいいお店」と思ってもらえれば固定客化もしやすい。これは非常に大きなメリットである。

一方、商圏を大きく設定したからといつて、遠方のお客様が来てくれるとは限らないが、距離が遠いということは、来店頻度は望めないということでもある。固定客化がむずかしいから、フリー客中心の営業にならざるを得ない。したがって、経営の安定は図りにくいということになる。最近は、ファミリーレストランのチェーンですら、地元密着志向に切り替えている。

もちろん、お店側の商圏の設定範囲がお客様にわかることは少ない。しかし、お客様というのは、宣伝の仕方や接客の態度などから、このお店が地元客をどう考えているかという見当はつくものだ。理屈ではなく感覚的なものだが、あなどってはいけない。

お客様にとって地元のお店というのは、なんとなく安心感があるものだ。安心感というより、親近感といったほうがいいかもしれない。いわゆる近所付き合いの感覚に近い。だから、気に入ってもらえれば、ロコミで評判が伝わりやすい。お客様がお客様を呼んでくれるという理想的な展開も期待できるわけだ。

ただし、ロコミがきくということは、悪い評判もあっという間に伝わってしまうことでもある。その辺は十分に注意しないと、大ケガをしかねない。地元密着の成功原則は「地元では絶対に敵はつくらない」ということだ。たとえば、商店街立地の場合、商店街の他の飲食店は競争相手になるわけだが、そこでライバル意識をむき出しにして競うようではダメだ。

共存共栄の発想に切り替えれば、商店街で働く人たちを固定客化することもできるのだ。

飲食経営では業種よりも業態を重視する

はじめて飲食業にチャレンジする人はたいてい、どの業種を選ぶかということからスタートする。それはいいのだが、肝心のところを煮詰めないで、お店づくりにかかってしまう。だから失敗しやすいのだ。肝心のところというのは、どういう「業態」にするのかということである。業態とは、売り方の方針のことである。

もちろん、自分の城になるわけだから、どういうお店にしたいかというプランはもつているはずだ。ところが、往々にしてその内容は、内外装のデザインやメニュー、スタッフのユニフォームといったことばかりで、業態という発想が欠けていることが多い。

お客様がお店を選ぶときの最大のポイントは、実は業種ではない。価格(予算)である。お客様の予算を決めるのは、そのときの利用動機だ。そして、お客様は予算の範囲内で利用できるお店のなかから業種を選ぶ。お客様から見れば、この「予算の範囲」を決めるものが業態ということになる。

焼肉が食べられるのなら、いくらかかつてもいいなどというお客様はいない。必ず、まず心づもりの予算がある。そして、その予算は当然、利用動機で決まる。たとえば、恋人と一緒なら多少は奮発してもいいが、友人たちとお酒を飲むためのふだん使いなら、安くて手軽なお店で十分と思うだろう。逆に、せっかくのデートなのだから、あまり安っぽいお店には行きたくないと思うかもしれない。ともかく、そのときの予算に合う焼肉店が見つからなければ、予算内で食べられる別業種のお店に行くわけだ。これがお客様の消費行動である。

予算が変わるというのは、たんに使ってもいい金額が変わるというだけではない。お店に求める商品、サービス、雰囲気すべての質、レベルが変わるということだ。デートで行くお店は、肉の質だけでなく、サービスや雰囲気のクオリティーも高くなければ困るわけである。だから、料金が高くてもお客様は納得するのである。

ところで、自店とライバル関係の飲食店のことを競合店というが、飲食業の素人は、えてして競合店とは同じ業種のお店と思い込んでしまう。ここに落とし穴がある。

実は、競合店とは同業種のお店とは限らないのだ。先の焼肉店の例で説明したように、同じ商圏内の同業態の飲食店はすべて、競合店となるのである。逆に言えば、お客様にとって本当に重要なのは業種ではなく業態、ということになるわけだ。これは、飲食店経営で最も重要なポイントである。

ここで、もう少し詳しく業態について説明しておこう。売り方の方針というのは具体的に言えば、どんな客層のどんな利用動機に対して、何をいくらで、どのようなスタイルで売るのか、ということになる。

たとえば、内装とメニューくらいは決められるというが、メニューとは価格と内容が連動してはじめて価値をもつものだ。そして、その価格の根拠が業態である。つまり、どの業態を選ぶのかが決まっていなければ、業種以外のお店づくりの要素は何ひとつ決められないわけだ。

お客様は専門用語は使わないが、無意識に業態を見て利用するかどうかを選んでいる。したがって、お店づくりでは業種よりも、まず業態を重視しなければならないのである。

飲食経験者が開業で成功するポイント

調理師、サービスマンが独立開業するケースである。どちらもすでに飲食業を知っているプロなのだから、やすやすと成功してもおかしくないはずだ。ところが、意外と失敗しやすいのがこのケースなのである。原因はどちらも、飲食業について「知っているつもりになっている」ことにある。

まず調理師出身の経営者の落とし穴は、料理に自信をもちすぎていることだ。おいしければお客様は来る。そう信じて疑わない。

しかし、いまは「そこそこおいしい」ことなど当たり前の時代である。よほどのスーパーシェフでなければ、料理だけでお客様を呼べる時代ではない。実際、料理人仲間の間ではすばらしい技術の持ち主と尊敬されていながら、お店がうまくいつていないというケースはけっこうある。

お客様が飲食店に求めているのは、おいしい料理だけではない。飲食を通して楽しく豊かな時間をすごすことだ。ところが、料理を偏重していると、お店づくりのバランスがとれない。サービスや雰囲気を軽視してしまいがちなのだ。とくにポピュラープライスのお店だと、サービスや雰囲気など二の次で十分と決めつけてしまう。

最悪なのは、お客が入らないのは、お客が味がわからないからだと思っているケースである。自分の技術や経歴に自信をもつことはいい。しかし、お金を払って飲食店を利用するのはお客様だということを忘れては困る。

本当にすぐれた調理師とは、お客様が喜ぶ料理をつくれる人である。調理師としての自己満足を捨て、お客様に目を向けること。そして、すべてをお客様から発想するように心がける。調理師の人は、このことを謙虚に認識することが大切だ。

一方、サービスマンが失敗する原因は調理師と反対で、料理を軽視しがちなことにある。料理はそこそこであれば十分、サービスや雰囲気だけでお客様を呼べると勘違いしてしまうのである。どうしてそうなってしまうのかというと、サービスマンは調理師以上に、飲食業を知っているつもりになりやすいからだ。

言うまでもなくサービスマンの仕事は接客である。お客様を迎えて満足して帰っていただくのは、サービスマンの責任である。いつもお客様と直に接して、さまざまなサービスを提供している。よく接客は「表」の仕事で、調理は裏方といわれるが、飲食店の表舞台は間違いなく客席ホールである。

そのため、サービスマンを長くやっていると、なんとなく飲食店の経営がわかったような気になってしまう。接客という、いかにもサービス業らしい仕事をしているため、かえって「飲食店なんてこんなもの」というおごりの意識が生じやすいのである。

たしかに、いまは料理だけでお客様を呼べない時代だ。いまのお客様は外食に慣れているから、サービスの重要性も増している。しかし、だからといつて、料理を軽視していいということにはならない。料理もサービスも、どちらも飲食店の価値を決める3つの要素のひとつにすぎない。そして、飲食店の価値は、これら3つの付加価値の総合力で決まる。このことを忘れてはいけない。

飲食店への転業で成功するポイント

最近は、脱サラだけでなく、他業界の商売から飲食業に転業するというケースも増えている。経済状況が大きく変わるなか、従来の商売ではやっていけなくなつたとか、飲食店経営に活路を見出したいといったケースである。

言うまでもなく転業の人たちは、すでに商売の経験がある。その意味で、商売経験すらない脱サラの人たちよりも有利と思うかもしれないが、実はそうでもない。転業の人たちの場合の方が、うまくいかないことが多いのだ。その主な原因は次の4つである。

①以前の商売で失敗したことをしっかりと反省していない
②仕方なく転業したため、バイタリティーがない
③高い粗利益率にばかり目が行ってしまい、飲食業がどんな仕事か理解していない
④以前の商売での経験や考え方にとらわれやすく、飲食業としての切り替えができない

最初に言っておきたいのは、以前の商売がなぜうまくいかなかつたのか、その原因を冷静に、客観的に分析してほしいということだ。失敗、失敗と並べて酷なようだが、これがいちばん大切なことだ。もちろん、商売には運不運もつきまとう。しかし、お店を存続できなかったという事実は事実である。そこを謙虚に認めることができなければ、転業はやめておいたほうがいい。自分の経営者としての資質、実力を正しくつかむことが、三度と失敗しないための条件である。

往々にしてバイタリティーがないのも、結局は仕方なく転業しているからなのだ。以前の失敗は割り切って、新天地でもう一度人生をかけるという意気込みがほしい。そこから、より深く勉強しようという情熱や、お店づくりのこだわりも生まれてくる。ほかにできそうなのは飲食店くらいといつたデモシカ(飲食店デモやるか、飲食店シカない)の発想ではダメだ。

粗利益率に目が行くのは当然のことだが、商売の経験者であれば、実際の利益率がどうなのかということも、正しく理解してほしい。何事も、メリットがあれば必ずデメリットもある。とくに物販店をやっていた人は、飲食店の接客サービスヘの理解が足りないことが多い。転業では比較的年齢が高いケースが多いが、その体力ではたして大丈夫なのか、冷静に判断することだ。気持ちだけでは長続きしない。

そして、これまでの経営者としての経験を一度、きれいさっぱりと捨ててみることだ。たしかに、経営者としての経験は貴重なものだし、参考になることも少なくないはずだ。しかし、その経験や考え方にいつまでも引きずられていては、成功はできない。どんな経験も実績も、飲食業でそのまま通用するわけではないのである。結局、最初に挙げた原因に戻っていくが、これまでの自分を潔く反省することが大切なのである。

飲食業界も、中途半端な取り組みで簡単に成功できるほど甘い世界ではない。たんなる商売替えではなく、新たなチャレンジなのだ。この業界の経験者の言葉に素直に耳を傾け、飲食業についてどん欲に勉強してみることである。

脱サラ飲食店で成功するポイント

飲食業は昔から、脱サラの人たちにとってのいちばんの独立の舞台になっている。多くの人たちが成功を手にしているが、残念なことに失敗例も少なくない。しかし、心配することはない。なぜなら、失敗する主な原因がわかっているからである。

失敗した人たちが口を揃えることの第一は「簡単に儲かると思ったのに……」ということだ。ふつう異業種への転職というのは、何かと不安なものだろう。全然知らない業界ではたしてやつていけるのか。そう思って当然だ。ところが、飲食業は違う。

サラリーマンにとつて、飲食店は非常に身近な場所である。毎日のランチはもちろん、商談や接待にも使うし、仕事帰りには一杯やってウサを晴らしてきたなじみの場所だ。お店の人たちの仕事ぶりも見ている(つもり)。そこで、で」れくらいの仕事だったら自分でも簡単にできるだろう」とタカをくくってしまうのである。

また、粗利益率が高いから、手っ取り早く儲かるだろうという短絡的な発想も命取りになる。たしかに、飲食店の粗利益率は群を抜いて高い。しかし、そのメリットも、お客様が入ってくれなければ意味がない。外食ニーズが絶対になくならないことは飲食業の強みだが、競争があるということを忘れている。多くのお店がしのぎを削っているいまの飲食業界で、開店さえすれば儲かるなどということはあり得ないのだ。

もうひとつ、脱サラの人たちの多くに共通するのは、管理社会から逃げ出したいという気持ちである。組織の歯車として働くのがイヤになったという気持ちは理解できる。しかし、これは経営なのだ。いくら粗利益率が高くても、利益は級密な原価管理なくして確保できないし、リーダーシップを発揮してスタッフを管理していかなければならない。しかも、今度は一雇われの身ではない。すべての責任を負わなければならないのだ。

これらが、脱サラで失敗する主な原因だが、逆に言えば、この轍を踏まなければ成功の確率が高いということになる。失敗の原因をひと言で言えば、要するに飲食業というものを甘く見ていたわけだ。手っ取り早く儲かるだろうなどという甘えが通用するビジネスなどないのだから、別に飲食業が特別むずかしかったということではないわけだ。

飲食店の仕事は、はたで見るよりも大変な肉体労働である。長時間立ちっばなしで休日も少ない。調理など技術的習練も不可欠だ。また、粗利益率は高いが、お店を運営するには材料原価以外の経費がかかる。大きな売上高も、お客様一人一人の小さな売上高の積み重ねであり、売上高を大きくするには、一人でも多くのお客様の支持を得られるように努力しなければならない。

それらしくやれば手っ取り早く儲かるどころか、地道なビジネスなのである。しかも、お客様の信用を得るのは大変だが、失うのはあっけないほど早い。脱サラの人たちの成功ポイントは、このビジネスを正しく理解するということに尽きる。と同時に、積極的に勉強して、飲食業についての知識を豊富にすることも大切だ。

お客様の飲食店利用動機を知る

意外に思うかもしれないが、お客様の利用動機をきちんと想定し、そのうえで運営方針を決めているお店はそれほど多くはない。極端に言えば、なんとなくお店を開けていて、なんとなくお客様が入ってきてくれるのを待っている、というお店が大半だろう。

ちょっと厳しい言い方かもしれないが、お客様の利用動機を想定するというのは、それほど大切なことなのだ。

たとえば、毎日のランチにも仕事の接待にも使い、さらに恋人とのデートにも使う。そんなお店があるだろうか。常識的に考えて、ほとんどあり得ないはずである。なぜなのか。お客様はそのときそのときの利用動機によって、飲食店を使い分けているからだ。

たしかに、飲食店を利用する主な目的は「飲食」である。ただし、ひと口に言えば飲食でも、シチュエーションが違えば予算が違うし、選ぶお店も変わってくる。

これをお客様の側から考えると、そのときどきの利用目的によって、飲食店に期待するものが違ってくるということになる。ランチのときに接待向けの料理やサービスなど期待しないが、接待やデートのときにランチ同然の料理とサービスでは困るわけだ。当たり前のことだろう。ところが、この当たり前のことを真剣に考えないお店が多い。なんとなくお客様を待っているというのは、そういうことである。

お客様の飲食店の利用動機は、「日常的利用動機」と「非日常的利用動機」とに分けられる。ふだんのランチは、空腹を満たしたり栄養補給をすることが目的だから「日常的利用動機」である。日常的な利用なのだから、予算は切り詰めなければならないし、お店の選択にもさほどこだわらないというのがふつうだろう。

一方、恋人とのディナーとか家族の団彙で飲食店を利用するときは、飲食という場を通して、ふだんとは違った心の豊かさや楽しさを味わうことが主な目的になる。それが「非日常的利用動機」である。当然のことに、使う予算もぐんと高くなる。

繰り返すが、お客様は利用動機によつて予算を決め、お店を選ぶ。このことが何を意味するのか。お客様の目的からはずされたら、いくら待っていても来店してくれないということなのだ。

たとえば、近所にオフイスがたくさんあるとか、買い物客が多いような立地なら、ランチタイムでさほど苦戦することはないだろう。そこそこの価格内容のランチを出してさえいれば、黙っていてもお客様が来てくれるに違いない。

問題は夜の時間帯である。いま大半の飲食店は夜の売上が上がらないで苦しんでいるが、お客様の非日常的な目的にふさわしいお店になっていないところに原因がある。

といっても、別に高級店でなければ夜のお客様が取れないということではない。非日常的利用動機といつても、ふだんとは違うというだけで、大金を使うということではない。要は、豊かな気分にさせてくれ、楽しくすごせるお店かどうかということだ。

お客様にどんなときにどのように利用してもらいたいのか。それをわかりやすい形でアピールすることなしに、非日常的利用動機は取り込めない。そこをよく考えてほしい。

自分流の飲食店をつくる

人間、人と違ったことをするのには勇気がいる。日本人は、みんなと同じなら安心という横並び意識が強いとよく言われるが、飲食業でもこのことが当てはまる。

個性が大切と口では言いながら、実際のお店づくりを見ると、ありきたりのお店のオンパレードである。そんなことだから、いつまでたっても繁盛できない。確実に成功したいのなら勇気を出して、自分流のお店づくりに徹することだ。たしかにいまは、飲食店の数が増えて競争の激しい時代だが、だからこそ、他店との違いを明確にする必要がある。そうでなければ、どこにでもある似たようなお店の一店にしかなれない。

つまり、自分から繁盛店になることを諦めることになってしまうわけだ。

繁盛するために他店とは違うお店にすることを差別化という。差別化には、商品、サービス、雰囲気づくりのさまざまな面でいろいろな方法があるが、基本は「右へならえ」の「常識」の発想をきっぱりと拒否することである。あえて極端な言い方をするが、要するに、自分の好きなことを好きなようにやるという、独断と偏見を大事にすることが必要なのだ。

ただし、お店はビジネスであって趣味ではない。当然、たんなる独りよがりではダメなわけで、あくまで「お客様の満足」という視点に立ってお店づくりを組み立てなければならない。アイデアとしてはいくら面白くても、お客様に支持されなければ話にならない。

ただ、注意しておきたいのは、「お客様の満足」を追求するのは必ずしも八方美人になることを意味しない、ということだ。どんなことでも、認める人がいれば必ずけなす人もいる。当たり前の話である。それなら、認めてくれる人にお客様になってもらえばいい。

そもそも、席数の限られた小さなお店なのだ。10人中8人、9人に認めてもらう必要などまつたくない。それを欲張るから、妥協の産物、つまり没個性のお店になってしまうのである。たとえば、無難な線を狙って60点のお店をつくったとしよう。達成率が80%とすると、実際は50点そこそ

このお店でしかない。現実問題として、100%の達成率などあり得ないのだ。それなら、あえて100点満点をめざすべきである。そうすれば、たとえ70%の結果だったとしても、70点を稼ぐことができるのだ。

しかも、無難な線の50点と勇気ある70点の違いは、たんなる20点以上の違いになる。ここに飲食店経営のむずかしさと面白さがある。

50点のお店とは、個性のかけらもない、当たり障りのないお店である。だから、お客様の好き嫌いの落差は小さいが、ハートをしっかりとつかむことはできない。 一方、100点をめざしたお店には確かな個性がある。個性的であるほど好きな人と嫌いな人とに極端に分かれるが、それだけに好きな人の支持はより強くなる。お店に共感してくれたお客様は、熱烈なファン=固定客になってくれる。

不安からつい八方美人になってしまう気持ちはわかるが、勇気をもつことだ。 一歩踏み出して「自分流」のお店づくりをめざすこと。成功への突破回はそこから生まれる。

飲食経営者が好きにならなければいけないもの

飲食業は「人」のビジネスである。お店とお客様の関係もお店の運営も、すべて人間関係で成り立つわけだが、とりわけ「おもてなし業」ということが重要なポイントになる。飲食業とは言い替えれば、飲食というモノを通して「おもてなしの心」を提供するビジネスである。

とすれば、このビジネスで確実に成功するにはまず、人を好きにならなければいけない。「人が好き」ということこそが、飲食業で成功するための最大のキーワードなのだ。

たとえば、腕のいい調理師が独立したのにうまくいかないという例はいくらでもある。どうしてうまくいかないのかというと、「おもてなしの心」をもつていないからだ。調理という仕事は好きでも、お客様、つまり人を本当に好きになっていないから、そういうことになる。

接客サービスでも同じだ。自分ではプロのサービスマンと自認しているのに、どのお店に行ってもうまくいかない人がいる。たしかにベテランだけあつて接客技術はすぐれているし、料理を運ぶのでも何でも手際はいい。ところが、肝心なところが欠けている。お客様をもてなす「心」が感じられないのだ。要するに、仕事自体は好きかもしれないが、人が好きなわけではないのである。

本当に人が好きでなければ、その仕事は本当の意味での「お客様のための仕事」になっていない。だから、お客様を感動させることができないのだ。

これは、自分がお客様になった立場で考えれば、すぐにわかることである。あなたがお客様として感動したのは、どんなときだったろうか。そのときのことを思い出してみてほしい。要は、あなたがお店に「大事にされている」と感じたときだったはずだ。

お客様を大事にできるのは、お客様=人が好きだからである。好きだからこそ、調理にも熱が入る。つねに、お客様はどうしてほしいと思っているのか、本当に満足してくれているだろうかと気にかかる。だから、自然とお客様に尽くす姿勢になっている。これが「お客様のための仕事」であり、サービス業の本質である。飲食業はサービス業とはだれでも目にすることだ。しかし、問題はその意味を正しく理解できているかどうかである。

お客様のための仕事とは、お客様が少しでも楽しく豊かな気分ですごせるようにと尽くすことだ。そして、こういう心づかいは必ずお客様に伝わるものだ。形ばかりのお仕着せサービスとは明らかに違うことがわかるから、お客様は感動する。しかし、たんに仕事が好きとかマジメというだけではそうはならない。

こんなに一生懸命働いているのにどうして繁盛できないのか、とこぼす経営者は多い。しかし、その前に考えなければならないのは、一生懸命働いていることが、たんなる自己満足になっているのではないか、ということだ。お客様のための仕事ではなく、「自分のための仕事」になってしまっていたら、お客様が支持してくれなくても当然だろう。

飲食業の本当のやりがいとは、お客様の喜びがそのまま自分の喜びになるというところにある。しかも、お客様が喜んでくれればくれるほど、お店は繁盛する。売上高とは、お客様の満足=喜びの結果なのである。

飲食店の価値を決める3つの要素

飲食店で確実に成功するためには、飲食業とは「付加価値」を売るビジネスなのだということを、きちんと理解しておかなければいけない。

前項で述べたように、飲食業の粗利益率はきわめて高いが、お客様はなぜ、それを認めてくれるのだろうか。いまはコンビニやスーパーに行けば、たいていの食品が揃っている。しかも飲食店に比べてはるかに安い。それにもかかわらず、お客様は飲食店を利用する。なぜなのか。それは、飲食店はたんなる食べ物や飲み物を売っているだけではないからだ。食べ物、飲み物に付加価値をプラスして売っているからなのである。

飲食店の付加価値は次の3つの要素からなつている。
①商品(料理、飲み物)
②サービス
③雰囲気

そして大事なことは、お店の価値とはこれら3つの付加価値の総合力で決まるということだ。たとえば、お客様のお店への評価として、「このお店は料理はおいしいけど、どうもサービスが悪いね」とか「あのお店は感じはいいんだけど料理がまずいね」とか「料理もサービスもいいんだけど、店内が汚いからあまり行きたくないね」といつた声をよく聞くが、これはまさに、飲食店の価値が総合力であることを言い当てている。3つの要素のうちのどれが欠けても、お客様の満足度は低くなってしまう。

いま、飲食店の最大のライバルはコンビニといわれるが、小売業のコンビニとサービス業の飲食店が競合してしまうのは、付加価値の足りない、感じられない飲食店が増えているからなのだ。

誤解のないように断っておくが、ここで言う付加価値とは、お客様にとっての価値である。たとえば、粗利益率が高いのは調理の手間賃が入っているからだとか、食べる場所を提供しているから当然、という経営者がいるが、そういう発想からは、お客様が求めているものが見えてこない。だから繁盛できない。

たしかに飲食店には、調理代行業や場所提供業の要素が含まれる。しかし、それが付加価値として認められるためには、料金を支払う対価としてお客様が期待するレベルをクリアしていなければならない。高い粗利益率に見合った付加価値が感じられなければ、お客様は支持してくれないのだ。いわゆる繁盛店と不振店との差は、この付加価値の大きさや質の違いである。

飲食店の売り物は商品だけではない。いくら料理がおいしくても、サービスに不満があったり不潔感を感じるようではお客様は満足してくれない。当然のことである。

料理や飲み物、プラス人的サービス、お店の内装の醸し出すムード、そして飲食するのにふさわしい清潔感が一体となったもの。それが飲食店の価値なのである。とくに、外食にレジャー性を強く求めるいまのお客様にとって、気分よく楽しくすごせることは大きな意味をもつ。

少しくらい料理がおいしくても、それだけでは材料原価の3倍の価格をお客様に納得させることはできない。もはや料理=商品だけでお客様を呼べる時代ではないのである。

飲食業はだれにでもできるビジネス

だれにでもチヤレンジできるし、だれにでも成功のチャンスがある。これが飲食業のよさである。リストラや倒産が当たり前の時代になり、独立志向の人が増えているが、転職先として最も注目されているのが飲食業界だ。飲食業界はもともと、脱サラ。独立開業の最大の受け皿だったが、それは、だれでもチャレンジできて、しかも成功の夢をもてるからにほかならない。とくにいまは先の読みにくい時代で、どの仕事なら将来性が見込めるのか判断がむずかしくなっている。しかし飲食業には、外食の需要は絶対になくならないという、この業界ならではの強みがある。

さて、だれでもチャレンジできるのは、まず投資額がそれほどかからないからだ。 一般的な小規模のお店であれば、初期投資額はせいぜい2〜3000万円以内だ。脱サラの人でも十分に用意できる資金の範囲内で、自由に独立することができるのだ。

また、 一般的なお店であれば、特別な調理技術を身につける必要はない。もちろん、日本料理やフランス料理などの専門性の高いお店の場合は、高度な技術をもつプロの調理師が不可欠になるが、それ以外の小さなお店の場合、技術的にはそれほどのレベルは要求されない。素人でも心配無用。ある程度の練習を繰り返せば、十分にやつていける。だからこそ、たくさんの脱サラ店主が成功できているのである。

飲食店はプロの料理を出すところと思っている人もいるようだが、ちょつと頭が固すぎる。いまは機械もいろいろあるし、加工食品の品質も高くなっている。それらを上手に利用すれば、かなりの調理技術に匹敵するし、労働としても非常に楽になっている。

そしてもうひとつ、飲食業ならではの大きなメリットがぁる。それは、他のビジネスに比べて粗利益率が抜群に高いことだ。粗利益率というのは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額で、通常65〜70%前後が標準。 一般的な小売業が10〜20%程度なのとは比較にならない高率である。あまり繁盛しているようには見えないのにちゃんと営業できているお店を見ることがあるだろうが、その秘密は、この粗利益率の高さにあるのだ。

最近はディスカウントの波が飲食業にも押し寄せているが、飲食業は小売業のように仕入値の決まった商品を値引きするわけではない。材料原価その他の費用調整や売り方による付加価値の付け方で対応できる部分が大きいため、利益を確保しやすいのである。こんなに有利なビジネスはめったにない。

また、食材という性格上、余分な在庫を抱えないですむうえ、売上は毎日、日銭として入ってくる。在庫を抱えれば、その仕入の代金を寝かせておかなければならない。その期間が長くなればなるほど資金繰りが苦しくなるわけだが、飲食業にはそんなリスクはない。

ただし、世の中いいことばかりではない。だれもが取り組みやすいということは、チャレンジする人の数が多いということだ。飲食店の数が増えてサバイバル時代などと言われるのもそのためで、競争相手が多ければ当然、いろいろと工夫する必要が出てくる。そのことを忘れずに努力することが、飲食店成功の鉄則なのである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。