かつて、飲食店は立地で決まるといわれてきた。もちろん、立地条件はいまでも、飲食店の繁盛を左右する一要因である。しかし、決して絶対条件ではない。いわゆる一等地に立地しているからといって、確実に繁盛できるという保証などどこにもない。反対に、誰の目にも明らかな不利な立地でありながら、地域一番店の名をほしいままにしているお店は珍しくない。
どうしてこういうことになるのかというと、飲食店の存在感は立地の優劣ではなく、付加価値の中身で判断されるからだ。そして、その付加価値を決定づけるのは店長(経営者)である。つまり、いまや飲食店の繁盛は店長(経営者)の力量しだいで決まるといっていい。
では、店長(経営者)の力量とは何を指すのか。大事なのはここだ。結論からいえば、それは、いかにたくさんのお客を満足させられるかということである。店長(経営者)の最終的な責任は売上高と利益だが、売上高とはお客の満足度の結果にほかならないのだ。
勘違いしてはいけないのは、店長(経営者)の仕事とは、たんなる技術の問題ではないということだ。
たとえば、最近はアメリカのチェーン店のストアマネジメントを導入するお店が増えてきている。計数管理技術は、いまや「できる店長(経営者とになるための必須技術になってきている。
しかし、いかにマネジメント技術に精通していても、それだけで繁盛できるわけではない。かつての水商売感覚から脱却した、近代的経営を実践する店長にとって、たしかに理論武装は大切である。しかし、店長(経営者)は何よりも実務家でなければならない。実務家とは、お客を満足させることができるということだ。そのためには、店長(経営者)には何が必要なのか。
それは「心」である。お客を愛する心がなければ、どんな技術も宝の持ち腐れにすぎない。私はいつも、飲食店経営で成功することは別にむずかしいことではない、といっている。何をどうすればいいのか。つまり、お客が何を求めているのかをきちんと理解して取り組めば、誰でも成功できるのだ。
本書では、店長(経営者)として知っておくべきマネジメント技術について網羅したが、同時に、お客への愛と奉仕する喜びという、サービス業の原点についてもできるだけ詳しく述べたつもりである。この原点をつねに忘れないこと。それが、本当に”できる店長(経営者)”の最大の条件なのである。
なお、本書では、飲食店の店長むけに記述してある。ただ、経営者=店長であるお店も多いし、そうでなくても成功する経営者になるために同じように役立つはずである。