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第4章 労務管理ができなければ店長&経営者は務まらない

ワークスケジュールの上手なつくり方(3) 月間人件費予算の立て方と手法

「標準人件費率」を考える

月間人件費予算の作成は、前項で述べたパート・アルバイト採用計画の考え方の応用である。さて、ここでもう一度考えなければならないのが、標準人件費率ということだ。

経営である以上、会社はどうあっても必要利益を確保しなければならない。それが企業としての社会的責任だからだ。したがって会社は、すべての経費予算は売上高予算対比で決定することになる。その結果が、たとえば売上高対比25%といった数字として示される。

しかし、これはあくまで「標準」の人件費率である。

ここでいう標準というのは、 一年間をトータルしたときに適正である、という意味だ。理由は主として二つある。ひとつは、飲食店の売上高は季節による変動が激しいこと。

もうひとつは、お客の満足を前提とする飲食店の運営は、適正な人員配置によっておこなわれなければならず、その適正な人員数は必ずしも売上高の増減とは比例しないということだ。

一般に、売上高が高くなるときは人件費の効率はよくなるが、反対に売上高が低くなると効率は極端に悪くなる。光熱費にたとえれば、たとえまったく電気を使わなくても基本料金はかかってしまうからだ。

お店を開いている以上は、どんなにお客の入りが悪くても最低限そろえておかなければならない人員配置がある。それがお店のスタンダードを維持するのであり、結果としてお客の満足を得られ、トータルで売上高を確保できることになる。

A店のケースを考えてみると

つまり、毎月の売上高が季節による変動をほとんど受けず、なおかつ一定レベル以上の売上高を確保できるお店(それはほとんど例外だが)を別にすれば、1月から12月までのすべての月の人件費予算を、同一の基準値(標準人件費率)によって算出することはできない、ということだ。

ひとつ例題を挙げてみよう。
A店は年間の平均月商は1,100万円だが、もっとも落ち込む二月の売上げは700万円、もっとも稼ぐ12月は1,500万円を売り上げる。社員人件費は毎月150万円(1人平均30万円)。お店を経営するには、社員のほかにパート・アルバイトの労働が最低400時間必要で、ピークの12月には700時間必要である。

さて、A店で設定した標準人件費率を二五%として、これを各月の売上高に当てはめるとすると、
2月の人件費=700万円×0.25=175万円
12月の人件費=1,500万円×0.25=375万円

となる。

では、この人件費ではたして適正な運営ができるのかを考えてみよう。

まず、2月。社員人件費の150万円を引くと残りは25万円。これでは時給800円として312時間分のパート・アルバイトしか雇えないから、とてもまともな運営はできないことになる。

次に12月だが、この月は明らかにパート・アルバイトの予算が過剰である。使用可能な労働時間は、時給800円として2,800時間。1,000円でも2,250時間。余裕があるからといって人手を増やせば、従業員はラクはできるが、年間での標準人件費率をオーバーしてしまうことは確実である。

月の人件費予算をはじき出す方法

各月の人件費予算を、適正人員配置を崩さずに合理的に作成するには、パート・アルバイト採用計画で使った「人時売上高」と「人時接客数」を基準にする方法がある。

一般に、店長にとってわかりやすく、かつ使いやすいのは、従業員の生産性の指標である人時売上高を基準に算出する方法だ。

1人1時間当たりの売上高を基準とするため、各月の売上高の変動に対応し、予算と実績の誤差も小さくなる。ポイントは各月の正確な売上高予測と、季節変動に合わせた、各月ごとの適正な人時売上高の設定だが、これは少なくとも過去三年間のデータを分析する必要がある。

計算式は次のとおり。
当該月計画客数=当該月計画売上高/計画客単価
当該月計画労働時間数=当該月計画売上高/当該月計画人時売上高
当月パートアルバイト必要労働時間数=当該月計画労働時間数-当該月社員労働時間数

当該月パート・アルバイト人件費予算=当該月パート・アルバイト必要労働時間×パートアルバイト平均時給
当該月人件費予算=当該月パート・アルバイト人件費予算+社員人件費予算

店長は日標達成率を毎日確かめよ

繰り返し述べているように、店長がコントロールすることのできる人件費管理は、主としてパート・アルバイトの労働時間数である。そして、その目的はお客の満足を得ながら売上高を上げて利益を確保するための、適正人員配置である。

ところで、この項では各月の人件費予算の立て方について述べたが、実際にはなかなか予定どおりにいくものではない。毎日で見れば売上高には波があるし、ワークスケジュールをつくっても、来客数が多すぎて残業しなければならないこともあれば、遅刻や欠勤もある。

ところが、月末で集計してみたら偶然に予定どおりになっていた、ということがよくある。しかし、偶然はあくまで偶然である。月末の数字は、店長が確実にコントロールした結果でなければならない。つまり、毎日の来客数に応じた、適正な人員が働いた結果でなければならないのだ。

もちろん、そんなことをしようと思ってもできることではないが、店長の仕事とは、単なる帳尻合わせではないのである。

そのためには、店長は毎日の実績とその日までの累計実績をつねに正確に把握している必要がある。別のいい方をすれば、日標達成率を毎日確認するということだ。そのために必要なのが、デイリーチェック表である。人時売上高と人時接客数とは実は、このチェックのための指標なのだ。

なお、デイリーチェック表が有効なチェックであるためには、
①標準労働時間
②目標人時売上高
③目標人時接客数

の3つが設定されていなければならない。

バート・アルバイトの労働時間コントロール

標準労働時間が設定してあれば、累計労働時間の達成率が算出できる(表5参照)。また、日別計画売上高と日別実績売上高の累計によって、累計売上高達成率を算出できる。

パート・アルバイトの労働時間のコントロールは、この2つの累計達成率を対照することによっておこなう。
コントロール時間数=累計売上高達成率-累計労働時間達成率

この結果、プラスマイナス2%以内であれば、労働時間数のコントロールの必要はない。

マイナス3%を超える場合=労働時間数が多すぎる場合は、土曜日や日・祭日など、標準労働時間を多く設定してある曜日で調整するといい。

プラス3%を超える場合=労働時間数を増加できる場合は、新人の教育・訓練に当てるべきだ。

ワークスケジュールの上手なつくり方(2) パート・アルバイト採用計画

パート・アルバイト採用の原則

パート・アルバイトの採用計画は、人件費コントロールの基本である。社員人件費が固定費的な経費である以上、売上げに対するコントロールはパート・アルバイトの人件費でおこなわねばならないからだ。したがって、パート・アルバイトの採用はつねに、過不足のない適正人員配置と適性人件費率の順守という、二つの要求のせめぎ合いの中で決められることになる。

それがつまり、人件費予算を立てるということなのだが、ここではまず、社員以外に毎月何人のパート・アルバイトが必要かを算出する手法を取りLげよう。

適正な人件費を算出する

最初に、お店は人件費をいくらまで支払えるのかについて考えてみよう。
売上高-材料費=粗利益高
利益=利益高-(人件費+その他経費)

つまり、人件費は粗利益高から支払われるわけであり、粗利益高に対する人件費のバランスが、利益を確保するための重要なポイントであることがわかる。

さて、人件費管理の指標のひとつである労働分配率は、粗利益高のうちの何%を人件費に当てているかを示したもので、一般には40%が限度である。
労働分配率=人件費/粗利益高

ある月の売上高が1,000万円、粗利益率65%、労働分配率40%とすると、支払い可能な人件費は次のように計算できる。
1,000万円×0.65=650万円
0.4=(x/650万円)
x=260万円

この場合、社員とパート・アルバイトの合計人件費は260万円まで支払うことができるということで、この範囲内で一人ひとりの給与に振り分ければ、適正な利益が得られる。ちなみに、標準的な適性人件費率は25% (この場合は26%)である。

そこで、人件費率を厳密に管理するのであれば、必要なパート・アルバイトの人数は、次の式で求めることができる。

月間計算売上高×計画人件費率=計画人件費
パート・アルバイト必要人数=(計画人件費-社員給与)/パートアルバイト1人当たりの給与

たとえば、月商1,000万円、計画人件費率26%、パート・アルバイト一人当たりの給与(平均)8万円(平均時給800円)、社員の給与が150万円(一人平均30万円、手取り額20万円前後)とすると、必要人員(x人)は、次のようになる。

8,000円/800円=100時間
10,000千円/5,000円=2,000時間
x=20,000時間-1,000時間/100時間=10人

ほかの条件は同じで人時売上高を4,000円として計算すると、15人である。仮に、10人採用してその平均給与が八万円、社員給与が150万円とすると、給与合計は230万円となる。これと、先の人件費率のみを尺度とする場合とを比べてみれば、労働生産性がいかに重要であるかがわかる。

しかし、実はパート・アルバイトの採用人員はこれだけでは決められない。従業員一人が何人のお客を接客できるのか、という視点が欠落しているからだ。つまり、人時接客数を同時に設定していく必要がある。

人時接客数=月間客数/総労働時間数
人時接客数×客単価=人時売上高
(1)月間計画労働時間=月間計画売上高/(人時接客数×客単価)
(2)計画客数=月間計画売上高/客単価
月間計画労働時間=計画客数/人時接客数

人時売上高を基準にした例と同じ条件で、客単価を1,000円として計算すると、人時売上高が5,000円の場合の人時接客数は5人、4,000円の場合は4人である。しかし、A店の従業員は一人一時間当たり6人(人時接客数)の接客ができるとする。すると、
10,000千円/(6人×1,000円)=1,667時間…(1)
10,000千円/1,000円=10,000人
10,000人/6人=1,667時間(2)

そこで、社員月間労働時間は1,000時間だから、
x=(1,667時間-1,000時間)/100時間=7人

となる。逆に、1人1時間当たり二人しか接客できないとすると、23人のパートアルバイトが必要になることになる。

採用計画と店長の仕事

このように、基準にする指標によって、パート・アルバイトの必要人員は変わってくる。しかし、問題はどの指標をとればよいのかということではない。

たとえば、 一人一時間当たりの粗利益高=人事生産性は、適正な利益を確保するための人件費の支払い能力を示す。この能力を高めるためには、粗利益率を高くするのが手っ取り早い。しかし、それは値上げか商品の品質を落とすことだから、必ずお客の反発を受けて客数減を来すことになる。正しい方法は人事売上高を高くすることだが、それには従業員一人一時間当たりの接客数を多くする必要がある。

逆にいえば、いかにして総労働時間数を短くするかが間われているのだ。つまり、教育・訓練によって従業員の人事接客数が高くなれば、パート・アルバイトの人員や総労働時間を増やさなくても、利益は上がるし給与を上げていくこともできるのである。

パート・アルバイトの採用計画は、数式をいじるだけでは絶対にうまくいかない。従業員一人ひとりの作業レベルをつねに把握し、同時に、そのレベルアップと新人の教育・訓練のシステムをつくりあげておくことが大事なのだ。

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ワークスケジュールの上手なつくり方(1) スケジュールづくりの前提

ワークスケジュールづくりは最重要のマネジメント技術

来客数に応じた人員配置計画をワークスケジュールと呼ぶ。たとえば、ランチタイムのピーク時にはホール何名、キッチン何名、アイドルタイムは何名というように、人員態勢を変えていくことだ。

一般に飲食店では、季節、月、曜日、そして時間帯によって、来客数に大小の波がある。それなのに、いつも同じ人員配置をしていたら、非常に効率が悪くなってしまう。来客数の多いときは、お客に対応し切れずに機会損失(売れるはずだった売上げを逸すること)を起こしてしまうし、反対に来客数が少ないときは人手が余り、ムダな人件費によって利益を圧迫してしまう。

こんなことは、少し考えてみれば誰にもわかることだ。ところが、現実にはしっかりとしたワークスケジュールをつくることなく、漫然と営業しているお店が少なくない。

ピーク時にはフル回転して走り回るから、しっかり働き稼いだという充実感が機会損失を忘れさせ、アイドル時や暇な月などには、忙しいときもあるのだから仕方ないなどと、妙に開き直ってしまうのだ。

また、とんでもないことだが、ワークスケジュールを考えるのが面倒だ、と考えている店長が少なからずいることも事実である。

しかし、一番の原因は、ワークスケジュールがなぜ大切なのかという認識が不足していることではない。それは、店長であれば誰でも、うすうすは感じていることだ。

決定的なのは、ワークスケジュールをどうつくればいいのか、その方法論が欠落していることである。つまり、ワークスケジュールづくりが店長にとって、もっとも重要なマネジメント技術だということを知らないのである。

近ごろ、飲食業全体でサービスレベルが低下しているとよく指摘されるが、それはたんなる人手不足や安易な店づくりのせいばかりではない。ワークスケジュールについての店長の認識こそが問題なのだ。

ワークスケジュールづくりの意味

いま「しっかりとしたワークスケジュール」といういい方をした。なぜなら、実効をあげないワークスケジュールをつくっても、意味がないからだ。そしてこのことが、一般にヤル気のある店長の評価を下げ、意欲を減退させる原因になっている。

このテーマについてはヤル気だけではダメなのだ。あくまで方法論が問題なのである。ここでもう一度、ワークスケジュールの意味を考えてみよう。「来客数に応じた人員配置計画」ということだった。ということは、来客数にかかわらず、つねにすべてのお客に満足を提供できる人員態勢づくり、ということになる。重要なのはここだ。

これまで何度も、自店のQSCのスタンダードを繰り返してきたが、これが守られていなければならないのは、お客に満足してもらい、何度も来店してもらって売上高を上げるためである。

ところが、ワークスケジュールをつくって実行していても、売上高の上がらないお店が現にある。その理由はいうまでもない。お客が不満に思っているからだ。

たしかにピーク時には、たくさんの人数をそろえているのだが、料理の出来にはバラツキがあり、ろくなサービスもできない。ただパニック状態で走り回り、汗をかいているだけ―― これは別に、極端なたとえ話ではない。

店長の実力が試される

どうしてこういうことになるのかというと、スケジュールづくりの前提に、「お客の満足」がないからだ。だから、単純に人数を集めればいいと考えてしまう。違うのだ。ワークスケジュールとは、単なる頭数合わせではない。きちんと教育・訓練された人員を必要な人数だけ、計画的に配置することなのである。

しかし、そのためにはまず、すべての従業員の教育・訓練を日ごろから徹底していなければならない。そして、店長は従業員一人ひとりについて、その能力や技術の習得度を正確に把握していなければならない。

そのうえで、店長自身は全体の指揮・監督ができるように、店長代行者を務められる有能な部下を一人でも多く育てあげていなければならない。

これらの成果があってはじめて、店長は「お客の満足」を前提にした人員配置を組むことができるのである。

つまり、日ごろの店長の労務管理の集大成、それがワークスケジュールなのだ。店長にとってもっとも重要なマネジメント技術だといったのは、このためである。

お客不在の発想に陥るなかれ

また、ワークスケジュールづくりでは、先に挙げた例と逆のケースもよくある。つまり、むやみに人の効率を追及するため、必要な人数を切り詰めてしまうというケースである。これは現象としては反対の方向だが、その発想の元をたどれば同じ、「お客の満足」不在の発想である。

極端に人手を切り詰めるのは、その発想が生産性の向上に凝り固まっているためだ。たしかに人件費のコントロールは店長の腕の見せどころだし、それなくしていまの飲食店は利益を確保できない。

しかし、人件費は決して「余計な」経費ではないのである。お客に満足を提供するための適正な人件費をかけてこそ、お客の支持が売上高となってあらわれ、結果として適正な利益を得ることになる。このことを絶対に忘れてはならない。

よく数字は魔物というが、計数管理をしていると、往々にして、数字至上主義に陥ってしまう。数字をコントロールしているつもりが、いつの間にか、数字に振り回されるようになってしまうのだ。そして必ず、自己矛盾に陥って苦しむことになる。人件費やその他の経費を切り詰めたはいいが、肝心の売上高が落ちていくからだ。

一般にワークスケジュールは、人時売上高ないしは人時生産性をもとにつくられている。とくに人時売上高は、店長が人件費をデイリーでチェックするのにわかりやすい指標だから、これを基本に考えれば大変つくりやすいし、決して間違いではない。

ただし、人時売上高や人時生産性は、あくまで効率上の考え方である。したがって、そこだけを追求していけば当然、お客不在の発想にたどり着くことになる。一方、「お客の満足」を追求していくと、つねに十三分な人員を配置しなければならないことになる。過剰な人件費を使えば当然、売上高はそこそこ上がっても、利益は出ない。

結局、ワークスケジュールづくりは、人の効率とサービスの質という矛盾との戦いなのだ。人時売上高や人時生産性の追及と、サービスの質の追求とのはざまで、どう折り合いをつけてお客に納得してもらうか、その技術にほかならない。

それともうひとつ、従業員の気持ちを忘れてはいけない。いくら有能な部下をたくさん抱えているからといって、彼らに不当な負担を強いるようではしょせん、長続きしない。従業員の不満がたまってくれば、それはお店の雰囲気の劣化やサービス自体の低下をもたらす。

従業員にとっても、お店の繁栄は喜ぶべきことだ。それが誇りとなり、働く意欲も高まっていく。しかし、そこには楽しく働けて、かつ十分な給与を得られる、という大前提がある。ワークスケジュールは、従業員が働きがいのもてる職場づくりの技術でもあるのだ。

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店長代行者の育成の必要性とポイント

店長は二四時間店にいるわけにはいかない

店長はつねに、部下に適切な指示を出し、また基準どおりのレベルで仕事がおこなわれているかを監督していなければならない。だから、自分が接客サービスに没頭してはいけないのだが、部下の指揮・監督に徹したとしても、つねにお店にいるわけにはいかない。

まず二四時間営業のお店では、店長がいつもお店にいることなど不可能である。深夜営業がないとしても、毎日、朝から通してお店にいるわけにもいかない。生身の人間なのだから、いつケガや病気にみまわれるかもしれない。店長会議などでお店をあけることも少なくないし、大型店になると、店長一人ですべての管理業務を取り仕明っていたのでは、かえってマイナスになる場合もある。

また、当たり前のことだが、店長にも休日をとる権利がある。実際、一般に店長の悩みをホンネで聞くと必ず、休日がなかなかとれないことだという答えが返ってくる。それでなくても人手不足だから体むに体めないし、やっとのことで休日をとっても、お店の様子が心配で、ポケットベルを手離せない店長もたくさんいる。パート・アルバイトが急に何人も休んだりしたら、店長はいやでも出勤してカバーしなければならないからだ。

これでは店長はたまったものではないし、そういう現実の姿を見ている部下は、店長になりたいなどと思わなくなってしまうだろう。

店長代行者の育成は急を要す

店長の代行者はどうしても必要である。実際問題として、店長はつねにお店に張りついているわけにはいかないのだ。もし代行者がいなければ、店長不在時のお店は、お客に対する責任者不在ということになってしまう。もちろん、このことをしっかりと認識し、組織として副店長や主任といった代行者を置いている会社もあるが、そうでないお店の場合は、店長自身が自分の代行者を育成していかなければならない。

しかも、これは急を要する。社員であればそのうちに育ってくるだろう、などとのんびりと構えてはいられないのである。店長代行者がいない限り、つねに一定のレベルのQSCをお客に提供することはできないからだ。お店のQSCにバラツキがあれば必ず、客数は減少する。店長の代行者とは、お店の成績を大きく左右するキーマンでもあるのだ。

候補者選びの五つのポイント

店長代行者を育成するには、候補者の抜擢と特別な教育・訓練が必要になる。候補者選びのポイントは、次の五点である。

①接客サービスを完全な形でおこなえること
②管理の仕事を理解でき、会社の方針もきちんと理解できていること
③責任感が強く、仕事に対して積極的であること
④勤続期間ができるだけ長いこと⑤同僚から信頼されていること

①は、すでに基本の接客技術を完全に身につけていて、お客とのトラブルなどに対して臨機応変な判断、態度をとれるくらいであることが望ましい。また、人の抜擢は往々にして、同僚の嫉妬や反感を買いやすい。したがって、能力はあっても、同僚から浮いているような人では代行者は務まらない。そのため⑤は重要な条件になるのだが、そのうえで、代行者が代行者としての仕事をしやすい職場の空気づくりをしてあげるのは、店長の義務である。

②には、お店のスタンダードを知っていることも含まれる。つまり、サービスやクレンリネスばかりでなく、商品の基準についても知っていなければならないということだ。これは調理場を信用しないということではない。一定の水準の商品をお客に提供することの最終的な責任は店長にあるからだ。

お客のクレームヘの対処ということも、あらかじめ念頭に置いておく必要がある。③、④については、いまさら説明することもないだろう

候補者の教育はOJTしかない

店長代行者の候補者を選んだら、さっそく計画的に役割を与えて、短期間のうちに育成するが、そのためには、店長の業務とは何なのかを、店長自身が熟知している必要がある。そうでなければ、自分が不在時に代行者として求められる仕事と責任を、具体的かつ簡潔に教えることはできない。何と何をどのようにおこなえばいいのか。教えられたとおりに実行すればお店は間違いなくスムーズに機能する、というようになっていなければならないのだ。

候補者の教育・訓練の中心は、OJTである。機会あるごとに、また積極的に機会をみつけて、いかに部下の仕事を見守リバックアップしていくかについての、実施の管理経験を積ませることが肝心だ。

必要な知識を教えることも大切だが、部下指導の能力や的確な判断力というのは、実際にやってみないと身につかないものだ。また、OJTをしっかりやっていないと自信をもてないため、部下を自由白在に動かすことができない。代行者である以上、店長と同様に部下を動かす権限がなければならないのだ。

パートでも店長代行者は務まる

ところで、店長代行者は必ずしも社員でなければならないということはない。条件さえ満たしていれば、パート・アルバイトでもかまわないのである。人を指揮するのにふさわしい年齢ということから考えれば、主婦のパートタイマーは有望な候補者といえる。40〜50代で子育ての経験のある主婦なら、若い人たちの気持ちをつかむのがうまいし、一般的にいって、若い人たちよりもはるかに責任感も強い。お店のコンセプトにもよるが、一般にお客のほうも、人生のキャリアのある主婦が責任者とわかったほうが、なんとなく安心するものだ。

パートタイマーはいうまでもなく、勤務時間が短い。しかし、少なくとも昼のピーク時間帯の勤務は可能だ。その意味でも、昼間は学校がある学生アルバイトよりも戦力として計算しやすい。

パートタイマーで代行者が務まるのか、と思う人もいるだろう。しかし、これは可能なのだ。そもそも店長代行者といっても、何から何まですべての店長業務を任せるということではない。

たとえば、ワークスケジュールづくりや客数予測などは、絶対に代行者に任せるわけにはいかない。つまり、代行できる仕事を代行させればいいのである。だからこそ、店長は自分の仕事を分解して、その範囲と

内容を明確にしておかなければならないのである。現にパートタイマーが、店長代行者を務めているお店はある。社員数が足りないということもあって、そういうケースは増えてきつつある。

店長と代行者との間には責任の明確化が必要

ただ、代行者としての教育・訓練をおろそかにして、立場上でだけ代行者としているケースが少なくない。

お店の運営上も大問題だが、そのことによって優秀なパートタイマーが辞めてしまうことも、大きな問題である。管理業務について何も教えられないまま代行者を努めさせられるため、その負担に耐え切れなくなってしまうのだ。

こういうケースは第一に、会社の仕組みとして店長代行制が確立していないことがあるのだが、店長自身が、代行者をつくるとはどういうことなのかについて、よくわかっていないことも多い。そして、結局は自分で自分を窮地に追い込んでいるのである。

なお、店長代行制を導入するには、店長と代行者との間の責任関係を明確にしておくことが肝心だ。権限の委任の原則について知っておくということだ。

権限には必ず、責任がついてくる。では、ある権限を部下=代行者に委任したとすれば、その責任は委任された部下が負うことになるのかというと、それは違う。なぜなら、店長には部下に対する監督責任があるからだ。部下=代行者に権限を委任したあとでも、この監督責任は残るのである。

したがって店長は、代行者が何か失敗したときは、その責任をとらなければならない。代行者に責任を転嫁するような店長のもとでは、本当に仕事を任せられる代行者は育たないし、また、そういう店長は経営者や上司の信頼を失うことになる。このことをしっかりと認識しておく必要がある。

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従業員の評価は公平に[明快な基準が大切]

公平に評価されたい気持ちを理解する

あなたはこれまで、職場で上司や経営者に正しく評価されてきただろうか。正しく評価されたときは疲れなど吹っ飛んでしまったろうし、さらに仕事への意欲が湧いたことだろう。

しかし、そうでないこともあったに違いない。どこにでもモノのわからない上司はいるものだ。仕事の実績を残しているのに、それが認められず、先輩や同僚と比べて不公平な扱いを受ける。これほど口惜しいことはないし、ヤル気をなくさせることもなかったはずである。

そしていま、店長としてお店と従業員を預かっているあなたは、経営者に正しく評価してほしいという気持ちをいっそう強くしていることと思う。これだけの責任を負って働いているのだから、と思っているに違いない。

それは、部下も同じことなのである。あなたがかつてそうだったように、部下は、つねに店長によって正しく評価されている、という確信があってはじめて働く気持ちになる。向上しようと努力する気になるものなのだ。

もちろん、いまのあなたは、より大きな責任をもつことで、いやがうえにも意欲が高まっているだろう。しかし、だからこそ、あなたは「公平に評価されたい」という部下の切実な気持ちを深く理解できていなければならない。

部下を預かるというのは、部下によく働いてもらい、お店の成績を向上させることである。それにはまず、部下にヤル気をもってもらわなければならないのだ。

そういう職場づくりをしなければならないし、ヤル気をもってもらうような仕事への評価のしくみをつくらなければならない。

仕事での評価はなるべく形にしたいものだ

仕事での評価は、その結果が給与に反映されなければ意味がない。「君はなかなか優秀だね」とか、「よく働いてくれて助かるよ」とほめることは、もちろん重要なファクターのひとつである。

しかし、ほめられるばかりで給与はいっこうに変わらないというのでは、せっかく高まった従業員の意欲はカラ回りしてしまうし、かえってマイナスに働くこともしばしばある。

目ばかりで信用できないという体験は、あなたにもあるだろう。そしてその不信感は、店長であるあなたに向けられるのだ。店長が部下に信用されないということは、店長はお店のコントロール機能の大半を失ったことを意味する。

実力で給与差を埋められる仕組みがあるとよい

従業員の給与への不信感のなかで最悪なのは、従業員間の不公平感である。

たとえば、最近は同じパート・アルバイトなのに、大学生、高校生、主婦というように学歴や年齢で時給に差をつけるお店が増えている。その理由はたいてい、お店がもっとも欲しい人材を明確にアピールするため、とされている。

それはそれで間違った方法ではない。しかし、それならば、そのことを採用時にはっきりと説明しなければならないわけだが、もっと大切なことは、いったん仕事に就いたあとは、実力でその給与差を埋めることができる仕組みを用意しておくことだ。

どんな会社でも、給与体系で問題となるのは初任給ではなく、以後の昇給額、賞与支給額である。つまり、仕事の能力評価がもっとも大切なファクターだということだ。

明快な評価の基準が大切だ

当たり前のことだが、従業員の評価でもっとも大事なことは、その基準が明確で、かつ誰にでもわかりやすい形になっていることである。従業員の定着率の悪いお店は、十中八九これがしっかりとできていない。

店長の好みや気分で部下を評価してしまっているケースが多いのである。

たとえば、若い店長だと、世代が近くて何かと話の合う大学生や専門学校生ばかり目をかけて、主婦のパートタイマーをおろそかに扱うことがよくある。また逆に、私的な面での趣味(競馬とかパチンコ)や、つき合い(酒など)によって部下への接し方が変わるというのは、ベテラン店長にありがちなことだ。

いずれにしろ、店長の胸先三寸で給与が決められてしまうのでは、従業員はいたたまれない。辞めていって当然だ。ところが、そういう恣意的な店長に限って、「代わりはいくらでもいる」などとタカをくくっているから始末が悪い。

ダメな従業員の代わりならいくらでもいる。しかし、優秀で自分の評価をも押し上げてくれる、つまり売上高アップに貢献してくれる部下はそれでは育たない、ということに気づいていないのだ。従業員評価の基準とは、ひとことでいえば、売上高の評価のモノ差しはあり得ない。このことを忘れてはいけない。

「向上心」と「努力」を見る

次に、具体的な評価の仕方についてだが、これも当然のことながら、社員とパート・アルバイトでは違っていなければならない。同じ従業員であっても、本人に期待する意味合いが違うからである。

まず、社員に対しての評価では、つねに一歩上をめぎす向上心があり、そのための努力をしているかどうかが、最大の基準でなければおかしい。社員になったということは、会社=お店と一緒に自分も成長していこうという意思表示でなければならないからだ。

会社としても、いずれは主任、店長とステップアップしてほしいからこそ、高い人件費を払って社員にしているのである。

よく勘違いされることがあるのだが、社員制度は単なる人手確保の手段ではない。もちろん、仕事の出来、不出来も評価基準ではあるが、社員の場合、それは社員であることの前提でなければならない。そうなるように教育・訓練しなければいけないということだ。

ちなみに、一歩上をめざす努力とは、与えられた仕事以外で自己啓発に努めることをいう。

店長はつねに公平を心がけなければならない

一方、パート・アルバイトの場合は、基本的には、与えられた仕事の範囲内での出来、不出来を問題にする。

たとえば、一見すると接客に慣れていて、一人で対応できる客数も多いというウエイトレスがいるとする。しかし、それだけでは高い評価を与えるわけにはいかない。大事なポイントは、会社のスタンダードを実現するために、会社のルール、やり方をきっちりと守って働いているかという点なのだ。

「あの人は仕事ができるから」などという理由で一部のパート・アルバイトの違うやり方を認めることは、お店のスタンダードを自ら否定することである。お店のルール、やり方に従わなくても優遇されるとしたら、そのルール、やり方は存在しないも同然なのだ。

社員にしろ、パート・アルバイトにしろ、評価の基準はただひとつでなければならない。そして、その基準がいつも変わらないことが鉄則だ。従業員は明快な評価基準があるからこそ、評価されるためには何をどうすればいいのかがわかる。目標がはっきりしているからこそ、早く覚えよう、もっと進歩しようと努力する。

勤務評定は、もっとも主観が入りやすい。評定者の好みや思い込みにも左右されやすい。だからこそ、店長はつねに公平を期すよう自分を戒めていなければならない。そして、すべての従業員の仕事ぶりを見守っていなければならないのだ。

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バート・アルバイトを最大限に活用する(2)即戦力にするやり方

無理な取り決めは長続きしない

パート・アルバイトを十分に活用し、戦力化するにはまず、彼らが働きやすい環境をつくることが大切である。働きやすい環境とは、

①勤務時間の選択ができること
②すべての仕事が標準化され、会社のスタンダードがわかりやすい形で示されていること
③評価・待遇の制度が確立されていることの三つの要件を満たしていることである。

まず①の勤務時間だが、お店で働くことは彼らの生活の中心ではない、ということを念頭に置く必要がある。

とくに主婦のパートタイマーの場合は、何といっても家庭が第一である。主婦が一定の時間、家庭を留守にすれば、大なり小なり家庭に不便をもたらすことになる。また、家事があるから、どうしても出勤が無理な時間帯も出てくる。

したがって、主婦のパートタイマーを雇う場合は、本人の意向だけでなく、必ず家族の同意を得るようにしなければいけない。家族の協力が得られなければ、遅刻や早退、欠勤が増えて、結局は長続きしないのである。

一方、学生アルバイトだから時間が自由になるというものではない。曜日によって授業の時間が異なるだろうし、サークル活動をしていればその制約もある。それなのに、なんとかなる式(お互いに)で無理な取り決めをしても、しょせんは無理なものは無理なのだ。

遅刻や欠勤が続いたりして居づらくなり、やはり辞めてしまうのである。

また、パート・アルバイトにとっては、一カ月にいくら稼げるのかが大きな関心事である。働く目的によって、 一カ月の日標金額も違ってくる。 一カ月の労働時間は、後述するワークスケジュールづくり(第4章‐11-12項)とも関連してくるが、採用に当たっては働く目的と日標金額を確かめ、彼らが安心して働けるようにしてあげることが大切である。

教育・訓練では店長の力量がハツキリ出る

次に②だが、誤解してはいけないのは、社員とパート・アルバイトでは、教育・訓練の仕方が違うということだ。社員とパート・アルバイトは仕事が同じといったが、それはサービス業としての基本の部分で同じなのであって、当然、仕事の内容や範囲は違ってくる。しかも、何度もいうように、パート・アルバイトは勤務時間が短い。非常に限られた時間内で教育・訓練し、即戦力にしなければならないのだ。

したがって、パート・アルバイトの教育・訓練では、店長の力量がはっきりと出るわけだが、その力量とは、たんなる教え方の優劣だけではない。合理的な訓練をおこなうためのシステムづくりができるかどうかということが、大きな問題となる。

まず、社員と比べて仕事の範囲が狭いのだから、マニュアルもパート用のものを別に作成しておく必要がある。余計なことを覚える必要はないのである。と同時に、仕事に不慣れな主婦でも簡単に習得できるように、標準化した仕事を作業分解し、わかりやすい言葉と表現で説明してあるマニュアルでなければならない。

また、いうまでもないことだが、パート・アルバイトがお店でしなければならない仕事の範囲を明確にして、それを最初の訓練のときにはっきりと示さなければならない。

よく「便利屋」的にパート・アルバイトを使おうとする店長がいるが、仕事の範囲が明確でなければ、確かな目標を持てないために習得スピードが遅くなるし、仕事にイヤ気をさす原因ともなる。

訓練時間を短縮するには、メニュー名を価格を暗記は宿題にして、自宅でやらせるべきである。もちろん、標準暗記時間を設定して、その分の時給は払わなければいけない。

店長は間違いを発見したらその場で指摘し直す

作業の標準化とは、お店のサービスの基準がはっきりしているということだ。そして店長は、その基準どおりに教えること、これが訓練の絶対条件である。

かりに店長が何らかの理由で交替しても、会社のスタンダードが変わらない限り、サービスの基準も変わってはならないのだ。

ところが、店長が代わったことで、それまで通用していたやり方を否定され、それが原因で辞めていくパート・アルバイトが少なくない。

また、店長の教えたやり方と、同僚・先輩のやり方が違うとうのもあってはならないことだ。これでは、パート・アルバイトは誰のいうことを信用していいのかわからなくなってしまう。

そうならないためにも、店長はつねに部下全員の仕事ぶりを観察し、少しでも間違っているところを発見したら、その場ですぐに指摘して直させるようにしなければならない。

早く現場へ出してOJTする

パート・アルバイトを即戦力にするには、とにかくできるだけ早く、客席の現場に出すことである。ひととおりの接客技術を身につけていなくても、できる仕事はある。

たとえば、接客話法をマスターしていなくても、食べ終えた皿を下げることならできるし、このくらいの作業はすぐに覚える。そうした実践で使われることによって、自然と仕事の勘が養われていくものなのだ。

もちろん客席に出すことはOJTなのだから、店長はその動きをよく見て、うまくできたらほめ、誤りがあればすぐに補足していかなければならない。 一般に、最初にマニュアルを渡してひととおりの説明をしただけで、あとは何も教えないというお店が多いが、これではパート・アルバイトは使い捨て、と宣言しているようなものだ。

パート・アルバイトも、飲食店に勤める以上は、早く接客サービスをしてみたい、と思っている。先輩たちのようにうまくサービスできるようになりたい、と思っている。

しかし、なかなか覚えられなければ、そういう気持ちはどんどんしぼんでいってしまう。従業員のヤル気を引き出すことをモチベーション(動機づけ)というが、せっかくあるヤル気の芽を摘み取ってしまうのでは、それこそ本末転倒である。

納得できる評価の仕組みをつくろう

ところで、どんな仕事でもその結果を評価してもらえなければ、仕事への意欲はなくなっていく。人間は本質的に、他者から評価されたいと思っているものなのだ。

評価されたいからこそ、早く覚えよう、もっと上達しようと努力する。だからOJTでのキメ細かい評価が大切なのだが、一応の仕事を身につけて一人前に働けるようになると、ただほめられるだけでは満足できなくなる。

当たり前だ。彼らは趣味やボランティアで、お店で働いているのではない。目的は収入を得ることである。これは、あなたを含めてすべての働く人にあてはまることだ。給与に反映されないような評価は、真の評価ではないのである。

ところが、パート・アルバイトに対する評定制度のあるお店、会社はいまで少数派である。社員は毎年昇給していくのに、パート・アルバイトは何年経ってもほとんど昇給しない、というお店が圧倒的である。これで彼らにヤル気を出せといっても、それは無理な話である。

評価の仕方については後述するが、パート・アルバイトを即戦力にし、さらに有能な部下として長く働いてもらうには、この問題を棚上げにすることはできない。

きちんと教えられ、すぐに仕事を任され、努力しだいで給与が上がるという仕組みがあれば、彼らは素晴らしい戦力に育っていくのである。そして、従業員一人当たりの生産性が向上すれば、当然、値上げなどせずとも、彼らに高い時給を払うことができるのだ。

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バート・アルバイトを最大限に活用する (1)軽くみてはいけない

出来、不出来で店の評価が下される

先にも述べたように、いまや飲食店の経営はパート・アルバイトの労働力抜きには考えられない時代である。お店の総労働時間の70〜80%がパート・アルバイトというお店も珍しくはないし、ファーストフードチェーンに至っては、実に90%がパート・アルバイトで占められている。

これほどパート・アルバイトに依存する比率が高まっているのにもかかわらず、いまだに彼らを「使い捨ての単純労働力」と見下す風潮がある。そのためパート・アルバイトのほうも、自分たちは補助的な労働力で、仕事への責任度も低い(あるいはほとんどない)と思い込んでしまう傾向がある。困ったことである。

パート・アルバイトといっても、一日の労働時間、あるいは週・月の労働時間が社員に比べて短いこと、あるいは学生アルバイトのように一定期間だけの短期労働であることを除けば、その仕事の内容は社員ととくに変わりがあるわけではない。社員であろうとパート・アルバイトであろうと、お客にとっては等しく、お店の従業員なのである。ここが大事なところだ。

つまり、パート・アルバイトにも社員と同じ働きをしてもらわなければならないわけだが、労働力としての依存度が高ければ、お店の評価はパート・アルバイトの出来、不出来で決まってしまうということなのだ。パート・アルバイトを軽視していては、売上高は上がらないのである。

早く一人前に訓練し、気持よく働いてもらう――これも店長の仕事

飲食店のパート・アルバイト労働力への依存度が高い理由は二つある。ひとつは人件費が安くつくこと。

もうひとつは、お店の繁閑に応じた効率的な人員編成ができることである。

人件費については、すでに何度か述べてきたが、まず、同じ労働時間とすると、社員の40〜50%の金額ですむこと。そして、社員だと固定費になってしまう人件費を、変動費化できるというメリットがある。

他の産業に比べて生産性の低い飲食業において、確実に利益を出していくために不可欠のメリットである。

効率的な人員編成については、お店によってその効率の追求度に問題があるようだが、それは後で詳しく述べる。ここで考えなければならないことは、勤務時間の短さと教育・訓練の問題についてだ。

たしかに、お店の忙しい時間帯や曜日だけ出勤してくれるというのは、経営にとって大きなメリットである。しかし、それは実は机上の計算にすぎないのだ。

忙しい時間の従業員はいうまでもなく、暇な時間帯よりも高い能力を要求される。暇なときなら多少まごついたりしても、仕事の流れに大きな影響は出ないが、ピーク時はそうはいかない。少数の仕事の習得度の低い従業員のために混乱をきたし、パニックに陥ってしまう危険性が大いにある。現にランチタイムやディナ―タイムのたびに、ホールばかりか内厨房まで大混乱、というお店は少なくない。大型店ほどその危険性が高いし、混乱も大きくなる。従業員間の仕事のレベルの落差が、いちばん大切なチームワークをガタガタにしてしまうからだ。

こういう状況をお客がどう感じるのか。お客の満足はQSCの三要素で決まるといったが、サービスがこういう状態では、とても満足などしてもらえない。また、従業員間で仕事のレベルに差がありすぎると、従業員同士の人間関係もギクシャクしてくる。そうなると必ず、お店の雰囲気は暗くなる。これも、客数減少の大きな要因である。つまり、パート・アルバイトを採用することによって、たしかに人件費は圧縮できるのだが、肝心の売上高を落としてしまう可能性もまた、一方にあるということだ。

もちろん、パート・アルバイトは仕事ができないといっているのではない。いかにパート・アルバイトを訓練し、気持ちよく働いてもらうかは、店長の重大な責任だといっているのである。

軽く見る店長は、しっべ返しを食う

パート・アルバイトの給与は、社員に比べてはるかに低い。しかも、実際の仕事は社員とほとんど変わらない。それでどうして、パート・アルバイトは甘んじているのだろうか。諸悪の根源は、最初に述べたパート・アルバイト軽視の風潮である。「給与が安い代わりに、大した責任もない」というのが彼らの常識になってしまうのだ。

しかし、理由はそればかりではない。むしろ、もっと大きな理由といえるのが、彼らの働く目的である。パート・アルバイトが飲食店で働く動機は、いろいろあるだろう。主婦のパートタイマーなら、空いている時間を利用して小遣い稼ぎをしようとか、家計の足しに、という動機が多いが、なかには社会経験のためという人もいる。学生のアルバイトの場合も、たんなる小遣い稼ぎばかりでなく、バイクを買うとか、海外旅行の資金を貯めるといった、具体的な目的をもっている人も多い。

ここで大事なことは、どんな動機、目的にしろ、彼ら(の大多数)にとって一番の問題は、おカネを稼ぐことだということだ。飲食店の仕事がしたくて応募してくるのではない。つまり、どこで働くかは二の次の問題のわけである。だからこそ、時間当たりの給与や、その他の労働条件が社員より劣っていても、それを甘んじて受け入れているのである。

したがって、パート・アルバイトの教育・訓練に当たっては、サービス業としてのこの仕事の意義をよく理解させる必要がある。これをおろそかにすると結局は、お客のお店に対する評価を下げて、自分で自分の首を締めてしまうことになる。また、短時間のうちに習得させなければならないのだから、教える店長はかなりの訓練技術を要求されることになる。

パート・アルバイトを上手に使うというのは、実は大変なことなのだ。その代わり、きちんと教育・訓練すれば、計数的にも大きな戦力になる。つまり、パート・アルバイトはいわば両刃の剣なのである。パート・アルバイトを軽く見る店長は、必ず手痛いしっペ返しを受けることになる。

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マニュアルの上手なつくり方(2)清掃マニュアル

店の清潔度は士気のパロメーター

清掃はお店のQSCのひとつ、クレンリネス(C)を維持するための重要な仕事である。いいかえれば、クレンリネスの程度は、店長を評価する基準のひとつでもある。

ヤル気のない店長のお店では当然、従業員のモラルダウンが進行するが、その最初の現象としてあらわれるのがお店の汚れである。クレンリネスがいかに大切かについてもう一度、その意味を確認してほしい。

さて、ひと口に清潔感といっても、その感じ方にはかなりの個人差がある。敏感な人もいれば鈍感な人もいるし、なかには無神経としかいえないような人もいる。鈍感な人や無神経な人と敏感な人とでは、「きれい」のレベルが違う。したがって、鈍感な人の場合、本人はちゃんと清掃しているつもりでも、結果としては「手抜き」でしかないということになってしまう。

しかし、飲食店で働く以上は、鈍感な人にも敏感になってもらわなければ困る。ではどうすれば、その個人差を埋めることができるのか。

その答えはいうまでもない。きちんとした清掃マニュアルをつくり、計画的に実行することである。そうすれば、従業員全員が一律に掃除できるはずである。

しかし、マニュアルは万能ではない。マニュアルがあるからお店がきれいになると思ったら、大間違いである。もっとも大事なことは、従業員一人ひとりのクレンリネス意識を向上させることなのだ。

「店を清掃に」は店長の率先実行で

それにはまず、店長であるあなた自身が、シビアなクレンリネス意識をもっていなければならない。ここがしっかりとしていなければ、「ピカピカに磨いた清潔感」など、しょせん絵に描いた餅でしかない。

つまり、飲食店のあるべき清潔感とは、どういう状態のことなのか、お店のすべての部分について明確な基準をもち、従業員に具体的に示すことができなければならないのだ。どんな組織でも、トップ(お店では店長がトップである)がだらしなければ下は右へならえ、である。しかし、素晴らしいお店にしたいという強い意識があり、しっかりとした認識をもって率先実行すれば、お店のクレンリネスは必ず向上していく。

できる店長とはつねにお店の清潔感や家具の破損に対して敏感だから、自然と床に落ちているゴミを拾い、破損部分を修理するものである。ルックスの落ちた蛍光灯にもすぐに気がつく。そして、従業員も店長の感覚を共有できるように育っていくものだ。

清掃マニュアルづくりと同時に教育の徹底を

もうひとつ、従業員のクレンリネス意識を向上させるのに大切なのは、従業員になぜクレンリネスが必要なのかについて、きちんと教えることである。飲食をするのにお店が汚なかったらお客はどう感じるか、ということばかりでなく、飲食店としての衛生管理義務についてまで、噛み砕いて話してあげることだ。つまり、清掃は自分たちにとって大事な仕事のひとつなのだということを、よく理解させるのである。

クレンリネス意識の低いお店(実はこれが大多数なのだが)では、この教育がしっかりとなされていない。そのため従業員は、余計な仕事までさせられていると思ってしまう。清掃マニュアルをつくるお店は増えてきてはいるが、この意識改革の教育を抜きにしてマニュアルをあてがっても、効果はあがらない。

これが、マニュアルは決して万能ではないという意味である。お客を迎えるのに掃除をし、部屋の中を片づけるというのは、家庭でも当然のことだ(と教えなければならない)。ましてや、おカネをいただくのである。イヤな仕事ではなく、当然の仕事と理解させることが、清掃マニュアルを活かすための鉄則である。

マニュアル作成の留意点

清掃マニュアルづくりの注意点は、
①計画的に実行できるようにシステム化する
②掃除のやり方を統一する
③掃除用具をきちんと揃えておく
の三点である。
いくら清掃が大切だといっても、実際問題として、お店のすべての部分を毎日、くまなく清掃することは物理的に不可能である。現実には、お客の日につきやすい箇所や効果的な箇所を重点的におこなうことになる。そのため、重要度の高い清掃を優先しながら、すべての箇所に清掃が行き渡るような計画性が必要だ。

上記、表1は、短時間でもっともきれいにできる清掃計画を実現するための、清掃基準表である。

お店の中を、汚れが日立つ、あるいは汚れやすい順に細かく分割して、1日に何度も清掃する箇所(時間)、日回の箇所、週に一回ないし複数回の箇所、月に一回の箇所とあらかじめ決めておき、それぞれの箇所の清掃ポイントを示す。

これを毎日のタイムスケジュールに組み込み、さらに、どこを誰が清掃を担当するのか以下表のように決めて、お店の清掃度に対する責任を個々の従業員にもたせるのだ。

②はマニュアルそのものの内容の問題である。汚なさの感じ方が人それぞれなように、ぞうきんがけひとつひとつとっても、人によってやり方が違うクセもある。角を丸く拭き残す人は、掃除機をかけても同じようにやるものだ。神経の鈍感な人は、誰が見ても汚れているダスターで、平気でお客の日の前のテーブルを拭く。こういうことが多くのお店で、ごくぶつうにおこなわれているのである。しかし、やり方が悪いと叱るよりも、まず正しいやり方を教えることが先決だ。

たとえば、テーブルの拭き方なら、

(1) テーブル用のきれいなダスターを使用する
(2) まずテーブルの外周を角から角に向かって拭き、
(3) その中を左←右←下←左←下←右と拭くという具合に、具体的にいちいち指示することが大切だ。これくらいのことはわかるだろうという思い込みがいちばんいけない。また、当然、従業員の中にも、それくらいのことはわかっています、という人もいるだろう。しかし、それでも一からきちんと教えなけれ統一するため、と説明すべきなのだ。

一人でも違うやり方をする人を認めると、それが必ずマニュアルの有名無実化につながっていく。正確に守ってこそのマニュアルなのである。

清掃用具もつねに整理整頓して同じ場所に保管してあれば、気がついたときにすぐにやれるようになる。

洗剤や殺菌・防臭剤、バケツ、ブラシ、モップ、ぞうきん類などがそろっていないようでは「清掃しろ」というほうが無理である。道具がなければできないし、後回しにしているうちにやらなくなってしまう。

「店を清潔に」の習慣は従業員の休憩室から

店内をいつも清潔に保つには、マニュアルや清掃のチェックリスト、掃除のしやすい器具や道旦(が必要である。しかし、もっとも大切なのは結局、他人に対する思いやりの心なのだ。本書の最初で、飲食業は奉仕業だといったが、他人を気持ちよく過ごせるようにしてあげようという奉仕の心こそ、サービス業のホスピタリティの原点である.そして、この思いやりの心は、たんなるマニュアルでは決して身につかない。強制してしかできないようでは、必ずボロが出るし、タガが員が自然に思うようにすることが大切なのだ。

そのためには、まず店長室を整理整頓することだ。

そして、従業員の休憩室もきれいに使う習慣をつけさせることである。寮がある場合は当然、寮の清掃を厳しくしつける必要がある。私生活で汚れた状態が平気なようでは、お店が汚れていても気にならなくなってしまう。店長室がいつも乱雑でホコリがたまっているようでは、いつまでたってもクレンリネスなど実現できない。休憩室は従業員が心身をリフレッシュし、また従業員同士、店長と従業員がコミュニケーションをはかる大事な場所である。まず、ここからきれいにする習慣をつくることだ。

清掃は地味な作業である。また、誰もがイヤがる作業ともいえるだろう。しかし、お客の評価はたちどころに下される。お客は何よりも不潔なお店を嫌う。お店の人間にとっては、「あまり汚れていない」状態でも、お客の目には不潔に映るのだ。このことを忘れてはいけない。

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マニュアルの上手なつくり方(1)サービスマニュアル

サービスマニュアルに含まれる四つの基本的事項

サービスマニュアルの基本は、

①身だしなみ=服装、髪型、手指の爪など
②言葉遣い=接客用語、主な敬語の使い方
③基本動作=お客が来店してから帰るまでの一連の動作(客待ち時の態度も含む)

――の3つだが、そのベースとなるのは、
④愛客精神=飲食店の売りものは「お客への愛」
――である。サービス業としての素晴らしさ、お客に喜ばれることの喜びが感じられなければ、従業員はたんなるロボットになってしまう。工場での流れ作業のように、決められた作業だけソツなくこなせばいい、という従業員ができあがってしまう。お客にもっとも嫌われるサービスとは、マニュアルどおりの言葉遣いと動作だけで、心のこもっていないサービスである。

あなたもお客の立場になってみればすぐに納得できることだが、お客はそんなことはすぐに見抜いてしまう。そして、やっかいなことに、こういうお客を不快にするサービスは、新人よりもむしろ、ベテランの従業員がやりやすい。

たとえば、ウエイトレスがあるテーブルに料理を運んだとする。そのとき、近くのテーブルからそのウェイトレスに声がかかる。よくあるケースである。ところがこの場合は、料理を運んだテーブルのお客からもほとんど同時に、追加オーダーが入ってしまった。ここで、このウエイトレスはどう対応すればいいのだろうか。

この場合まず、自分が料理を運んだテーブルのお客に接客しているのだから、その追加オーダーを受け、その後、近くのテーブルのお客の要望に応える――ふつうはそう考えるだろうし、それで間違いない。問題は、後回しにしたお客への対応の仕方である。

A社のマニュアルには、次のように書いてある。
―― こういう場合にはまず、いま接客しているお客に、「少々お待ち下さい」とことわってから、離れたテーブルのお客に対して軽く頭を下げ、「中しわけありません。すぐにまいりますから、しばらくお待ち下さい」と挨拶し、それから元のお客に向き直り、「お待たせいたしました。ご注文をおうかがいいたします」とオーダーをとり、その後、待たせているお客のテーブルに向かう――

ところが、往々にして、ベテランのウエイトレスは、後回しにするお客に対しての対応が通りいっぺんになりがちなのだ。マニュアルどおりの動作と言葉を使ってはいるのだが、その表情や言葉の響きに「申しわけありません」という気持ちがこもっていないのである。

とくにピーク時でお客がたて込んでいるときなど、まるで立て板に水のように「処理」できることを、得意がっているとしかいいようのないウエイトレスも珍しくない。

これが、愛客精神の欠如なのである。入社した当初は、「お客さま第一」と教えられたかもしれない。ところが、お店の方針や空気がマニュアル(作業指示)

順守に傾いているために、いつの間にかそれを忘れてしまう。最悪の場合は、手際よくお客をあしらえることを誇りに思うようにさえなってしまう。それが仕事の習熟度の証しだと、勘違いしてしまうのである。

多くのマニュアルに欠けているもの

A社のマニュアルは間違ってはいなかったが、不備な点があった。後回しにするお客への対応の仕方として、言葉と動作だけでなく、(本当に申しわけありませんと思い、その思いを言葉や動作に込めること)というただし書きをつけるべきなのだ。

このただし書きは、たんにそうすることによってウェイトレスが笑顔で対応するようになる、というだけの意味ではない。一つひとつの接客の場面で、いちいちこういう「心」の部分を付け加えておくことで、ウェイトレス自身が、自分で接客には何が大切なのかということを考えるようになるのである。つまり、自分がサービス業に従事していることの意味、そして喜びを理解するようになるのである。

この理解がない限り、どんなベテランであろうとサービス業のプロとはいえないし、大局的に見れば、そういう従業員の存在は、お店のマイナスでしかないということなのだ。

もちろん、新人にしても同じである。マニュアルが「作業指示書」でしかない限り、お客に「いい加減にしてよ―」と思われる。お仕着せ人形のオンパレードになってしまう。

マニュアルをベースに個々の担当者の人間的な良さをプラスする

サービスマニュアルというのは、調理マニュアルや清掃マニュアルと根本的に性格が違う。ほかのマニュアルはそれだけマスターすれば一応問題ないが、サービスマニュアルはそうはいかない。

もしも、サービス担当者が全員、サービスのプロであるとすれば、基本になるお店のコンセプトを全員で確認し合ったうえで、個々のサービス担当者が、どうしたらお客に喜ばれるかを考えるべきであろう。それが本来のあり方である。しかし、現実はプロ集団ではないのだから、サービス担当者として身につけておくべき、最低限度のサービスを教えなければならない。

それを誰にでもわかりやすく理解させるための教科書が、マニュアルなのである。マニュアルをベースに、個々のサービス担当者の人間的な良さを肉づけしてはじめて、質の高いサービスを実現することができる。マニュアルは、それをマスターすることでようやく、サービス担当者としてお客と接する資格を与えられる、ひとつの教材にすぎない。

つまり、従業員一人ひとりのハートをうまく引き出し、活かしてあげるためのもので、本当のサービスの向上はここから始まるのである。したがって、店長はマニュアル習得を目的化してはならない。なお、接客サービスに向いているのは必ずしも、器用で物覚えのいい人とは限らない。お客の心を動かすのは、接客の心と温かいハートの持ち主なのである。

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マニュアルの必要性と限界[マニュアルの一歩先へ]

だからマニュアルが必要なのだが

飲食店の仕事でもっとも大切なことは、自店のスタンダードをつねに維持することである。いつ、どのお客に対しても、一定のレベルの商品、サービス、雰囲気を提供しなければならない。これを仕事の均質化という。

口でいうのは簡単だが、これを従業員全員に徹底させることはむずかしい。だからどうしても、マニュアルが必要になる。では、なぜ仕事の均質化がそれほどむずかしいのだろうか。

第一の理由は、人それぞれ「常識」が違うからである。従業員教育の項でも述べたが、この違いは非常に大きい。自店のスタンダードといっても、観念的な表現では、全員がそれを具体的にかつ同一に理解することは、ほとんど不可能である。

たとえば、お客に感謝の気持ちをもて、ということなら誰でも理解できる。しかし、その感謝の気持ちをお客に対してどう表現すればいいのかとなると、これは難間である。「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」がちゃんといえればいいというものではないからだ。

オーダーのとり方ひとつ、テーブルヘの皿の置き方ひとつでも、お客は従業員の態度に敏感なものだ。かりに従業員に悪気がなくても、お客は内心、「なんだ、この店は!」とあきれているかもしれない。また、同じ接客用語でも、いい方や顔の表情、身体の姿勢でその印象はずいぶんと変わってくる。

とくに教えもしないのに、生き生きした表情で明るく、ハキハキと接客できる人もいれば、蚊の鳴くような声でしかモノをいえない人もいる。心の中で感謝していても、それがはっきりとした言葉や態度に表現されていなければ、お客には伝わらない。そして、飲食店では、お客に伝わらなければその感謝の気持ちはないも同然なのである。

調理の場面で考えると、もっとわかりやすい。たとえば、飲食業では分量を「一人前」で表現する。しかし、一人前という分量ほど曖昧な単位はない。極端な話、人によっては三倍近い違いが出るのだ。そこまででなくても、熟練した職人以外の目分量ほど当てにならないものはない。だから、各材料の使用分量をあらかじめ決めておく必要があるのだ。作業工程についても同じことである。

マニュアルのジレンマ

人それぞれ常識が違えば、当然やり方が違う。それなら、そのやり方を統一すればいい。そればマニュアルの考え方だが、しかしマニュアルはベストではない。この点をとくに強調しておきたい。

たしかに、自店のスタンダードを維持するためにはマニュアルは必要なのだが、マニュアルはたんに、従業員をロボットのように操るためのものではないということだ。ここを勘違いしてマニュアルに頼り切っていると、お店のスタンダードは必ず低下していくことになる。この点がサービス業のむずかしいところである。

お店の側が従業員はロボットでいいと考えていれば、従業員も当然そう解釈し、自然とロボット化していく。つまり、お客への感謝の気持ちが次第に薄れていく。

接客用語や接客動作は上達しても、お客にとっては不快なサービスになってしまう。たんなる形だけのサービスであることがミエミエだからだ。

マニュアルのこのジレンマに陥っているお店は実際、数え切れないほど多い。あなたもうすうす、そのことに気づいているはずであるcどうしてこういうことになるのかというと、 一般にマニュアルが、たんなる作業指示書でしかないからである。

もちろん、従業員といってもいろいろな人がいる。しかも、その大半は、パート・アルバイトであり、まったくの新人教育から始めなければならない。また、急速に店舗展開しているチェーン店では、チェーンとしての形を維持するため、従業員のロボット化が不可欠という事情がある。だから、従業員の足りない分は店長が補っていけばいい、という考え方になるわけだが、この考え方は非常に危険である。

マニュアルの一歩先を行くのに店長のなすべきこと

それなら何が特効薬でもあるのかというと、そんなものはない。従業員は、自店で育てていくしかないのである。

ただし育てるとは、ロボット化することではない。当店では、どういうふうに仕事をすればいいのか、そのやり方を示してあげることは絶対に必要だ。しかし、それで教育が終わるわけではない。教育はそこから始まるのである。

それでなくても忙しいのに、パート・アルバイトにまでそんなことをしていられるか、という店長や経営者がよくいる。しかし、それはすでに自店のスタンダードの維持というお客に対する義務を放棄しているか、最初からスタンダードの実体がなかったか、そのどちらかである。

マニュアルはあくまで、従業員の教育・訓練・しつけの一ツール(訓練ツール)でしかない。このことを正しく認識し、実践してはじめて、マニュアルの本来の意味が生きてくるのである。

従業員の教育・訓練。しつけについての考え方は、会社によってさまざまだろう。店長の独断で会社の方針を変えるわけにはいかないことは、いうまでもない。

しかしそれでも、かりに会社の考え方に欠陥があったとしても、現場の店長次第で、かなりその欠陥を補うことができる。

逆にいえば、どんなに会社の方針が立派なものであっても、従業員を預かる店長がきちんと理解していなければその方針は何にもならないのだ。

マニュアルのとらえ方は、店長の従業員教育の出発点である。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。