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第1章 居抜き店舗を薦める理由

思い切った発想の転換が成功を呼び込む

従来、飲食店のオープンといえば、まっさらな新店舗の物件を探して、そこに一からお店づくりしていくというのが常識だった。いや、いまでもなお、これが常識と信じている人は多い。飲食店の経営を考えている人には当然、自分の理想のお店像があるだろう。こんなお店を経営してみたいという夢があるはずだ。いろいろなお店を利用しながら、あるいは飲食店を紹介している雑誌を見ながら、将来の「自分のお店」を思い描いていることだと思う。それはそれで素晴らしい夢である。

また、現在、飲食店に調理師やサービスマンとして働いている人たちにとっても、自分のお店を持つことは大きな目標に違いない。そして、苦労して一国一城の主になるのだから、自分の思い通りのお店にしたいと思っていることだろう。その気持ちも私にはよくわかる。毎日、勤務先のお店を見ているわけだから余計に、自分だったらこんなお店にしたいという気持ちが強くなるのだろう。

夢を持つのはいい。ただし、ビジネスとして成功させたいと思うなら、夢を追うだけではいけない。いま、 一般的な「自分のお店」という夢について取り上げてみたが、ここで何か気づくことはないだろうか。それは、お店の店舗自体のことに、あまりにこだわりすぎているということだ。

どんなお店にするのか。そのプランを具体的に詰めていく作業をコンセプトづくりという。そして、飲食業は料理や飲み物を通して、お客様に楽しく豊かな時間と空間を提供するビジネスである。ただお客様が注文する料理を出せばそれでいいというものではないし、快適な場所さえ提供すればいいというものでもない。商品(料理)、サービス、雰囲気のトータルな付加価値を提供することで、お客様に喜びを売るビジネスだ。

さて、ここで気づかなければいけないのは、店舗とはそのトータルな付加価値の一部にすぎないということである。たしかに、お金をかけて優秀なデザイナーを使えば、快適な空間をつくることができるだろう。

しかし、飲食店に求められるのは、たんなる快適空間ではない。料理はもちろんとして、そこに人(お店のスタッこによる温かいサービスが加わることで、本当に楽しく快適な空間になるのだ。どんなに立派な店舗でも、質の高い料理とサービスが伴わなければ、お客様にとって価値のある空間にはならない。お店の雰囲気づくりでは店舗の内装そのものも大事だが、それを生かすのはあくまで料理とサービスなのである。

実際、店舗自体にお金をかけていなくても、気分よく過ごせるお店はたくさんある。料理がおいしくスタッフの配慮もキメ細かい。そして、店舗はけつして新しくはないが、いつも清潔感に満ちている。この究極のケースは老舗だが、お客様は、こういう付加価値のバランスのとれたお店に、本当の飲食店の価値を感じるものなのである。

バブル時代の一億総グルメを経験したいまのお客様は、外食に慣れ、お店を評価し選択する能力をしっかりと身につけている。何が本当のお値打ちなのかを見抜く目を持っている。飾り立てても中身がなければ、目を向けてくれない。いま、世の中はあらゆる分野で大きく変化しているが、飲食業も変わらなければならない時代にきている。お客様の「常識」が変わっているのだから、お店側も古い「常識」を捨てなければいけない時代なのだ。

飲食店経営者にとって、店舗は自分の城だ。そこに思い入れを込めたい気持ちは痛いほどわかる。しかし、これはビジネスなのだ。ビジネスとして成功できなければ、立派な城など何の意味もないのである。なぜ新店舗でなければならないのか。なぜ居抜き店舗ではダメなのか。ここをよく考えてみることだ。

新しい時代には新しい価値観が必要だ。思い切って発想を転換してみよう。そうすれば、居抜き店舗の魅力がはっきりと見えてくるはずだし、成功もぐんと近づいてくるはずだ。

前店の顧客を取り込める可能性がある

一般に、居抜き店舗は前の経営者が失敗して手放すお店である。

もちろん、ひと口に失敗といってもいろいろなケースがあるわけで、三〇〇〇店以上を指導してきた私の経験からいわせてもらえば、ちょっとやり方を変えていれば再建できたというケースは少なくない。あるほどだ。まったくお客様が入らなかったというのは、むしろ稀なケースといえるだろう。

また、これも数は少ないものの、別に経営に失敗したわけではないというケースもある。たとえば、経営者が高齢で引退したとか、病気にかかってしまって泣く泣くお店を閉めた、といったケースである。経営者本人は元気なのに、長年のビジネスパートナーだった奥さんが思い病気になったり亡くなってしまったために、やる気を失ったというケースもある。

このように、居抜き店舗が売りに出されるのにはいろいろなケースが考えられるわけだが、ここで大事なポイントは、大半の場合、そのお店についていたお客様がそれなりにいたということだ。では、それらのお客様は、お店がなくなってしまってどうしたのだろうか。外食が毎日の生活に溶け込んでいるいまの時代、そのお店がなくなったら外食はしないということは考えにくい。ほかのお店に行くようになつたと考えるのが妥当だろう。

ところで、いまは飲食店などいくらでもある時代だ。あなたなら、 一店くらいなくなったところで影響はないと思うだろうか。もしも本気でそう思っているのなら、すぐに考えを改めたほうがいい。お客様というのは意外と情緒的というか、「自分のお店」意識というのをけっこう強く持っているものなのだ。

また、その「場所」にあつたから利用していたという人もいるはずである。とくにポピュラープライスのお店では、お客様の利用動機は日常的で気軽な場合が多い。遠くまでわざわざ出かける気はしないけれども、近所だからとか駅に近いからなど、利便性があるから利用するというケースである。

このように、前のお店がなくなってしまつたために不便さや不満を感じているお客様は必ずいるものだ。したがつて、居抜き店舗でオープンすると、それら前のお店のお客様をかなり取り込める可能性がある。とくに「場所」を重視していたお客様の場合、オープンしたお店が彼らのニーズと合致したお店づくりであれば、何の違和感もなく「戻ってきてくれる」可能性大なのである。

居抜き店舗についているのはお店の造作だけでなく、いわば「お客様付き店舗」でもあるわけだ。

開店準備期間が短縮できる

経験のない人にはイメージしにくいかもしれないが、飲食店のオープンというのは、想像以上に大変で時間のかかる仕事である。とくに、店舗の工事は手抜きをしたり、突貫工事を敢行するというわけにはいかないから、それなりの時間がかかることを覚悟しなければならない。

一般的な新店舗でのオープンまでの手順を具体的に追っていくと、次のような流れになる。まず物件探しがある。物件が決まれば設計施工業者に依頼して、どんなお店にするのかを煮詰めていかなければならない。内外装のデザインはどうするのか。自分の思い描いていたお店にしたいところだが、投資できる予算の制限もあるから何もかも自分のイメージ通りにというわけにはいかない。業者と

相談しながら、デザイン、材料などを決めていくことになる。設計が決まってようやく内装工事に入る運びとなるが、ここからがまた大変だ。個店の工事は、チェーン店のようにユニットを組み立てていくわけではない。マイホームと同様、基本的にオリジナルの大工工事である。しかも、ここでも予算があるから、工事の人数も限られてしまう。

そうこうしている間に一カ月などすぐに過ぎてしまったりするわけだが、忘れてはいけないのは、この工事の間も家賃は発生しているということだ。まだ営業していない、つまり利益を生み出していないのに、家賃という経費は支払っている状態。それが工事期間中なのである。一方、居抜き店舗でのオープンの場合はどうかというと、このカラ家賃を支払う期間を大幅に短縮することができるのだ。

では、どれくらい短縮できるのか。これは、店舗物件そのもののつくりや古さ、そして、どんなお店にするのかという営業プランによっても違ってくるが、通常の半分程度が目安になる。居抜き店舗とは、厨房設備や空調設備などの設備機器類からイスやテーブルなどの什器備品まで、お店の営業に必要なものが一応揃っている物件である。それらの造作をそつくり譲り受けるために造作譲渡代金を支払うが、一般の新店舗に比べて、保証金などを含めた取得費自体はかなり安くなるが、この造作がすでにあるということが大きいのだ。

新店舗の場合は、 一からすべての工事をしなければならない。しかし、居抜き店舗の場合は、すでに揃っている内装や設備機器類を上手に利用する改装工事だ。工事期間を大幅に短縮できるのはそのためである。

居抜き店舗の活用は社会的にも貢献する

飲食店ビジネスには、さまざまな業界が密接に関わっている。

まず、自分のコンセプトを実現しやすい店舗物件を探すには不動産業者の協力が必要だし、店舗の内外装では設計施工業者の手を借りなければならない。付加価値の高い商品づくりでは、食材納入業者との連携が不可欠である。

ただ、これら関連業界は、昨今の不況で大きな打撃を受けている。外食マーケットそのものが縮小傾向にあるうえ、個店の新規出店が減っているためだ。また、かりに受注できたとしても、値下げ競争が激しくなっているため、利幅は非常に薄い。

飲食店ビジネスは、自店だけで成り立つものではない。さまざまな関連業界と共存共栄の関係にあるわけだ。逆にいえば、関連業界が衰退していけば、必然的に飲食業界も衰退してしまうということだ。個店の経営者はあまりこういうことを考えない傾向があるが、関連業界とのつながり、パートナーシップを大切にするということは、実は非常に重要なテーマなのである。

さて、飲食店の開業希望者の要望を聞くと、居抜き店舗は通常、新店舗に比べてはるかに人気がない。その理由は別項で述べたが、大きなところでは、前の経営者が失敗した店舗だからとか、自分の思い通りのお店ができないといった理由が挙げられる。しかし、前の経営者が失敗したことと、自分が成功できるかどうかの間には、直接の関係はない。問題は、その物件の立地条件とその条件の生かし方、つまりお店づくりの方法論にある。成功できるかどうかは、どんなお店をつくれるかどうかで決まることだ。

また、たしかに居抜き店舗は造作(内装や設備機器類、什器備品類)がひと揃い揃っている店舗だが、それらをそのまま使わなければならないという決まりなどどこにもない。というより、その造作を生かしながら、なおかつ新しいお店がオープンしたことを明快に主張できるお店につくり変えるのが、もっとも上手な活用の仕方である。

そして、新店舗では資金的に無理な人でも、居抜き店舗なら手が届く。つまり、新規オープンのチャンスが増える。そうして居抜き店舗でお店をオープンすることが、関連業界に仕事を生み出すことになり、ひいては飲食店ビジネスを盛り上げていくことになるわけだ。いま全国には一七万件以上の居抜き店舗があるが、それはそのまま、その数だけ大きなチヤンスがあるということだ。

一方、新しいお店ができるということは、消費者にとっては選択肢が増えるということであり、それがいいお店であれば、他の地域に流れてしまつていたニーズをその地域に取り戻すきっかけにもなる。これも立派な社会的貢献である。また、地元に住む人たちのパート・アルバイト先としての貢献も特筆しておきたい。

「多店化」こそ最大のテーマ

これからの飲食店経営は、多店舗展開しなければ安定しないというのが、私の持論である。たとえ個店であっても最低三店は持つべきだと考えている。そして、そのために活用してほしいのが、家賃・保証金の安い居抜き店舗なのだ。ここ一〇年ほどで、飲食業界は大きく様変わりしている。まず、お客様のニーズがどんどん変化、多様化している。時代が変わればお客様のニーズが変わるというのは当然の話だが、最近は変化のスピードがますます速くなつている。

バブルがはじけた後の長期不況もこの業界を大きく変えた。飲食店は昔から不況に強い商売といわれてきた。それは事実だったのだが、その神話に陰りが出てきたのである。外食のマーケットそのものの縮小化に加え、再開発や大型商業施設の出店。撤退などによる立地の急激な変化も目立つ。さらに、個店の場合、繁盛店が衰退していく大きな要因がもうひとつある。それは、経営者が年をとっていくということだ。いまはお客様のニーズに対応できていても、お店そのものを存続できなくなる日が必ず来る。

飲食業は一種の製造販売業である。とくに個店の場合は、多品目少量生産・販売が基本だ。そのため、労働集約性が極めて高い。つまり、他の業界に比べて非常に人手がかかる仕事である。お客様を迎えるためには朝早くから仕込みをしなければならない、午後のアイドルタイムすら仕込みに追われるのがふつうだ。もちろん、営業のピーク時には猫の手も借りたいほどの忙しさになる。そして、閉店後の後片づけ。繁盛すれば繁盛するほど、まさに体力勝負になる。

結局、経営者をはじめとするスタッフの頑張りによつてかろうじて支えられている。それが個店の宿命だ。しかし、現実問題として、そんな重労働をいつまで続けていくことができるだろうか。年齢を重ねれば、体力は確実に落ちていく。経営者一人の力でどうにかなるというのは、いま現在の話であって、将来の保証にはならない。しかも、年金や保険すらアテにならなくなる時代である。

私が積極的な多店化をめざそうといつているのは、そういう理由からである。 一店をなんとか守り抜こうという消極的な経営姿勢から、なんとしてでも二店日、三店目を出店していこうという発展型経営に、頭を切り替えるべき時期にきているのである。

では、どうして最低でも三店なのかというと、三店あれば、もしも一店がダメになったとしても残りの二店でより有利に生き残ることができるからだ。

というより、一店を守るためだけにアクセクして年をとつてしまうというのでは、あまりにも悲しいではないか。せっかく飲食店をオープンして、繁盛させようと努力するのである。その先には、経営者としての楽しい人生が待っていてくれなければ、頑張りも続かなくなるだろう。これからの時代、飲食店の経営者として楽しく生きるためには、「多店化」こそ最大のテーマになる。

多店化などというと、大手のような資金力がないとか理由をつけて、自分には関係のないことと思い込んでしまう人がいるが、実はそんなことはない。要は考え方、やり方の問題なのである。とくに、これからお店をオープンしようという人には、声を大にしていいたい。あらかじめ、少しずつ経営規模を拡大することを計画に織り込んで、その目標に向かって経営を進めてほしい、と。これを私は「ステップアップ方式」と呼んでいる。

実際、私たちコロンブスのたまごでは、小規模店からスタートし、三年目に二号店、五年後には三号店を出店する三段階方式の開業支援を行っているが、そこでも居抜き店舗を積極的に活用している。たしかに、多店化していくには資金力が不可欠だ。しかし、居抜き店舗は物件取得費や家賃が安いばかりでなく、厨房設備機器類や什器備品類など、お店のオープンに必要なものがひと通り揃っている店舗である。そのため、出店の投資額自体を非常に低く抑えることができるというメリットがある。

現状維持の発想は必ず衰退を招く。これからの時代を楽しい経営で生き抜くには、多店化への明確な意志を持たなければいけない。居抜き店舗をどう活用するかは、まさに時代のテーマでもあるわけだ。

有利な「場所」の確保という割り切りも大事

飲食店の成功は、出店する立地条件に大きく左右される。立地がよければ成功の確率が高い。テナント物件の立地に一等地、二等地といった評価があり、家賃・保証金が違うのもそのためだ。もちろん、立地さえよけば、どんなお店でも必ず成功できるということではない。どんなに有利とされる立地に出店しても、その立地特性を生かせなければ成功はむずかしい。飲食店の成功の最大の決め手は、メニュー価格とお店づくりが立地のニーズに合致していることである。

しかし、立地がよければ、条件の悪い立地に出店するのと比べて格段に成功しやすくなる。この事実は動かない。だから、有力飲食企業など資金力のあるお店は、家賃・保証金が高いにもかかわらず、こぞって一等地に出店しているわけだ。家賃・保証金が高ければ当然のことに損益分岐点が高くなるが、その分を吸収して余りある売上高を確保できるからである。

本来、飲食業は立地の不利を克服できるスモールビジネスだ。実際、路地裏など明らかに不利な立地なのに繁盛店、地域一番店の座を確保している個店は少なくない。彼らはなぜ、そんな立地でオープンしたのか。理由はいうまでもない。資金がなかったからだ。不利なことは十分承知で「仕方なく」オープンしたのだ。しかし、個性的なお店づくりや質の高い商品、サービスで、見事にハンデイをはねのけてしまったのだ。

しかし、最近は飲食店の数がどんどん増えて競争が激しくなっているため、なかなかそうもいかなくなっている。これも事実である。したがって、これからの飲食店オープンでは、たとえ個店であっても、できるだけ有利な立地を探すべきなのだ。ところが、個店はここで大きな壁にぶつかる。資金力の問題だ。いい立地に出店したほうが有利などということは、だれでもわかつていることだ。わかつていながらできないのは、要するに資金が足りな

では、これからオープンしようと考えている個店には、成功の夢はないのだろうか。そんなことはない。何でも表があれば裏があるのと同じで、正攻法ばかりが能ではない。お金が足りないのなら、手持ちの資金でなんとかしようと知恵を働かせる。それができるのが成功者というものだ。これは飲食業に限らず、どんな業界にも通じるビジネスの成功原則のひとつである。

この原則を頭に叩き込んで、立地を見てみよう。たしかに、 一等地にある新店舗は家賃・保証金が高い。個店ではとても手が届かない物件ばかりかもしれない。多少無理して借金すればなんとか借りられるかもしれないが、損益分岐点が高くなってしまうことを忘れてはいけない。 一般の個店の飲食店ビジネスは、客数を稼げる大型店舗や薄利多売商法を確立している飲食企業とはわけが違うのだ。

そこで目を向けてほしいのが、居抜き店舗である。居抜き店舗は物件取得費も家賃も、新店舗に比べてはるかに安く設定されているのがふつうだ。 一等地だからといつて必ずしも成功できるわけではないといったが、実際、成功できなかったお店が「居抜き店舗」として売りに出されているのである。

はっきりいえば、居抜き店舗は失敗したお店の後釜である。しかし、前のお店が失敗したのは立地のせいではない。せっかくいい場所含工地)に出店しながら、お店づくりの方針を間違ったために成功できなかっただけである。つまり、立地特性を十分に生かしたお店づくりができるのなら、その店舗を使って成功できるということになる。しかも、立地条件が有利なのだから、より成功の確率が高くなるわけだ。

また、こういう考え方もある。たとえ資金的には余裕があったとしても、自店のコンセプトに合う新店舗の空き物件が見つからないという場合だ。だれもが、できるだけ立地条件のいい物件を探しているのだから、手頃で条件のいい物件が簡単にみつかるとは限らない。むしろ、年々むずかしくなつている。それなら、立地条件さえよければ居抜き物件を避ける必要はないはずだ。物件探しでいちばん大事なのは、自分のビジネスにとってもっとも有利な「場所」を確保するということなのだ。居抜き物件でも、お店づくりは後からどうにでもできる。ビジネスで成功するには、本質を踏まえた「割り切り」も必要なのである。

居抜き店舗でも自分らしいお店づくりはできる

これまで見てきたように、居抜き(中古)店舗とは内装から設備機器類まで、営業に必要なほとんどすべてのものが揃っている店舗である。もちろん、それらの内装や設備機器類は、安いとはいえお金を出して前の経営者から買う(内装譲渡)わけだから、できるだけ流用できるに越したことはない。

ただし、それはあくまで前提である。前のお店のそっくりそのままでオープンしたのでは、お客様にはお店が変わったことがわからない。というより、場所は同じでも、前のお店とはまったく違う新しいお店がオープンするからこそ、お客様も来てくれるのだ。何度もいうが、ここを勘違いしてはいけない。

つまり、居抜き店舗でも自分らしいお店づくりはできるのである。というより、居抜き店舗を利用しながらいかに自分らしいお店にしていくか。そこに成功のカギが潜んでいるわけだ。前のお店のままなら、それはたんなる流用にすぎない。そうではなく、使える内装や設備機器類を利用しながら、なおかつそこに、自分らしいカラーを打ち出していく。そこまでいって初めて、居抜き店舗を「活用する」ということができるのだ。

これは別に言葉遊びではない。何かを活用するというのは、それを「より生かすこと」である。店舗の場合は、より生かすべきものは譲渡された店舗であり、前のお店とは違う、新しい価値を生み出すことこそが本当の「活用」ということになる。居抜き店舗だから自分のカラーを出せないなどという人がいるが、それはたんなる思い込みか、あるいは、状況に応じた自分のお店づくりの発想ができないゆえの逃げ口上にすぎないのである。

たしかに、新店舗(カラ店舗)ならまだ形になつているものは何もないのだから、自分の思いどおりのお店づくりができるかもしれない。かもしれないといったのは、お店のコンセプトをしっかりと立てることができなければ、せつかくの新店舗でもありきたりのお店しかできないからである。

これは、いま営業している飲食店を見渡してみればすぐにわかることである。ほとんどのお店が新店舗でオープンしていながら、本当に独自性を主張できているのは一部のお店でしかない。大半のお店は、新店舗という優位性を生かすことができていない。つまり、自分らしいお店の実現は、新店舗か居抜き店舗かということと、直接の関係にはないということだ。

低投資こそ、飲食店オープンの最大のメリット

飲食業のメリットは、とくに技術や経験のない素人でもチャレンジできるということと、他のビジネスに比べて投資額がそれほどかからないということ、そして粗利益率が抜群に高いということである。つまり、お金の面での大きなメリットが二つもあるわけだ。

まず投資額だが、通常、小さな個店であれば初期投資額は概ね2〜3000万円以内に収まる。この程度の資金であれば、脱サラの人でも十分に用意できる金額の範囲内である。実際、貯金と退職金などを元に借入を起こして、独立開業する脱サラの人たち(飲食業の素人)は数えきれないほどだ。

粗利益率というのは、売上高から材料原価を引いた残りの金額で、売上高に対する粗利益の割合を粗利益率という。飲食業の粗利益率は65〜70%が標準だが、これは一般の小売業の粗利益率の3〜4倍、場合によっては五倍という高率である。さて、お店を運営するには、材料費のほかに人件費(社員人件費、パート・アルバイト費)や店舗の家賃、水道光熱費などさまざまな費用がかかるが、これら材料費以外の費用はすべて粗利益から支払われる。そして残った金額が利益となる。

これは小売業でも同じなのだが、粗利益率の高い飲食業は、粗利益率の低い小売業に比べて、各費用を支払うための余裕が大きいということになる。飲食業界は他の業界に比べて小さな個店が圧倒的に多く、しかも儲かっているが、これは実は、粗利益率の高さの恩恵があるからなのだ。

しかし、粗利益率が高いといっても、売上高が決まっている以上、各費用の支払い能力には上限がある。つまり、できるだけ利益を出すためには、できるだけ経費を抑えなければならない。当たり前の経営の基本である。

ただし、飲食店の経営には、経営努力では圧縮できない費用がある。それは家賃と借入金、この二つの費用だ。家賃というのは、営業していようがいまいが、毎日欠かさず発生するものである。また、借入金の返済も待ってはくれない。毎月きちんと元金と金利を支払っていかなければならない。

逆にいえば、同じ売上高でも利益を確実に大きくするには、まず家賃を低く設定することが不可欠ということになる。また、できるだけ借入金を小さくして、毎月の返済額を低く設定する必要があるわけ

だが、借入金が少なければ投資額の回収も早く進み、より大きな利益を得ることができるようになる。

そこで、居抜き店舗のメリットが浮上してくる。前節で説明したように、居抜き店舗でのオープン資金は通常の新店舗(カラ店舗)の3分の1である。この超低投資であることが、利益を出しやすいという飲食業ならではのメリットを最大限に引き出してくれるわけだ。少ない元手でたくさん稼ぐというビジネスの原則を考えれば、居抜き店舗活用がどれだけ有利かが、よく理解できるはずである。

居抜き店舗のメリットは「超低投資」

少ない元手でたくさん稼げるほうがいい。こんなことはだれもがわかっていることだし、できればそうしたいと思っているはずだ。ところが、飲食店をオープンしようとすると、なぜかこの大原則を忘れてしまう人が少なくない。不必要な、もっといえばムダな投資を平気でしてしまうことがけっこうあるのだ。

通常、小さな個店をオープンしたい人で、資金があり余っているなどということはないだろう。 一応は初期投資額の予算を立てているとしても、かかるお金はできるだけ少ないほうがいいに決まっている(もちろん、これは個人だけでなく、多角化を考えている企業の場合も同じはずだが)。だったら、できるだけ投資額を減らせる方法を真剣に考えるべきなわけで、その切り札が居抜き(中古)店舗の活用なのだ。

通常の新店舗での飲食店オープンでかかる投資額の大半は、店舗物件の取得費、内装工事費、厨房の設備機器費、空調設備費といった、店舗自体にかかる費用である。そのほか、イスやテーブル、調度品などの費用も店舗費用に含まれるが、これもけっこうな金額になる。

投資額を減らすためには、これらの費用の一部、または全部を削っていかなければならないわけだが、これが意外とむずかしい。たとえば、店舗物件取得費を削るとしよう。この取得費のうち初期投資で大きいのは保証金(敷金、権利金)だが、立地条件のいい物件は当然のことに保証金が高く設定されている。したがって、これを抑えようとすると、最初から立地条件の不利を背負うことになりやすい。

では、自分の意志が反映される内装工事費ならコントロールしやすいかというと、実はそんなことはない。たとえば、壁や床、天丼などの材料を多少落としたところで、それほど大きな違いは出ないからだ。設計料や工事自体にかかる業者の人件費など、基本料金自体がかかってしまうからだ。

また、せっかく自分のお店をつくるのだからという意識があるから、どうしても「いいお店にしたい」という欲が出てしまう。本当に割り切れば落とせる費用も、結局はほとんど落とせないということになりがちだ。イスやテーブル、調度品などの選定についても同じことがいえる。

一方、居抜き店舗は、以前営業していた店舗を、そっくりそのまま譲り受ける契約の店舗である。したがって、内外装はもちろん、厨房設備、空調設備などの設備機器類からイスやテーブルなどの什器備品まで、お店の営業に必要なものはほとんど揃っているわけだ。

もちろん、借りる時には保証金のほかに内装譲渡代(内装や設備類の譲渡代)を支払うことになるが、通常は保証金が新店舗に比べてかなり安いし、内装譲渡代金にしても、新たに工事したり設備を設置するのとは比べ物にならないくらい安く上がる。

店舗の年数や状態によって一概にはいえないが、居抜き店舗を利用した場合の店舗開業資金は、通常の三分の一程度で済むのがふつうだ。ただし、居抜き店舗でオープンするといっても、前のお店をそのまま引き継ぐということではない。オープンするのはあくまで、あなたのお店である。つまり、その立地のその店舗で、もっとも成功の確率の高いコンセプトのお店だ。

内装や設備機器類を譲渡されるのだから、それらを最大限に利用するのは当然である。しかし同時に、前のお店との違い=新しいコンセプトのお店であることをできるだけアピールすること。これが居抜き店舗での成功原則なのだ。したがって、看板を替えるのはもちろんこと、内外装でも修正しなければならない部分も出てくるはずだ。それについては、ある程度のお金をかけて手直しし、きちんとした形をつくらなければいけない。

飲食店はお客様が満足してくれてはじめて成り立つ。いくら低投資に徹するといっても、必要な投資を惜しむようではお客様は支持してくれない。要するに、メリハリのある投資をすることが大切なのだ。しかし、必要な手直しをしたとしても、通常は新店舗でのオープンの半分以下の投資額で収まるはずである。

なぜ新店舗でのオープンが多いのか

前節でも述べたが、新店舗(カラ店舗)でのオープンと居抜き(中古)店舗でのオープンの数を比べれば、カラ店舗でオープンする事例が圧倒的に多い。これは、昔もいまも変わらない。ではなぜ、みんながみんな、新店舗でオープンしたがるのだろうか。なぜ居抜き店舗はそれほどに敬遠されるのだろうか。ここでは、その理由について考えてみよう。

まず、カラ店舗でオープンしたいという最大の理由だが、これは極めて単純である。要するに、自分の思いどおりのお店をつくりたいということだ。すべてにおいて自分の好み、カラーを反映させたお店をつくりたい。そのためには、まつさらな状態のカラ店舗でなければ都合が悪いというわけだ。

私もその気持ちはわかる。長年、飲食店をオープンするのが夢だったという人や、脱サラなど飲食店経営に新たな人生を切り開こうと思っている人にとって、たとえ小さくても店舗は大事な自分だけの城である。いわば一国一城の主になるのだから、何事にも「新品」を求めたくなるのも無理はない。

しかし、当たり前のことだが、何もかも自分の思いどおりのお店などつくれるはずがない。いかにも現実的な話で申し訳ないが、予算は決まっているのだ。サラリーマン時代にはあんなお店、こんなお店がいいと夢を描いていたとしても、実際に店舗物件の取得、内外装の工事と具体的に話が進んでいくと、予算内でできることとできないことが、たちまちはっきりとしてくる。不本意ながらも諦めなければならないプランもあるだろう。ただ、内装費などで節約していくのならいいのだが、問題なのは、店舗物件でつまらない妥協をしてしまうことだ。

たとえば、商店街のいい場所にある物件は手が届かないからと、立地が不利な物件で手を打ってしまうことがよくある。居抜き物件だったらもつといい立地で借りられるのに、あくまで新品=カラ店舗にこだわるあまり、わざわざ不利な立地でオープンするのである。これでは、自分で成功から遠ざかっているようなものだ。

それにもかかわらず居抜き店舗を嫌がるのは、自分の好きなお店づくりができないということのほかにもうひとつ、居抜き店舗は失敗したお店というイメージを持っていることが大きい。

実際、居抜き店舗は、前の経営者が失敗して撤退したお店のことが多い。経営は順調だったのにお店を手放すというケースもあるが、大半は経営が行き詰まって撤退した店舗といっていいだろう。しかし、前の経営者が失敗したら、あなたも必ず失敗するのだろうか。そんなことはないはずだ。

たとえば、立地条件が非常に悪いといった明らかな理由があるのなら、まだ話はわかる。では、立地条件が悪くない場合はどうなるのか。立地がいいのに失敗するということは、それ以外に何か失敗要因があったことになる。言い替えれば、ほかの経営者が経営していれば失敗しなかったかもしれないということだ。

また、居抜き店舗でオープンすると前のお店の評判が影響するのではないかということを、気にする人もいるだろう。たしかにこれは大事なことで、前のお店が警察沙汰でも起こしていたとかいうなら、避けたほうが賢明だ。しかし、そんなケースは例外で、ふつうは、たんに経営力がなかったために失敗したお店である。しかも、いまのお客様は、その店舗の過去がどうだったなどということにこだわらなくなっている。前のお店の評判を引きずったというのは飲食店が少なかつた昔の話で、いまはこれだけたくさんの飲食店がある時代だ。よほどのことがない限り、場所は同じでもまったく新しいお店がオープンしたということをアピールできれば、別に問題はない。だから、居抜き店舗での成功事例がどんどん増えているのである。

新店舗でオープンしたからといつて、それが成功する保証になるわけではない。 一方、居抜き店舗でも、立地条件を含めてその店舗をうまく生かすことができれば成功できる。居抜き店舗の生かし方については後述するが、新店舗へのこだわりにあまり意味がないことは理解してもらえたと思う。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。