意外に思うかもしれないが、飲食店が成功できるかどうかということと、店舗が新しいかどうかということには、実は直接関係はないのである。まずは、この事実を正しく理解することから始めよう。
ちなみに、ここで「新しい店舗」といっているのは、居抜き店舗、つまり中古店舗に対して「新しい」といっているだけで、テナントとして入るビルやマンションが新築という意味ではない。
実際問題として、新築の店舗(新店舗)は数も少ないし家賃・保証金も高いのがふつうだから、初めてオープンする個人経営の小さな飲食店(個店)がテナント出店するケースはそれほど多くはない。ビルやマンション自体は中古だが、前のお店の内装などをされいに撤去して、ある店舗で出店するのがふつうである。新店舗も含めて、こういうまっさらの状態の店舗を「カラ店舗」とも呼ぶ。
さて、飲食店はカラ店舗でオープンするのが一般的だ。たしかにそれは事実である。居抜き(中古)店舗でのオープンは明らかに少数派だ。では、オープンした後の成功事例はどうなのだろうか。
やはりカラ店舗派が圧倒的なのだろうか。いや、そんなことはない。カラ店舗だから成功できて、居抜き店舗だと失敗するなどという法則などありはしないのだ。というより、一般にあまり知られていないだけのことで、実際には、居抜き店舗を上手に活用して、見事に成功を収めている事例はいくらでもある。
私はこれまで全国で3000店以上の飲食店を指導してきたが、その経験から断言できる。カラ店舗でオープンしなければ成功できないなどというのは、たんなる思い込みにすぎないのである。
また、居抜き店舗というと、何か安っぽいイメージを抱いてしまう人がよくいるが、これも根拠のない思い込みである。安っぽい店舗かどうかは、前のお店がどんなお店だったのか、そして、その店舗をどう活用したのかで決まることだ。たとえば、フレンチやイタリアンのレストラン、すし店、割烹など、いわゆる高級店の繁盛店でも、実は居抜き店舗を利用しているというケースは少なくない。そういう高級店では、居抜きのままではなく内外装にはかなり手を入れていることが多いから、はた目にはカラ店舗でのオープンと見分けがつかないということも多い。
しかし、たとえ高級店であっても、中古であることを簡単にカムフラージュできるというのは、ビジネス発想のできる経営者なら見逃すことはできないはずだ。
たとえば、前のお店がポピュラープライスの一般の飲食店だった場合、店舗自体にはそれほどお金をかけていないのがふつうだろう。しかも、何年か使用しているわけだから、それ相応に汚れもついているだろうし、傷んでいるところもあるはずだ。
しかし、それなら汚れたり傷んでいる部分を直したり隠したりすればいい。店舗の内装というのは、ちょっとした工夫でイメージがガラリと変わるものである。だから、プラス思考のできる経営者は、あまりお金をかけずに居抜き店舗の欠点を見事にカバーしてみせる。
つまり、居抜き店舗がどんなイメージの店舗に変身できるかは活用する人の考え方やアイデアの問題であって、頭から居抜きだからどうこうというのは、いかにも素人的な発想なのである。
このように、飲食店の成功は店舗の新旧で決まるものではない。たしかに、店舗は飲食店の要ではあるが、もっと重要なのは、その店舗でどんな価値を提供できるかということだ。立派な店舗なのに成功できないお店など、あなたの周りにも数えきれないほどあるではないか。
勘違いしてはいけないのは、お客様は、店舗を見るために来店するわけではないということだ。おいしい料理や気分のいいサービス、あるいは店内の雰囲気といった飲食店ならではの価値を楽しむためにお金を払うのである。
どうだろう。居抜き店舗に抱いていたイメージが変わってきたのではないだろうか。どうしてカラ店舗でオープンすることにこだわらなければいけないのか。この問いに対して、あなたは明快に答えることができるだろうか。
あなたがいま考えるべきことは、どうすれば成功できるのか、この一点なのだ。