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第2章 飲食店ビジネスの本質を知ろう

飲食店の業種業態とは何か

飲食店の開業を希望する人はたいていの場合、まず「何屋」をやろうかと考える。それはそれで別に悪いことではない。とくに脱サラなど飲食業の経験のない人は、技術的に無理がなく、自分が空きになれる業種を選ぶことが大切だ。それは、商売を長続きさせるための大事なポイントでもある。

しかし、業種だけ決めても、それですぐにお店をつくれるわけではない。もちろん、店舗だけならお金さえ出せばすぐにつくれる。しかし、実は業種を決めただけでは、どんな店舗にすべきなのかの方針すら立てられない。お店の方針を決定する根拠となるのは業種ではない。「業態」なのである。

業種とは、簡単にいえば主力商品のジャンルによる分類だ。 一方、業態とは「売り方」による分類である。言い替えれば、業種は「何を売っているか」であり、業態は「どのように売っているか」という違いになる。では、どうして「売り方」がそれほど重要な問題になるのか。それこそが、お客様のお店選びの最大のポイントだからである。

業態とは、どんな商品を、いくらで、だれに売るのか。その方針と仕組みのことであり、次のような要素に分解される。

・WHAT (何を)=業種および主力商品
・WHY (何のために)=お客様の利用動機
・WHO (だれに)=主要客層
・WHEN (いつ)=営業時間およびお客様の主な利用時間
・WHERE (どこで)=出店立地
・HOW (どのように)=売り方のスタイル、お客様にとっては楽しみ方のスタイル
・HOW MUCH (いくらで)=価格政策

私はこれら七つの要素を「飲食店の5W2H」と呼んでいるが、業種はこれらのうちのたった一つの要素にすぎない。残る六つの要素が決まらなければ、具体的にどんなお店をオープンすればいいのかわからないわけである。

たとえば、業種は「すし店」としても、どんなすじ店にすればいいのか決められない。すじ店には、客単価一万円以上の高級店から一個一〇〇円の回転ずしまでいろいろな業態がある。たんに「すし店」といっだけでは、どんなすし店なのかわからないが、業態で考えると、具体的な営業形態が浮かび上がってくる。だから、業態が重要なのである。

さて、このように業種業態の決定要素は七つもあるわけだが、これらのうちでもっとも重要な要素はHOW MUCH=価格である。つまり、「いくらで売るのか」ということだ。どうしてかというと、お客様が外食でお店を選ぶ時の最大の決定ポイントだからである。お客様の消費行動には必ず、予算があるものだ。大体いくらくらいまでなら出してもいいという腹づもりがある。

常識的に、1000円でも1万円でもいいなどというお客様はいない。そして、その予算は、お客様の消費動機=飲食店の利用動機(WHY)によつて決まる。たとえば、居酒屋を利用するといっても、会社の帰りに同僚と一杯やるお店と恋人とのデートで使うお店では、当然のことに予算が違う。なぜなら、お店に求める商品、サービス、雰囲気のレベルが違うからである。つまり、お客様はその時その時の利用動機によつて、利用する飲食店の業態を選択しているわけだ。

つまり、業態が曖味なお店は敬遠されやすいということだ。したがつて、確実にお客様を取り込むためには、自店がターゲットとする主要客層(WHO)や利用動機を絞り込み、どういう業態のお店なのかということを、わかりやすくアピールしていく必要がある。営業時間や出店立地、売り方のスタイルは、価格と利用動機、主要客層が決まれば、おのずと決まつていくものである。極端いえば、ビジネスに徹するのであれば、業種はそれら六つの要素が決まってから選択しても遅くはないということにもなる。

ところで、ここで大事なポイントがもうひとつ浮上する。それは、競合店とは必ずしも同業種のお店だけではないということだ。商圏内の同業態の飲食店はすべて、業種にかかわらず競合店となる。理由はもうおわかりだろう。お客様の消費行動には予算があり、お客様がもつとも優先するのは予算だからである。

こうして考えると、お店づくりとはたんに店舗をつくることではない、ということが理解できるはずだ。業種業態を明確にすることではじめて、どんな店舗にすべきかの方針が決められるのである。

飲食業は奉仕業

飲食業は「おもてなし業」である。おもてなしとは要するに、お客様がお店の中で少しでも気分よく過ごせるように一所懸命に尽くすという意味だ。真心を込めて尽くすから、お客様は喜んでくれる。そういう気持ちのいいお店だから、また来ようと思う。それがお客様の心理というものだ。つまり、いかにしてお客様に喜んでもらえるか、そこを追求することこそが飲食店の仕事ということになる。だから私はいつも、飲食業は奉仕業=尽くし業だといっている。

では、お客様に尽くすとはどういうことなのか。前節で、飲食店の価値は、商品、サービス、雰囲気の三つの付加価値の総合力で決まるといったが、これら三つの要素それぞれにおいて、お客様に満足してもらえるように努力すること。それがお客様に尽くすということの意味である。

たとえば、価格を抑えておいしい料理を出せるように工夫する。感じのいいサービスを心がける。こまめに掃除して店内をいつも清潔に保ち、小さいながらも季節の花を飾る。これらは皆、お客様に尽くそうという気持ちがあってはじめてできることだ。つまり、お客様に尽くすとは、つねにお客様の満足のために何かをしてあげたいと思い、それを細かい配慮として実践することである。儲かりさえすればいいという自分本位の考え方では、絶対にできないことだ。

飲食業を奉仕業と思えるかどうかで、結果は大きく違ってくる。本当に奉仕業と思っていれば、まず、お客様に心から感謝する気持ちが生まれる。当然、お客様を大事にしようと思う。だから、お客様の要望にはできるだけ応えようと思い、お客様が少しでも満足できるようにいろいろと気を使うし、そうすることでお客様が喜んでくれることが嬉しくてたまらなくなる。つまり、お客様の喜びが自分の喜び=働き甲斐になるわけだ。

お客様にしてみれは、こういうお店は満足度が高いから、また利用したいと思う。その結果、固定客が自然と増えていき、安定した繁盛店になれるわけである。一方、奉仕業と思えないお店はどうなるのか。もちろん、お金をいただくわけだから、一応の感謝の気持ちくらいは持っているはずだ。 一応のサービスもするだろうし、店内もある程度は掃除しておくだろう。

しかし、いろいろと注文をつけるような面倒なお客様には来てほしくないと思っていたり、食べ終えたらさつさと帰ればいいのにと思っていたりする。要するに、お客様がどう感じようと、そんなことにはあまり関心がない。売上さえ上がればいいと思っているわけである。こういうお店をお客様はどう思うだろうか。とても満足などできるはずがないし、当然、固定客などできるはずもない。立地がよければフリ客で何とかなるかもしれないが、いつまでたっても経営は安定しない。

お客様が喜んでくれればくれるほどお店は繁盛する。このことが本当に理解できれば、繁盛させることはけつしてむずかしいことではない

飲食店の価値は何で決まるのか

別項で説明したように、飲食店の粗利益率は群を抜いて高い。要するに、材料原価が低い。それなのにどうして、お客様は飲食店を利用するのだろうか。

いまはコンビニやスーパーやデパ地下に行けば、たいていの食品は揃っている。しかも安い。お酒も小売店で買ったほうがはるかに安いし、自宅やオフイスでも本格的なレギュラーコーヒーが飲める。それにもかかわらず、お客様はレストランや居酒屋、バーに行き、コーヒーショツプを利用する。なぜなのだろうか。

結論からいえば、お客様が飲食店を利用するのは飲食店ならではの付加価値を求めているからだ。付加価値があるから、高く付いても利用するし、納得してお金を払うのである。逆にいえば、付加価値を感じられないような飲食店は、お客様に利用してもらえないということになる。高い粗利益率に見合った付加価値がなければ、お客様は絶対に支持してくれない。繁盛するには、お客様に価値あるお店と認

では、飲食店の付加価値とは何か。それは、次の三つの要素で構成される。

・商品
・サービス
・雰囲気

これら三つの付加価値のレベルが対価として正当であれば、お客様は満足してくれる。対価以上と認めてもらえれば、固定客になってくれるわけだ。

ここで大事なことは、飲食店の価値は、これら三つの付加価値の総合力で決まるということだ。三つのうちのどれが欠けても、お客様の満足度は低くなってしまう。たとえば、料理はおいしいけれどもサービスがよくないとか、料理もサービスもいいのに店内が汚いといった理由でお客様に嫌われてしまう

お店はいくらでもある。実にもったいない話だが、飲食店の価値に対する経営者の認識が甘いと、たとえ調理技術があろうと、店舗にお金をかけようと、結局は繁盛できないということになる。

飲食店なのだから、料理さえおいしければサービスや雰囲気など関係ないと信じているお店は少なくないが、これはまさに三〇年前、四〇年前の貧しかった時代の発想だ。いまのお客様は外食に慣れて回が肥えているから、そこそこおいしいことなど飲食店として当然と思っている。お客様は、そこそこおいしいという前提の上で、自分の納得できるお店を選んでいるのである。

納得できる条件とは、快いサービスや居心地のいい店内である。料理がおいしくて、なおかつサービスがよく雰囲気もいい。お客様が支持するのは、そういう付加価値のバランスのとれたお店なのである。

忘れてはいけない。飲食店の価値とは、あくまでお客様にとっての価値だということだ。経営者がどう考えようと勝手だが、お客様に支持されなければ成功はできない。このことを正しく認識することが、成功への第一歩なのである。

外食はもっとも身近なレジャーだ

飲食店で成功したいのなら、絶対に忘れてはならないことがある。そのひとつが「外食はもっとも身近なレジャーだ」ということだ。飲食店は、単純にお腹が空いたから何か食べるという場所ではない。だれにとっても、もっとも身近なレジャーのための場所。それが飲食店なのである。これは非常に大切なことだ。

いまの時代、食品などあり余っている。コンビニに行けばたいていのものは揃っている。そして、あろうことかコンビニに負けてしまう飲食店が後を絶たない。その理由はいろいろあるだろうが、コンビニと同じ土俵で勝負しようとしていることが大きい。要するに、レジャーとしての外食ではなく、たんなる利便性としての食品を売ろうとしているわけである。これではコンビニに勝てるはずがない。なにしろ、弁当にしろ調理パンにしろ、コンビニの商品は飲食店よりもはるかに安いし、価格に対する付加価値も高い。

最近、飲食店の最大のライバルはコンビニというフレーズをよく耳にするが、本来、そういう考え方はおかしいのである。たしかに、飲食店もコンビニも食品を売っている。しかし、両者には決定的に違うこと、いや違っていなければならないことがある。それがつまり、レジャー性への対応ということなのだ。

ここでいうレジャーとは、生活に欠かせない喜びとか楽しみという意味である。もちろん、欠かせないとはいっても、それがなければ生きていけないというわけではないが、生き甲斐のかなりの部分はなくなってしまうだろう。旅行とかドライブ、スポーツといつた一般的な意味でのレジャーは、いつでもできるというわけではない。たまの楽しみだ。その意味では、三〇年前の外食はまさにそれだった。月に一回か二回、日曜日に家族で外食するというだけで、ちょっとしたお祭り気分になったものである。

もちろん、いまでも家族や友だち、恋人との外食が大きな楽しみであることに変わりはない。いわゆるハレの場である。しかし、外食に慣れたいまの人たちにとって、ただ飲食店を利用するというだけではレジャー=ハレの場になるとは限らない。昔なら、とりあえず外でふだんと違う料理を食べたりお酒を飲むというだけで完結していたが、いまの人たちはそれだけでは満足しないだろう。

どんなお店でどんな楽しみ方をするのかということが、何よりも大切な要素になっている。つまり、豊かな時代になって、お客様が飲食店に求めるレジャーの中身が大きく変化したのである。しかも、見逃してはいけないのは、いまはコンビニやデパ地下などの加工済み食品ばかりでなく、家庭内での食事のレベルも格段に高くなっているということだ。そういう「そこそこおいしい食事」に慣れ、さらに外食にも慣れているお客様を確実に呼び込むためには、飲食店ならではの、さらに高い付加価値を提供しなければならないはずである。そこに気づかないお店は、飲食店同士の競争はおろか、コンビニにさえあっさりと負けてしまう。

貧しかった時代(といっても、たかだ30-40年前だが)には、飲食というモノをポンと出してさえいれば、それだけで飲食店として通用した。しかし、いまは違う。料理がおいしいことは当然として、プラス豊かな時代にふさわしいレジャー性を提供できなければ、お客様は飲食店として認めてくれないのである。

ところで、豊かさと聞いてすぐにモノを思い浮かべる人がいまだにいるが、それはまさに、貧しかった時代の発想だ。いまのお客様が飲食店に求めている豊かさとは、極端にいえば料理やお酒ではない。料理やお酒も絶対に必要なのだが、それらはその場を盛り上げるための道具立てにすぎないのだ。では、

求めている豊かさとは何か。それは、ゆとりとか寛ろぎといった情緒的な価値である。飲食店を利用する第一の目的はあくまで、楽しく豊かな気分で過ごすことなのである。ただし、楽しく豊かな気分で過ごすことといっても、誤解してはいけない。お客様がそういう気分になるのは、高級感のあるレストランばかりではない。たとえば、小規模個店の繁盛店の代表格といえばラーメン店だが、繁盛しているラーメン店は別に高級店などではない。そういうことではなく、レジャーとしての楽しさがお客様をひきつけるのだ。

さらにいえば、繁盛ラーメン店と売れないラーメン店の違いは、実は「味」だけではない。おいしいことはもちろんのこと、楽しさも提供できているかどうかなのである。ここに、飲食店繁盛のための大切なヒントが隠されている。

少投資・高粗利益率のメリットを追求する

飲食業のビジネスとしてのメリットは、次の2つに代表される。

。投資額を低く抑えられる

。粗利益率が群を抜いて高い

もちろん、ひと口に飲食店といっても、店舗だけでも億単位のお金をかけるような高級店もある。しかし、そういうのはあくまでも例外である。資金力のない人でもオープンできる一般的な小規模店の場合であれば、初期投資額は概ね2〜3000万円以内に収まる。しかも、本書で私がお薦めしている居抜き店舗を上手に活用すれば、確実に2000万円以内の投資額でオープンすることができる。

いうまでもないことだが、この程度の資金なら脱サラの人でも十分に用意することができる。実際、小規模飲食店の開業は昔から、個人が独立するいちばんの近道として脱サラ組に重宝されてきたし、それはいまもまったく変わらない。というより、飲食業はますますサラリーマンの転職先として注目されている。

長引く不況下でリストラの嵐が吹き荒れた結果、サラリーマンの生き方が変わったとよくいわれる。終身雇用制や年功賃金といった日本的一雇用慣行が大崩れして、大企業に勤める人たちですらぬくぬくしていられなくなってしまった。とくに40代から50代のサラリーマンは人員整理の対象になりやすく、再就職もむずかしい。最悪の状況だ。

しかし、会社がアテにならないのなら自力で将来を切り開こうという積極的思考の人も少なくない。その意味で、飲食業は独立志向の時代の花形といっても過言ではない。話が少々それてしまったが、要は、飲食業とは個人レベルの少投資で開業できるということである。

それは言い替えれば、飲食業はだれもがチャレンジできるビジネスだということにほかならない。では次に、二つ目のメリットでぁる粗利益率の高さがどんなメリットなのか。そのことについて説明しよう。

粗利益公巳とは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額である。たとえば、800円で仕入れたものを1000円で売ったとしよう。この場合の粗利益高は200円、粗利益率は20%である。

飲食店の粗利益率は業種などによつて違ってくるが、 一般的なお店の場合は概ね65〜80%程度が標準になる。つまり、材料原価率は30〜35%ということだ。ところが、 一般的な小売業の粗利益率は、せいぜい20%程度でしかない。しかも、よく知られているように、小売業は激しいデイスカウント競争にさらされている。デパートが軒並み不振なのも、ディスカウント量販店にお客様を奪われているからだ。したがって、小売業で生き残るには、定価販売などほとんど考えられない。実際の粗利益率10%台など、当たり前の現象になってしまっている。

もちろん、ハンバーガーの安売り競争など、飲食業の世界にもディスカウントの波は押し寄せている。しかし、飲食業は小売業と違って、仕入れ値の決まった商品を値引きするわけではない。ここでは詳しいやり方は省くが、材料原価その他のコストコントロールや売り方のスタイルで対応できる余地が大きい。そのため、小売業のように粗利益率を露骨に削られないですむのである。

何業であれお店を運営するには、材料費のほかにいろいろな経費がかかる。大まかにいえば、人件費、家賃、水道光熱費などだが、当然のことに、材料費以外のこれらの経費は粗利益高から支払われる。そして残ったのが利益である。いまは家賃にしろ人件費にしろけっこうな金額になる時代だから、粗利益率が低いと、ある程度の売上があっても利益が出にくい。しかし、高粗利益率を確保できる飲食業なら、そこそこの売上でもしっかりと利益を確保できるわけである。

このように飲食業には、二つの大きなメリットがある。だから参入しやすいわけだが、勘違いしてはいけないのは、メリットがあることとメリットを生かすことは別問題だということだ。飲食業での成功はまさに、この二つのメリットをどこまで追求できるかということにかかっているのである。

とくに注意したいのは、店舗づくりなどで余計なお金をかけることで初期投資額を不必要に高くしてしまうことだ。せつかくのメリットを無視しては、結局はしなくていい余計な昔労を背負うだけである。

このことを肝に銘じてほしいと思う。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。