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第5章 居抜き店舗を甦らせるお店づくり

居抜き店舗改装のポイント(4) -厨房-

居抜き店舗の場合、基本的には厨房の改装の必要はない。というより、前のお店の厨房を流用することこそが、この店舗のメリットなのだから、できれば改装は避けたいところだ。

しかし、前のお店がどういうお店だったのか、また、オープン後何年くらいたつているお店なのかといったことで、事情もいろいろと変わってくる。

たとえば、前のお店が自分のやろうとするお店とまっく同じ業種業態だったとしよう。その場合、基本的には譲り受けた厨房をそのまま使用できるはずである。しかし、長年営業していたお店の場合、設備機器類によっては性能が落ちていたり、使い勝手が悪くなっていることも十分にあり得る。もちろん、契約の際には、その辺のチェックもきちんとして、使えない設備機器類があればその分、造作譲渡代金を安くしてもらうなどの交渉をしなければならないわけだが、そういう時は新たに購入するしかない。

一方、業種業態を変える場合は、厨房の設備機器類にもあちこち変更箇所が出てくることになるだろう。しかしその場合でも、使えるものはできるだけ使うというのが、居抜き店舗での基本である。

ところで、厨房というのは、必要な設備機器類が揃ってさえいればいいというものではない。それは絶対に必要な条件だが、もうひとつ、大切なことがある。それは、働きやすい厨房にするということだ。

たとえば、厨房機器メーカーのショールームなどに行くと、各機器類が整然としたレイアウトで展示してあったりするが、それが自分にとっての働きやすい厨房とは限らない。

そして、居抜き店舗を活用する場合は、この働きやすいという点で、多少のことは目をつぶらなければならない。しかし、それは使いにくさを諦めるということではない。

たとえば、調理台の高さが低すぎる時は台の高さを調節するとか、面倒がらずに工夫を凝らして、少しでも使いやすい厨房にするよう知恵を働かさなければいけないということだ。使い勝手というのは、ちょっとしたことで大きく変わるものである。

ただし、排気に問題がある場合は、きちんと改装しなければならない。もちろん、排気・空調関係で工事が必要かどうかということは、契約時に確認しておかなければならないことだが、逆にいえば、その工事をしてでも買い得な店舗かどうかという判断が先になることはいうまでもない。

また、厨房内の空調にも十分に気を遣うべきだ。それでなくても自分の思い通りの設備機器類やレイアウトではないのである。せめて冷暖房くらいはちゃんと効かないと、長時間の労働が続かなくなってしまう。自分は我慢できても、スタッフが長続きしない。

要は予算との兼ね合いの問題だが、厨房ではとくに、必要なこととそうでないこととを明確に区別してかかることが大切である。

居抜き店舗改装のポイント(3) -サンプルケース-

お店の外観のセンスはいいし、商品やサービスも悪くないのに繁盛できない、というケースがよくある。どうしてなのか。経営者は不思議で仕方がないだろう。しかし、お客様の立場に立てば、原因はおのずと見えてくる。要するに、初めての人にとっての安心感がないのである。

最近は、店舗のデザインに気を遣うお店が増えて、センスのよさを競い合うケースも少なくないほどになっている。それはけっこうなことだ。豊かな時代にふさわしいお店が増えることは、外食市場の成始まらないのである。

当たり前のことだが、飲食店のよさは、利用してみてはじめてわかるものである。たとえば、雑誌で見たとか知人から聞いたお店だったとしても、実際に席に着いて、サービスを受け、料理を食べて、店内の雰囲気を味わってみなければ、本当のところはわからない。ましてや、 一般のフリ客は何の予備知識もない人たちである。お客様になってほしいのなら、自店のよさを知らせる努力をするというのは当然のことだろう。

いくら見た目がよくても、安心感を感じられない、というより不安を感じさせてしまうようなお店では、知らない人が利用してくれるはずがない。

フリ客がもっとも不安に感じるのは、価格と商品の内容である。このお店にはどんなメニューがあって、いくらくらいかかるのか。お客様の最大の関心事はこれだ。お客様のお店選びは、その時の利用動機によつて変わる。そして、お客様の予算は利用動機によつて決まる。つまり、予算を立てられないようなお店では、安心して利用できないということになる。また、メニューにしても、自分の食べたい料理があるかどうかは、業種(看板、外観でのアピール)だけではわからない。

冒頭で書いた繁盛できないお店とは、要するに、こういう不安を抱かせてしまうお店である。原因は明快。サンプルケースがないからである。最近はどうかするとサンプルケースを軽視する傾向があるようだが、これではいけない。フリ客に安心感を持たせることは、固定客づくりの第一歩でもあるのだ。

もちろん、業種業態によつてはサンプルケースが似合わないとか、設置する場所がないといつた場合もあるだろう。だったら、メニュー表を掲示すればいい。

ただし、サンプルケースもメニュー表も、単純に価格とメニューの内容を知らせるためのものではない、ということも指摘しておきたい。もうひとつの役割は、それを見せることによって消費意欲を刺激することなのだ。

したがって、サンプルケースもメニュー表も、清潔感とセンスのよさが求められる。よく薄汚れたサンプルケースを見かけるが、これではかえつて逆効果だ。季節感を上手に取り入れるなど、工夫の余地はいっぱいある。

居抜き店舗改装のポイント(2) -アプローチ-

お店のアプローチ=外観は、いわばお店の顔である。顔ということはつまり、お客様に対してもっともインパクトがある部分のわけだ。

人間の場合で考えてみるとわかりやすい。初めて会った人がどんな人か判断する時、その人の顔の持つ役割は非常に大きい。美人だとかハンサムだということではなく、その人の人柄が読み取れるからだ。

誠実な人か、やさしい人か、それとも信用できない人か、顔を見た第一印象で、なんとなく判断するものである。

もちろん、その人の本当の姿は、顔だけではわからないだろう。しかし、ふつう人間は、自分の第一印象を無意識に優先するものだ。だから、初対面の人でも、すぐに打ち解けたり警戒したりと、対処の仕方が違ってくる。

お店の場合も同じである。初めて利用する人にとって、お店の外観の第一印象は非常に大きな意味を持つ。前節で看板の重要性について述べたが、看板が目に止まったからといつて、必ずお客様になってくれるとは限らない。だれにとっても、初めてのお店というのは不安なものだからである。

初めて利用する人にとって、迷う材料はいっぱいある。自分の知っているお店とどう違うのか、店内の雰囲気はどうなのか、感じはいいのか、料理はおいしいのだろうか、などなど。そういう不安をなくしてあげて、さらに「入ってみたい」と思わせる。それが店舗の外観の役割である。

一般の飲食店でもそうなのだ。前のお店を活用する居抜き店舗の場合、外観はさらに重要な役割を担うことになる。前のお店のイメージをまったく感じさせない、新しいお店としてのアピールカを持たなければいけないのだ。

お客様が入りたくなる外観は、まず感じのよさがあること。これが基本である。もちろん、デザインはお店の業種業態によつていろいろ変わってくる。しかし、どんな業種業態であろうと、どんなデザインであろうと、お店への期待感を持たせられる外観になっていなければならない。

期待感を持たせるにはまず、第一印象の感じがよくなければいけないわけで、同時に、デザイン的なセンスのよさも不可欠である。世の中には、見た日は悪くても中身はいいということもあるが、少なくとも飲食店にはそれはない。また、看板と同様に目立つ外観にしてお客様の目を引きつけるというのも大事なことである。

外観の改装では、見た目の印象を思い切って変えることが基本になる。「新しいお店」としてのイメージチエンジを強烈にアピールすることで、前のお店の記憶を消してしまうのである。といつても、必ずしも大袈裟な工事が必要になるわけではない。壁を塗り替えるとか入日付近だけ手を入れるといった部分的な改装でも、まったく別のお店に見せることは十分にできる。要はセンスの問題だ。

居抜き店舗改装のポイント(1) -看板-

飲食店で成功するには、とにかく目立つことである。では、なぜ目立たなければならないのか。 一人でも多くの人に、自店の存在を知ってもらうためである。いまはどこにでも飲食店がある時代だ。自店がここにあるのだということを強烈にアピールしていなければ、たくさんのお店のなかに埋没してしまう。しかし、周りにどれだけ飲食店があったとしても、日立つお店は繁盛できる。

とにかく、自店の存在を知ってもらわないことには始まらない。そのために必要なのが看板である。看板の重要性に気づくかどうかで、成功の確率も大きく変わってくる。

しかし、世の中、それほど暇で親切な人ばかりではない。ちょっとよく見ればというが、だれが注意して見てくれるというのだろうか。そんな自分本位の期待は、必ず裏切られることになる。

よほど好奇心の旺盛な人は別にして、ふ?つ道を歩いている人は、周りの景色などあまり注意して見ていないものだ。自然に目に飛び込んできたもの以外には、ほとんど興味を示さない。どこのお店にしようかと迷っている人でさえ、スミからスミまですべてのお店を確かめているわけではない。せいぜい半分も見ていればいいほうだろう。

これだけ飲食店の数が増えているのに、お客様のほうから探してくれるのを待っているというのでは、とても成功など望めない。

さて、通行人は看板を見てはじめて、お店の存在に気づく。看板が目に止まらなければ、お店はないも同然のわけである。とすれば、看板をできるだけ目立たせて、確実に通行人に自店の存在を意識させるということは、成功の第一歩ということになる。

看板でもっとも大切なことは遠視性にすぐれていることである。つまり、遠くからでもお店を識別できる看板でなければならないということだ。通行人は、遠くから見えているからこそ、あのお店を利用してみようかという気持ちになるものだ。お店の真ん前で気づいても、どうしようかと迷っているうちに通り過ぎてしまう。そして、いったん通り過ぎたら、二度と戻ってくれないと考えるべきなのだ。

居抜き店舗を活用する場合でも、看板にはかけるべきお金をかける必要がある。看板と店舗は別に考えるくらいでちようどいい。そして、どの位置にあるのがもっとも見やすいのかをよく研究して、遠視性にすぐれた看板にしなければいけない。

とくに小さなお店の場合は、 一階の路面店であってもお店の間口が狭いため、お客様の目に入りにくい。三階や地下への出店だと、ますます不利になる。しかし、効果的な看板にすれば、その不利も十分にはね返せるのである。

居抜き店に大切な「新しいお店」へのイメージチェンジ

前節で述べたように、居抜き店舗活用の基本は、できるだけ前のお店の内装を生かすことだ。できるだけお金をかけない。それが活用の基本である。しかし、ただ前のお店の店舗を流用するだけでは「生かす」ことにはならない。そこで注意しておきたいのは、お客様の視点に立って考える必要があるということだ。

お店づくりでもっとも大事なことは、お客様から見てどういうお店に映るのかということである。もちろん、せっかく自分のお店をつくるのだから、自分の趣味や好みを反映させたいと思うだろう。その気持ちはよくわかる。しかし、もしもどんなにお金をかけたとしても、それがお客様にとっての「いいお店」になっていなければ意味がないのである。

逆にいえば、居抜き店舗を活用するのか、それとも新店舗でオープンするのかということは、お客様にとっては関係がないことなのだ。お客様にとっては、そのお店が新鮮な魅力のあるお店なのかどうか、それだけが関心事なのである。

とくに居抜き店舗の場合、前のお店が撤退した店舗を活用する。撤退の理由は、大半が経営の失敗である。ということは、前のお店のイメージを引きずったままでは、お客様の目には新しいお店とは映りにくいわけだ。

たしかに、いまのお客様は昔と違い、過去のことにはあまりこだわらなくなっている。しかし、とくにこだわらなくても、お店自体=店舗に対する悪いイメージがどこかに残っていたら、自然とそのお店を敬遠するようになる。それがお客様の心理である。なにしろ、いまは飲食店などいくらでもある時代なのだ。なんとなくイヤな感じのするお店をわざわざ利用することはない。

したがって、居抜き店舗の活用では余計なお金はかけずに、なおかつお客様に「新しいお店」と認められるようなアピールを工夫しなければならない。つまり、効果的な店舗のイメージチェンジである。

できるだけお金をかけないようにするためには、内装業者に依頼するものを徹底的に絞り込むことだ。たとえば、壁が汚れていてイメージが悪いのなら、壁紙を張り替えるだけでいい。

とにかく、お金をかけないためには改装する部分をできるだけ少なくすることだが、どうしても改装する必要があると判断した場合は、材料よりもデザインを大事にすることがポイントになる。「いいお店」にしようとすると、つい「いい材料」に目が行ってしまいがちだが、そんなことでは節約はできない。ただの安普請ではダメだが、安い材料でもデザイン次第で「いいお店」はつくれるのである。

お店のイメージチェンジでは、家具や装飾品、置物、花などの小物類が大きな効果を発揮することも忘れてはいけない。そのほうが安上がりというだけではない。むしろ、自由のきく小物類のほうが、イメージに変化をつけやすいのである。

中途半端は悪。前店の内外装を上手に生かす居抜きとは

何度もいうようだが、居抜き店舗活用のメリットは、投資額を低く抑えられることである。しかも、前のお店の内装や設備機器類を譲り受けるために、内装譲渡代金も払うのだ。したがつて、居抜き店舗でのオープンでは、保証金などの物件取得費以外には、できるだけお金をかけないというのが基本になる。とくに内外装は、前のお店のものをできるだけ生かすことが必要だ。

また、そうすることで店舗の工事期間も大幅に短縮できるが、これもまた、居抜き店舗活用の大きなメリットなのである。店舗の工事中にはすでに家賃が発生していることを忘れてはいけない。工事が長引けば長引くほど、ムダなカラ家賃を払わなければならなくなるのである。

では、前のお店の内外装を上手に生かすにはどうすればいいのか。基本は、お店の構造を変えないということである。たとえば、店内にカウンターがあるのなら、そのままカウンターとして使用する。イスやテーブルなどはもちろんのこと、床、壁、天丼も同様だ。玄関部分も、とくに傷んでいなければそのまま生かす方向で考える。

大事なことは、「生かす」ことを最優先に考えることと、生かすための工夫を惜しまないことである。かりに多少の手を入れるとしても、新しくつくり直すのではなく、ちょっと修正を加えるという発想で取り組む。それが「生かす」ということだ。

居抜き店舗にしろ新店舗にしろ、初めてオープンする人は、どうしても内装にお金をかけすぎてしまう傾向がある。どうしてかというと、少しでも「いいお店」にしたいと思うからだ。いいお店というより、自分が気に入ったお店といったほうが正確だろう。要するに、マイホームを建てるのと同じ感覚である。

しかし、お店はマイホームと違って「一生」の買い物ではない。ビジネスの場である。投資を回収し、さらに利益を生み出していくための場だ。自己満足はきつばりと捨てなければいけない。ましてや居抜き店舗を活用するのである。ふつうのオープンよりも、さらにはっきりと割り切った考え方ができなければ、成功はむずかしいだろう。

また、内装を長く持たせたいという考え方も捨てるべきである。店舗はビジネスの場といったが、それは、店舗とは基本的に、 一定の期間で償却していくものという意味でもある。そのために、税法上も減価償却が認められている。

飲食店で最悪なのは、中途半端にお金をかけたお店をつくり、いつまでもその店舗のまま営業をし続けることだ。お金をかけているからもつたいないというわけだが、そんなことでは時代の変化、ニーズの変化に取り残されてしまう。いわゆる老舗とはわけが違うのである。大事なことは、お客様に楽しさや居心地のよさを感じてもらえる店舗にすることだ。その一点に集中して、いろいろと工夫してみることである。

居抜き店舗をさらに安く借りるには

通常、居抜き店舗の場合は、保証金(敷金、権利金)のほかに造作譲渡代金を支払うが、それでも一般の新店舗よりも賃貸条件はかなり安い。投資額ということから考えれば、非常に有利な条件だ。

しかし、何でもそうだが、安いものには必ず理由がある。居抜き店舗が安いのは、 一般に居抜きは失敗したお店というマイナスイメージがあるからだ。マイナスイメージがあるため、ぜひとも借りたいという人は少ない。当然だろう。

したがって、家主としても家賃・保証金を下げざるを得ない。空きにしたままよりも、多少収入が減ってでもテナントに入居してもらつたほうがいいに決まっている。また、前の経営者は造作譲渡代金によって、少しでも撤退の穴埋めをしたいと思っている。だから安く設定されているわけである。

居抜きか新店舗かということは別にして、不動産業者との交渉では、最初に提示された金額を鵜呑みるだけ早く打っておくこと。なぜなら、手付金とは、業者との交渉権を確保するために打つものだからだ。ここを誤解している人が多いようだが、たんなる前払金ではないのである。

また、慣れていない人は、この物件と決めると焦って本契約をしてしまいがちだが、それではとても有利な条件は引き出せない。さて、実際の交渉では、物件自体のマイナス面を指摘することになる。したがって、本格的な交渉に入る前に物件と商圏の立地調査をして、前の経営者がこの店舗でなぜ失敗したのか、その原因をしっかりと分析しておく必要がある。

そのうえで、マイナスイメージのある店舗でオープンすることのむずかしさを訴え、少しでもリスク回避のために値下げしてほしいと交渉するわけだ。ただし、マイナス面を指摘するといっても、高飛車に出てはいけない。これはあくまで交渉なのだ。

別項でも説明したように、交渉とは、お互いに条件や要求を出し合い、話し合いながら両者の落としどころを探ることである。もちろん、少しでもこちらに有利に持っていかなければならないし、立地調査や分析もそのために必要なのだが、 一方的にそこばかり追求しても相手も納得してくれない。たしかにマイナス面はあるが、それを自分の経営努力でカバーしていくという姿勢を示すことが大切である。

また、通常、こういう交渉は家主の代理人である業者とするのがふつうだが、家主に会わせてもらうのもいいだろう。どうしてこの物件にこだわっているのかということを、飲食業に対する情熱を交えて訴えるのである。家主としてもできれば空き店舗のままにしたくないし、多少の金額よりも信用できるテナントをほしがっているものだ。

なお、交渉では予算も正直に打ち明けたほうがいい結果を生むことが多い。

居抜き成功には店舗物件を重層的に診る目が不可欠

前節で説明した立地調査によって、候補物件の立地条件はひとまずつかめると思う。しかし、ここで注意しておきたいのは、店舗の立地条件は必ずしも平面の条件だけではない、ということである。

平面というのは、駅からの距離とか商店街のどこに位置するのかといった、通常の立地条件である。一軒家なら別だが、テナントビルに出店する場合は、これにタテの条件が加わる。つまり、 一階、三階、それ以上の上層階、そして地下という条件だ。

もちろん、不動産業者の提示する賃貸条件には、これらタテの条件も勘案されているわけだ。常識的には階数によつて家賃・保証金が違ってくる。ただし、ここで大事なのは単純に家賃・保証金が安いかどうかということではない。安いに越したことはないが、いくら安くても成功できなければ意味がない。

つまり、その階数が自分の考えている業種業態に適合しているのかどうか、そこを診断しなければならないのだ。あるいは、その階数ならどんな業種業態が成り立つかという発想で判断する必要がある。

また、別項で詳しく説明したが、居抜き物件の場合はカラ店舗と違って、譲渡される内装や設備機器類(厨房関係、空調関係など)が再利用できるのかどうかということも、入念にチェツクしなければならない。業種業態あるいはメニューの違いなどで使えないというのでは困る。

したがって、立地調査ではたんなる場所(平面として2立地)だけでなく、タテの立地条件も含めて、物件そのものと業種業態との相性を的確に判断する必要があるわけだ。

さらに、もうひとつ注意しておきたいのは、物件の使い勝手である。店舗面積が適正規模かどうかということはもちろんとして、店内の形状や間国の広さなども重要なポイントになる。

たとえば、正方形に近い店舗と細長い店舗、あるいは奥でカギ型に折れている店舗では、席の取り方が違ってくるばかりではない。厨房のレイアウトによっては、オープンキツチンにできないなどの支障が出てくることがある。オープンキツチンは席数を取りやすいため小さなお店で採用するケースが増えているが、効用はそれだけではない。臨場感のある調理による演出とかサービス動線の短縮化なども図れるのだ。

その他、看板やサンプルケースについての条件や、ガス・水道。電気の容量、そして食材の搬入やゴミ出しなどの条件についても、キメ細かく確認する必要がある。

ここで、タテの立地条件について説明しておこう。

同じビルのなかでも、 一階、三階、地下の物件の店舗適性はかなり違い、通常の評価では、 一階は一等地、三階と地下は二等地となる。なぜなら、親客のお店へのアプローチの条件がまったく異なるからである。これを「立地内立地」という。

まず一階の路面店舗の場合、アプローチの距離はゼロに等しい。そのため、フリ客でも抵抗なく入りやすいという特長がある。また、遠くからでも見える。目立ちやすいといったメリットもある。

この条件で比較すると、二階と地下は一階に比べて明らかに不利になる。三階の場合は階段を上がらなければいけないという抵抗感があるし、道路からは目立ちにくい。階段を降りる地下の場合は上がる

よりも楽だが、アプローチの距離感は出てしまうし、三階と同様にお店は目立ちにくい。ただし、階段については、角度や幅の違いで評価は変わってくる。また、エレベーターの有無も大きく影響する。

ところで、これらの評価はあくまで一般論でしかない。ここが大事なところである。たしかに、 一階路面の店舗は、ほとんどすべての業種業態にとって好立地である。しかし、飲食店は必ずしも一階路面でなければならないというわけではない。 一階が必須条件になるのは、ファーストフードショップなど日常的利用動機をターゲットにする業種業態の場合だけなのだ。

また、見方を変えると、三階には道路の喧躁から隔離されるというメリットがあるし、地下には隠れ家的な雰囲気を演出しやすいという特長がある。

店舗繁盛の鉱脈を掘り当てる立地調査方法

立地調査の目的は、その立地の条件が自分の考えるお店のコンセプトに合致しているかを判断することだ。

そして、居抜き店舗活用の場合は、二つの視点で考える必要がある。まず、前のお店の業種業態がその立地に適合していたのかという視点。もうひとつは、この立地ではどんな業種業態が成功しやすいのかという視点である。通常、居抜き店舗は、前のお店が経営に失敗して撤退した店舗だが、そこで確実に成功するためには、その失敗の原因を分析し、最適な業種業態を選択することである。

立地調査は二つの段階に分けて行うといい。まず、マクロの視点から立地の性格を大まかにつかむ。次に、その店舗物件に適合する業種業態を検討して、総合的に判断するわけである。

マクロの視点の調査ではまず、物件を中心にして商圏を設定する。商圏の範囲は前のお店の業態の範囲からスタートするが、その業態に無理があると判断したら、自分の考える業種業態で設定し直す必要がある。

ここで、参考までに、業態別の標準的な商圏人口と来店所要時間の目安を挙げておこう。なお、所要時間は徒歩だけでなく自転車やクルマも考慮に入れる必要がある。

上記はあくまで目安であって、この条件を満たさなければ成功できないということではない。とくに客単価の高い業態の場合、立地によつてはもっと少ない商圏人口と所要時間で成り立つケースが少なくないが、その辺の見極めは素人では無理である。

さて、商圏は物件から周辺に向かつて、1次商圏から3次商圏まで設定する。標準所要時間の半分のエリアを一次、ぎりぎりのエリアを2次とし、2次商圏の1.5倍程度の所要時間のエリアまでを3次商圏とするといい。

調査は、この商圏内をくまなく歩いてみることからスタートする。それも、いろいろな曜日、時間帯、天気と条件を変えて歩いてみる。そうすると、その街の様子や人の動きを大まかにつかめるようになる。

次に、地元の役所や商工会などに出向き、人口動向(人口構成、世帯数、年齢構造、男女比など)や消費水準、職業構成などを調べる。とくに事業所は一軒で多数の人数がいるから、注意して調べることだ。

また、立地条件は再開発や大型商業施設のオープンなどで大きく左右される。したがって、街の将来像を自然につかんでおくことも非常に大切な調査になる。商圏の内外にどんな飲食店が何軒営業しているのかも調査する。これがマクロの視点の調査である。

街の様子が大体つかめたら、次はミクロの視点の調査=物件自体の調査に移る。この調査は店前通行量調査が中心になるが、単純に一日の通行量を調べればいいというものではない。自店のターゲットがどれくらい存在するのか、そこを調べなければ意味がない。これは非常に重要なポイントだ。

店前通行量調査の時間帯は一時間ごとに区切り、予定している営業時間帯の前後一時間まで調べること。ただし、フアーストフードなど店前通行量が直接集客力を左右する業態以外の場合は、カウンターまで使用する必要はない。人数は概算でいいから、男女別、年齢別、職業別といった客層の特徴をできるだけ性格につかむことが大切だ。また、飲食店の売上は曜日で大きく左右されるから、平日、土曜日、日曜・祭日の三回は調査する必要がある。

もうひとつ重要な調査は、競合店調査である。店舗の立地条件として問題がなくても、有力な競合店が多数ひしめき合っているのでは大変だ。マクロの視点の調査で、ある程度どんなお店があるのかはつかんでいるはずだが、最後にもう一度、綿密な競合店調査をする必要が出てくる。競合店と目されるお店はすべて、お客様として利用してみるといい。実際に商品も食べてみることで、そのお店の実力だけでなく、お客様がどんなお店を求めているのかもつかむことができる

立地特性を見抜く(5) -ロードサイド-

クルマ社会の成熟がいわれて久しいが、この傾向はますます強くなっている。とくに都市近郊のエリアでは、郊外型の大規模なスーパーやショッピングセンターなどが次々にオープンして、マイカー利用の郊外型の行動パターンに拍車をかけている。そして、人が動けば飲食需要も生まれる。ロードサイドの飲食店立地としての可能性はどんどん大きくなっているといえるだろう。

ところで、ロードサイド立地というと、ファミリーレストランなどの大手チェーンの独壇場と思われているようだが、実はそんなことはない。最近はこの立地での個店の成功例が非常に増えている。いまお客様はお店選びの目が肥えている。最近、フアミリーレストランが頭打ちといわれるのは、お店の雰囲気から商品まで、何から何まで画一的なチェーンにお客様が飽きてしまったからである。もちろん、フアミリーレストランしかなければ利用する。しかし、ほかにもっと個性的で楽しいお店があれば、そっちに行きたいと思っている。だから、個店のよさを強烈にアピールするお店づくりができれば、

ただし、この立地を開拓しただけに、フアミリーレストランに学ぶことはある。たとえば、看板。どのファミリーレストランでも、かなり遠方から見分けのつく大きな見やすい看板を出しているが、これには大事な理由がある。

クルマはスピードを出して走ってくる。そして、ギャグではないが、クルマは急には止まれない。つまり、クルマ客にお店の存在に気づいてもらうには、看板の遠視性が非常に重要になるわけだ。チエーンは別に見栄で大きな看板を掲げているわけではない。

ただ、こういう看板はお金がかかる。この投資ができないのであれば、ロードサイド立地での出店はやめておくべきである。住宅地立地などの場合なら、路地奥の目立たない、隠れ家的なお店づくりというコンセプトも成り立つが、この立地ではそれはあり得ない。とにかく遠くからでも目立つこと。このアピールに全力を傾けなければ成功はない。

さて、この立地での最大のポイントはいうまでもない。お店の前のクルマの通行量である。近隣に住宅地が控えていれば、徒歩や自転車利用などの地元住人の来店も見込めるが、基本はあくまでクルマ利用客である。ある程度の通行量がなければ成り立たないというのが、この立地の最大の特徴なのだ。

したがって、店前通行量調査は念入りに行う必要がある。そして、この時に注意しなければならないのは、自店を利用できるクルマの通行量を調べるということだ。たとえば、幹線道路など中央分離帯のある道路だと、反対車線のクルマはお客様にならない。分離帯がなくても、通行量の激しい道路の場合、

反対方向のクルマはほとんどアテにできないことになる。また、十分な駐車場のスペースも確保しなければならない。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。