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第6章 売れる商品はこうしてつくる

飲食店のメニュー表はお客様とのコミュニケーションツール

お客様はメニュー表を見て、食べたいメニューを注文する。当たり前のことだ。しかし、もう一歩進んで考えてみよう。そのメニュー表を見ただけで、お客様は本当に自分の食べたい料理を注文できたのだろうか。あるいは、お店が売りたいと思っている料理を注文してもらえるのだろうか。

ただ漫然と商品、価格を並べただけ。これがもっとも一般的なメニュー表である。ということは、かりに売りたい商品があったとしても、それをオーダーしてもらえるかどうかは運任せ、というのと同じ

だ。そんなことだから、せつかく自信のある商品がありながら、ほかの商品をオーダーされてしまうことになる。お薦め商品など完全に無視されている。だから、お店の本当のよさが伝わらない。

たしかにメニュー表は、基本的には商品名と価格を提示するためのものだ。つまり商品カタログ、価格リストとしての役割である。しかし、商品カタログであるならば、価格以外にもいろいろな情報を伝達できていなければおかしい。

というより、お客様はいろいろな商品情報をほしがっているのである。初めて利用するお店で、メニュー名だけを見て商品の内容がわかるお客様がいるだろうか。いるはずがない。 一、三度利用したことがあっても、それは同じだ。どんな料理かある程度の想像はできたとしても、それだけでしかない。このお店ならではのどんな特徴があるのか、素材にこだわりがあるのかなど、お客様が本当に知りたがっている情報は何も伝わらない。

繰り返すが、お客様がメニュー表で知りたい情報とは、品揃えと価格だけではないのである。もちろん価格は大切な要素だが、どんな商品なのかが知りたいのだ。だったら、必要な情報はどんどん提供すべではないか。

もちろん、それらの情報は、オーダーの際にサービススタッフが説明することである程度は伝えることができる。しかし、当たり前のことだが、すべてのお客様にすべてのメニューについて説明することなど、できるはずがない。もしもいちいち説明したとしても、お客様のほうがうんざりしてしまうだろう。

メニュー選びは外食の大きな楽しみのひとつだが、その欲求を満足させるためには、まずメニュー表で十分に商品情報を伝えなければならない。それが、メニュー表の本当の役割なのだ。だから私は、メニュー表はお店とお客様とのコミュニケーション・ツールだといつもいっている。

メニュー表にはまた、お店のお客様に対するメッセージを伝えるメッセンジヤーとしての役割もあるし、商品だけではなくお店のコンセプトに関するいろいろな情報を発信する役割もある。

しかし、もっとも大切な役割は、お店が売りたい商品を強力にアピールするための、セールスマンとしての役割である。どの商品に自信があるのか、どの商品がお薦めなのか。それを的確に伝えることで、お客様のオーダーを上手に誘導するわけだ。そういう認識でつくられたメニュー表かどうかで、売れ方は大きく変わる。たんなる価格リストと軽く考えるなど、とんでもないことなのである。

さて、メニュー表によってお客様を誘導するには、それなりの仕掛けが必要だ。まずは、お客様の目線の動きを想定した、見やすく読みやすいデザインでなければならない。最近はメニュー表のデザインを意識するお店も増えているが、重要なのはたんなる見栄えのよさではない。

最近は料理の写真を使うお店も多いが、ただ写真を載せればいいというものではない。メニュー数やメニュー表のつくりによっても変わってくるが、あまり写真が多すぎてもかえって見にくくなってしまうし、どの商品を強調したがっているのかが伝わらない。写真の有無やサイズなど、メリハリのあるレイアウトにすることが大切だ。

メニュー表自体の質感もお客様の印象を大きく左右する。別に高級感がなければいけないということではないが、あまりにチープなものではお客様の印象はよくない。自店の業態に合ったレベルで、個性的な質感を訴求することが大切だ。

また、あえて写真を使わず文字だけで表現する考え方もあるし、各料理の説明を添えるという方法もある。いずれにしても、お客様の立場に立って、お客様がメニュー選びを楽しめることを第一に考えることである。

他飲食店との差別化になる新しい食材を探す

別項でオリジナルメニューを開発するための五つの手法を紹介したがもう一度読んでほしい。五つの段階の五番目、つまりお客様に対するアピール効果がもっとも高い手法が「独自の食材を使用する」だった。

その理由は単純だ。ほかの四つの手法は、他店がその気になれば簡単にマネをすることができる。どこかのお店のヒット商品がまたたく間にあちこちのお店のメニューに登場するというのは、この業界ではよくある話である。ところが、新しい、つまり変わった、特殊な食材を使っている場合はそうはいかない。同じ食材を手に入れない限り、完全なマネをすることはできない。

つまり、新しい食材を使用しているというそのことだけで、他店との強力な差別化を実現できるわけだ。これに新しい独自の工夫が加われば、まさに鬼に金棒。ほかのお店では絶対に食べられない商品が出来上がる。だったら、もつと積極的に、新しい食材を探す努力をすべきだろう。

本来、料理というのは材料が基本である。どんな材料を使うのかによって、料理の価値のかなりの部分が決まってしまう。これは高級料理とか廉価な料理ということにはまったく関係ない。どんな材料を使うかで、料理の付加価値はまったく違ったものになる。いわば料理の宿命だ。

したがって、商品力をつけようと思うなら、まず第一に材料に着目しなければならない。アイデアや工夫も大事だが、それ以前の問題として、材料を吟味するということの大切さを学ぶ必要がある。

あらゆるジャンルの飲食店があり、そのなかで外食に慣れたいまのお客様は、どんどん変わった料理、ふつうとは違う味わい、そして新鮮な驚きを求めるようになっている。衰えを知らないラーメンブームなど、まさにその典型だ。ラーメンという極めてシンプルな料理ジャンルで、あの手この手のオリジナリテイー合戦が行われている。

そこでオリジナルメニューの重要性に戻るわけだが、最強のオリジナリティーを実現するのは食材である。それなら、料理の基本に立ち返って、食材の独自性を徹底的に追求してみることだ。他店の使っていない食材の仕入れルートを探し出すだけで、他店にはマネのできない付加価値を生み出せるのだ。

ただし、これは口でいうほど簡単なことではない。どれくらい努力したらどれくらいの成果が上がるといった次元の問題ではないからだ。はつきりいって、 一生懸命に探し続けてもなかなか見つからないかもしれないし、旅行した時に偶然見つかるかもしれない。

そんな結果もわからないようなことに貴重な時間やお金を費やすわけなはいかない。あなたはそう思うだろうか。実は、ほとんどの飲食店の経営者はそう思っている。だから、大半のお店の商品は似たり寄ったりで、差別化など夢のまた夢の話になってしまっているわけだ。ここをよく考えてみてほしい。

そもそも、ちょっと努力しただけでうまくいくなどという考え方自体が甘い。この競争原理の世の中で、そんなことが通用するのだろうか。それが無理なことくらい、子どもでも知っている。本当に成功したいのなら、成功を揺るぎないものにして、さらに成長させていきたいと本気で思うのなら、できる努力を惜しむべきではない。可能性があるのなら、そこに懸けてみる意気込みこそが、本当の成功を呼び込むのである。

だから、仕入れルートの探索といっても、何も慌てることはない。気晴らしの旅行のついでに、その地方ならではの面白い野菜や魚を探してみる。なければそれでいい。なにしろ、産地に直接足を運ぶことになるのだから、当然、そのための時間と費用がかかるのだ。それくらいの割り切りがなければ長続きしないし、そういう軽い感覚で探すほうが、掘り出し物にぶつかることもある。

たとえば、野菜や魚介類の場合、各地方にはたいてい、それぞれの地場消費ものと呼ばれる食材があるものだ。生産量が少ないために東京などに出荷されることなく、地場だけで流通している食材である。

また、大きさや形などが規格外のために地場消費に回されるということもよくあるが、こういう食材は規格品だとけっこういいものとして扱われていたりする。これも狙い目だ。

なお、生鮮品ばかりでなく、加工品や半加工品にも同じことがいえる。そのなかで新しい食材を探すことも、大事な差別化手法のひとつである。

健康志向に応える食事メニュー開発

お客様の健康を預かる飲食店として、健康志向の高まりを無視することは絶対にできない。そんなことはだれにでもわかる。実際、健康志向に対応したメニューづくりに取り組むお店が増えているが、これはなかなかむずかしい問題である。なぜむずかしいのかというと、お客様は健康になりたくて飲食店を利用しているわけではないからだ。

たとえば、脂肪分の取り過ぎが体によくないことはだれでも知っている。では、だれも天ぷらやとんかつを食べないのかといえば、そんなことはない。ベーシックな人気メニューである。焼肉店でも脂肪マグロも赤身よりもトロということになる。

外食はだれにとってももっとも身近なレジャーである。レジャーである以上、おいしく満足感のある料理でなければ意味がない。明らかに病気を抱えている人は別にして、健康にいいメニューばかりを求めているわけではないのである。

しかし、勘違いしてはいけないのは、とんかつやトロのすしに人気があるのは、それらを毎日食べるわけではないからなのだ。たまにしか食べない。だから、カロリーや脂肪分などが気になる中年世代の人たちも、一見平気で食べているのである。つまり、健康を無視しているのではないということだ。

そこで大事になるのが、自店のお客様にとっての「ヘルシー感」とは何かということだ。自店のターゲットは、食と健康のどの部分にもっとも関心を抱いているのか。そこを見極める必要があるわけだ。何でもかんでも健康によければいいというものではない。

また、いくら健康にいいメニューといっても、味が悪ければ食べてくれない。ヘルシー感があって、しかもおいしく満足感がある。健康志向に対応していくには、そういう商品を開発しなければいけないのである。たとえば、揚げ油に配慮しただけで繁盛しているとんかつ店がある。

焼肉店でも、従来型のヘビーな業態よりも、焼肉以外のライトなメニューを充実させ、居酒屋的な利用動機を取り込んだ新しい業態が伸びている。自店のメニューのなかで、どこをどう変えられるのか、また、どう変えれば効果があるのか。じっくりと検討することだ。

参考までに、ヘルシー感のアピール手法の例を紹介しておこう。

・ネーミング
一般の料理との違い、つまり健康に配慮した料理だということをひと目でアピールできるメニュー名を工夫する。野菜類などヘルシー感のある素材をメインにする場合は、その食材名をうまく取り入れると効果的なネーミングになる。

・料理の彩り
一般に、野菜の緑色はヘルシー感を感じやすい色といわれるが、食欲をそそる色である赤や黄色など、明るい色と組み合わせると効果的とされる。

・食材
野菜はもちろんのこと、肉類なら鶏肉とか魚介類なら自身魚など、食材自体にヘルシー感のある素材を意識して使う。

・調理法
たとえば、野菜というと生のサラダというイメージがあるようだが、生のままだと健康的なイメージはあっても、実は量が食べられないという欠点がある。煮物や和え物が主体の和食が見直されているのは、味はもちろんのこと、火を通すことによって野菜をたくさん食べることができるからだ。また、肉や魚も、フライではなく焼く、蒸す、スモークするなど、調理方法を工夫することで、かなリヘルシー感が高くなる。

・調味料
塩分、油分の使い方に十分配慮し、そのことをメニュー表などでも積極的にアピールする。なお、できるだけ添加物を使わないことが理想だが、加工品を材料に使う場合は、その材料に含まれていることもある。しかし、健康食品を売るのではないのだから、必要以上に神経質になることはない。極力添加物を使わないという姿勢で十分だろう。

・食器
食器のイメージは大いに利用したい。 一般に自は無難でヘルシーな色とされるが、もっともありふれているだけにアピールカに欠けることもある。料理によつては淡い色合いの絵皿とか、クリスタル系や木製の器なども効果的だ。

飲食店は品揃えの「常識」にとらわれてはいけない

メニュー構成を考える時にもっとも大切なことは、その品揃えに明確な根拠があるかどうかということだ。ただし、ここで問題にしているのは、メニューの品目数が多いか少ないか、ということではない。

たとえば、居酒屋などは100品日以上というのが一般的だが、 10品目もないカレーショップやラーメン店に比べて、ムダな品揃えをしているということにはならないし、品目数が少ないから根拠があるのかというとそんなことはない。

要は、何のために品揃えをしているのかという理由であり、その答えはただひとつ。お客様に喜んでもらうため、つまり売上を上げるためでなければならない。逆にいえば、メニュー表からはずしてもお客様が困らないメニューがあるとすれば、それはたんなるムダということになる。

ところで、多くの飲食店のメニュー構成を見てみると、業種によって品揃えが似ていることに気づく。要するに、業種ごとの「常識的な品揃え」というものがあるわけだ。試しに、同業種の何店かのメニュー表を集めて比較してみるといい。店名を隠してしまうと、どのメニューがどのお店のものかわからなくなってしまうはずである。

ではどうして、業種ごとに標準的な品揃えがあるのか。いちばんの理由は、それによって業種らしさを出すことが自店の存在理由になるという思い込みである。標準的な品揃えというのは、長い間の経験則で決まつてきたものだ。だから、それに従うのがもっとも安全という発想のわけだが、実はこの考え方が結果的にお店の競争力を奪ってしまっていることに気づいてほしい。

外食に慣れて豊かさを享受しているいまのお客様は、どこにでもあるようなメニューだからといつて喜んでくれるわけがない。お客様が求めているのは、他店では味わえないおいしさや楽しさである。もちろん、メニューのすべてがオリジナルメニューである必要はないし、常識的なメニューが含まれていること自体が悪いというのではない。最初に述べたように、その品揃えにお客様に喜んでもらうための根拠があるのかどうかが問題なのだ。

多くのお店が常識的な品揃えにしてしまうのは、自店の商品に自信がないからであり、お客様が何を求めているかがわかつていないためである。どんな客層のどんな利用動機に対応するのかというコンセプトがしつかりと立てられていないケースも少なくない。お客様にどのように過ごしてもらいたいのかという像を明確に描けていないから、とりあえずあれもこれもと揃えてしまうことになる。業態によるメニュー構成という発想ができないため、同業種の他店にあるメニューがないということが、不安になってしまうわけである。

本来、メニュー構成はコンセプトに則った商品政策によって決められるべきものだが、それは材料の仕入れから調理作業、そして材料のストックという問題を切り離して考えることはできない。たとえば、通常、メニューのなかの全商品がまんべんなく売れるということはあり得ない。いわゆる売れ筋商品と死に筋商品とに分かれてしまうのがふつうである。したがつて、飲食店はつねにメニューに対するお客様の支持度を見ながら、死に筋商品をカットして売れる商品を増やすというメニュー改定をしていかなければならないわけだ。

ところが、常識的品揃えは言い替えれば、あえて死に筋商品を抱え込んでいるのと同じである。その結果、不要な材料の在庫を常時抱えるようになり、当然、材料ロスが発生してしまう。

また、いたずらにメニュー品目数が多く、死に筋商品をたくさん抱えていると、ピーク時に何種類ものオーダーが殺到して調理場がバンクしてしまうということも指摘しておきたい。売れ筋商品ならあらかじめの仕込み調理によって効率的な提供が可能だが、たまにしか売れないような商品を仕込んでおくことはできない。

確たる理由もなく常識的な品揃えをしているということは、要するに「何でもあります」式の売り方のわけだが、お客様の日から見ればこれは、「自信を持ってお薦めできる商品は何もありません」という言い訳に映ってしまう。そのお店をわざわざ選ぶ理由がないわけだ。そのため、こういうお店はフリ客は来ても、目的客、固定客が少ない。

品揃えには、商品力、商品に対する自信のあるなしが如実に出てしまう。選ばれるお店になるためにはまず、品揃えの常識を捨てて戦略的に考えることである。

飲食店のオリジナルメニューは五感で考える

前節でも述べたように、商品力とは他店にない付加価値である。他店では食べられない個性を持った商品だからこそ、お客様はわざわざ食べに来てくれる。確実に成功するには、ぜひともオリジナルメニューを開発する必要がある。

個性ある商品が強いということは、飲食店経営者ならだれでも知っているだろう。いわゆる看板メニューの集客力は、多くの繁盛店が実証している。ところが、看板メニューといえるほどのオリジナルメニューを持つお店は意外と少ない。なぜ開発しないのか。

実は、多くのお店は、開発したくないからオリジナルメニューがないのではない。開発したくても、できずにいるのである。では、どうしてできないのか。技術がないからか。いや、断じてそうではない。開発の仕方がわからないだけなのである。

要するに、むずかしく考え過ぎているのだ。強力なオリジナルメニューを開発するには、まず頭を柔らかくして発想を転換することである。まず念頭に置いてほしいのは、食というのは意外と保守的なものだということだ。オリジナルメニューが求められているといつても、お客様は食べたこともないような、まつたく新しい料理をほしがつているわけではない。知っている料理だが、もっとおいしい料理、もっと楽しい料理を食べたいと思っているだけなのである。

つまり、大多数のお客様が求めているのは、上手にアレンジされた料理ということになる。ベースはあくまで、前からある料理でいい。そこに何か工夫を加えて、よりおいしく、より楽しい料理にする。その工夫ができるかどうかなのだ。

一般的なオリジナルメニューの開発手法は次の五段階に整理できる。
①盛りつけの仕方を工夫する
②調味料やスパイス類の添加、配合などを工夫する
③食材の組み合わせ方を変える
④調理方法を変える、または調理法の組み合わせを変える
⑤独自の食材を使用する
実は①から⑤に向かうほど、お客様に対する効果は大きくなるが、同時に、難易度も高くなっている。

しかし、①から③までの方法であれば、すぐに実践できるし、これだけでもかなりのパワーになる。技術よりも、アレンジするアイデアがモノをいうわけである。

したがって、開発といっても、とくにむずかしいことではない。要は、本気で取り組むことができるかどうかなのだ。

ただ、漠然とアレンジしようと考えても、なかなかヒントが見つからないだろう。そこで私がお薦めしているのが、人間の五感を開発のヒントにすることだ。五感とはいうまでもない。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五つの感覚のことである。

料理というと味覚の問題にばかり目がいきがちだが、人間は舌だけで料理を味わつているのではない。意識するかどうかは別として、五感をフルに使って楽しんでいる。そこがヒントになるわけだ。

たとえば、盛りつけの仕方や材料の色合いの組み合わせは、視覚へのアピールである。鉄板でステーキをジュージュー焼くのは聴覚へのアピールであると同時に、視覚や嗅覚にも訴えている。触覚では手触り感がある。焼肉を野菜で巻いて手で食べるのもそうだし、食器の手触り、日に当たる感触なども効果的な触覚へのアピールになる。

このように、人間の五感というフイルターを通して考えてみると、同じ料理でもいろいろな表現の仕方があることに気づくはずだ。食の楽しみは味だけではない。どうすれば他店と違っていて、しかもより豊かな楽しさを感じさせる料理になるのか。まずは、この一点からアイデアをひねってみることが、開発の突破口になるはずである。

ただし、むずかしく考えてはいけない。軽く考えてみることだ。眉間にシワを寄せて悩んでみても、楽しいアイデアなど出てくるはずがない。大事なのは、自由に発想できる遊び心である。ちょっとした思いつきでいい。それをヒントに、試作を重ねてみることだ。いろいろやってみるなかで、さらに新しいヒントが湧いてくることもけっこうあるものだ。

注意しなければならないのは、技術の裏づけなしに、変に味をいじりすぎることである。自分がおいしいと思っても、お客様がどう思うかは別である。

飲食店メニュー価格の決め方

メニュー価格をいくらに設定すればいいのか。これは素人でなくても大いに悩むところだろう。お客様の入りが価格設定に左右されることは明らかだが、だからといつて安くしすぎたら儲からない。いろいろ考えた揚げ句、結局は商圏内の同業他店の価格設定に追随するというのが、もっとも多いパターンである。

たしかに、この考え方はもっとも無難な考え方といえる。すでに長年営業している他店と同じ設定なら、少なくとも「高い」とは思われないだろう。また、同じ価格であれば、他店との違いを出しやすいという意見もある。要するに、お客様が比較しやすいというわけだ。これも間違いとはいえない。

しかし、飲食店の価格設定でもっとも大切なことは「お値打ち感」があるかどうかということなのだ。そして、お値打ち感は単純な価格の比較だけで判断されるわけではない。他店と比べて多少高くても満足することもあるし、逆に、けつこう安く上がったのに「高くついた」という印象を持ってしまうこともある。

飲食店成功のキーワードのひとつに「リーズナブルプライス」がある。リーズナブルとは、たんに安いということではない。お客様にとっての「適正価格」という意味である。

では、何が「適正」の根拠になるのかといえば、お客様の満足度である。支払う金額に対して十分な、あるいはそれ以上の満足感を得ることができれば、それはリーズナブルプライスということになる。だから、高くても「安い」と感じる場合もあれば、安くても「高い」と感じてしまうこともあるわけだ。

もうひとつ、価格設定で大事なことは、お客様の買いやすい価格に設定するということだ。お客様の予算は客層と利用動機によつて決まる。そして、どの客層と利用動機を狙うかによって、お店の業態も決まるわけだが、その狙う客層と利用動機に対して、値頃感のある価格に設定することが大切なのだ。

意外と知られていないことだが、そもそも商品開発とは価格を優先して進めるものである。もしも売りたい商品が、狙う客層や利用動機が許容してくれる価格を超えてしまつたら、その価格で収まるように材料や調理方法などを検討し直す。これが正しい商品開発のあり方で、だからこそお客様に対する強力な訴求力を持つことができる。

反対に、原価にいくらかかつたからこの設定にする、という考え方もある。まず原価率を決めて、単純に材料費を連動させるやり方だ。しかし、たとえおいしい料理に仕上がったとしても、値頃感が感じられなければ、お値打ち感がない。

高いのだから、おいしくて当然ではないかということになってしまう。これでは、お客様の支持は得られない。おいしさは絶対のものではないのだから、お客様はもっとお値打ちの高いお店に流れていつてしまうのである。

では、具体的にどう価格を設定すればいいのか。設定の根拠となるのは、商圏内の金銭感覚である。金銭感覚は地域によってかなり違うものだ。都市と郊外でも違うし、繁華街と住宅地でも違う。立地が違えば当然のことだが、お客様に確実に値頃感をアピールするには、出店立地の商圏内の金銭感覚をできるだけ正確につかむ必要がある。

地域の金銭感覚を知るには、商圏内のできるだけ多くのお店をお客様として利用してみることだ。 一店や二店ではサンプルにならない。また、同業種同業態のお店だけでなく、別業態のお店も利用してみることが大切だ。なぜかというと、いろいろな業態を見ることで、その地域にどんな客層のどんな利用動機が、どれくらい存在しているかをつかむことができるからである。

調査では、各店がもっとも売りたがっている価格、もっとも支持されている価格、そして、各店でもつとも手薄になっている価格帯をチェックする。その結果を自店のコンセプトとすり合わせ、どの設定なら受け入れられるかを検討するのである。

一般論としては、他店の上限価格より高くしないのが原則だ。さらに、競合店との正面からの激突を避けるため、多少安く設定するのが無難とされるが、必ずしもそうではないことを注意しておきたい。

大切なのは、商圏内のニーズの読み込みだ。ニーズに対して、他店の設定価格が上限になっているとは限らない。つまり手薄になっている価格帯があるものだ。そこを狙って勝算があるのなら、挑戦してみる価値はある。

飲食店の商品力とは他店にない付加価値だ

飲食店をオープンしようというのであれば、飲食店の第一の売り物が商品だということくらい、十分に承知しているはずだろう。いわゆる繁盛店を見てみれば、その商品力のすごさに驚くことも多いはずだ。「飲食店」なのだから当たり前のことなのだが、看板はあくまで商品なのです。

では、商品力とは何か。ひと言でいえばそれは、他店にない付加価値である。そのお店でしか食べられない商品だ。だからこそお客様は熱烈に支持してくれる。長い行列に並んででも食べたいと思ってくれるのである。

一般に、飲食店はメニュー表に載せていれば、それがわが店の商品と思っている。たしかに、理屈のうえではその通りだ。しかし、どんなメニューにしろ、売れてはじめて商品となる。お客様に支持されなければ商品とはいえないわけだ。誤解されていることが多いが、実はこれが飲食業の基本なのである。

お客様の側から見れば、「食べてみたい」と思うメニューでなければ、そんなものは商品でも何でもない。これといつた付加価値がないからだ。商品力を高めるにはまず、この飲食業の基本をしっかりと頭に入れることからスタートしなければいけない。

いまのお客様が飲食店を利用する目的は主として、たんなる空腹充足ではない。それは昔の話である。何度もいうようだが、食事を通して楽しく豊かな時間を過ごすこと。それこそが最大の目的だ。だからこそ、サービスと雰囲気のレベルアツプが強く求められている。よほど飛び抜けたおいしさなら、その料理を食べることだけが目的になり得るが、そういうお店はほんのわずかの例外にすぎない。

よく知られているように、食事の味というのは、その環境に大きく左右される。どんなにおいしい料理であっても、スタッフの接客態度が悪かったり、不潔なお店だったりしたら、ひどくまずいものになってしまう。それがふつうのお客様の感覚である。

だから、お客様はサービスや雰囲気のよさを勘案したうえでお店を選ぶことになるわけだが、その時、お店選びの決め手になるのが商品なのである。サービスや雰囲気だけなら、ほかのお店でもかまわない。しかし、料理は別だ。どうせ利用するなら、商品に価値を感じることのできるお店を選びたい。だれだってそう思うはずである。商品力を持つことの重要性がわかろうというものだ。

では、商品力をつけるにはどうしたらいいのか。問題はここである。こういうと必ず、他店にない付加価値と口でいうのは簡単だが、そんな調理技術もないのにどうすればいいのかと開き直る経営者がいる。しかし、そういう考え方では商品力など永遠に持つことができないだろう。

そもそも、料理だからといつてすぐに技術という問題に短絡してしまうところに間違いの元がある。たんに材料を調理する「手間」を付加価値と思い込んでいるから、そういう発想になってしまうのだ。たとえば、フランス料理や日本料理の高級店のように、価格に相応の高度な技術がある場合は、調理技術イコール大変な付加価値である。まさに他店にはなかなか真似のできない個性となる。しかし、それではとくに調理技術がなければ、他店にない付加価値はつくり出せないのだろうか。そんなことはない。

このところブームの続くラーメン店などがそのいい例だろう。文字通りの行列のできる超有名店であっても、格別すぐれた調理技術があるというわけではない。そんなことはお客様だって知っている。では、お客様はどうして、自分の支持するお店に熱心に通い続けるのだろうか。ほかのラーメン店には見向きもしないのだろうか。

このことがよく物語るように、付加価値を生み出すのは技術ばかりではない。本当の付加価値とは創造性や工夫から生まれるものだ。たとえば、フランス料理店といっても人気店とそうでないお店に分かれるが、ではシエフの技術に大きな差があるのかというとそんなことはない。技術的には同じレベルといって差し支えない。それなのに差が出てしまうのはなぜか。サービスなどの要素もあるが、料理で見れば、はつきりとした個性が表現されているかどうかの違いなのである。

要するに、他店にない付加価値=オリジナル商品は、調理経験や技術よりも、他店にない発想と工夫から生まれるということだ。自信を持って取り組んでほしいと思う。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。