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居抜き物件知識/居抜き店舗経営の教科書

飲食店の業種業態とは何か

飲食店の開業を希望する人はたいていの場合、まず「何屋」をやろうかと考える。それはそれで別に悪いことではない。とくに脱サラなど飲食業の経験のない人は、技術的に無理がなく、自分が空きになれる業種を選ぶことが大切だ。それは、商売を長続きさせるための大事なポイントでもある。

しかし、業種だけ決めても、それですぐにお店をつくれるわけではない。もちろん、店舗だけならお金さえ出せばすぐにつくれる。しかし、実は業種を決めただけでは、どんな店舗にすべきなのかの方針すら立てられない。お店の方針を決定する根拠となるのは業種ではない。「業態」なのである。

業種とは、簡単にいえば主力商品のジャンルによる分類だ。 一方、業態とは「売り方」による分類である。言い替えれば、業種は「何を売っているか」であり、業態は「どのように売っているか」という違いになる。では、どうして「売り方」がそれほど重要な問題になるのか。それこそが、お客様のお店選びの最大のポイントだからである。

業態とは、どんな商品を、いくらで、だれに売るのか。その方針と仕組みのことであり、次のような要素に分解される。

・WHAT (何を)=業種および主力商品
・WHY (何のために)=お客様の利用動機
・WHO (だれに)=主要客層
・WHEN (いつ)=営業時間およびお客様の主な利用時間
・WHERE (どこで)=出店立地
・HOW (どのように)=売り方のスタイル、お客様にとっては楽しみ方のスタイル
・HOW MUCH (いくらで)=価格政策

私はこれら七つの要素を「飲食店の5W2H」と呼んでいるが、業種はこれらのうちのたった一つの要素にすぎない。残る六つの要素が決まらなければ、具体的にどんなお店をオープンすればいいのかわからないわけである。

たとえば、業種は「すし店」としても、どんなすじ店にすればいいのか決められない。すじ店には、客単価一万円以上の高級店から一個一〇〇円の回転ずしまでいろいろな業態がある。たんに「すし店」といっだけでは、どんなすし店なのかわからないが、業態で考えると、具体的な営業形態が浮かび上がってくる。だから、業態が重要なのである。

さて、このように業種業態の決定要素は七つもあるわけだが、これらのうちでもっとも重要な要素はHOW MUCH=価格である。つまり、「いくらで売るのか」ということだ。どうしてかというと、お客様が外食でお店を選ぶ時の最大の決定ポイントだからである。お客様の消費行動には必ず、予算があるものだ。大体いくらくらいまでなら出してもいいという腹づもりがある。

常識的に、1000円でも1万円でもいいなどというお客様はいない。そして、その予算は、お客様の消費動機=飲食店の利用動機(WHY)によつて決まる。たとえば、居酒屋を利用するといっても、会社の帰りに同僚と一杯やるお店と恋人とのデートで使うお店では、当然のことに予算が違う。なぜなら、お店に求める商品、サービス、雰囲気のレベルが違うからである。つまり、お客様はその時その時の利用動機によつて、利用する飲食店の業態を選択しているわけだ。

つまり、業態が曖味なお店は敬遠されやすいということだ。したがつて、確実にお客様を取り込むためには、自店がターゲットとする主要客層(WHO)や利用動機を絞り込み、どういう業態のお店なのかということを、わかりやすくアピールしていく必要がある。営業時間や出店立地、売り方のスタイルは、価格と利用動機、主要客層が決まれば、おのずと決まつていくものである。極端いえば、ビジネスに徹するのであれば、業種はそれら六つの要素が決まってから選択しても遅くはないということにもなる。

ところで、ここで大事なポイントがもうひとつ浮上する。それは、競合店とは必ずしも同業種のお店だけではないということだ。商圏内の同業態の飲食店はすべて、業種にかかわらず競合店となる。理由はもうおわかりだろう。お客様の消費行動には予算があり、お客様がもつとも優先するのは予算だからである。

こうして考えると、お店づくりとはたんに店舗をつくることではない、ということが理解できるはずだ。業種業態を明確にすることではじめて、どんな店舗にすべきかの方針が決められるのである。

飲食業は奉仕業

飲食業は「おもてなし業」である。おもてなしとは要するに、お客様がお店の中で少しでも気分よく過ごせるように一所懸命に尽くすという意味だ。真心を込めて尽くすから、お客様は喜んでくれる。そういう気持ちのいいお店だから、また来ようと思う。それがお客様の心理というものだ。つまり、いかにしてお客様に喜んでもらえるか、そこを追求することこそが飲食店の仕事ということになる。だから私はいつも、飲食業は奉仕業=尽くし業だといっている。

では、お客様に尽くすとはどういうことなのか。前節で、飲食店の価値は、商品、サービス、雰囲気の三つの付加価値の総合力で決まるといったが、これら三つの要素それぞれにおいて、お客様に満足してもらえるように努力すること。それがお客様に尽くすということの意味である。

たとえば、価格を抑えておいしい料理を出せるように工夫する。感じのいいサービスを心がける。こまめに掃除して店内をいつも清潔に保ち、小さいながらも季節の花を飾る。これらは皆、お客様に尽くそうという気持ちがあってはじめてできることだ。つまり、お客様に尽くすとは、つねにお客様の満足のために何かをしてあげたいと思い、それを細かい配慮として実践することである。儲かりさえすればいいという自分本位の考え方では、絶対にできないことだ。

飲食業を奉仕業と思えるかどうかで、結果は大きく違ってくる。本当に奉仕業と思っていれば、まず、お客様に心から感謝する気持ちが生まれる。当然、お客様を大事にしようと思う。だから、お客様の要望にはできるだけ応えようと思い、お客様が少しでも満足できるようにいろいろと気を使うし、そうすることでお客様が喜んでくれることが嬉しくてたまらなくなる。つまり、お客様の喜びが自分の喜び=働き甲斐になるわけだ。

お客様にしてみれは、こういうお店は満足度が高いから、また利用したいと思う。その結果、固定客が自然と増えていき、安定した繁盛店になれるわけである。一方、奉仕業と思えないお店はどうなるのか。もちろん、お金をいただくわけだから、一応の感謝の気持ちくらいは持っているはずだ。 一応のサービスもするだろうし、店内もある程度は掃除しておくだろう。

しかし、いろいろと注文をつけるような面倒なお客様には来てほしくないと思っていたり、食べ終えたらさつさと帰ればいいのにと思っていたりする。要するに、お客様がどう感じようと、そんなことにはあまり関心がない。売上さえ上がればいいと思っているわけである。こういうお店をお客様はどう思うだろうか。とても満足などできるはずがないし、当然、固定客などできるはずもない。立地がよければフリ客で何とかなるかもしれないが、いつまでたっても経営は安定しない。

お客様が喜んでくれればくれるほどお店は繁盛する。このことが本当に理解できれば、繁盛させることはけつしてむずかしいことではない

飲食店の価値は何で決まるのか

別項で説明したように、飲食店の粗利益率は群を抜いて高い。要するに、材料原価が低い。それなのにどうして、お客様は飲食店を利用するのだろうか。

いまはコンビニやスーパーやデパ地下に行けば、たいていの食品は揃っている。しかも安い。お酒も小売店で買ったほうがはるかに安いし、自宅やオフイスでも本格的なレギュラーコーヒーが飲める。それにもかかわらず、お客様はレストランや居酒屋、バーに行き、コーヒーショツプを利用する。なぜなのだろうか。

結論からいえば、お客様が飲食店を利用するのは飲食店ならではの付加価値を求めているからだ。付加価値があるから、高く付いても利用するし、納得してお金を払うのである。逆にいえば、付加価値を感じられないような飲食店は、お客様に利用してもらえないということになる。高い粗利益率に見合った付加価値がなければ、お客様は絶対に支持してくれない。繁盛するには、お客様に価値あるお店と認

では、飲食店の付加価値とは何か。それは、次の三つの要素で構成される。

・商品
・サービス
・雰囲気

これら三つの付加価値のレベルが対価として正当であれば、お客様は満足してくれる。対価以上と認めてもらえれば、固定客になってくれるわけだ。

ここで大事なことは、飲食店の価値は、これら三つの付加価値の総合力で決まるということだ。三つのうちのどれが欠けても、お客様の満足度は低くなってしまう。たとえば、料理はおいしいけれどもサービスがよくないとか、料理もサービスもいいのに店内が汚いといった理由でお客様に嫌われてしまう

お店はいくらでもある。実にもったいない話だが、飲食店の価値に対する経営者の認識が甘いと、たとえ調理技術があろうと、店舗にお金をかけようと、結局は繁盛できないということになる。

飲食店なのだから、料理さえおいしければサービスや雰囲気など関係ないと信じているお店は少なくないが、これはまさに三〇年前、四〇年前の貧しかった時代の発想だ。いまのお客様は外食に慣れて回が肥えているから、そこそこおいしいことなど飲食店として当然と思っている。お客様は、そこそこおいしいという前提の上で、自分の納得できるお店を選んでいるのである。

納得できる条件とは、快いサービスや居心地のいい店内である。料理がおいしくて、なおかつサービスがよく雰囲気もいい。お客様が支持するのは、そういう付加価値のバランスのとれたお店なのである。

忘れてはいけない。飲食店の価値とは、あくまでお客様にとっての価値だということだ。経営者がどう考えようと勝手だが、お客様に支持されなければ成功はできない。このことを正しく認識することが、成功への第一歩なのである。

外食はもっとも身近なレジャーだ

飲食店で成功したいのなら、絶対に忘れてはならないことがある。そのひとつが「外食はもっとも身近なレジャーだ」ということだ。飲食店は、単純にお腹が空いたから何か食べるという場所ではない。だれにとっても、もっとも身近なレジャーのための場所。それが飲食店なのである。これは非常に大切なことだ。

いまの時代、食品などあり余っている。コンビニに行けばたいていのものは揃っている。そして、あろうことかコンビニに負けてしまう飲食店が後を絶たない。その理由はいろいろあるだろうが、コンビニと同じ土俵で勝負しようとしていることが大きい。要するに、レジャーとしての外食ではなく、たんなる利便性としての食品を売ろうとしているわけである。これではコンビニに勝てるはずがない。なにしろ、弁当にしろ調理パンにしろ、コンビニの商品は飲食店よりもはるかに安いし、価格に対する付加価値も高い。

最近、飲食店の最大のライバルはコンビニというフレーズをよく耳にするが、本来、そういう考え方はおかしいのである。たしかに、飲食店もコンビニも食品を売っている。しかし、両者には決定的に違うこと、いや違っていなければならないことがある。それがつまり、レジャー性への対応ということなのだ。

ここでいうレジャーとは、生活に欠かせない喜びとか楽しみという意味である。もちろん、欠かせないとはいっても、それがなければ生きていけないというわけではないが、生き甲斐のかなりの部分はなくなってしまうだろう。旅行とかドライブ、スポーツといつた一般的な意味でのレジャーは、いつでもできるというわけではない。たまの楽しみだ。その意味では、三〇年前の外食はまさにそれだった。月に一回か二回、日曜日に家族で外食するというだけで、ちょっとしたお祭り気分になったものである。

もちろん、いまでも家族や友だち、恋人との外食が大きな楽しみであることに変わりはない。いわゆるハレの場である。しかし、外食に慣れたいまの人たちにとって、ただ飲食店を利用するというだけではレジャー=ハレの場になるとは限らない。昔なら、とりあえず外でふだんと違う料理を食べたりお酒を飲むというだけで完結していたが、いまの人たちはそれだけでは満足しないだろう。

どんなお店でどんな楽しみ方をするのかということが、何よりも大切な要素になっている。つまり、豊かな時代になって、お客様が飲食店に求めるレジャーの中身が大きく変化したのである。しかも、見逃してはいけないのは、いまはコンビニやデパ地下などの加工済み食品ばかりでなく、家庭内での食事のレベルも格段に高くなっているということだ。そういう「そこそこおいしい食事」に慣れ、さらに外食にも慣れているお客様を確実に呼び込むためには、飲食店ならではの、さらに高い付加価値を提供しなければならないはずである。そこに気づかないお店は、飲食店同士の競争はおろか、コンビニにさえあっさりと負けてしまう。

貧しかった時代(といっても、たかだ30-40年前だが)には、飲食というモノをポンと出してさえいれば、それだけで飲食店として通用した。しかし、いまは違う。料理がおいしいことは当然として、プラス豊かな時代にふさわしいレジャー性を提供できなければ、お客様は飲食店として認めてくれないのである。

ところで、豊かさと聞いてすぐにモノを思い浮かべる人がいまだにいるが、それはまさに、貧しかった時代の発想だ。いまのお客様が飲食店に求めている豊かさとは、極端にいえば料理やお酒ではない。料理やお酒も絶対に必要なのだが、それらはその場を盛り上げるための道具立てにすぎないのだ。では、

求めている豊かさとは何か。それは、ゆとりとか寛ろぎといった情緒的な価値である。飲食店を利用する第一の目的はあくまで、楽しく豊かな気分で過ごすことなのである。ただし、楽しく豊かな気分で過ごすことといっても、誤解してはいけない。お客様がそういう気分になるのは、高級感のあるレストランばかりではない。たとえば、小規模個店の繁盛店の代表格といえばラーメン店だが、繁盛しているラーメン店は別に高級店などではない。そういうことではなく、レジャーとしての楽しさがお客様をひきつけるのだ。

さらにいえば、繁盛ラーメン店と売れないラーメン店の違いは、実は「味」だけではない。おいしいことはもちろんのこと、楽しさも提供できているかどうかなのである。ここに、飲食店繁盛のための大切なヒントが隠されている。

少投資・高粗利益率のメリットを追求する

飲食業のビジネスとしてのメリットは、次の2つに代表される。

。投資額を低く抑えられる

。粗利益率が群を抜いて高い

もちろん、ひと口に飲食店といっても、店舗だけでも億単位のお金をかけるような高級店もある。しかし、そういうのはあくまでも例外である。資金力のない人でもオープンできる一般的な小規模店の場合であれば、初期投資額は概ね2〜3000万円以内に収まる。しかも、本書で私がお薦めしている居抜き店舗を上手に活用すれば、確実に2000万円以内の投資額でオープンすることができる。

いうまでもないことだが、この程度の資金なら脱サラの人でも十分に用意することができる。実際、小規模飲食店の開業は昔から、個人が独立するいちばんの近道として脱サラ組に重宝されてきたし、それはいまもまったく変わらない。というより、飲食業はますますサラリーマンの転職先として注目されている。

長引く不況下でリストラの嵐が吹き荒れた結果、サラリーマンの生き方が変わったとよくいわれる。終身雇用制や年功賃金といった日本的一雇用慣行が大崩れして、大企業に勤める人たちですらぬくぬくしていられなくなってしまった。とくに40代から50代のサラリーマンは人員整理の対象になりやすく、再就職もむずかしい。最悪の状況だ。

しかし、会社がアテにならないのなら自力で将来を切り開こうという積極的思考の人も少なくない。その意味で、飲食業は独立志向の時代の花形といっても過言ではない。話が少々それてしまったが、要は、飲食業とは個人レベルの少投資で開業できるということである。

それは言い替えれば、飲食業はだれもがチャレンジできるビジネスだということにほかならない。では次に、二つ目のメリットでぁる粗利益率の高さがどんなメリットなのか。そのことについて説明しよう。

粗利益公巳とは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額である。たとえば、800円で仕入れたものを1000円で売ったとしよう。この場合の粗利益高は200円、粗利益率は20%である。

飲食店の粗利益率は業種などによつて違ってくるが、 一般的なお店の場合は概ね65〜80%程度が標準になる。つまり、材料原価率は30〜35%ということだ。ところが、 一般的な小売業の粗利益率は、せいぜい20%程度でしかない。しかも、よく知られているように、小売業は激しいデイスカウント競争にさらされている。デパートが軒並み不振なのも、ディスカウント量販店にお客様を奪われているからだ。したがって、小売業で生き残るには、定価販売などほとんど考えられない。実際の粗利益率10%台など、当たり前の現象になってしまっている。

もちろん、ハンバーガーの安売り競争など、飲食業の世界にもディスカウントの波は押し寄せている。しかし、飲食業は小売業と違って、仕入れ値の決まった商品を値引きするわけではない。ここでは詳しいやり方は省くが、材料原価その他のコストコントロールや売り方のスタイルで対応できる余地が大きい。そのため、小売業のように粗利益率を露骨に削られないですむのである。

何業であれお店を運営するには、材料費のほかにいろいろな経費がかかる。大まかにいえば、人件費、家賃、水道光熱費などだが、当然のことに、材料費以外のこれらの経費は粗利益高から支払われる。そして残ったのが利益である。いまは家賃にしろ人件費にしろけっこうな金額になる時代だから、粗利益率が低いと、ある程度の売上があっても利益が出にくい。しかし、高粗利益率を確保できる飲食業なら、そこそこの売上でもしっかりと利益を確保できるわけである。

このように飲食業には、二つの大きなメリットがある。だから参入しやすいわけだが、勘違いしてはいけないのは、メリットがあることとメリットを生かすことは別問題だということだ。飲食業での成功はまさに、この二つのメリットをどこまで追求できるかということにかかっているのである。

とくに注意したいのは、店舗づくりなどで余計なお金をかけることで初期投資額を不必要に高くしてしまうことだ。せつかくのメリットを無視しては、結局はしなくていい余計な昔労を背負うだけである。

このことを肝に銘じてほしいと思う。

思い切った発想の転換が成功を呼び込む

従来、飲食店のオープンといえば、まっさらな新店舗の物件を探して、そこに一からお店づくりしていくというのが常識だった。いや、いまでもなお、これが常識と信じている人は多い。飲食店の経営を考えている人には当然、自分の理想のお店像があるだろう。こんなお店を経営してみたいという夢があるはずだ。いろいろなお店を利用しながら、あるいは飲食店を紹介している雑誌を見ながら、将来の「自分のお店」を思い描いていることだと思う。それはそれで素晴らしい夢である。

また、現在、飲食店に調理師やサービスマンとして働いている人たちにとっても、自分のお店を持つことは大きな目標に違いない。そして、苦労して一国一城の主になるのだから、自分の思い通りのお店にしたいと思っていることだろう。その気持ちも私にはよくわかる。毎日、勤務先のお店を見ているわけだから余計に、自分だったらこんなお店にしたいという気持ちが強くなるのだろう。

夢を持つのはいい。ただし、ビジネスとして成功させたいと思うなら、夢を追うだけではいけない。いま、 一般的な「自分のお店」という夢について取り上げてみたが、ここで何か気づくことはないだろうか。それは、お店の店舗自体のことに、あまりにこだわりすぎているということだ。

どんなお店にするのか。そのプランを具体的に詰めていく作業をコンセプトづくりという。そして、飲食業は料理や飲み物を通して、お客様に楽しく豊かな時間と空間を提供するビジネスである。ただお客様が注文する料理を出せばそれでいいというものではないし、快適な場所さえ提供すればいいというものでもない。商品(料理)、サービス、雰囲気のトータルな付加価値を提供することで、お客様に喜びを売るビジネスだ。

さて、ここで気づかなければいけないのは、店舗とはそのトータルな付加価値の一部にすぎないということである。たしかに、お金をかけて優秀なデザイナーを使えば、快適な空間をつくることができるだろう。

しかし、飲食店に求められるのは、たんなる快適空間ではない。料理はもちろんとして、そこに人(お店のスタッこによる温かいサービスが加わることで、本当に楽しく快適な空間になるのだ。どんなに立派な店舗でも、質の高い料理とサービスが伴わなければ、お客様にとって価値のある空間にはならない。お店の雰囲気づくりでは店舗の内装そのものも大事だが、それを生かすのはあくまで料理とサービスなのである。

実際、店舗自体にお金をかけていなくても、気分よく過ごせるお店はたくさんある。料理がおいしくスタッフの配慮もキメ細かい。そして、店舗はけつして新しくはないが、いつも清潔感に満ちている。この究極のケースは老舗だが、お客様は、こういう付加価値のバランスのとれたお店に、本当の飲食店の価値を感じるものなのである。

バブル時代の一億総グルメを経験したいまのお客様は、外食に慣れ、お店を評価し選択する能力をしっかりと身につけている。何が本当のお値打ちなのかを見抜く目を持っている。飾り立てても中身がなければ、目を向けてくれない。いま、世の中はあらゆる分野で大きく変化しているが、飲食業も変わらなければならない時代にきている。お客様の「常識」が変わっているのだから、お店側も古い「常識」を捨てなければいけない時代なのだ。

飲食店経営者にとって、店舗は自分の城だ。そこに思い入れを込めたい気持ちは痛いほどわかる。しかし、これはビジネスなのだ。ビジネスとして成功できなければ、立派な城など何の意味もないのである。なぜ新店舗でなければならないのか。なぜ居抜き店舗ではダメなのか。ここをよく考えてみることだ。

新しい時代には新しい価値観が必要だ。思い切って発想を転換してみよう。そうすれば、居抜き店舗の魅力がはっきりと見えてくるはずだし、成功もぐんと近づいてくるはずだ。

前店の顧客を取り込める可能性がある

一般に、居抜き店舗は前の経営者が失敗して手放すお店である。

もちろん、ひと口に失敗といってもいろいろなケースがあるわけで、三〇〇〇店以上を指導してきた私の経験からいわせてもらえば、ちょっとやり方を変えていれば再建できたというケースは少なくない。あるほどだ。まったくお客様が入らなかったというのは、むしろ稀なケースといえるだろう。

また、これも数は少ないものの、別に経営に失敗したわけではないというケースもある。たとえば、経営者が高齢で引退したとか、病気にかかってしまって泣く泣くお店を閉めた、といったケースである。経営者本人は元気なのに、長年のビジネスパートナーだった奥さんが思い病気になったり亡くなってしまったために、やる気を失ったというケースもある。

このように、居抜き店舗が売りに出されるのにはいろいろなケースが考えられるわけだが、ここで大事なポイントは、大半の場合、そのお店についていたお客様がそれなりにいたということだ。では、それらのお客様は、お店がなくなってしまってどうしたのだろうか。外食が毎日の生活に溶け込んでいるいまの時代、そのお店がなくなったら外食はしないということは考えにくい。ほかのお店に行くようになつたと考えるのが妥当だろう。

ところで、いまは飲食店などいくらでもある時代だ。あなたなら、 一店くらいなくなったところで影響はないと思うだろうか。もしも本気でそう思っているのなら、すぐに考えを改めたほうがいい。お客様というのは意外と情緒的というか、「自分のお店」意識というのをけっこう強く持っているものなのだ。

また、その「場所」にあつたから利用していたという人もいるはずである。とくにポピュラープライスのお店では、お客様の利用動機は日常的で気軽な場合が多い。遠くまでわざわざ出かける気はしないけれども、近所だからとか駅に近いからなど、利便性があるから利用するというケースである。

このように、前のお店がなくなってしまつたために不便さや不満を感じているお客様は必ずいるものだ。したがつて、居抜き店舗でオープンすると、それら前のお店のお客様をかなり取り込める可能性がある。とくに「場所」を重視していたお客様の場合、オープンしたお店が彼らのニーズと合致したお店づくりであれば、何の違和感もなく「戻ってきてくれる」可能性大なのである。

居抜き店舗についているのはお店の造作だけでなく、いわば「お客様付き店舗」でもあるわけだ。

開店準備期間が短縮できる

経験のない人にはイメージしにくいかもしれないが、飲食店のオープンというのは、想像以上に大変で時間のかかる仕事である。とくに、店舗の工事は手抜きをしたり、突貫工事を敢行するというわけにはいかないから、それなりの時間がかかることを覚悟しなければならない。

一般的な新店舗でのオープンまでの手順を具体的に追っていくと、次のような流れになる。まず物件探しがある。物件が決まれば設計施工業者に依頼して、どんなお店にするのかを煮詰めていかなければならない。内外装のデザインはどうするのか。自分の思い描いていたお店にしたいところだが、投資できる予算の制限もあるから何もかも自分のイメージ通りにというわけにはいかない。業者と

相談しながら、デザイン、材料などを決めていくことになる。設計が決まってようやく内装工事に入る運びとなるが、ここからがまた大変だ。個店の工事は、チェーン店のようにユニットを組み立てていくわけではない。マイホームと同様、基本的にオリジナルの大工工事である。しかも、ここでも予算があるから、工事の人数も限られてしまう。

そうこうしている間に一カ月などすぐに過ぎてしまったりするわけだが、忘れてはいけないのは、この工事の間も家賃は発生しているということだ。まだ営業していない、つまり利益を生み出していないのに、家賃という経費は支払っている状態。それが工事期間中なのである。一方、居抜き店舗でのオープンの場合はどうかというと、このカラ家賃を支払う期間を大幅に短縮することができるのだ。

では、どれくらい短縮できるのか。これは、店舗物件そのもののつくりや古さ、そして、どんなお店にするのかという営業プランによっても違ってくるが、通常の半分程度が目安になる。居抜き店舗とは、厨房設備や空調設備などの設備機器類からイスやテーブルなどの什器備品まで、お店の営業に必要なものが一応揃っている物件である。それらの造作をそつくり譲り受けるために造作譲渡代金を支払うが、一般の新店舗に比べて、保証金などを含めた取得費自体はかなり安くなるが、この造作がすでにあるということが大きいのだ。

新店舗の場合は、 一からすべての工事をしなければならない。しかし、居抜き店舗の場合は、すでに揃っている内装や設備機器類を上手に利用する改装工事だ。工事期間を大幅に短縮できるのはそのためである。

居抜き店舗の活用は社会的にも貢献する

飲食店ビジネスには、さまざまな業界が密接に関わっている。

まず、自分のコンセプトを実現しやすい店舗物件を探すには不動産業者の協力が必要だし、店舗の内外装では設計施工業者の手を借りなければならない。付加価値の高い商品づくりでは、食材納入業者との連携が不可欠である。

ただ、これら関連業界は、昨今の不況で大きな打撃を受けている。外食マーケットそのものが縮小傾向にあるうえ、個店の新規出店が減っているためだ。また、かりに受注できたとしても、値下げ競争が激しくなっているため、利幅は非常に薄い。

飲食店ビジネスは、自店だけで成り立つものではない。さまざまな関連業界と共存共栄の関係にあるわけだ。逆にいえば、関連業界が衰退していけば、必然的に飲食業界も衰退してしまうということだ。個店の経営者はあまりこういうことを考えない傾向があるが、関連業界とのつながり、パートナーシップを大切にするということは、実は非常に重要なテーマなのである。

さて、飲食店の開業希望者の要望を聞くと、居抜き店舗は通常、新店舗に比べてはるかに人気がない。その理由は別項で述べたが、大きなところでは、前の経営者が失敗した店舗だからとか、自分の思い通りのお店ができないといった理由が挙げられる。しかし、前の経営者が失敗したことと、自分が成功できるかどうかの間には、直接の関係はない。問題は、その物件の立地条件とその条件の生かし方、つまりお店づくりの方法論にある。成功できるかどうかは、どんなお店をつくれるかどうかで決まることだ。

また、たしかに居抜き店舗は造作(内装や設備機器類、什器備品類)がひと揃い揃っている店舗だが、それらをそのまま使わなければならないという決まりなどどこにもない。というより、その造作を生かしながら、なおかつ新しいお店がオープンしたことを明快に主張できるお店につくり変えるのが、もっとも上手な活用の仕方である。

そして、新店舗では資金的に無理な人でも、居抜き店舗なら手が届く。つまり、新規オープンのチャンスが増える。そうして居抜き店舗でお店をオープンすることが、関連業界に仕事を生み出すことになり、ひいては飲食店ビジネスを盛り上げていくことになるわけだ。いま全国には一七万件以上の居抜き店舗があるが、それはそのまま、その数だけ大きなチヤンスがあるということだ。

一方、新しいお店ができるということは、消費者にとっては選択肢が増えるということであり、それがいいお店であれば、他の地域に流れてしまつていたニーズをその地域に取り戻すきっかけにもなる。これも立派な社会的貢献である。また、地元に住む人たちのパート・アルバイト先としての貢献も特筆しておきたい。

「多店化」こそ最大のテーマ

これからの飲食店経営は、多店舗展開しなければ安定しないというのが、私の持論である。たとえ個店であっても最低三店は持つべきだと考えている。そして、そのために活用してほしいのが、家賃・保証金の安い居抜き店舗なのだ。ここ一〇年ほどで、飲食業界は大きく様変わりしている。まず、お客様のニーズがどんどん変化、多様化している。時代が変わればお客様のニーズが変わるというのは当然の話だが、最近は変化のスピードがますます速くなつている。

バブルがはじけた後の長期不況もこの業界を大きく変えた。飲食店は昔から不況に強い商売といわれてきた。それは事実だったのだが、その神話に陰りが出てきたのである。外食のマーケットそのものの縮小化に加え、再開発や大型商業施設の出店。撤退などによる立地の急激な変化も目立つ。さらに、個店の場合、繁盛店が衰退していく大きな要因がもうひとつある。それは、経営者が年をとっていくということだ。いまはお客様のニーズに対応できていても、お店そのものを存続できなくなる日が必ず来る。

飲食業は一種の製造販売業である。とくに個店の場合は、多品目少量生産・販売が基本だ。そのため、労働集約性が極めて高い。つまり、他の業界に比べて非常に人手がかかる仕事である。お客様を迎えるためには朝早くから仕込みをしなければならない、午後のアイドルタイムすら仕込みに追われるのがふつうだ。もちろん、営業のピーク時には猫の手も借りたいほどの忙しさになる。そして、閉店後の後片づけ。繁盛すれば繁盛するほど、まさに体力勝負になる。

結局、経営者をはじめとするスタッフの頑張りによつてかろうじて支えられている。それが個店の宿命だ。しかし、現実問題として、そんな重労働をいつまで続けていくことができるだろうか。年齢を重ねれば、体力は確実に落ちていく。経営者一人の力でどうにかなるというのは、いま現在の話であって、将来の保証にはならない。しかも、年金や保険すらアテにならなくなる時代である。

私が積極的な多店化をめざそうといつているのは、そういう理由からである。 一店をなんとか守り抜こうという消極的な経営姿勢から、なんとしてでも二店日、三店目を出店していこうという発展型経営に、頭を切り替えるべき時期にきているのである。

では、どうして最低でも三店なのかというと、三店あれば、もしも一店がダメになったとしても残りの二店でより有利に生き残ることができるからだ。

というより、一店を守るためだけにアクセクして年をとつてしまうというのでは、あまりにも悲しいではないか。せっかく飲食店をオープンして、繁盛させようと努力するのである。その先には、経営者としての楽しい人生が待っていてくれなければ、頑張りも続かなくなるだろう。これからの時代、飲食店の経営者として楽しく生きるためには、「多店化」こそ最大のテーマになる。

多店化などというと、大手のような資金力がないとか理由をつけて、自分には関係のないことと思い込んでしまう人がいるが、実はそんなことはない。要は考え方、やり方の問題なのである。とくに、これからお店をオープンしようという人には、声を大にしていいたい。あらかじめ、少しずつ経営規模を拡大することを計画に織り込んで、その目標に向かって経営を進めてほしい、と。これを私は「ステップアップ方式」と呼んでいる。

実際、私たちコロンブスのたまごでは、小規模店からスタートし、三年目に二号店、五年後には三号店を出店する三段階方式の開業支援を行っているが、そこでも居抜き店舗を積極的に活用している。たしかに、多店化していくには資金力が不可欠だ。しかし、居抜き店舗は物件取得費や家賃が安いばかりでなく、厨房設備機器類や什器備品類など、お店のオープンに必要なものがひと通り揃っている店舗である。そのため、出店の投資額自体を非常に低く抑えることができるというメリットがある。

現状維持の発想は必ず衰退を招く。これからの時代を楽しい経営で生き抜くには、多店化への明確な意志を持たなければいけない。居抜き店舗をどう活用するかは、まさに時代のテーマでもあるわけだ。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。