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居抜き物件知識/居抜き店舗経営の教科書

有利な「場所」の確保という割り切りも大事

飲食店の成功は、出店する立地条件に大きく左右される。立地がよければ成功の確率が高い。テナント物件の立地に一等地、二等地といった評価があり、家賃・保証金が違うのもそのためだ。もちろん、立地さえよけば、どんなお店でも必ず成功できるということではない。どんなに有利とされる立地に出店しても、その立地特性を生かせなければ成功はむずかしい。飲食店の成功の最大の決め手は、メニュー価格とお店づくりが立地のニーズに合致していることである。

しかし、立地がよければ、条件の悪い立地に出店するのと比べて格段に成功しやすくなる。この事実は動かない。だから、有力飲食企業など資金力のあるお店は、家賃・保証金が高いにもかかわらず、こぞって一等地に出店しているわけだ。家賃・保証金が高ければ当然のことに損益分岐点が高くなるが、その分を吸収して余りある売上高を確保できるからである。

本来、飲食業は立地の不利を克服できるスモールビジネスだ。実際、路地裏など明らかに不利な立地なのに繁盛店、地域一番店の座を確保している個店は少なくない。彼らはなぜ、そんな立地でオープンしたのか。理由はいうまでもない。資金がなかったからだ。不利なことは十分承知で「仕方なく」オープンしたのだ。しかし、個性的なお店づくりや質の高い商品、サービスで、見事にハンデイをはねのけてしまったのだ。

しかし、最近は飲食店の数がどんどん増えて競争が激しくなっているため、なかなかそうもいかなくなっている。これも事実である。したがって、これからの飲食店オープンでは、たとえ個店であっても、できるだけ有利な立地を探すべきなのだ。ところが、個店はここで大きな壁にぶつかる。資金力の問題だ。いい立地に出店したほうが有利などということは、だれでもわかつていることだ。わかつていながらできないのは、要するに資金が足りな

では、これからオープンしようと考えている個店には、成功の夢はないのだろうか。そんなことはない。何でも表があれば裏があるのと同じで、正攻法ばかりが能ではない。お金が足りないのなら、手持ちの資金でなんとかしようと知恵を働かせる。それができるのが成功者というものだ。これは飲食業に限らず、どんな業界にも通じるビジネスの成功原則のひとつである。

この原則を頭に叩き込んで、立地を見てみよう。たしかに、 一等地にある新店舗は家賃・保証金が高い。個店ではとても手が届かない物件ばかりかもしれない。多少無理して借金すればなんとか借りられるかもしれないが、損益分岐点が高くなってしまうことを忘れてはいけない。 一般の個店の飲食店ビジネスは、客数を稼げる大型店舗や薄利多売商法を確立している飲食企業とはわけが違うのだ。

そこで目を向けてほしいのが、居抜き店舗である。居抜き店舗は物件取得費も家賃も、新店舗に比べてはるかに安く設定されているのがふつうだ。 一等地だからといつて必ずしも成功できるわけではないといったが、実際、成功できなかったお店が「居抜き店舗」として売りに出されているのである。

はっきりいえば、居抜き店舗は失敗したお店の後釜である。しかし、前のお店が失敗したのは立地のせいではない。せっかくいい場所含工地)に出店しながら、お店づくりの方針を間違ったために成功できなかっただけである。つまり、立地特性を十分に生かしたお店づくりができるのなら、その店舗を使って成功できるということになる。しかも、立地条件が有利なのだから、より成功の確率が高くなるわけだ。

また、こういう考え方もある。たとえ資金的には余裕があったとしても、自店のコンセプトに合う新店舗の空き物件が見つからないという場合だ。だれもが、できるだけ立地条件のいい物件を探しているのだから、手頃で条件のいい物件が簡単にみつかるとは限らない。むしろ、年々むずかしくなつている。それなら、立地条件さえよければ居抜き物件を避ける必要はないはずだ。物件探しでいちばん大事なのは、自分のビジネスにとってもっとも有利な「場所」を確保するということなのだ。居抜き物件でも、お店づくりは後からどうにでもできる。ビジネスで成功するには、本質を踏まえた「割り切り」も必要なのである。

居抜き店舗でも自分らしいお店づくりはできる

これまで見てきたように、居抜き(中古)店舗とは内装から設備機器類まで、営業に必要なほとんどすべてのものが揃っている店舗である。もちろん、それらの内装や設備機器類は、安いとはいえお金を出して前の経営者から買う(内装譲渡)わけだから、できるだけ流用できるに越したことはない。

ただし、それはあくまで前提である。前のお店のそっくりそのままでオープンしたのでは、お客様にはお店が変わったことがわからない。というより、場所は同じでも、前のお店とはまったく違う新しいお店がオープンするからこそ、お客様も来てくれるのだ。何度もいうが、ここを勘違いしてはいけない。

つまり、居抜き店舗でも自分らしいお店づくりはできるのである。というより、居抜き店舗を利用しながらいかに自分らしいお店にしていくか。そこに成功のカギが潜んでいるわけだ。前のお店のままなら、それはたんなる流用にすぎない。そうではなく、使える内装や設備機器類を利用しながら、なおかつそこに、自分らしいカラーを打ち出していく。そこまでいって初めて、居抜き店舗を「活用する」ということができるのだ。

これは別に言葉遊びではない。何かを活用するというのは、それを「より生かすこと」である。店舗の場合は、より生かすべきものは譲渡された店舗であり、前のお店とは違う、新しい価値を生み出すことこそが本当の「活用」ということになる。居抜き店舗だから自分のカラーを出せないなどという人がいるが、それはたんなる思い込みか、あるいは、状況に応じた自分のお店づくりの発想ができないゆえの逃げ口上にすぎないのである。

たしかに、新店舗(カラ店舗)ならまだ形になつているものは何もないのだから、自分の思いどおりのお店づくりができるかもしれない。かもしれないといったのは、お店のコンセプトをしっかりと立てることができなければ、せつかくの新店舗でもありきたりのお店しかできないからである。

これは、いま営業している飲食店を見渡してみればすぐにわかることである。ほとんどのお店が新店舗でオープンしていながら、本当に独自性を主張できているのは一部のお店でしかない。大半のお店は、新店舗という優位性を生かすことができていない。つまり、自分らしいお店の実現は、新店舗か居抜き店舗かということと、直接の関係にはないということだ。

低投資こそ、飲食店オープンの最大のメリット

飲食業のメリットは、とくに技術や経験のない素人でもチャレンジできるということと、他のビジネスに比べて投資額がそれほどかからないということ、そして粗利益率が抜群に高いということである。つまり、お金の面での大きなメリットが二つもあるわけだ。

まず投資額だが、通常、小さな個店であれば初期投資額は概ね2〜3000万円以内に収まる。この程度の資金であれば、脱サラの人でも十分に用意できる金額の範囲内である。実際、貯金と退職金などを元に借入を起こして、独立開業する脱サラの人たち(飲食業の素人)は数えきれないほどだ。

粗利益率というのは、売上高から材料原価を引いた残りの金額で、売上高に対する粗利益の割合を粗利益率という。飲食業の粗利益率は65〜70%が標準だが、これは一般の小売業の粗利益率の3〜4倍、場合によっては五倍という高率である。さて、お店を運営するには、材料費のほかに人件費(社員人件費、パート・アルバイト費)や店舗の家賃、水道光熱費などさまざまな費用がかかるが、これら材料費以外の費用はすべて粗利益から支払われる。そして残った金額が利益となる。

これは小売業でも同じなのだが、粗利益率の高い飲食業は、粗利益率の低い小売業に比べて、各費用を支払うための余裕が大きいということになる。飲食業界は他の業界に比べて小さな個店が圧倒的に多く、しかも儲かっているが、これは実は、粗利益率の高さの恩恵があるからなのだ。

しかし、粗利益率が高いといっても、売上高が決まっている以上、各費用の支払い能力には上限がある。つまり、できるだけ利益を出すためには、できるだけ経費を抑えなければならない。当たり前の経営の基本である。

ただし、飲食店の経営には、経営努力では圧縮できない費用がある。それは家賃と借入金、この二つの費用だ。家賃というのは、営業していようがいまいが、毎日欠かさず発生するものである。また、借入金の返済も待ってはくれない。毎月きちんと元金と金利を支払っていかなければならない。

逆にいえば、同じ売上高でも利益を確実に大きくするには、まず家賃を低く設定することが不可欠ということになる。また、できるだけ借入金を小さくして、毎月の返済額を低く設定する必要があるわけ

だが、借入金が少なければ投資額の回収も早く進み、より大きな利益を得ることができるようになる。

そこで、居抜き店舗のメリットが浮上してくる。前節で説明したように、居抜き店舗でのオープン資金は通常の新店舗(カラ店舗)の3分の1である。この超低投資であることが、利益を出しやすいという飲食業ならではのメリットを最大限に引き出してくれるわけだ。少ない元手でたくさん稼ぐというビジネスの原則を考えれば、居抜き店舗活用がどれだけ有利かが、よく理解できるはずである。

居抜き店舗のメリットは「超低投資」

少ない元手でたくさん稼げるほうがいい。こんなことはだれもがわかっていることだし、できればそうしたいと思っているはずだ。ところが、飲食店をオープンしようとすると、なぜかこの大原則を忘れてしまう人が少なくない。不必要な、もっといえばムダな投資を平気でしてしまうことがけっこうあるのだ。

通常、小さな個店をオープンしたい人で、資金があり余っているなどということはないだろう。 一応は初期投資額の予算を立てているとしても、かかるお金はできるだけ少ないほうがいいに決まっている(もちろん、これは個人だけでなく、多角化を考えている企業の場合も同じはずだが)。だったら、できるだけ投資額を減らせる方法を真剣に考えるべきなわけで、その切り札が居抜き(中古)店舗の活用なのだ。

通常の新店舗での飲食店オープンでかかる投資額の大半は、店舗物件の取得費、内装工事費、厨房の設備機器費、空調設備費といった、店舗自体にかかる費用である。そのほか、イスやテーブル、調度品などの費用も店舗費用に含まれるが、これもけっこうな金額になる。

投資額を減らすためには、これらの費用の一部、または全部を削っていかなければならないわけだが、これが意外とむずかしい。たとえば、店舗物件取得費を削るとしよう。この取得費のうち初期投資で大きいのは保証金(敷金、権利金)だが、立地条件のいい物件は当然のことに保証金が高く設定されている。したがって、これを抑えようとすると、最初から立地条件の不利を背負うことになりやすい。

では、自分の意志が反映される内装工事費ならコントロールしやすいかというと、実はそんなことはない。たとえば、壁や床、天丼などの材料を多少落としたところで、それほど大きな違いは出ないからだ。設計料や工事自体にかかる業者の人件費など、基本料金自体がかかってしまうからだ。

また、せっかく自分のお店をつくるのだからという意識があるから、どうしても「いいお店にしたい」という欲が出てしまう。本当に割り切れば落とせる費用も、結局はほとんど落とせないということになりがちだ。イスやテーブル、調度品などの選定についても同じことがいえる。

一方、居抜き店舗は、以前営業していた店舗を、そっくりそのまま譲り受ける契約の店舗である。したがって、内外装はもちろん、厨房設備、空調設備などの設備機器類からイスやテーブルなどの什器備品まで、お店の営業に必要なものはほとんど揃っているわけだ。

もちろん、借りる時には保証金のほかに内装譲渡代(内装や設備類の譲渡代)を支払うことになるが、通常は保証金が新店舗に比べてかなり安いし、内装譲渡代金にしても、新たに工事したり設備を設置するのとは比べ物にならないくらい安く上がる。

店舗の年数や状態によって一概にはいえないが、居抜き店舗を利用した場合の店舗開業資金は、通常の三分の一程度で済むのがふつうだ。ただし、居抜き店舗でオープンするといっても、前のお店をそのまま引き継ぐということではない。オープンするのはあくまで、あなたのお店である。つまり、その立地のその店舗で、もっとも成功の確率の高いコンセプトのお店だ。

内装や設備機器類を譲渡されるのだから、それらを最大限に利用するのは当然である。しかし同時に、前のお店との違い=新しいコンセプトのお店であることをできるだけアピールすること。これが居抜き店舗での成功原則なのだ。したがって、看板を替えるのはもちろんこと、内外装でも修正しなければならない部分も出てくるはずだ。それについては、ある程度のお金をかけて手直しし、きちんとした形をつくらなければいけない。

飲食店はお客様が満足してくれてはじめて成り立つ。いくら低投資に徹するといっても、必要な投資を惜しむようではお客様は支持してくれない。要するに、メリハリのある投資をすることが大切なのだ。しかし、必要な手直しをしたとしても、通常は新店舗でのオープンの半分以下の投資額で収まるはずである。

なぜ新店舗でのオープンが多いのか

前節でも述べたが、新店舗(カラ店舗)でのオープンと居抜き(中古)店舗でのオープンの数を比べれば、カラ店舗でオープンする事例が圧倒的に多い。これは、昔もいまも変わらない。ではなぜ、みんながみんな、新店舗でオープンしたがるのだろうか。なぜ居抜き店舗はそれほどに敬遠されるのだろうか。ここでは、その理由について考えてみよう。

まず、カラ店舗でオープンしたいという最大の理由だが、これは極めて単純である。要するに、自分の思いどおりのお店をつくりたいということだ。すべてにおいて自分の好み、カラーを反映させたお店をつくりたい。そのためには、まつさらな状態のカラ店舗でなければ都合が悪いというわけだ。

私もその気持ちはわかる。長年、飲食店をオープンするのが夢だったという人や、脱サラなど飲食店経営に新たな人生を切り開こうと思っている人にとって、たとえ小さくても店舗は大事な自分だけの城である。いわば一国一城の主になるのだから、何事にも「新品」を求めたくなるのも無理はない。

しかし、当たり前のことだが、何もかも自分の思いどおりのお店などつくれるはずがない。いかにも現実的な話で申し訳ないが、予算は決まっているのだ。サラリーマン時代にはあんなお店、こんなお店がいいと夢を描いていたとしても、実際に店舗物件の取得、内外装の工事と具体的に話が進んでいくと、予算内でできることとできないことが、たちまちはっきりとしてくる。不本意ながらも諦めなければならないプランもあるだろう。ただ、内装費などで節約していくのならいいのだが、問題なのは、店舗物件でつまらない妥協をしてしまうことだ。

たとえば、商店街のいい場所にある物件は手が届かないからと、立地が不利な物件で手を打ってしまうことがよくある。居抜き物件だったらもつといい立地で借りられるのに、あくまで新品=カラ店舗にこだわるあまり、わざわざ不利な立地でオープンするのである。これでは、自分で成功から遠ざかっているようなものだ。

それにもかかわらず居抜き店舗を嫌がるのは、自分の好きなお店づくりができないということのほかにもうひとつ、居抜き店舗は失敗したお店というイメージを持っていることが大きい。

実際、居抜き店舗は、前の経営者が失敗して撤退したお店のことが多い。経営は順調だったのにお店を手放すというケースもあるが、大半は経営が行き詰まって撤退した店舗といっていいだろう。しかし、前の経営者が失敗したら、あなたも必ず失敗するのだろうか。そんなことはないはずだ。

たとえば、立地条件が非常に悪いといった明らかな理由があるのなら、まだ話はわかる。では、立地条件が悪くない場合はどうなるのか。立地がいいのに失敗するということは、それ以外に何か失敗要因があったことになる。言い替えれば、ほかの経営者が経営していれば失敗しなかったかもしれないということだ。

また、居抜き店舗でオープンすると前のお店の評判が影響するのではないかということを、気にする人もいるだろう。たしかにこれは大事なことで、前のお店が警察沙汰でも起こしていたとかいうなら、避けたほうが賢明だ。しかし、そんなケースは例外で、ふつうは、たんに経営力がなかったために失敗したお店である。しかも、いまのお客様は、その店舗の過去がどうだったなどということにこだわらなくなっている。前のお店の評判を引きずったというのは飲食店が少なかつた昔の話で、いまはこれだけたくさんの飲食店がある時代だ。よほどのことがない限り、場所は同じでもまったく新しいお店がオープンしたということをアピールできれば、別に問題はない。だから、居抜き店舗での成功事例がどんどん増えているのである。

新店舗でオープンしたからといつて、それが成功する保証になるわけではない。 一方、居抜き店舗でも、立地条件を含めてその店舗をうまく生かすことができれば成功できる。居抜き店舗の生かし方については後述するが、新店舗へのこだわりにあまり意味がないことは理解してもらえたと思う。

飲食店の成功は店舗の新旧とは関係ない

意外に思うかもしれないが、飲食店が成功できるかどうかということと、店舗が新しいかどうかということには、実は直接関係はないのである。まずは、この事実を正しく理解することから始めよう。

ちなみに、ここで「新しい店舗」といっているのは、居抜き店舗、つまり中古店舗に対して「新しい」といっているだけで、テナントとして入るビルやマンションが新築という意味ではない。

実際問題として、新築の店舗(新店舗)は数も少ないし家賃・保証金も高いのがふつうだから、初めてオープンする個人経営の小さな飲食店(個店)がテナント出店するケースはそれほど多くはない。ビルやマンション自体は中古だが、前のお店の内装などをされいに撤去して、ある店舗で出店するのがふつうである。新店舗も含めて、こういうまっさらの状態の店舗を「カラ店舗」とも呼ぶ。

さて、飲食店はカラ店舗でオープンするのが一般的だ。たしかにそれは事実である。居抜き(中古)店舗でのオープンは明らかに少数派だ。では、オープンした後の成功事例はどうなのだろうか。

やはりカラ店舗派が圧倒的なのだろうか。いや、そんなことはない。カラ店舗だから成功できて、居抜き店舗だと失敗するなどという法則などありはしないのだ。というより、一般にあまり知られていないだけのことで、実際には、居抜き店舗を上手に活用して、見事に成功を収めている事例はいくらでもある。

私はこれまで全国で3000店以上の飲食店を指導してきたが、その経験から断言できる。カラ店舗でオープンしなければ成功できないなどというのは、たんなる思い込みにすぎないのである。

また、居抜き店舗というと、何か安っぽいイメージを抱いてしまう人がよくいるが、これも根拠のない思い込みである。安っぽい店舗かどうかは、前のお店がどんなお店だったのか、そして、その店舗をどう活用したのかで決まることだ。たとえば、フレンチやイタリアンのレストラン、すし店、割烹など、いわゆる高級店の繁盛店でも、実は居抜き店舗を利用しているというケースは少なくない。そういう高級店では、居抜きのままではなく内外装にはかなり手を入れていることが多いから、はた目にはカラ店舗でのオープンと見分けがつかないということも多い。

しかし、たとえ高級店であっても、中古であることを簡単にカムフラージュできるというのは、ビジネス発想のできる経営者なら見逃すことはできないはずだ。

たとえば、前のお店がポピュラープライスの一般の飲食店だった場合、店舗自体にはそれほどお金をかけていないのがふつうだろう。しかも、何年か使用しているわけだから、それ相応に汚れもついているだろうし、傷んでいるところもあるはずだ。

しかし、それなら汚れたり傷んでいる部分を直したり隠したりすればいい。店舗の内装というのは、ちょっとした工夫でイメージがガラリと変わるものである。だから、プラス思考のできる経営者は、あまりお金をかけずに居抜き店舗の欠点を見事にカバーしてみせる。

つまり、居抜き店舗がどんなイメージの店舗に変身できるかは活用する人の考え方やアイデアの問題であって、頭から居抜きだからどうこうというのは、いかにも素人的な発想なのである。

このように、飲食店の成功は店舗の新旧で決まるものではない。たしかに、店舗は飲食店の要ではあるが、もっと重要なのは、その店舗でどんな価値を提供できるかということだ。立派な店舗なのに成功できないお店など、あなたの周りにも数えきれないほどあるではないか。

勘違いしてはいけないのは、お客様は、店舗を見るために来店するわけではないということだ。おいしい料理や気分のいいサービス、あるいは店内の雰囲気といった飲食店ならではの価値を楽しむためにお金を払うのである。

どうだろう。居抜き店舗に抱いていたイメージが変わってきたのではないだろうか。どうしてカラ店舗でオープンすることにこだわらなければいけないのか。この問いに対して、あなたは明快に答えることができるだろうか。

あなたがいま考えるべきことは、どうすれば成功できるのか、この一点なのだ。

はじめに

長かった景気の低迷にも、ようやく薄日がさすようになってきた。まだまだ本格的な景気の回復とは いかないだろうが、それでも、飲食店の客足が確実に戻り始めているのだ。
外食の市場規模はかつてに比べればやや縮小しているものの、それは持ち帰りの弁当や惣菜などの、いわゆる中食市場が拡大して いるためだ。再び、飲食店開店の追い風が吹き始めている。

ただし、回復基調になったからといって、昔のやり方がそのまま通用するということではない。飲食店の経営環境というのは常に変化するものだが、とりわけここ数年は、お客様の変化が激しい。
たとえば、最近のお客様はケチになったとこぽすお店がよくあるが、実は違う。バブルの頃のようなムダ遣いをしなくなっただけで、むしろ外食を楽しむことに積極的になっている。

つまり、より賢い消費者になっただけである。
だから、単純に安くさえすればお客様が入るという図式は成り立たない。もちろん、価格はお客様に 対してもっともアピールする要素だ。しかし、いまのお客様が求めているのは、ただの安さではない。
安くて上質のものを求めている。外食の目的自体がよりレジャー化しているから、楽しく豊かな気分で過ごせるということが、お店のお値打ちとしてより評価されるようになっているわけだ。

要するに、新しい時代にマッチした飲食店が求められている。いまのお客様は本当のお値打ちを見抜く目を持っている。うわべだけ飾り立てても、中身がなければ通用しない。
もはや、派手なお店づくりでお客様を集める時代ではないのである。そもそも、そんな投資をしてもペイしない。
だから、これからの飲食店経営では、最大効果の見込める「低投資」の実現がもっとも重要なテーマ になる。私が本書で「居抜き(中古)店舗」 の活用を強く提唱するのもそのためだ。居抜き店舗の魅力は、なんといっても投資額を低く抑えられることである。

従来、居抜き店舗はどちらかというと敬遠される物件だった。いまもその風潮は根強い。しかし、ではなぜ敬遠しなければならないのかと問われて、明快な答えを出せるだろうか。中古よりも新品がいい。
根拠といっても、せいぜいその程度のことが多い。
ビジネスとは、いくら投資していくら儲けるか、である。だから、経営者はある意味でケチでなけれ ばならない。ただし、たんなるドケチではダメで、お金の使い方にメリハリがなければ儲からない。

つまり、単純に居抜き店舗を利用すれば「安く上がる」というのではダメなわけで、メリハリのある 投資をしなければいけないということだ。なぜなら、飲食店はお客様が満足してくれなければ(お客様 が来てくれなければ)意味がないからである。居心地感、厨房機能など、手を入れなければならない部分には、きちんとした投資が不可欠である。
また、居抜き店舗に限ったことではないが、お店の「顔」である看板で妙にケチッてはいけない。繁盛とは、いかにたくさんの人たちにお店を認知してもらえるかで決まる。これは飲食店の成功原則のひとつである。

一方、これからの時代の飲食店経営では、多店化も重大なテーマである。経営環境が激変しているということは、お店の存続がそれだけむずかしくなっていることを意味する。と同時に、経営者自身も体力が続かなくなっていく。元気であれば、いろいろな変化に対応していくこともできるだろう。
しかし、あえてはっきりいうが、気持ちだけではどうにもならなくなる日が必ず来る。その時になっ て慌てないために、いまから多店化を目標にすべきなのだ。経営を安定させるには、最低三店持てというのが私の持論だが、そのためにも、超低投資でお店をオープンできる居抜き店舗を最大限に活用すべきなのである。

ところで、だれもがお店のオープンと簡単にいってしまうものだが、実は失敗事例の大半は、そもそものお店づくりで失敗している。お店づくりというと店舗デザインばかりに頭が行ってしまう人が多いが、本当に大切なのは、立地の選定とその立地特性の生かし方である。
立地特性と業種業態がマッチしなければ、どんなに「いいお店」を出しても成功はできない。とにかく、ビジネス発想をしっかりと持つことだ。そうすれば必ず、居抜き店舗のメリットがはっきりと見えてくる。あとは、そのメリットをいかに取り込み、どう生かしていくかである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。