昔から、飲食店は立地で決まるといわれる。もちろんこれは、いまも生き続けているセオリーだ。しかし、誤解してはいけないのは、このセオリーの意味するところは、単純に立地さえよければ成功できるということではない、ということだ。
たしかに、飲食店にとって立地は非常に重要な要素である。しかし、どんなに「いい立地」に出店したとしても、その立地のよさを生かせなければ何にもならない。現に、繁華街とか駅前、商店街の中心といった、いわゆる一等地にありながら繁盛できないお店はいくらでもあるではないか。
つまり、このセオリーが語つているのは、成功の秘訣はその立地の特性に合ったお店づくりだ、ということなのである。もちろん「いい立地」が有利なことは確かだが、それよりも立地の生かし方が大切ということだ。
では、立地特性を生かすとはどういうことなのか。それは、その立地のニーズを見極め、そのニーズに応えるお店づくりをすることである。つまり、立地に合ったお店づくりとは、言い替えれば、お客様が求めているお店づくりということになる。
どういう立地にしろ、どんな業種業態のお店にするにしろ、お客様に支持されるお店になるための第一歩は、お客様のニーズを的確に知ることだ。これが飲食店ビジネスの一番の基本である。お客様のニーズとは、お客様が「あってほしい」と求めているお店であり商品である。お客様に求められるお店・商品だからこそお客様は、ほかに飲食店が何店あろうと見向きもせずに支持してくれるのだ。
お客様とお店の関係は、つねに需要と供給の関係にある。需要があるから売れるのであって、需要がなければ売れるはずがない。当たり前のことなのだが、これがなかなか理解できない人がいる。
たとえば、飲食店経営者にありがちなのが、うちはこれだけ手間をかけているとか、こんなにいい材料を使っているとか、流行もしっかり採り入れているといった自負である。もちろん、自信を持つことは大切だ。しかし、いくら自信を持っていても、そのお店づくりがお客様のニーズとズレていたらどうなるだろう。答えは簡単、どんなに頑張っても繁盛できないということになる。本人は納得できないかもしれないが、それがビジネスの現実というものだ。
ここで強調しておきたいのは、経営者にとつていくら「いいお店」であっても、お客様にとって「どうでもいいお店」では、絶対に成功はできないということだ。たとえば、私は本書で、居抜き店舗を活用した超低投資のオープンを薦めているが、読者のなかには、せっかくオープンするのなら新店舗でやりたいと思っている人がいるはずだ。なぜかというと、新店舗いお店などつくれるはずがない、と。
実はその発想が間違いの元なのだ。「いいお店」かどうかは、店舗自体の新しさや古さで決まるものではない。肝心なのは、どんなお店にするのか、つまり、お店づくりの発想と方法論なのである。その発想と方法論があれば、店舗が居抜きでも新店舗でもどちらでもいい。確実に繁盛店をつくれるのである。しかも、居抜き店舗を活用すれば、新店舗の場合よりもはるかに安くオープンできるのだ。どっちが頭のいいやり方なのか、考えるまでもないだろう。
さて、話を戻そう。お客様のニーズは立地によつて変わるものである。当たり前のことだ。繁華街で大繁盛しているからといつて、古い住宅地にそのままの形でオープンしても、繁盛できるはずがない。住宅地にも居酒屋のニーズはあるが、お客様の求めている居酒屋は違う形の居酒屋なのだ。
また、客層やお客様の利用動機によつても変わる。これも当然である。若い人たちをターゲットにしたお店が毎日、中高年客で埋まるなどということはあり得ないし、いくら「安くておいしい」は飲食店の魅力といっても、たまのごちそうなど、ハレの日の食事に使ってもらえるはずがない。
確実に成功するための条件は、一にも二にも「その立地に合ったお店づくり」=「お客様が求めるお店づくり」なのである。この立地ではどんなニーズがあるのか。あるいは、埋もれているのはどういうニーズか。お店づくりは、そこを冷静にみつめることから始まる。それが立地を生かすということなのだ。