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第6章「サービス」の常識編

飲食店でのお客様のクレームはスタッフ任せにしない事が大切

クレームとはお客様からの苦情のことである。教科書的にいえば、クレームは本来あってはならないことだろう。しかし、お客様もお店のスタッフも人間だ。現実の問題として、100%防ぐことは不可能といっていい。それなら、逃げの姿勢になるのではなく、予防策を講じた上で、それを生かす方法を考えるべきである。

ひと口にクレームといっても、いろいろなケースがある。たとえば、料理に異物が入っていたなど、お店側の不注意が原因のこともあれば、無理やり相席にされたとか、スタッフの態度が悪いといった、ちょっとした苦情の場合もある。とくに不手際がなくても、お客様にとってスタッフの相性が悪いというだけで注文がつけられることもある。

しかし、原因が何であれ、クレームが出るということは、お客様の気分を害してしまったわけである。素早く的確に対応して、何とか気分を直してもらわなければならない。どんなときにどんなクレームが発生するのかあらかじめ想定して、対応の仕方を考えておく必要がある。

ベテランのサービスマンなら臨機応変に対処できるかもしれないが、ふつうのスタッフではそうはいかない。ムッとした顔をしたり、自分には非がないからとお客様の言い分に逆らつたりすることすらある。傷口を広げて最悪の結果を招くことだけは、絶対に避けなければならない。

クレームヘの対応で最も大事なことは、スタッフ全員に「お客様の気持ちは正しい」という理念を徹底しておくことだ。飲食店は、お客様が楽しい時間をすごすための場所である。その気分を台なしにしてしまったのだから、理由にかかわらず、まず誠心誠意謝罪するのは当然のことだ。

お客様というのは千差万別で、ものわかりのいい人もいれば、そうでない人もいる。また、クレームを聞かされるのはだれだつて気持ちのいいことではない。しかし、お客様はお店に期待しているからこそ、貴重な意見を言ってくれている。こういう謙虚な意識をもって、それぞれのクレームにきちんと対応していれば、かえってお店の評価を上げるチャンスにもなるし、スタッフが成長していくきっかけにもなる。クレームを生かすとは、こういうことである。

クレームをプラスに転じるには、その原因を徹底して究明することが大切だ。たとえば、スタッフの態度が悪いというクレームがついたとしよう。本人には別に悪気はない。それなら相性の問題と済ませていいのかといえば、それは違う。本人が意識していないということは、放っておいたら他のお客様に対しても、同じような接客を続けることになる。

対処の仕方では、まずお詫びすることが先決。絶対に言い訳したり口論したりしてはいけない。もちろん、お客様の話は最後までまじめな態度で聞く。そして、あらためて誠心誠意謝罪して、責任者を呼んでくることを伝える。解決のための対応は、スタッフに任せてはいけない。必ず責任を取れる人間(経営者、店長)が当たることが鉄則である。

お見送りは飲食店サービスの句読点

お客様が帰るとき「ありがとうございました」という。これは商売として当たり前のことだし、接客用語の中でも「いらつしやいませ」と同様、最も大切な言葉である。なにしろ、お金を払ってくれることに対する感謝の言葉なのだ。

ところが、この「ありがとうございました」も「いらつしゃいませ」と同様に、ただ機械的に繰り返しているだけのお店が目立つ。機械的というのは、言葉は発していても、肝心の「感謝の気持ち」がこめられているとはとても感じられないからである。マニュアルに書いてあるから言っているだけ、と批判されても仕方のないお店が少なくない。

たしかに、 一応は「ありがとうございました」と、言うことは言っている。しかし、こういう言葉は、本当に感謝の気持ちがこめられていないと、かえって空々しく聞こえてしまう。だれに聞こえるのかといえば、お客様にである。当然、そのお客様が固定客になってくれる確率は低くなる。

さて、「ありがとうございました」と声をかけるのはいいのだが、その感謝の気持ちをどう表現するかは、お見送りの仕方でかなり違ってくる。

一般に、飲食店の接客サービスはレジで終わるというのが常識になっているといっていいだろう。実際、レジの仕事はたんにお金を精算することだけではない。いわばお店でのサービスの総仕上げである。

お客様の満足度は、お金を支払ってはじめて決定される。なぜなら、料理、サービス、雰囲気とも、料金に照らして適正かどうかは、帰るまではわからないからだ。したがつて、お客様はレジで最もシビアな評価を下す。

気持ちよく支払いができて、心からの感謝の気持ちを表現されれば、それまでに多少の不満があったとしても帳消しにしてくれるだろう。しかし、レジの態度が悪い印象を与えてしまったら、その反対である。それまでどんなに満足してくれていても、とたんに気持ちが冷めてしまうだろう。だから、レジでの「ありがとうございました」は、本当に感謝の気持ちをこめたものでなければならないわけだ。お客様は、気分よく帰れるからこそ、また来店してくれるのである。

ところで、接客の終わりはレジと思っているお店はレジで頭を下げて終わりになるが、お客様がドアから出るまでが接客と考えるお店は、会計の後にお客様の背中に向かってもう一度「ありがとうございました」と声をかける。数は少ないが、中にはドアの外までお見送りして「またお越しくださいませ」と声をかけるお店もある。もちろん、どのやり方が一番というのではない。業態によって不自然な場合も出てくる。

大事なのは、感謝の気持ちを確実にお客様に伝えるということだ。お見送りの仕方にもいろいろあるが、それは、できるだけ感謝の気持ちを伝えたいと考えるからこそ出てくる表現なのである。

飲食店がたくさんある中で自店を選んで利用してくれた。そのお客様に対して感謝しなければいけないというのは、だれでもわかつていることだ。しかし、その気持ちが、はっきりとした言葉や態度に表現されていなければ、お客様には伝わらないのである。お見送りを大切にすることは、飲食店として最も大切な仕事ということもできる。

お客様からの要求は、テーブルが表している

接客サービスの盲点は中間サービスにある。中間サービスというのは、お客様がオーダーした料理をお出しした後のサービスである。接客サービスの仕事は、お客様が楽しくすごすためのフオローである。オーダーを受けて料理を出したらそれでおしまい、ということにはならないのだ。

ところが、これがなかなかできない。基本的にはお店の教育が悪いせいなのだが、ここを改善しない限り、本当にお客様に愛されるお店にはなれないといっておこう。

たとえば、最近は積極的に追加オーダーの推奨販売を行うお店が増えている。少しでも売上がほしいからで、やりすぎにならなければ悪いことではない。問題は、押し付けがましいまでの推奨販売をしておきながら、お客様のほうから追加オーダーがあったときに平気で見逃してしまうことにある。要するに、推奨販売はお店から言われて仕方なくやっているだけで、中間サービスという意識がまるでないからなのだ。

繰り返すが、サービススタッフの仕事は、お客様が楽しく過ごすためのフォローである。気を配って尽くすことだ。そのためには、お客様の動向をつねに気にしていなければならない。お客様のテーブルから目を離さないというのは、接客サービスの基本である。

もちろん、実際問題としてお店が忙しければ、つねに目を離さないというのは不可能だろう。しかし、何もじっと見つめていなさいということではないのだ。ときどきチラッと目をやるだけでいいのである。サービススタッフ全員がそれを実行していれば、お客様の合図を見逃すことはほぼ防げるはずなのだ。第一、お客様のほうも、スタッフに見つめられていては落ち着かないし、むしろ不快な気分になるだろう。

お客様のテーブルをつねに注意していれば、お客様の食事の進行状況や、いまお客様が何を欲しているのかということを的確につかむことができる。お客様の状態に応じたサービスが可能になるわけだ。

たとえば、複数の料理をオーダーした場合、本来なら最初の料理を食べ終わった頃を見計らつて次の料理を運ぶべきである。しかし、実際にそれができているのは、ほんの一部のお店だけである。まだ最初の料理が半分以上も残っているのに、次の料理を出してしまう。こんなことが、どうしてきちんとできないのか。

厨房内に問題があることもあるが、サービススタッフの注意不足が原因になっていることも多い。

また、食べ終えた食器がいつまでもテーブルにあるというのは不快なものだが、不注意なサービススタッフは、こんなことにも気づかない。最悪なのは、2皿目の料理を運んできたのはいいが、前の料理の皿を片付けていないというケースである。

水やお茶のお代わりも意外と軽視されがちだ。気づいていても注ぎ足したり交換したりしようとしないというのは問題外として、ここでも、お客様のテーブルヘの注意力不足が如実に出てしまう。

なお、食べ終えた食器を下げるときだが、絶対に黙って下げてはいけない。必ず「お下げいたします」と声をかけてから下げるようにすること。少しでも料理が残っていたら、勝手に判断しないで「お下げしてもよろしいでしょうか」と尋ねてから下げることだ。

全てのお客様に大切に接する飲食店には、常連客との馴れ合いの時間はない

お客様に親しみをもってもらうことは、固定客づくりの一番の近道だ。親しみをもってもらうには、お客様とのコミュニケーションが欠かせないが、これも接客サービスの大事な役割である。

お客様は飲食店に「自分のオアシス」を求めているものだ。だから、自分を大切にしてくれるお店を探している。もちろん、多数のお客様が出入りすることくらいお客様もわかっているわけだが、できれば自分は特別な存在になりたいと思う。それがお客様の心理というものだ。お客様は口には出さなくても、お店の人間と親しくなって、心の触れ合いをしたいと期待しているのである。

しかし、お客様のほうから声をかけてくることを期待していてはいけない。こちらから積極的に声をかけるのである。たとえば、お迎えのときに、ひと言「今日は暑かったですね」と添えてみたり、雨の日なら「よく降りますね」と話しかける。何でもないひと言だが、お客様にとっては手を差し延べてくれたような

オーダーを受けるときはお客様と最も近い距離で接しているときだから、このときもコミュニケーションの絶好のチャンスである。たとえば、ただメニュー表を渡すだけでなく、「もしよろしかったら、今日はこんな料理ができるのですが」などと料理の説明をする。その料理をオーダーしてくれなくてもいっこうにかまわない。お客様を大事に考えているというお店の気持ちが伝わればいいのである。

お客様にもいろいろなタイプの人がいるが、ふつうは自分から話しかけるのは、なんとなく気恥ずかしいと思っているものである。話をしたいのだけれども、自分からは切り出せないでいる。それなら、お店のほうからきっかけをつくってあげればいい。

食事中なら、「何か御用はございませんか、なんなりとお申し付けください」と声をかけるのもいいだろう。そして、食後なら「お楽しみいただけましたか」と話しかける。もちろん、食事やお客様同士の会話の邪魔にならないように注意しなければならないが、お客様は、こういう「ひと言」に感動するのである。

ただし、お客様に親しみをもつてもらうことと、特別なお客様に過剰サービスをすることは別である。ここはきっちりと理解しておいてほしい。すべてのお客様と親しくなれるように心を配ることが大切なのだ。すべてのお客様に平等にというのは、飲食店のサービスの大原則である。

たしかに、一部の常連客との馴れ合いは一見、固定客ができたような気にさせてくれるだろう。しかし、それは結局、錯覚でしかない。なぜなら、一部のお客様だけ特別扱いするということは、他のお客様を軽く見ている、大切なお客様として認めていないということを公言しているようなものだからである。

常連客が大きな顔をして店主と馴れ合っているのは、だれにとっても気分のよくない光景だ。そんなお店にわざわざ通ってくれるお客様はいない。お客様はだれでも自分を大切にしてほしいと思っている。このことを忘れてはいけない。

飲食店の印象はオーダーの取り方が決める

お客様のオーダーを取るのは、サービススタッフの最も基本的な仕事のひとつである。そのため、何も考えずにやつているお店が多いが、実は、このときにお客様の心証を害してしまうことが少なくない。接客サービスの落とし穴でもあるわけだ。

オーダーを取るときは、お客様と最も近い距離で接するときである。したがって、お客様の心証に大きな影響を与えやすい場面ということになる。また、オーダー時は、スタッフがお客様をどれだけ大切に思っているかということが、はっきりと表れてしまうときでもある。

通常、お客様が席についたら、最初のサービスとして水やお茶、おしぼりなどと一緒にメニュー表を提示する。ここで最初の問題点が浮かび上がる。お客様に圧力をかけて平気でいるお店が多いということだ。

最近は、メニュー表を手渡した直後に「お決まりでしたら」とオーダーを促すやり方がまかり通っている。まだお客様がメニュー表をよく見てもいないのに、まだかまだかとせかすわけだ。

これでは、何のためにメニュー表を渡しているのかわからないし、お客様はメニューを選ぶという楽しさも味わえない。限定メニューだけのランチタイムとか、居酒屋でとりあえずドリンクだけオーダーしてもらうというのならまだ許されるが、あたかもお客様を無視したような態度は大問題である。本来「お決まりでしたら」というのは、お客様がメニューを検討して注文が決まったら、教えてくださいという意味の言葉なのである。

また、お客様にメニューを検討させるのはいいのだが、メニュー表を渡したままほったらかしにしてしまうケースも多々見受けられるが、この点も十分認識してほしい。

お客様にメニュー表を渡したらお客様の様子に注意するというのは、接客サービスの基本である。注文が決まれば必ず、サービススタッフを探すそぶりをしたり、メニュー表を閉じたりという、お客様からの合図がある。その合図を見逃さずに、さっとおうかがいするのが、当たり前のサービスなのだ。もしも合図に気づかなかったら、そのお客様を無視していたことと同じなのだ。

こういうところで、知らず知らずにお客様の印象を悪くしているとしたら、どうするのか。お店にとって大変な損失である。

さて、オーダーを受けたら、必ず声に出して伝票に書くこと。聞き間違いを防ぐためで、これが原因のトラブルは意外と多い。また、お客様が「ご飯」と言っているのに「ライスですね」と言い替えるようなことは厳禁である。お客様の言い方を否定するニュアンスは、飲食店では絶対にあってはならない。スタッフには日頃から、お客様を肯定する習慣をつけさせておくことだ。

ドリンクや複数の料理を注文された場合は、必ず提供する順番を確認する。調理に時間がかかる場合は、あらかじめお客様にそのむね断って了解を得ておく、といったことも大切なポイントだ。

なお、オーダーを受けているときに他のお客様から声をかけられることもあるが、絶対に無視してはいけない。「はい、ただいま」など必ず返事をして、すぐにうかがうようにする。

飲食店でリピーターを増やす「いらっしゃいませ」とは。

お客様のお店に対する評価は、お店に入ったときの第一印象でほとんど決まつてしまう。もしもお客様が来店したときのスタッフの対応に失礼があったら、お客様の心証をよくすることはほとんどできないといってもいい。お客様にとって第一印象は、それほど強烈なものである。したがって、お出迎えの仕方には、つねに十分注意しておく必要がある。

飲食店のお出迎えは「いらつしやいませ」という挨拶から始まる。そんなことは常識だろう。そして、あまりに当たり前の接客用語のために、その意味を深く考えようとしない傾向がある。オウムのように機械的に繰り返すだけというお店は、いくらでもある。しかし、「いらっしゃいませ」という言葉には、次の3つの意味が込められていなければならないのだ。

①来店してくれたことへの感謝の気持ち
②大切なお客様さまと認めていることを示す意思表示
③楽しく豊かな時間をすごしてもらうためのきっかけづくり
いかがだろうか。①はともかく、②、③の意味までしつかりと意識して、この言葉を使っているだろうか。

はじめて入るお店というのは、だれにとっても不安なものだ。なんとなく落ち着かない気分になってしまう。そういう不安を一瞬のうちに取り除いて、楽しい時間への期待感をもたせる。それがお出迎えである。

人間だれでも、人に歓迎されたいと思っている。お店に入るときはなおさらそうだ。何しろお客様なのである。大切なお客様としてきちんと扱ってほしいと思う。当然のことである。それが、お客様を軽んじるような態度を取られたらどう思うだろうか。

ただ機械的に「いらつしやいませ」を繰り返すだけのお店は、そういうお客様の心理がまるでわかっていないのだ。来店してくれたことを感謝するのは当然の礼儀だが、② の大切なお客様と認めているという意思表示の意味の大きさを、しっかりとかみしめてほしいと思う。

以上ははじめて来店してくれたお客様の場合で、何度か来店したことのあるお客様の場合は、「いらつしやいませ」だけではなく、「今日はお一人ですか」とか「今日はお早いですね」といったひと言を付け加えるといい。このひと言によって、当店の大事なお客様さまというお店側の気持ちがストレートに伝わり、お客様の気分はぐんとよくなる。

別に予約をしていなくても、「お待ちしておりました」という気持ちをはっきりと伝える。これは、お客様をお店につなぎ止めるための大切なポイントでもある。いまは競争の激しい時代だ。お客様にとって、他にも行くお店はいくらでもある。「やっぱりこのお店に来てよかった」と思ってもらえなければ、固定客を増やすことはできない。

お客様はそれぞれの期待感をもってお店に来る。その期待感を絶対に裏切らないことが、成功への鉄則である。

なお、第一印象をよくするには、サービススタッフの明るい笑顔と声だけでなく、身のこなしや身だしなふも大切な要素になる。経営者は、つねにそこにも気を配って、スタッフを教育していかなければいけない。

お客様の自尊心を傷つけないための言葉遣いとは

接客サービスの目的は、お客様に気分よくすごしてもらうことだ。お客様が楽しく豊かな気分ですごせるように、いろいろと配慮して尽くすことが仕事である。当然のことだが、スタッフの言葉遣いには十分注意しなければならない。

しかし、言葉遣いというのは、意外とむずかしいものだ。とくに、ふだんの生活ではあまり使わないだけに、敬語の表現はむずかしい。よくクイズなどにも出題されるが、なかなか全問正解とはいかないのではないか。

接客サービスの言葉遣いで最も大切なことは、絶対にお客様の自尊心を傷つけてはならないということだ。これが飲食業の鉄則であり、敬語や丁寧語を使わなければならないのもそのためである。

言うまでもなく、お客様とお店との間には厳然とした一線がある。絶対に超えてはならない一線だ。そして、その一線をはさんでの礼儀というものがある。だから、お客様はお店の人間の言葉遣いに対して、非常に敏感である。ちょっとしたひと言で気分を害してしまうし、最悪の場合は本気で怒らせてしまう。

言葉遣いなど常識の範囲内でできることではないのか。そう思っているお店も少なくない。しかし、はたしてそうだろうか。悪気はなくてもお客様を怒らせてしまうというのはよくあるケースだが、たいていの場合、怒らせてしまうきっかけはスタッフの無自覚な言葉遣いにある。

一般に、接客サービスで必要な基本用語はそれほど多くはない。「いらつしゃいませ」に始まり、たしましょうか」「はい、かしこまりました」「申し訳ございません」「ありがとうございました」ぜい10種類くらいのものだ。これくらいの用語ならだれでも覚えられる。

しかし、当たり前のことだが、接客サービスは基本用語だけでは務まらない。基本用語はあくまで基本であって、オーダーを取るだけでも、お客様とのさまざまなやり取りがある。そして、そこでは絶対に敬語を使わなければならないのである。これがスタッフの「常識」だけですむことなのか。そこを真剣に考えなければならない。

たとえば、自分のことを「わたし」といっているようでは失格で、「わたくし」と言わなければならないが、こんなことも徹底されていないお店があまりに多いのだ。だから、平気で「うち」とか「うちの店」などと言ってしまうが、正しくは「わたくしどもの店」である。

その他、よく見かける誤用として「いいですか」「何人ですか」「ありません」「すみませんが」「知っていますか」「お連れします」などがある。それぞれ正しい言葉遣いは「よろしいですか」「何人様でいらつしゃいますか」で」ざいません」「恐れ入りますが」「ご存じでしょうか」「ご案内いたします」である。

スタツフに正しい言葉遣いをさせるには、敬語表現はむずかしいという前提で取り組むことが大切だ。想定問答集をつくって、日頃から練習させるのである。言葉というのは、使いつけていないと、なかなかスムーズに出てこない。

ただし、言葉だけ暗記させるのでは効果はない。おもてなしの心と一緒に教える。そこが肝心である。

飲食店は接客マニュアルでの画一化で気持ちを込めるゆとりを持つ事が必要

飲食店はつねに、 一定レベルの付加価値を提供しなければならない。このお店が守らなければならない一定のレベルのことをスタンダードという。もちろん、スタンダードを決めるのは経営者だ。そして経営者は、商品、サービス、雰囲気のすべてにおいてスタンダードを維持していく責任をもっている。

しかし、日で言うのは簡単だが、これを実現するのは簡単なことではない。なぜなら、人それぞれ考え方も感覚も違うからだ。プロのサービスマンを使うのなら、ある程度は個々の判断に任せることができるが、パート・アルバイトにそれは不可能だ。

たしかに、 一般の飲食店の接客サービスは、基本的にはそれほどむずかしい仕事ではない。また、サービススタイルにしても、どのお店でも大きな違いはないものだ。しかし、お客様に対してきちんと対応できるかどうかは別問題である。そこで個人差が出ていたら、お客様はどう思うだろうか。また、お客様とのやり取りの中では、いろいろな場面が想定される。その対応をすべて、個々のスタッフの判断に任せていいものだろうか。

だから、サービスマニュアルが必要になる。マニュアルによって、自店のスタンダードを教え込まなければならないのだ。ただし、注意しておきたいのは、マニュアル習得をスタッフの目標にしてはいけない、ということだ。マニュアルによって接客用語や動作、態度などを統一するのは、そうすることが、お店のスタンダードを維持するために最低限必要だからである。

ところで、よくスタッフの教育・訓練というが、たいていのお店は「教育」には手抜きをする。そして、いきなり実地訓練に入ってそれでよしとする傾向がある。よリサービスを向上させようという指導もろくにしない。マニュアルのイメージがあまりよくないのは、そのためといっていいだろう。

マニュアルは作業の指示書だ。どの仕事をどのようにすればいいのか。その指示を明確に出して、守らせるためのツールである。しかし、飲食店の接客サービスはたんなる作業ではない。仕事の仕方は統一しなければならないが、その仕事の中で、お店のお客様に対する奉仕の心、感謝の気持ちを表現していかなければならない。そこで「教育」が重要になるのである。

お店のスタンダードを維持していくには、サービスの仕方のある程度の画一化は避けられない。しかし、画一的だからサービスのレベルが低いのではない。お客様が不快になるのは、サービスの背後に「おもてなしの心」が感じられないときである。

お客様にとって快いサービスになるか、それとも不快なサービスになってしまうのか。その分かれ日は、サービススタツフの「心」のもち方なのである。お客様に対する感謝の気持ち、楽しんでもらいたいという気持ちがあるかないかで、同じ行動、動作がまったく別のものになってしまう。それが接客サービスというものだ。

したがって、サービスマニュアルには、作業の指示だけではなく、それぞれの用語や動作の裏にある意味と奉仕の心を明記して、その教育に力を入れなければならない。サービスとはたんなる形ではないことを徹底的に教育する。そうしてはじめて、マニュアルのメリットを最大限に生かせるのである。

飲食店は、お客様に豊かな時間を過ごしてもらう「おもてなし」の場

ふつうの飲食店の接客サービスは、どのお店でも大差はないものだ。お客様が入ってくれば「いらつしゃいませ」と声をかけ、オーダーを取る。厨一房にオーダーを通して料理を運び、帰るときには「ありがとうございました」と言う。

ところが、同じようなサービススタイルなのに、お店によって印象がかなり違う。気分よくすごせるお店と、そうでないお店の違いは歴然としている。あなたもよく感じていることではないだろうか。

接客サービスで最も大事なことは、サービススタツフ全員に「おもてなしの心」をもたせることだ。「おもてなし」とは、言い替えれば、お客様に尽くすことである。飲食業とは、お客様に尽くすことが仕事、つまり「奉仕業」なのだ。このことをスタッフにしっかりと理解させない限り、お店のサービスレベルは向上しない。だから、お店のファン=固定客をつくることができない。

形ばかりで中身がなければダメということはよくあるが、接客サービスはまさにそれである。いくら「いらつしやいませ」「ありがとうございました」と言っても、心から出ている言葉か口先だけなのか、お客様にはすぐにわかってしまう。オーダー取り、料理を運ぶ、食器を下げるといった態度にも、それは如実に表れる。お客様も心をもつ人間である。隠そうとしても隠しきれるものではない。

商品としてのモノを通して「心」を提供するのが、飲食店のあるべき姿だ。お客様の喜びを最優先に考える「心」、それが尽くす心である。お客様にとって一番大切なことは、楽しく豊かな気分ですごすことだ。

だから、お客様に尽くすということの意味を正しく理解していれば、お客様のためにいろいろと配慮するのは当然と思えるはずだ。しかし、その本質がわかっていない人にとっては、接客サービスはただの「作業」でしかない。決められた言葉を使い、決められた動作を繰り返していればいいということになってしまう。

飲食店がサービス面で最も陥りやすい落とし穴は、サービスの形骸化なのである。ここで大事なのは、サービススタッフは全員が、お店の「顔」だということだ。スタッフ一人一人が「お店の代表」としてお客様に接しているのである。気分を害してしまったお客様の評価は、担当したスタッフ個人に対するものではない。たった一人のスタッフの接客が悪かったために、お店全体が悪く思われてしまうのだ。ここに接客サービスの怖さがある。

最近の飲食店は、パート・アルバイトを多用する傾向にある。人件費を節約するにはそれしかないし、そのこと自体が悪いのではない。問題なのは、どうせパート・アルバイトなのだから、という意識が経営者に根強くあることだ。しかし、それはお店側の事情にすぎない。お客様にとっては、スタッフがアルバイトだろうが社員だろうが関係ない。どういう接客を受けたかということだけが問題なのだ。

接客サービスというと、用語や動作ばかりに目が向きがちだが、本当に大事なのは、スタッフ全員に「おもてなしの心」を徹底させることである。この原点を忘れないで実践することが、お客様の高い評価を呼ぶのである。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。