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飲食開業知識 / 絶対成功する飲食店開店・経営の教科書

地域の飲食金銭感覚をつかむ

お客様の金銭感覚というのは、地域によってかなりの違いがあるものだ。都市と郊外でも違うし、繁華街と住宅地でも違う。また、同じ繁華街であっても中心部かはずれかなど、場所によってかなりの差が出る。

住宅地の場合は、住人の年齢層や家族構成によって違ってくるし、当然のことながら、収入レベルも大きな要因になる。

したがって、確実に成功するためには、お店が商圏とする地域の金銭感覚をできるだけ正確につかむ必要がある。お客様はいったい、いくらまでならリーズナブルと感じてくれるのか。そこがつかめなければ、メニュー価格を決めることはできない。

ところが、 一般に小さな個店では、こういう意識が希薄な傾向がある。地域の金銭感覚というよりも、なんとなく「常識」で価格設定してしまうのだ。常識とは、商圏内の同業他店の価格設定である。

たしかに、他店はその価格で成り立っているのだから、同じ設定にしておけばお客様の拒否感だけは避けることができる。しかし、成功できる確率が高くなるということではない。なぜなら、他店の価格設定が間違っていたら、同じ轍を踏むことになってしまうからだ。

念のために断っておくと、この他店の間違いとは、言い替えれば、ニーズの読教間違いのことだ。たとえば、客単価1000円の設定が当たり前の地域だったとしよぅ。そこに同じ1000円の設定でオ―プンすれば、少なくとも既存の他店と同じ土俵に立つことはできる。しかし、本当は2000円でも受け入れてくれる客層がいるのに、そのニーズを満たすお店がないために真空状態になつているのかもしれないのである。

もちろん、これはひとつの可能性にすぎないが、そういう可能性を追求する姿勢が大切だ。「あんな立地なのによく繁盛できるね」と言われるお店があるが、それは、こういう埋もれたニーズを嗅ぎ出して成功したケースなのである。

地域の金銭感覚をつかむには、まず地域内のできるだけ多くのお店にお客様として入ってみることだ。メニュー表を見ればそのお店の商品構成と価格設定がわかるし、客層も把握できる。そして、データはサンプル数が多いほど正確になる。

この調査は、出店物件を決めるための立地調査で行うものだが、自店と同じ業種業態のお店だけでなく、別業種別業態のお店も調査するのが大事なポイントだ。いろいろな業態を見ることではじめて、その地域にどんな客層のどんなニーズが、どれくらい存在しているかがつかめるからである。

どんなにいいお店をつくっても、地域の金銭感覚と合わなければ成立しない。これは絶対にくつがえせない事実である。その地域でのリーズナブルプライスを見つけることなしに、成功はあり得ない。

ただ、リーズナブルプライスにはある程度の幅がある。つまり、許容される価格の上限があるということだ。その幅の範囲内で、手薄になっている価格帯はどこなのか。そこを上手に突くことが、成功する価格設定の急所なのである。

飲食店ピークタイムでの機会損失をなくす

ちゃんとやっていれば売上が上がったのに、そのチャンスを失ってしまう。飲食店の経営では、そういう事態がたびたび発生する。得るべき利益をみすみす逃してしまうわけだ。これを機会損失と呼ぶ。

経営の収益性を高めるには、この機会損失をできるだけなくすようにしていかなければならない。なにしろ、何人分かの売上がそっくり消えてしまうのだ。そう考えれば、いかに重要なテーマかがわかるはずである。

機会損失の可能性は毎日の営業の中にゴロゴロころがっている。ところが、いつ、どこで発生したのか、気づくことは少ない。なぜなら、赤字という正確な数字で記録に残らないからだ。ちゃんと対応していれば得られた利益といっても、その金額は不明。だから余計に見過ごされやすいのだ。

たとえば、ランチタイムのピーク時。当然、店内は満席である。そこにお客様が入ってきたのだが、その満席状態をひと目見て帰ってしまったというヶlス。あるいは、食事をしているお客様が追加オーダーの合図を送ってよこしているのに、スタッフが気づかないために、気分を害してオーダーを取りやめてしまう。

これもよく見られるケースである。

いずれのケースも、スタッフの対応の仕方がまずかったことが原因である。きちんと対応さえしていれば、売上が上がったはずなのだ。これらの機会損失は、スタッフの教育を見直し、あるべきサービスの仕方を徹底することで、かなり防げるはずである。

満席状態といっても、いつまでも満席が続くわけではない。そんなことはわかりきっているはずなのに、お客様を引き留めようとしない。本来なら、お客様が入ってきた時点で待ち時間を告げるべきなのに、それをしない。

ウェイティング客に待ち時間を告げるのはお店側の当然の義務であり、礼儀でもある。どうしても断らなければならないときは、サービス券などで謝罪と、またの来店をお待ちしておりますという気持ちを表さなければいけないのである。

それをしないということは、たんにスタツフの怠慢というだけではすまない。経営者の姿勢の問題といえよう。そういうケースはあらかじめ想定できるのだから、どう対処すべきなのかを決めたマニュアルをつくり、きちんと守らせればいいだけのことである。

追加オーダーの合図を見逃してしまうのは、サービススタッフがお客様をきちんと見ていない証拠である。

つまり、ふだんからそういういい加減なサービスを許しているということだ。別項で詳しく説明したいが、お客様から目を離さないというのは、接客サービスの基本中の基本である。

といっても、これも別にむずかしく考える必要はない。たとえば、つねにお客様のコップの水に注意するように徹底させる。そうすれば、スタッフは自然とお客様の状態に注意を向けるようになるものだ。いつもお客様を見ていれば、食べ終えた食器を下げる作業も早くなるし、追加オーダーの合図を見落とすなどという初歩的なミスは確実に防げるはずである。

食器を下げる作業がてきぱきと行われていれば、お客様の回転もよくなり、満席状態も緩和される。満席が続いていたとしても、来店したお客様に対応する時間的な余裕も生まれるわけだ。このように、サービスというのは流れであり、ひとつ改善することで全体が改善されることが少なくない。

また、商品の売り切れというのも、よくありがちな機会損失のひとつである。この機会損失は、予測以上にお客様が来店したために起こる場合と、そもそも客数予測が甘いケースとに分けられる。いずれにしても、責任は厨房ではなく店長(経営者)にある。なぜなら、客数の予測は店長の仕事だからだ。

それはともかくとして、売り切れと聞いて、お客様はどう思うだろうか。なかには、わざわざその商品を食べに来店してくれたお客様もいるのである。品切れだから他の商品にしてください、というのは簡単だ。

しかし、いったん失ったお客様の信頼を取り戻すのは、簡単なことではない。別に話を大袈裟にしているのではない。メニューに載せている商品を出さないというのは、お客様に対する裏切り行為以外の何物でもないのである。

いずれにしろ、機会損失のダメージは売上を失うことにとどまらない。満席時のお客様への対応にしろ、追加オーダーの見逃しにしろ、売上と同時に、お客様の信頼をも失っていることを認識すべきなのだ。接客うのは、不信感を抱いたお店は利用しないものである。他にいくらでも飲食店があるのだから。つまり、お客様をしっかりとつかむチャンスは何度もないということだ。

機会損失は、そのことへの対処の認識がないとまず意識されることがない。なんとなく流れていってしまう。それが怖いのだ。スタッフ教育はもちろんのこと、まず経営者がどれくらいの問題意識をもてるか、防げるかどうかは、そこにかかっている。

できるだけ安く飲食店をつくるには

飲食店というのは、お金をかければお客様が来てくれるというものではない。そもそも高級店ならともかく、 一般の小さなお店に、お客様は「本物」の内装や調度類など期待していない。

お客様にとって「いいお店」とは、感じがいいお店である。気分よくすごせればいいわけで、いくら投資したということにはあまり興味をもたないものだ。逆に言えば、お金をかけたくなるのは、ビジネスのためではなく、経営者の自己満足であることが多い。

とくに、はじめてオープンする人は、この傾向が強い。要するにマイホームと同じ感覚で、できるだけ満足のいくものを、と考えてしまうのだ。しかし、お店はあくまでビジネスの場である。必要な投資をすればいいのである。この発想の切り替えができなければ、できるだけ安くつくるということは不可能といっていい。

さて、最も安くお店をつくる方法は、手頃な居抜き店舗を活用することだ。機器類から什器備品類はもちろんだが、食器まで揃っていれば、新しく買うものはほとんどない。

通常はカラ店舗を借りてオープンすることになるが、安くつくるには、まず知恵を使うこと。そして、すべてをビジネスと割り切って合理的に考えることだ。

一般に、客席ホールの内装にお金をかけすぎてしまうのは、いまも言ったようにマイホーム感覚が強いためだが、これはできるだけ長くもたせたいという発想でもある。そのため、つい「いい材料」に目が行ってしまうのである。お客様をもてなす場だから、という思いもあるだろう。

しかし、お店づくりは材料で決まるわけではない。大事なのはデザインというより、むしろ演出だ。お客様が求めているのは、他のお店と違って楽しく、くつろげ、豊かな気分になれる、そんな演出なのである。

雰囲気の演出とは、イメージのふくらみをもたせることだ、たとえば、外国のレストランをテーマにするのなら、その国の素朴な民芸品が2つ、3つ、ポイントとしてあれば十分。あとは、壁紙やカーテンなどで

雰囲気を盛り上げる工夫をすればいい。また、生花をさした一輪挿しひとつで、雰囲気はがらりと変わる。

要はセンスの問題である。

厨房関係ではズバリ言って、中古品を上手に利用することだ。中古品といっても、いまは昔とはまったく違う。ちょっと使っただけの、まだまだ使える機器類がたくさん出回っている。

ものによっては多少の汚れが気になるかもしれないが、たとえ新品を買ったとしても、いずれは汚れてしまうものだ。中古品でも、丹念に磨き上げれば、かなりきれいになる。せっかく念願のお店をつくるのだから、ピカピカの新品を使いたいという気持ちは理解できるが、安く上げたいのなら気持ちの切り替えが必要だ。

お店はビジネスの場といったが、内装や機器類は自己満足のためのものではない。飲食店としての付加価値を生み出すための道具にすぎない。自分のお店を愛することは大切だが、趣味ではないのである。そういう発想がきちんとできれば、お金をかけるべきところとかけないでいい部分の区別がわかってくるはずである。

飲食店でのお客様のクレームはスタッフ任せにしない事が大切

クレームとはお客様からの苦情のことである。教科書的にいえば、クレームは本来あってはならないことだろう。しかし、お客様もお店のスタッフも人間だ。現実の問題として、100%防ぐことは不可能といっていい。それなら、逃げの姿勢になるのではなく、予防策を講じた上で、それを生かす方法を考えるべきである。

ひと口にクレームといっても、いろいろなケースがある。たとえば、料理に異物が入っていたなど、お店側の不注意が原因のこともあれば、無理やり相席にされたとか、スタッフの態度が悪いといった、ちょっとした苦情の場合もある。とくに不手際がなくても、お客様にとってスタッフの相性が悪いというだけで注文がつけられることもある。

しかし、原因が何であれ、クレームが出るということは、お客様の気分を害してしまったわけである。素早く的確に対応して、何とか気分を直してもらわなければならない。どんなときにどんなクレームが発生するのかあらかじめ想定して、対応の仕方を考えておく必要がある。

ベテランのサービスマンなら臨機応変に対処できるかもしれないが、ふつうのスタッフではそうはいかない。ムッとした顔をしたり、自分には非がないからとお客様の言い分に逆らつたりすることすらある。傷口を広げて最悪の結果を招くことだけは、絶対に避けなければならない。

クレームヘの対応で最も大事なことは、スタッフ全員に「お客様の気持ちは正しい」という理念を徹底しておくことだ。飲食店は、お客様が楽しい時間をすごすための場所である。その気分を台なしにしてしまったのだから、理由にかかわらず、まず誠心誠意謝罪するのは当然のことだ。

お客様というのは千差万別で、ものわかりのいい人もいれば、そうでない人もいる。また、クレームを聞かされるのはだれだつて気持ちのいいことではない。しかし、お客様はお店に期待しているからこそ、貴重な意見を言ってくれている。こういう謙虚な意識をもって、それぞれのクレームにきちんと対応していれば、かえってお店の評価を上げるチャンスにもなるし、スタッフが成長していくきっかけにもなる。クレームを生かすとは、こういうことである。

クレームをプラスに転じるには、その原因を徹底して究明することが大切だ。たとえば、スタッフの態度が悪いというクレームがついたとしよう。本人には別に悪気はない。それなら相性の問題と済ませていいのかといえば、それは違う。本人が意識していないということは、放っておいたら他のお客様に対しても、同じような接客を続けることになる。

対処の仕方では、まずお詫びすることが先決。絶対に言い訳したり口論したりしてはいけない。もちろん、お客様の話は最後までまじめな態度で聞く。そして、あらためて誠心誠意謝罪して、責任者を呼んでくることを伝える。解決のための対応は、スタッフに任せてはいけない。必ず責任を取れる人間(経営者、店長)が当たることが鉄則である。

お見送りは飲食店サービスの句読点

お客様が帰るとき「ありがとうございました」という。これは商売として当たり前のことだし、接客用語の中でも「いらつしやいませ」と同様、最も大切な言葉である。なにしろ、お金を払ってくれることに対する感謝の言葉なのだ。

ところが、この「ありがとうございました」も「いらつしゃいませ」と同様に、ただ機械的に繰り返しているだけのお店が目立つ。機械的というのは、言葉は発していても、肝心の「感謝の気持ち」がこめられているとはとても感じられないからである。マニュアルに書いてあるから言っているだけ、と批判されても仕方のないお店が少なくない。

たしかに、 一応は「ありがとうございました」と、言うことは言っている。しかし、こういう言葉は、本当に感謝の気持ちがこめられていないと、かえって空々しく聞こえてしまう。だれに聞こえるのかといえば、お客様にである。当然、そのお客様が固定客になってくれる確率は低くなる。

さて、「ありがとうございました」と声をかけるのはいいのだが、その感謝の気持ちをどう表現するかは、お見送りの仕方でかなり違ってくる。

一般に、飲食店の接客サービスはレジで終わるというのが常識になっているといっていいだろう。実際、レジの仕事はたんにお金を精算することだけではない。いわばお店でのサービスの総仕上げである。

お客様の満足度は、お金を支払ってはじめて決定される。なぜなら、料理、サービス、雰囲気とも、料金に照らして適正かどうかは、帰るまではわからないからだ。したがつて、お客様はレジで最もシビアな評価を下す。

気持ちよく支払いができて、心からの感謝の気持ちを表現されれば、それまでに多少の不満があったとしても帳消しにしてくれるだろう。しかし、レジの態度が悪い印象を与えてしまったら、その反対である。それまでどんなに満足してくれていても、とたんに気持ちが冷めてしまうだろう。だから、レジでの「ありがとうございました」は、本当に感謝の気持ちをこめたものでなければならないわけだ。お客様は、気分よく帰れるからこそ、また来店してくれるのである。

ところで、接客の終わりはレジと思っているお店はレジで頭を下げて終わりになるが、お客様がドアから出るまでが接客と考えるお店は、会計の後にお客様の背中に向かってもう一度「ありがとうございました」と声をかける。数は少ないが、中にはドアの外までお見送りして「またお越しくださいませ」と声をかけるお店もある。もちろん、どのやり方が一番というのではない。業態によって不自然な場合も出てくる。

大事なのは、感謝の気持ちを確実にお客様に伝えるということだ。お見送りの仕方にもいろいろあるが、それは、できるだけ感謝の気持ちを伝えたいと考えるからこそ出てくる表現なのである。

飲食店がたくさんある中で自店を選んで利用してくれた。そのお客様に対して感謝しなければいけないというのは、だれでもわかつていることだ。しかし、その気持ちが、はっきりとした言葉や態度に表現されていなければ、お客様には伝わらないのである。お見送りを大切にすることは、飲食店として最も大切な仕事ということもできる。

お客様からの要求は、テーブルが表している

接客サービスの盲点は中間サービスにある。中間サービスというのは、お客様がオーダーした料理をお出しした後のサービスである。接客サービスの仕事は、お客様が楽しくすごすためのフオローである。オーダーを受けて料理を出したらそれでおしまい、ということにはならないのだ。

ところが、これがなかなかできない。基本的にはお店の教育が悪いせいなのだが、ここを改善しない限り、本当にお客様に愛されるお店にはなれないといっておこう。

たとえば、最近は積極的に追加オーダーの推奨販売を行うお店が増えている。少しでも売上がほしいからで、やりすぎにならなければ悪いことではない。問題は、押し付けがましいまでの推奨販売をしておきながら、お客様のほうから追加オーダーがあったときに平気で見逃してしまうことにある。要するに、推奨販売はお店から言われて仕方なくやっているだけで、中間サービスという意識がまるでないからなのだ。

繰り返すが、サービススタッフの仕事は、お客様が楽しく過ごすためのフォローである。気を配って尽くすことだ。そのためには、お客様の動向をつねに気にしていなければならない。お客様のテーブルから目を離さないというのは、接客サービスの基本である。

もちろん、実際問題としてお店が忙しければ、つねに目を離さないというのは不可能だろう。しかし、何もじっと見つめていなさいということではないのだ。ときどきチラッと目をやるだけでいいのである。サービススタッフ全員がそれを実行していれば、お客様の合図を見逃すことはほぼ防げるはずなのだ。第一、お客様のほうも、スタッフに見つめられていては落ち着かないし、むしろ不快な気分になるだろう。

お客様のテーブルをつねに注意していれば、お客様の食事の進行状況や、いまお客様が何を欲しているのかということを的確につかむことができる。お客様の状態に応じたサービスが可能になるわけだ。

たとえば、複数の料理をオーダーした場合、本来なら最初の料理を食べ終わった頃を見計らつて次の料理を運ぶべきである。しかし、実際にそれができているのは、ほんの一部のお店だけである。まだ最初の料理が半分以上も残っているのに、次の料理を出してしまう。こんなことが、どうしてきちんとできないのか。

厨房内に問題があることもあるが、サービススタッフの注意不足が原因になっていることも多い。

また、食べ終えた食器がいつまでもテーブルにあるというのは不快なものだが、不注意なサービススタッフは、こんなことにも気づかない。最悪なのは、2皿目の料理を運んできたのはいいが、前の料理の皿を片付けていないというケースである。

水やお茶のお代わりも意外と軽視されがちだ。気づいていても注ぎ足したり交換したりしようとしないというのは問題外として、ここでも、お客様のテーブルヘの注意力不足が如実に出てしまう。

なお、食べ終えた食器を下げるときだが、絶対に黙って下げてはいけない。必ず「お下げいたします」と声をかけてから下げるようにすること。少しでも料理が残っていたら、勝手に判断しないで「お下げしてもよろしいでしょうか」と尋ねてから下げることだ。

全てのお客様に大切に接する飲食店には、常連客との馴れ合いの時間はない

お客様に親しみをもってもらうことは、固定客づくりの一番の近道だ。親しみをもってもらうには、お客様とのコミュニケーションが欠かせないが、これも接客サービスの大事な役割である。

お客様は飲食店に「自分のオアシス」を求めているものだ。だから、自分を大切にしてくれるお店を探している。もちろん、多数のお客様が出入りすることくらいお客様もわかっているわけだが、できれば自分は特別な存在になりたいと思う。それがお客様の心理というものだ。お客様は口には出さなくても、お店の人間と親しくなって、心の触れ合いをしたいと期待しているのである。

しかし、お客様のほうから声をかけてくることを期待していてはいけない。こちらから積極的に声をかけるのである。たとえば、お迎えのときに、ひと言「今日は暑かったですね」と添えてみたり、雨の日なら「よく降りますね」と話しかける。何でもないひと言だが、お客様にとっては手を差し延べてくれたような

オーダーを受けるときはお客様と最も近い距離で接しているときだから、このときもコミュニケーションの絶好のチャンスである。たとえば、ただメニュー表を渡すだけでなく、「もしよろしかったら、今日はこんな料理ができるのですが」などと料理の説明をする。その料理をオーダーしてくれなくてもいっこうにかまわない。お客様を大事に考えているというお店の気持ちが伝わればいいのである。

お客様にもいろいろなタイプの人がいるが、ふつうは自分から話しかけるのは、なんとなく気恥ずかしいと思っているものである。話をしたいのだけれども、自分からは切り出せないでいる。それなら、お店のほうからきっかけをつくってあげればいい。

食事中なら、「何か御用はございませんか、なんなりとお申し付けください」と声をかけるのもいいだろう。そして、食後なら「お楽しみいただけましたか」と話しかける。もちろん、食事やお客様同士の会話の邪魔にならないように注意しなければならないが、お客様は、こういう「ひと言」に感動するのである。

ただし、お客様に親しみをもつてもらうことと、特別なお客様に過剰サービスをすることは別である。ここはきっちりと理解しておいてほしい。すべてのお客様と親しくなれるように心を配ることが大切なのだ。すべてのお客様に平等にというのは、飲食店のサービスの大原則である。

たしかに、一部の常連客との馴れ合いは一見、固定客ができたような気にさせてくれるだろう。しかし、それは結局、錯覚でしかない。なぜなら、一部のお客様だけ特別扱いするということは、他のお客様を軽く見ている、大切なお客様として認めていないということを公言しているようなものだからである。

常連客が大きな顔をして店主と馴れ合っているのは、だれにとっても気分のよくない光景だ。そんなお店にわざわざ通ってくれるお客様はいない。お客様はだれでも自分を大切にしてほしいと思っている。このことを忘れてはいけない。

飲食店の印象はオーダーの取り方が決める

お客様のオーダーを取るのは、サービススタッフの最も基本的な仕事のひとつである。そのため、何も考えずにやつているお店が多いが、実は、このときにお客様の心証を害してしまうことが少なくない。接客サービスの落とし穴でもあるわけだ。

オーダーを取るときは、お客様と最も近い距離で接するときである。したがって、お客様の心証に大きな影響を与えやすい場面ということになる。また、オーダー時は、スタッフがお客様をどれだけ大切に思っているかということが、はっきりと表れてしまうときでもある。

通常、お客様が席についたら、最初のサービスとして水やお茶、おしぼりなどと一緒にメニュー表を提示する。ここで最初の問題点が浮かび上がる。お客様に圧力をかけて平気でいるお店が多いということだ。

最近は、メニュー表を手渡した直後に「お決まりでしたら」とオーダーを促すやり方がまかり通っている。まだお客様がメニュー表をよく見てもいないのに、まだかまだかとせかすわけだ。

これでは、何のためにメニュー表を渡しているのかわからないし、お客様はメニューを選ぶという楽しさも味わえない。限定メニューだけのランチタイムとか、居酒屋でとりあえずドリンクだけオーダーしてもらうというのならまだ許されるが、あたかもお客様を無視したような態度は大問題である。本来「お決まりでしたら」というのは、お客様がメニューを検討して注文が決まったら、教えてくださいという意味の言葉なのである。

また、お客様にメニューを検討させるのはいいのだが、メニュー表を渡したままほったらかしにしてしまうケースも多々見受けられるが、この点も十分認識してほしい。

お客様にメニュー表を渡したらお客様の様子に注意するというのは、接客サービスの基本である。注文が決まれば必ず、サービススタッフを探すそぶりをしたり、メニュー表を閉じたりという、お客様からの合図がある。その合図を見逃さずに、さっとおうかがいするのが、当たり前のサービスなのだ。もしも合図に気づかなかったら、そのお客様を無視していたことと同じなのだ。

こういうところで、知らず知らずにお客様の印象を悪くしているとしたら、どうするのか。お店にとって大変な損失である。

さて、オーダーを受けたら、必ず声に出して伝票に書くこと。聞き間違いを防ぐためで、これが原因のトラブルは意外と多い。また、お客様が「ご飯」と言っているのに「ライスですね」と言い替えるようなことは厳禁である。お客様の言い方を否定するニュアンスは、飲食店では絶対にあってはならない。スタッフには日頃から、お客様を肯定する習慣をつけさせておくことだ。

ドリンクや複数の料理を注文された場合は、必ず提供する順番を確認する。調理に時間がかかる場合は、あらかじめお客様にそのむね断って了解を得ておく、といったことも大切なポイントだ。

なお、オーダーを受けているときに他のお客様から声をかけられることもあるが、絶対に無視してはいけない。「はい、ただいま」など必ず返事をして、すぐにうかがうようにする。

飲食店でリピーターを増やす「いらっしゃいませ」とは。

お客様のお店に対する評価は、お店に入ったときの第一印象でほとんど決まつてしまう。もしもお客様が来店したときのスタッフの対応に失礼があったら、お客様の心証をよくすることはほとんどできないといってもいい。お客様にとって第一印象は、それほど強烈なものである。したがって、お出迎えの仕方には、つねに十分注意しておく必要がある。

飲食店のお出迎えは「いらつしやいませ」という挨拶から始まる。そんなことは常識だろう。そして、あまりに当たり前の接客用語のために、その意味を深く考えようとしない傾向がある。オウムのように機械的に繰り返すだけというお店は、いくらでもある。しかし、「いらっしゃいませ」という言葉には、次の3つの意味が込められていなければならないのだ。

①来店してくれたことへの感謝の気持ち
②大切なお客様さまと認めていることを示す意思表示
③楽しく豊かな時間をすごしてもらうためのきっかけづくり
いかがだろうか。①はともかく、②、③の意味までしつかりと意識して、この言葉を使っているだろうか。

はじめて入るお店というのは、だれにとっても不安なものだ。なんとなく落ち着かない気分になってしまう。そういう不安を一瞬のうちに取り除いて、楽しい時間への期待感をもたせる。それがお出迎えである。

人間だれでも、人に歓迎されたいと思っている。お店に入るときはなおさらそうだ。何しろお客様なのである。大切なお客様としてきちんと扱ってほしいと思う。当然のことである。それが、お客様を軽んじるような態度を取られたらどう思うだろうか。

ただ機械的に「いらつしやいませ」を繰り返すだけのお店は、そういうお客様の心理がまるでわかっていないのだ。来店してくれたことを感謝するのは当然の礼儀だが、② の大切なお客様と認めているという意思表示の意味の大きさを、しっかりとかみしめてほしいと思う。

以上ははじめて来店してくれたお客様の場合で、何度か来店したことのあるお客様の場合は、「いらつしやいませ」だけではなく、「今日はお一人ですか」とか「今日はお早いですね」といったひと言を付け加えるといい。このひと言によって、当店の大事なお客様さまというお店側の気持ちがストレートに伝わり、お客様の気分はぐんとよくなる。

別に予約をしていなくても、「お待ちしておりました」という気持ちをはっきりと伝える。これは、お客様をお店につなぎ止めるための大切なポイントでもある。いまは競争の激しい時代だ。お客様にとって、他にも行くお店はいくらでもある。「やっぱりこのお店に来てよかった」と思ってもらえなければ、固定客を増やすことはできない。

お客様はそれぞれの期待感をもってお店に来る。その期待感を絶対に裏切らないことが、成功への鉄則である。

なお、第一印象をよくするには、サービススタッフの明るい笑顔と声だけでなく、身のこなしや身だしなふも大切な要素になる。経営者は、つねにそこにも気を配って、スタッフを教育していかなければいけない。

お客様の自尊心を傷つけないための言葉遣いとは

接客サービスの目的は、お客様に気分よくすごしてもらうことだ。お客様が楽しく豊かな気分ですごせるように、いろいろと配慮して尽くすことが仕事である。当然のことだが、スタッフの言葉遣いには十分注意しなければならない。

しかし、言葉遣いというのは、意外とむずかしいものだ。とくに、ふだんの生活ではあまり使わないだけに、敬語の表現はむずかしい。よくクイズなどにも出題されるが、なかなか全問正解とはいかないのではないか。

接客サービスの言葉遣いで最も大切なことは、絶対にお客様の自尊心を傷つけてはならないということだ。これが飲食業の鉄則であり、敬語や丁寧語を使わなければならないのもそのためである。

言うまでもなく、お客様とお店との間には厳然とした一線がある。絶対に超えてはならない一線だ。そして、その一線をはさんでの礼儀というものがある。だから、お客様はお店の人間の言葉遣いに対して、非常に敏感である。ちょっとしたひと言で気分を害してしまうし、最悪の場合は本気で怒らせてしまう。

言葉遣いなど常識の範囲内でできることではないのか。そう思っているお店も少なくない。しかし、はたしてそうだろうか。悪気はなくてもお客様を怒らせてしまうというのはよくあるケースだが、たいていの場合、怒らせてしまうきっかけはスタッフの無自覚な言葉遣いにある。

一般に、接客サービスで必要な基本用語はそれほど多くはない。「いらつしゃいませ」に始まり、たしましょうか」「はい、かしこまりました」「申し訳ございません」「ありがとうございました」ぜい10種類くらいのものだ。これくらいの用語ならだれでも覚えられる。

しかし、当たり前のことだが、接客サービスは基本用語だけでは務まらない。基本用語はあくまで基本であって、オーダーを取るだけでも、お客様とのさまざまなやり取りがある。そして、そこでは絶対に敬語を使わなければならないのである。これがスタッフの「常識」だけですむことなのか。そこを真剣に考えなければならない。

たとえば、自分のことを「わたし」といっているようでは失格で、「わたくし」と言わなければならないが、こんなことも徹底されていないお店があまりに多いのだ。だから、平気で「うち」とか「うちの店」などと言ってしまうが、正しくは「わたくしどもの店」である。

その他、よく見かける誤用として「いいですか」「何人ですか」「ありません」「すみませんが」「知っていますか」「お連れします」などがある。それぞれ正しい言葉遣いは「よろしいですか」「何人様でいらつしゃいますか」で」ざいません」「恐れ入りますが」「ご存じでしょうか」「ご案内いたします」である。

スタツフに正しい言葉遣いをさせるには、敬語表現はむずかしいという前提で取り組むことが大切だ。想定問答集をつくって、日頃から練習させるのである。言葉というのは、使いつけていないと、なかなかスムーズに出てこない。

ただし、言葉だけ暗記させるのでは効果はない。おもてなしの心と一緒に教える。そこが肝心である。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。