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第5章「商品」の常識編

地域の飲食金銭感覚をつかむ

お客様の金銭感覚というのは、地域によってかなりの違いがあるものだ。都市と郊外でも違うし、繁華街と住宅地でも違う。また、同じ繁華街であっても中心部かはずれかなど、場所によってかなりの差が出る。

住宅地の場合は、住人の年齢層や家族構成によって違ってくるし、当然のことながら、収入レベルも大きな要因になる。

したがって、確実に成功するためには、お店が商圏とする地域の金銭感覚をできるだけ正確につかむ必要がある。お客様はいったい、いくらまでならリーズナブルと感じてくれるのか。そこがつかめなければ、メニュー価格を決めることはできない。

ところが、 一般に小さな個店では、こういう意識が希薄な傾向がある。地域の金銭感覚というよりも、なんとなく「常識」で価格設定してしまうのだ。常識とは、商圏内の同業他店の価格設定である。

たしかに、他店はその価格で成り立っているのだから、同じ設定にしておけばお客様の拒否感だけは避けることができる。しかし、成功できる確率が高くなるということではない。なぜなら、他店の価格設定が間違っていたら、同じ轍を踏むことになってしまうからだ。

念のために断っておくと、この他店の間違いとは、言い替えれば、ニーズの読教間違いのことだ。たとえば、客単価1000円の設定が当たり前の地域だったとしよぅ。そこに同じ1000円の設定でオ―プンすれば、少なくとも既存の他店と同じ土俵に立つことはできる。しかし、本当は2000円でも受け入れてくれる客層がいるのに、そのニーズを満たすお店がないために真空状態になつているのかもしれないのである。

もちろん、これはひとつの可能性にすぎないが、そういう可能性を追求する姿勢が大切だ。「あんな立地なのによく繁盛できるね」と言われるお店があるが、それは、こういう埋もれたニーズを嗅ぎ出して成功したケースなのである。

地域の金銭感覚をつかむには、まず地域内のできるだけ多くのお店にお客様として入ってみることだ。メニュー表を見ればそのお店の商品構成と価格設定がわかるし、客層も把握できる。そして、データはサンプル数が多いほど正確になる。

この調査は、出店物件を決めるための立地調査で行うものだが、自店と同じ業種業態のお店だけでなく、別業種別業態のお店も調査するのが大事なポイントだ。いろいろな業態を見ることではじめて、その地域にどんな客層のどんなニーズが、どれくらい存在しているかがつかめるからである。

どんなにいいお店をつくっても、地域の金銭感覚と合わなければ成立しない。これは絶対にくつがえせない事実である。その地域でのリーズナブルプライスを見つけることなしに、成功はあり得ない。

ただ、リーズナブルプライスにはある程度の幅がある。つまり、許容される価格の上限があるということだ。その幅の範囲内で、手薄になっている価格帯はどこなのか。そこを上手に突くことが、成功する価格設定の急所なのである。

売りたい商品が売れる飲食店メニュー表のつくり方

ヤル気のある飲食店なら、売りたいと思う商品が必ずあるはずだ。お店が売りたい商品とは、自信のある商品であり、お店が儲かる商品である。しかし、何の工夫もしなければ、お客様はなかなかオーダーしてくれない。確実に成功するには、お客様のオーダーを誘導する発想が不可欠だが、その役割を担っているのがメニュー表である。

メニュー表はたんなる商品カタログや価格表ではない。たとえば、商品の内容など、お客様が知りたいと思っている情報を伝えるためのコミュニケーション・ツールでもあるし、お客様の期待感を高めるイントロとしての役割ももっている。しかし、最も大事な役割は、お店が売りたい商品をアピールし、オーダーしてもらうためのセールスマンとしての機能なのである。

メニュー表によつてお客様のオーダーを誘導するには、そのための仕掛けが必要だ。見やすく読みやすいということは当然として、お客様の目線の動きを予測した戦略的なデザイン、レイアウトを工夫する必要がある。メニュー表のデザインというと、見た目がきれいとか可愛いとか、たんなる見栄えのよさでしか考えないケースが少なくないが、それではセールスマンとしての機能は果たせない。

次に、メニュー表をつくるときの主な注意点を挙げておく。

まず、基本的には1枚のボードタイプと、見開き2ページ以上のブックタイプに分かれるが、多数ページのブックタイプの場合は、簡単な目次や索引をつけるといい。

料理はジャンル別に掲載するが、単品商品とセットメニューなどもグループ分けする。メニュー表は、お客様にメニュー選びの楽しさも提供するわけだが、雑然と商品が並んでいるのでは、お客様はメニュー情報を整理できず困ってしまう。どれにしようかと迷うのが楽しいのは、候補の商品をある程度絞り込めるからで、ただ目移りしているだけでは楽しむどころか、オーダーを決めるのが億劫になったり苦痛になってしまう。ジャンル分けなど当たり前のことのようだが、この基本すらきちんと踏まえていないケースが意外と多いのである。

各ジャンルごとに、それぞれの商品を並べていくが、ここで大事なのは並べる順番である。売りたい商品はどれなのかをお客様にはつきりと伝えるには、ページのどの辺に記載するのかが非常に重要になる。 一般にはベージの頭に置くのが最も目立つとされるが、デザインによつては、真ん中とかいろいろな位置取りが考えられる。周りの人たちにも協力してもらい、最も効果的なレイアウトを追求することである。

売りたい商品を目立たせるには、アイキャツチをつけたり枠で囲んだりといつた、デザイン的な工夫をする必要がある。

また、表現方法としては、文字だけと、写真、イラストを併用する方法とがあるが、どちらがすぐれているとは一概にはいえない。ただ、写真を使う場合は、売りたい商品の写真を大きくするなど、メリハリをつけること。それと、写真は「おいしさ」を的確に表現できるものを使うことだ。おいしそうには全然見えない素人写真では、かえって逆効果になってしまう。

小さな飲食店を伸ばすメニュー基準表の書き方と見直すタイミング

メニュー基準表とは調理マニュアルのことだ。マニュアルというと、チエーン店や大型店のものと思い込んでいる人が多いが、そんなことはない。小さな個店でも、お客様の信用を得るために絶対に必要なものである。

では、なぜ絶対に必要なのか。それは、飲食店の商品はつねに一定のものでなければならないからだ。商品が商品として通用するための条件は、その内容がつねに一定であることだ。

①味、②量、③盛りつけ、④材料原価、⑤提供時間、の5つである。

定価を付けてお金をいただく以上は、これら5つの内容がいつでも同じでなければ、 一人前の飲食店とは言えない。行くたびに味や量が変わるお店は意外と多いものだが、そんなことを平気でやっていたら当然、お客様の信用は得られないということになる。

メニュー基準表は、これら5つの要素を一定にするためのマニュアルである。いつ、どの担当者がつくっても「同じ」商品を提供するためには、ひとつの基準が不可欠だ。その基準を示したものである。

調理マニュアルがチェーン店や大型店だけのものではないということが、これで理解できるはずだ。商品の内容がつねに一定でなければいけないということに、お店の規模の大小や店舗数は何の関係もない。というより、小さなお店だから多少のことは許される、などという甘えた発想で商品づくりをすることが、最も危険なことなのである。

さて、調理マニュアルの基本となるのは「仕込基準表」と「メニュー基準表」の2つである。最終調理のための手順ならともかく、仕込に基準表は必要ないのでは、と思う人もいるだろうが、実はそこに落とし穴がある。

通常、仕込作業はアルバイトや新人に担当させることが多いが、この段階でミスがあると、一定の商品は絶対につくれないのである。作業が単純、複雑というのではなく、ミスを防ぐために必要なのだということを理解してほしい。次に、それぞれの基準表の注意点を挙げておこう。

まず仕込基準表では、 一度に仕込む量、使用材料のそれぞれの分量と単価、合計金額を決める。使用材料は調味料類まですべて書き込むこと。とくに調味料類は目分量になりがちだが、できるだけ正確に表記することが大切である。単価と合計金額を書き込むのは、原価管理を徹底するためだ。

調理手順としては、使用する道具、調理機器、その扱い方、所要時間、注意事項を記入する。作業内容をどれだけ細かく指示するかは、仕事の難易度によって判断すればいいだろう。

メニュー基準表の内容は仕込基準表とほぼ同じだが、こちらはお客様のオーダーを受けてからの最終調理の標準化が目的だ。したがって、調理手順と盛りつけの指示が非常に大切な要素となる。サンプルやメニュー表の写真と同じ完成写真を貼付して、こまかい注意事項も記入しておくことだ。

なお、これらの基準表は、最低でも年に4回見直す必要がある。なぜなら、季節によって使用材料や原価が変わるからである。

調理技術を超える食材は、調理技術の習得よりも時間をかけて選別する。

仕入では食材業者とのパートナーシップが大切と言ったが、さらに飛躍するためには、同時に、独自の食材仕入ルートを開拓していく努力も欠かせない。なぜ、独自のルートが必要なのかというと、それこそが「独自の食材」をもつための方法だからである。

商品差別化は、飲食店成功のための最大のテーマである。他店では食べられない商品をもつことは、他店との競争を勝ち抜くための最大の武器になる。他店の真似のできないオリジナルメニューがあれば、どんなに競合店が増えても恐れるに足りない。

ところで、そもそも商品開発の基本は材料である。どんな材料を使うかで、商品の付加価値は大きく変わってくる。

たとえば、最近はスーパーなどでも「こだわりの食材」が主婦の間で人気になつている。銘柄品といえば牛肉というのは、遠い昔の話である。卵や鶏肉、豚肉、ジャガイモ、トマトといった、ごくありふれた食材でも、いろいろな産地、銘柄がアピールされるようになっている。

その違いがどれくらいあるのかということは、いまは問題ではない。大事なのは、その材料自体がもつ付加価値である。そして、残念なことに、食材へのこだわりということでは、いまは飲食店よりも消費者のほうが進んでいるのだ。ということは、他店では使っていない材料、自店だけの「変わった食材」を使うとうことは、それだけでも大きな付加価値になるということだ。

オリジナルメニューのつくり方の項でも述べたが、商品の差別化にはいろいろな方法がある。調理技術も大切だが、どんなに高度な技術があっても、使う材料がよくなければ料理の完成度は低くなってしまう。商品開発も同じで、材料さえ飛び抜けていれば、技術が足りなくても高い付加価値を生み出すことができるのだ。

そして、ここが肝心なところだが、オリジナルメニュー開発手法を5つ挙げた中で、最も難易度が高いのが「独自の食材を使用する」ことだった言い替えれば、独自の食材をもつことは、調理技術をも超える可能性をもっているということだ。

いまのお客様は、ただたんにおいしいというだけでは満足しない。何かしら変わっている部分を求めている。それなら、商品づくりの基本である材料に徹底的にこだわることだ。そして、こだわりを徹底していけば、独自の調達に行き着く。すべての材料で、ということではない。たった1つでもいい。その材料を使った商品が看板になることで、強力な差別化を実現できるのである。

もちろん、ルート開拓は簡単なことではない。しかし、探し続ければぶつかることもある。たとえば魚介なら、漁獲量が少ないために市場に回らないものがけっこうある。野菜でもそうだ。あるいは、変わった栽培をしている生産者に出会うということもある。

ルート開拓で大切なことは、とにかく探し続けること。そして、絶対に焦らないことである。遊びがてら地方を回りながら、たまたま見つかる。それくらいの心構えでちょうどいい。

小さな店舗が食材業者と上手に付き合う方法

言うまでもないが、飲食店にとって食材業者は最も大事な出入り業者である。飲食店は食材がなければ営業できないのだ。また、商品のクオリティーの7割方は材料で決まってしまう。業者には、できるだけいい材料を安くもってきてほしい。これは、すべての飲食店経営者の願いだろう。

しかし、業者も商売である。すべての取引先と完全に平等な付き合いなどできるはずもない。扱う材料にランクがあるのは当然のことで、その届け先の優先順位は付き合いの度合いで決まっていくわけだ。このことはしっかりと頭に入れておいてほしい。

といっても、業者にへつらう必要はまったくない。ないどころか、そんな態度では甘く見られて損をするだけである。また、妙に強気に出て買い叩くことばかり考える経営者もいるが、これも間違いである。素直に値引きするようなら、必ず理由がある。知らぬが仏、というわけだ。

食材業者との付き合いはパートナーシップをもつのが基本である。お互いをビジネスパートナーとして尊重し、お互いに利益を上げられるように考える。この姿勢なくして、有利な仕入は絶対にできないと肝に銘じてほしいと思う。昔から商売はソンしてトク取れというが、業者を儲けさせて、その上で自分が儲けるという発想が大切なのだ。

ただし、業者を儲けさせるというのは、別に高く仕入れるということではない。お店が繁盛して仕入の量が増えれば業者も儲かるという意味である。業者との関係が良好なら、質のよい材料を優先的に回してくれるようになるし、ときには値引きもしてくれるだろう。また、新しい食材の情報をもってきてくれるとか、イベントの際には積極的に協力してくるということもある。

しかし、注意したいのは、パートナーシツプとはただ仲がいいとか馴れ合い体質になることではない、ということだ。

品質の悪い材料が届いたら直ちに返品するなど、毅然とした姿勢を示さなければいけない。それで相手の態度が悪くなるようなら、さつさと別の業者に変えることだ。優良業者であれば、そういう姿勢を示すことでかえって協力的になってくれるものである。業者の商売も競争が激しい。できるだけ優良な相手と取引したいと思っているのは、業者も同じである。

さらに付け加えるなら、支払期日は順守し、場合によっては現金取引にも快く応じることも必要だ。お互いに苦しいときには助け合う。そういう精神を大事にすることが、パートナーシップの基本である。

ところで、業者から仕入れると手数料がかかる。当たり前のことなのだが、これを不満に思っているお店があるのも事実である。しかし、そういう考え方ではビジネスは成り立たない。

食材を業者から仕入れるのが常識になっているのは、はっきり言ってそのほうがラクだからだ。ラクというのは、買いに出かける時間と労力という意味だけではない。市場に行ったところで、材料を見る目がなければ意味がない。それこそ業者に馬鹿にされるだけだ。そもそも、毎日のように仕入に出かける大変さを冷静に考えてみるといい。プロを使うメリットを考えれば、配送費などの上乗せは問題にならないはずである。

飲食店で少数材料多品目メニューをめざすメリット

商品づくりはつねに、材料ロスとの戦いである。材料費は飲食店の最も大きな費用であり、このムダをできるだけ小さくすることは、飲食店の永遠のテーマといえる。しかし、必要な材料を削るようでは、魅力的なメニューはつくれない。では、どうすれば実現できるのか。

その方法はいくつかあるが、最も基本的な方法は、使用する材料の種類をできるだけ少なくすることだ。できるだけ種類の少ない材料を組み合わせて、できるだけバラエティーに富んだメニュー構成を実現するのである。こういうメニューを少数材料多品ロメニューという。

通常、料理はさまざまな材料の組み合わせでつくられる。数種類の材料しか使わない料理もあるが、10種類以上の材料が必要な料理も少なくない。そのため、飲食店が仕入れる材料の種類はかなりの数にのぼるのが一般的である。

したがって、単純に個々の料理だけを考えてメニューづくりをしていくと、大変な種類の材料を仕入れ、管理しなければならなくなる。そうなれば当然、材料ロスも大きくなっていくし、最終調理の前に行う仕込作業も大変だ。使用材料の種類という観点からメニューを洗い直してみれば、このムダがいかに大きいものかがよくわかるはずである。

さらに考えを進めて、商品自体の完成度とアピールカに着目すれば、使用材料の種類の豊富さが必ずしもメニューの魅力につながっていないということにも気づくだろう。絶対にAという材料を使わなければならないのではなく、BでもCでも代用できる。そういう商品はかなりあるはずなのだ。

もちろん、少数材料多品ロメニューは簡単に実現できるものではない。メニューの改善の積み重ねの中で実現されていくものだ。しかし、つねにその意識をもたなければ絶対に実現できない。日頃から念頭に置いて、各商品の見直しをしていくことが大切だ。

使用材料の種類を絞り込むメリットは、材料ロスをなくすことばかりではない。主要材料を明確にして使用量を大きくすることで、仕入が有利になるということも忘れてはいけない。仕入ロットが大きくなればコストダウンにつながるし、材料自体の品質を高めることにもつながっていく。種類が少なければ当然、材料原価率のコントロールもやりやすくなるわけだ。

各商品と材料との関係を把握するには「商品・食材相関表」を作成してみるといい。タテ軸に材料名、ヨコ軸に商品を並べて表をつくり、各商品の使用材料のところをチェツクしていくのだ。

こうして表にしてみると、各商品と材料の組み合わせが一目瞭然となる。どの材料の使用頻度が高いのか、低いのかがひと目でわかる。使用頻度の低い材料は頻度の高い材料で代替できることもあるだろうし、必要性が薄ければカットしてもいい。とくに使用頻度の高い材料があれば、それを使って新商品を開発してもいいわけだ。メニューというのは、こういう見直しを繰り返しながら完成度が高まっていくものである。

年々イメージが刷新される「高齢者」に好かれるメニューづくり

これからの飲食業が真剣に考えなければならないテーマのひとつが、高齢社会への対応である。高齢社会の問題を大上段に振りかぶって論じる気はない。あくまで飲食店の現実の問題として考えなければいけないテーマということだ。なぜそれほど重要なテーマなのか。それは、これからは高齢者の外食比率がますます一日まっていくだろうと予測されるからである。

核家族化の後に来た高齢社会では、お年寄り夫婦二人だけという、いわゆる老人世帯が確実に増えていく。

これは確かなことだ。ところが、スーパーなどを見てもわかるように、お年寄り二人で食べてちょうどいいボリュームの食品は、総莱以外にはあまりない。とくに生鮮食品は、食べる量の少ない高齢者世帯にとって、かなり割高についてしまっているのが現状だ。

また、年を取ると、食材を買って調理するということ自体が億劫になりがちである。それなら、手軽なところで外食したほうがいい、ということになる。こういっても、ピンとこない人が多いかもしれない。しかし、いまはまだ飲食店のほうが高齢者に対応しされていないため、利用頻度が少ないという言い方もできるのだ。

では、高齢者に好かれるメニューとはどんなメニューだろうか。これは大きく分けて2つの考え方に分かれるだろう。1つは、高齢者向けのメニューを充実させるという考え方。もう1つは、一般的なヘルシー志向への対応をアレンジするという考え方である。

前者の場合は、たとえば魚介や野菜を中心に、油をなるべく使わない調理法でメニューを構成していくことになる。焼き魚や煮魚、野菜の煮物など、いわゆるお袋の味的なメニューである。

後者の場合は、お年寄りだからといつてメニュー幅を狭めずに、カロリーや油分、塩分などをコントロールして対応しようという考え方だ。お年寄りといっても、いまは昔と違って元気一杯である。もちろん、年齢相応に食生活にも注意しているだろうが、たまには外でおいしいものが食べたいと思っても不思議ではない。そして、おいしいものとは、中年だった頃まではよく食べていた料理である。老人だからといつて、病人食のような食事ばかりとる必要はないわけだし、たまに食べるくらいなら健康への影響も心配することはない。肉や揚げ物も食べたい、ということになるわけだ。

そういうニーズに応える場合に大事なことは、まずカロリーなどを十分に考慮して、それを表示などでアピールすることだが、同時に、適度な量を考慮するということだ。

飲食店の「一人前」の量は、昔からいろいろと議論されてきた問題だが、高齢者への対応では、絶対に無視はできない。どんなにヘルシーな料理でも、食べきれないような量で提供するのではお年寄りにやさしいお店とは感じてもらえない。

一般客との違いをどうするのかという問題も絡むが、私はお年寄り向けの量のメニューには、そのことをはっきりと明記すべきだと思う。レディースランチなどと同じに考えればいいのだ。要は、お店の取り組みの姿勢である。まずそこで好感をもたれることが、高齢者に支持されるお店になるための絶対条件である。

ヘルシー志向=健康食?レジャー志向も満たす飲食メニュー

いま飲食店は、お客様のヘルシー志向を無視して成功できる時代ではない。「安心」「安全」「健康」は、これからの飲食業の最大のテーマである。

しかし、ヘルシー志向に対応するといっても、実際のメニューづくりの中ではなかなかむずかしいと感じているお店が大半のはずである。

たとえば、若者ならともかく、中年以上のお客様であれば、トンカツや焼肉が健康にいいとはだれも考えない。しかし、現実には、とんかつ店も焼肉店も成立している。なぜなのか。理由は簡単だ。お客様が食べたいと思うからである。

外食はだれにとっても身近なレジャーである。お客様は健康になりたくて飲食店を利用しているわけではない。レジャーにふさわしいおいしさや楽しさがなければ、外食の意味がないのである。

実は、ここにヘルシー志向への対応のポイントがある。業種業態によって一概には言えないが、お客様は病院食のような健康食を求めているのではない。健康に気遣いながら食べたいと思っているのである。つまり、お客様にとっての「ヘルシー感」をどうとらえるかが重要になるわけだ。自店のターゲットは、食と健康のどの部分に最も関心をもっているのか。そこを見極める必要がある。

たとえば、ダイエットが気になる若い女性客なら、まず第一に低カロリーのメニューをほしがる。しかし、同じ年代でも、男性客は反対だ。栄養価が高くボリュームがなければ満足してくれない。また、中年以降の世代は生活習慣病の予防意識が強い。そのため、カロリーを気にするというよりも塩分や油分の取りすぎに注意するようになる。

このように、ひと口にヘルシー感といっても、年齢や性別、職業などでかなりの違いが出てくる。そして、最初にも言ったように、中年男性客もたまにはトンカツや焼肉を食べたいと思っている。若い女性客も同じである。体重を気にしていながら、外食では結構ヘビーなものを食べるものなのだ。

そこで飲食店に求められているのは、単純に「健康食」を提供するということではない。健康に気遣いながら食べるためのお手伝いをするということだ。

たとえば、焼肉店だからといつて肉ばかり売ろうとせずに、野菜やシーフードを豊富に用意する。居酒屋など和の要素の強いお店なら、野菜の煮物や海草類を使ったメニューを揃える、という具合に、「健康」を基本に組み立てれば、メニュー構成だけでもある程度の対応ができるのだ。食材、調理法(油の種類、量)、調味料(塩分)については、安心できるということをアピールすればいい。

客層の幅が狭い場合は、そのターゲットの傾向をつかんで対応すればいいが、幅が広いお店の場合は、やはりある程度の低カロリーを基本にして、おいしく飽きないメニューにすることが大切。

なお、「ヘルシー感」は、メニューのネーミングや彩り、食器の使い方でも大きく変わる。といつて、別にお客様をだまそうというのではない。楽しむための外食なのだから、できるだけ楽しく食べてほしい。そういう配慮がお客様の心を引きつけるのだ。

安さ=コスパではない。外食独特の金銭感覚の捉え方

最近は「リーズナブル」という言葉がよく使われるが、これを誤解しているお店が少なくない。

リーズナブルとは、本来は合理的とか納得できるという意味だが、飲食店で言えば「適正価格」ということになる。ところが、「適正」の意味を忘れて「安ければいい」という考え方に結びつけてしまいがちなのだ。

たしかに、安いということは、飲食店の魅力のひとつである。「安い、うまい、早い」のキャッチフレーズは間違ってはいない。しかし問題なのは、「いくら」をもって「安い」とするかである。たとえば、牛肉を売るということでは同じでも、牛丼チェーンの価格と焼肉店の価格を比較して、どちらが高いか安いかなどといっても始まらない。

ここで大事になるのが「適正価格」ということだ。では、何をもって「適正」とするのか。この発想がないために、安ければいいと短絡してしまうのである。

リーズナブルプライスの基準は、お客様の満足でなければならない。お客様が満足してくれてはじめて、その価格が適正だったことになる。安く売っているからリーズナブルなのではない。いくら安くても、お客様にとっては高いということがある。

カレーを300円で売っているのだから文句はあるまい、と思っているお店もあるだろうが、300円だから繁盛できるとは限らない。なるほど300円は魅力的な価格だ。しかし、食べて満足できなければ、お客様にとってはムダな出費でしかない。この違いを理解することが大切なのだ。300円のカレーが、500円のランチに勝てないなどというのは、いくらでもあるケースである。

もっと高い価格になっても、お客様の感覚は変わらない。たとえば、同じ業種業態の2店のお店があり、A店の客単価は3000円、B店は2000円として考えてみよう。

だれが見てもA店のほうが高いお店だが、A店を利用して満足したお客様は高いとは思わないし、その時点では、B店にすればよかつたなどとは絶対に考えないだろう。それどころか、本当に満足していれば「お値打ちが高いお店」と思うはずだ。当然、次の機会にまた利用する可能性が高い。

一方、B店のほうが安いと思って入ったのに、結局は満足できなかったお客様がいる。このお客様にとっては、2000円でも「高い」と感じるし、三度と利用しないだろう。次は少々高いかなと思っても、A店を利用してみるかもしれない。

これが、外食独特の金銭感覚なのだ。料金を支払う対価として十分に納得できる価値があり、しかも利用動機に対する値頃感のある価格。それがリーズナブルプライスなのである。だから、高くても「安い」場合もあれば、安くても「高い」場合も出てくるわけだ。

もちろん、高くても安く感じるとはいっても、業種業態によつておのずと限度はある。そこはきっちりと線を引かなければならないが、妙に弱気になって無理な低価格にする必要はないということだ。

とにかく、お客様を満足させること。飲食店の仕事はこの一点に尽きる。この商品、サービス、雰囲気なら、お客様はいくらまで許容してくれるのか。そこを突き詰める必要があるわけだが、それにはまず、ターゲットとする客層と利用動機をきつちりと見極めることだ。

その品揃えは誰のため?飲食店の「常識」を疑え

商品力を高めるには、品揃えを徹底的に研究してみることが大切だ。言い替えれば、品揃えの「常識」を疑ってかかれ、ということである。

ラーメン店のような単品専門店を別にすると、飲食店は基本的に、複数の品目によってメニューを構成している。 一般にはせいぜい20〜30品日程度のお店が多いが、居酒屋のように100品日以上の品揃えが当たり前、という業種もある。さらに細かく見ていくと、飲食業には業種によって「標準的」な品揃えがあることがわかるはずだ。

問題は、この品揃えの「標準」である。標準があるということは、同業種の飲食店のメニュー構成はどこも似たり寄ったりということになるわけだが、実際、大半の飲食店のメニューは、絵に描いたような「標準」になっている。これで他店との差別化ができるのだろうか。競争力をもてるのだろうか。そこを考えなければいけない。

品揃えが標準的になってしまう最大の理由は、その品揃えによって「業種らしく」見せたいということだ。もちろん、業種らしさというのは長い間の経験則で決まってきたことだ。しかし、それ以上の意味はない。そもそも、業種らしく見せることでお客様が増えるのなら、だれも苦労はしないということになってしまう。

業種らしい商品なら何でも揃っていますというのは、実は自信のなさの裏返しでしかない。同業種の他店にあるメニューがないと不安というのは、自信をもつておすすめできる商品がない、ということなのだ。

また、お客様が何を望んでいるのかがわからないという理由もあるだろう。しかし、競争のシビアないまの飲食店は、ただお店を開いていればお客様が入ってくれるわけではない。お客様は呼び込むものだ。どんなお客様のどんな利用動機に対応するのか。そこをしっかりと突き詰めていれば、他店の真似をする必要はない。自店の特徴を堂々とアピールできるはずである。

たとえば、この商品には絶対の自信があるというのなら、無理してオールラウンドのメニュー構成にする必要などまつたくないわけだ。看板商品、おすすめ商品をフオローする形でメニューを構成すればいいのである。

たしかに、いろいろなメニューを数多く取り揃えているのは、お客様が選ぶ楽しさを提供するため、という考え方もある。しかし、お客様の立場から見れば、何を売り物にしているお店なのかがわからない。要するに、自信のある商品などないお店なのだと映ってしまう。また、メニュー数が豊富すぎて、何を選んだらいいのかわからなくなってしまうという弊害もある。

もちろん、お客様に選ぶ楽しさを提供するというのは、飲食店の大事な付加価値である。しかし、本来あるべき姿は、ただ数ある中から選んでくださいということではない。「当店がおすすめできる商品はこれだけありますから、お好みで選んでください」という明確なアピールになっていなければ、お客様の支持は得られない。選ぶべき価値のある商品が並んでいるからこそ、お客様は選ぶ楽しさを味わうことができるのだ。

結局、売るべき根拠をもたずに業種らしい品揃えをしていても、プラスになることはひとつもない。フリー客なら来てくれるだろうが、目的客、固定客をつくることはむずかしい。なぜなら、お客様にとって選ぶ価値のあるお店ではないからだ。

飲食店が品揃えをするのは、あくまで売上を上げるためである。つまり、お客様に喜んでもらうためであって、お店側がなんとなく安心するためなどではない。「何でもあります」というメニューは、売り物は何もないといっているのと同じなのである。

売りたい商品をいかに確実に売るか。飲食店の基本はこれである。したがって、メニューはそのための戦略を表現したものでなければならない。売りたい商品を際立たせ、なおかつお客様が選ぶ楽しさも満足させる。そのためにいくつかの商品と価格を並べる。それが戦略的品揃えというものだ。

ただし、メニューの品目数自体が問題なのではないということを注意しておこう。多いから悪いとか、少なければいいということではないのだ。要は、その品揃えの各品目に、メニューにのせる明確な根拠があるのかどうかということである。

どんな品揃えでも、全商品がまんべんなく売れるということはあり得ない。自然と売れ筋商品と死に筋商品とに分かれていくものだ。それは仕方のないことだが、死に筋商品をたくさん抱えていれば、そのための材料が過剰在庫になってしまう。ムダな品揃えが多いと、材料ロス発生の確率が高くなるということだ。

また、メニュー品目数が多すぎると、ピーク時に何種類ものオーダーが殺到して対応しきれなくなるというリスクも見逃してはいけない。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。