飲食店で確実に成功するためには、お店の商圏というものをきちんと理解しておく必要がある。これがわかつていないと、どこのだれに対して自店をアピールすればいいのかという、営業の基本方針が立てられない。
商圏とは要するに、自店の影響力の及ぶ範囲、つまりお客様を呼び込むことができる範囲のことだ。お店に来店するお客様が住んでいたり勤めていたりする地域である。もちろん、通勤や通学の通り道ということもあるが、いずれにしろ、その範囲内の地域であれば、自店を知ってもらい、利用してもらえる可能性があるわけだ。
この範囲がどこまであるのか。これをつかまないことには、自店に対するニーズがどれくらいあるのかという、成功のもっとも重要なポイントも判断できないことになる。商圏も考えずに、ただ漠然と営業している多くのお店が繁盛できないのは、その意味では当然のことでもあるのだ。
次に、商圏の範囲といものを具体的に考えてみよう。 一般に、商圏は「半径何キロ内に何人」というように、お店からの距離とエリア内の人口で表されることが多い。しかし、実は距離をモノサシにするのには問題がある。なぜなら、価格を別にすれば、お客様がどの飲食店を利用するかを決める時の基準は、お店までの単純な距離ではなく、所要時間だからである。
たとえば、徒歩と自転車を比べてみよう。同じ所要時間でも進む距離は全然違う。バスや電車、マイカー利用になると、さらに開きが大きくなり、とても比較の対象にはならなくなる。しかし、お客様は必ず徒歩で来店するとは限らないし、通勤。通学途中のニーズを取り込むには、彼らの交通手段も考慮に入れなければならないわけだ。したがつて、より正確を期すには、商圏の範囲は自店からの時間と人口で測るべきなのである。
また、商圏の広さはお店の業態、つまり価格設定と密接に関係していることも知っておくべきである。お客様は、その時の利用動機=予算によつて利用するお店の業態を決める。そして、特別な意味合いの強い利用動機=非日常的利用動機の場合は、わざわざ歩いてでも、電車に乗ってでも「あのお店」を利用しようと思うものだ。反対に、毎日のランチなど日常的利用動機の場合は、とりあえず手近なお店で済ませてしまう。たまには気分を変えてということもあるだろうが、ふだんの行動範囲は狭いのがふつうである。
利用動機による違いはまた、お店の利用頻度の違いでもある。常識的に考えて、非日常的利用動機で利用する価格の高いお店は、お客様の利用頻度が低い。ふつうの消費者が、そうそう高いお店に通えるわけがないからだ。反対に、価格の低いお店になればなるほど、お客様の利用頻度は高くなる。ファーストフードがいい例である。
そのため、価格の高い業態になるほど商圏を広く設定しなければならないが、価格の低い業態なら狭い商圏でも十分に成り立つことになる。
さらに、商圏の範囲は商品の特性によっても変わる。たとえば、ステーキ店や焼肉店のようにヘビーな料理を出すお店は、当然のことにお客様の来店頻度が低くなるから、商圏は広く設定する必要がある。
フレンチやイタリアン、中国料理なども同様だ。しかし、ラーメン店などのように日常的利用動機を狙う商品のお店の場合は、毎日食べても飽きないから来店頻度が高い。だから、狭い商圏でも成り立つ。
このようなことから、 一般に、高級店は大商圏主義が、ポピュラープライス店の場合は小商圏主義が適しているといわれるわけだ。ただし、商圏内の同業態店はすべて競合店になる、ということに注意しなければいけない。競合店とは同業種内での競争相手だけではない。同業態、つまり客単価が同じ業態のお店は、業種にかかわらずすべて直接のライバルなのだ。
しかも、商圏は価格が低くなるほど狭くなり、同一エリア内での出店数は増える関係にある。利用動機が日常的であるほどお客様の利用頻度が高くなり、ニーズが豊富になるからだ。しかし、ニーズが豊富でも競争が激しければ、当然、成功の確率は低くなってしまう。多数の競合店による価格競争が起こるからである。
したがって、居抜き店舗を活用する場合でも、どの業態を選ぶかは商圏内の競合状況をよく勘案して決めなければいけない。そのエリアでもっとも手薄な業態を選べれば成功しやすくなる。