サラリーマン経験のある人ならわかることだが、オフイス街というのは、飲食店立地としては非常に特殊な立地特性を持っている。まず、その特徴を見てみよう。
当然のことながら、オフイス街はオフイスビルが中心の地域である。したがつて、エリア内にいるのは、そこの企業に勤めるサラリーマン、O」、または営業マンなど、エリア内と周辺の企業に関わる仕事をしている人たちにほぼ限定される。 一般の人たちがわざわざ出かけてくる地域ではない。ここがまず、繁華街や商店街との大きな違いである。
また、エリア内の企業活動によつて成り立っている街だから、ウイークデーは人がたくさんいるが、週末、休日は閑散としてしまう。時間帯で見ると、昼間人口は非常に多いが、夜間人口は極端に少なくなる。
同時に、人口の大半はオフイスで仕事をしている人たちだから、飲食店の利用動機の発生する時間底もほぼ限られる。そして、夜間人口の少なさからわかるように、地元の住人は非常に少ない。
これが、オフイス街の通常のパターンである。したがつて、繁華街や商店街と単純に比較すれば、飲食店立地として非常に不利な立地ということになるわけだ。しかし、 一見不利に見えるのは、実は繁華街、商店街でのビジネスを想定しているためなのだ。つまり、立地特性を無視して考えるからそういう結論になってしまう。オフィス街にはオフィス街のメリットがぁる。そのメリットを上手に取り込めばいいのである。
では、オフィス街の飲食店の立地特性は何かというと、まず、客層が固定されているということが挙げられる。しかもその客層は、朝から夕方までの時間帯は確実にエリア内にいてくれるのだ。したがって、一定の客数を見込みやすく、固定客づくりがしやすいというメリットが出てくる。
では、デメリットは何か。まず、何といっても大きいのは、営業日数が限定されてしまうことだ。ほかの立地なら年中無休も可能だが、オフィス街で商売になるのは週に五日間、多くても土曜日を入れた六日間である。ふつうは飲食店にとってもっとも稼ぎ時になるはずの日曜・祭日は商売にならない。
また、有効営業時間帯についてもかなりの制約を受ける。オフィスが一斉に昼休みとなるランチタイムはお客様が集中するが、ランチが終わった後の午後の時間帯は、集客しようにもなかなかむずかしい。
夜の時間帯も正直いって有利とはいえない。なぜなら、仕事の終わったサラリーマンやOLは、いつまでも会社の近くにいないものだからだ。同僚とのアフターファイブの一杯や、軽い食事をしながらのおしやべりを楽しむにしても、周辺の繁華街などに流れて行きやすい。
また、もうひとつのオフィス街の特徴として、家賃・保証金が意外と高いということも忘れてはいけない。地価が高いためだが、とくに新しいビル内のテナントとなると、けっこうな金額になることが少なくない。
したがって、この立地で成功するためには、いくつもの制約要素をメリットに変えてしまうコンセプ卜が不可欠になる。要するに、逆転の発想である。
たとえば、週に五日間しかないと思えば不利になるが、週に五日間で成り立つビジネスと考えたらどうか。サラリーマンと同じ週休二日を実現できるのだ。客層が決まつているということは、ターゲットを絞り込みやすいことでもある。固定客をつくりやすいから、売上が安定しやすいというメリットも大きい。
限られた営業日数と時間で成り立つためには、坪効率の高いコンセプトを組み立てる必要がある。たとえば、勝負の時間帯はランチタイムだが、これを最大限に生かすには、弁当のテイクアウトや出前を導入するという方法がある。稼げる時にどれだけ稼ぐか。この方針を徹底することが大切だ。
一方、夜の時間帯は当然、お酒を中心とした居酒屋的な要素を売らなければならないわけだが、繁華街などのお店との違いをアピールできるかどうかがポイントになる。業態としては、いつでも気軽に利用できる低価格帯でのお店づくりだ。お値打ちで落ち着くお店という評判を取れれば、個店の経営は十分に成り立つ。
オフィス街だからといつて飲食店がないわけではない。むしろ、競合店は多い。その事実が、立地と飲食店はやりようだということを端的に証明している。