お客様のオーダーを取るのは、飲食店ではもっとも当たり前の仕事のひとつだ。仕事として見ても、とくにむずかしい仕事には思えないだろう。そのため、何も考えずに「ただこなしている」お店が多い。しかし、あなたのお店はそんなことではいけない。オーダーの取り方ひとつで、お客様の印象も売上も、大きな違いが出てしまうのである。
小さな個店とチェーン店との違いは何か。それはお客様との距離である。チェーン店の場合、お客様は不特定多数の一人にすぎない。 一方、小さな個店では、お客様は人格を持った一人の個人である。お店とお客様の関係は個と個の関係だ。お店とお客様との心のつながりが成立する関係である。
そのこととオーダー取りに、どういう関係があるのか。いぶかしく思っている人もいるだろう。しかし、このお客様とお店の距離ということをよく考えてほしい。お客様のオーダーを受ける時は、スタッフがお客様ともっとも近い距離で接する時である。物理的な距離だけでなく、言葉を交わすという意味でも、お客様ともっとも近くで接する時だ。
お出迎えでもレジでも、これほどお客様と接近するチャンスはないといっていい。つまり、お客様との個と個の関係、心のつながりを築くための絶好のチャンスということになる。このチャンスを大事にしなくて、何を大事にするというのだろうか。本来は、少しでもお客様に喜ばれるようにと、細心の注意を払って接しなければならないはずなのである。
そこで大事になるのが、オーダトを取る時はお客様の主導権を尊重するということだ。お客様にとつては、メニュー選びも飲食店での大きな楽しみのひとである。その楽しみを奪うようなことは絶対にしてはいけない。最悪なのは、お客様に圧力をかける対応だ。圧力というのは、お客様をせかしたり、押しつけるような態度をとることである。
たとえば、メニュー表を渡したとたんに「お決まりでしたら」などとオーダーをせかせるお店があるが、こういうお店はお客様の楽しみたいという気持ちなど、何とも思っていないのに違いない。まだろくにメニュー表も見ていないのに、何をオーダーするか決まっているはずがないではないか。
要するに、オーダー取りなんかにスタツフの手を取られたくないと考えているわけだが、小さな個店が絶対に真似をしてはいけないことのひとつである。限定メニューのランチタイムとか、とりあえずドリンクだけオーダーしてもらうという場合なら、多少のことは許容範囲になる。しかし、いずれにしても、お店の事情の露骨な押しつけはお客様の反感を買うだけと心してほしい。
反対に、メニュー表を渡してお客様に選ぶ時間を与えるのはいいが、そのままお客様をほつたらかしにして忘れてしまうようなことも、絶対にあつてはならない。オーダーが決まれば、サービススタツフを探す素振りを見せるなど、必ずお客様からの合図がある。それを見過ごさないことが大切なのだ。
オーダーを受ける時は、どんなに忙しくても、いかにも忙しそうな顔をしたり、イライラしているような態度は厳禁。つねに笑顔でオーダーを取れるように訓練することだ。また、お客様のいうことを否定するような言葉も厳禁である。たとえば、お客様が「ご飯」といっているのに「ライスですね」と聞き返したりすることだ。
ところで、オーダーはお客様の主導権を尊重しなければならないといったが、お店としては、本当は売りたいメニューをオーダーしてほしい。したがって、お客様のオーダーを上手に誘導するのも、オーダー取りの重要な役割となる。
ただ、これも圧力をかけるようなやり方では逆効果で、お客様の意思を尊重しながらお薦めする、というテクニックが不可欠になる。テクニックなどというと嫌らしい感じがするかもしれない。もちろん、押しつけにならないように注意しなければならないが、お客様に楽しい時間を過ごしてもらいながら、お店にとつてもプラスにするという発想は、ビジネスとして絶対に必要なものだ。
しかしそれも、お客様との心のつながりを大切にするおもてなしの精神と態度で接するからこそ、お客様の反発を招かないのであって、これもまた、お客様との距離が近い小さな個店ならではのメリットなのだ。
上手なお薦めのポイントは、さりげなくお薦めするという姿勢である。そして、お客様が否定したらさっと引っ込めることが大切である。