最近は、脱サラだけでなく、他業界の商売から飲食業に転業するというケースも増えている。経済状況が大きく変わるなか、従来の商売ではやっていけなくなつたとか、飲食店経営に活路を見出したいといったケースである。
言うまでもなく転業の人たちは、すでに商売の経験がある。その意味で、商売経験すらない脱サラの人たちよりも有利と思うかもしれないが、実はそうでもない。転業の人たちの場合の方が、うまくいかないことが多いのだ。その主な原因は次の4つである。
①以前の商売で失敗したことをしっかりと反省していない
②仕方なく転業したため、バイタリティーがない
③高い粗利益率にばかり目が行ってしまい、飲食業がどんな仕事か理解していない
④以前の商売での経験や考え方にとらわれやすく、飲食業としての切り替えができない
最初に言っておきたいのは、以前の商売がなぜうまくいかなかつたのか、その原因を冷静に、客観的に分析してほしいということだ。失敗、失敗と並べて酷なようだが、これがいちばん大切なことだ。もちろん、商売には運不運もつきまとう。しかし、お店を存続できなかったという事実は事実である。そこを謙虚に認めることができなければ、転業はやめておいたほうがいい。自分の経営者としての資質、実力を正しくつかむことが、三度と失敗しないための条件である。
往々にしてバイタリティーがないのも、結局は仕方なく転業しているからなのだ。以前の失敗は割り切って、新天地でもう一度人生をかけるという意気込みがほしい。そこから、より深く勉強しようという情熱や、お店づくりのこだわりも生まれてくる。ほかにできそうなのは飲食店くらいといつたデモシカ(飲食店デモやるか、飲食店シカない)の発想ではダメだ。
粗利益率に目が行くのは当然のことだが、商売の経験者であれば、実際の利益率がどうなのかということも、正しく理解してほしい。何事も、メリットがあれば必ずデメリットもある。とくに物販店をやっていた人は、飲食店の接客サービスヘの理解が足りないことが多い。転業では比較的年齢が高いケースが多いが、その体力ではたして大丈夫なのか、冷静に判断することだ。気持ちだけでは長続きしない。
そして、これまでの経営者としての経験を一度、きれいさっぱりと捨ててみることだ。たしかに、経営者としての経験は貴重なものだし、参考になることも少なくないはずだ。しかし、その経験や考え方にいつまでも引きずられていては、成功はできない。どんな経験も実績も、飲食業でそのまま通用するわけではないのである。結局、最初に挙げた原因に戻っていくが、これまでの自分を潔く反省することが大切なのである。
飲食業界も、中途半端な取り組みで簡単に成功できるほど甘い世界ではない。たんなる商売替えではなく、新たなチャレンジなのだ。この業界の経験者の言葉に素直に耳を傾け、飲食業についてどん欲に勉強してみることである。