はじめて飲食業にチャレンジする人はたいてい、どの業種を選ぶかということからスタートする。それはいいのだが、肝心のところを煮詰めないで、お店づくりにかかってしまう。だから失敗しやすいのだ。肝心のところというのは、どういう「業態」にするのかということである。業態とは、売り方の方針のことである。
もちろん、自分の城になるわけだから、どういうお店にしたいかというプランはもつているはずだ。ところが、往々にしてその内容は、内外装のデザインやメニュー、スタッフのユニフォームといったことばかりで、業態という発想が欠けていることが多い。
お客様がお店を選ぶときの最大のポイントは、実は業種ではない。価格(予算)である。お客様の予算を決めるのは、そのときの利用動機だ。そして、お客様は予算の範囲内で利用できるお店のなかから業種を選ぶ。お客様から見れば、この「予算の範囲」を決めるものが業態ということになる。
焼肉が食べられるのなら、いくらかかつてもいいなどというお客様はいない。必ず、まず心づもりの予算がある。そして、その予算は当然、利用動機で決まる。たとえば、恋人と一緒なら多少は奮発してもいいが、友人たちとお酒を飲むためのふだん使いなら、安くて手軽なお店で十分と思うだろう。逆に、せっかくのデートなのだから、あまり安っぽいお店には行きたくないと思うかもしれない。ともかく、そのときの予算に合う焼肉店が見つからなければ、予算内で食べられる別業種のお店に行くわけだ。これがお客様の消費行動である。
予算が変わるというのは、たんに使ってもいい金額が変わるというだけではない。お店に求める商品、サービス、雰囲気すべての質、レベルが変わるということだ。デートで行くお店は、肉の質だけでなく、サービスや雰囲気のクオリティーも高くなければ困るわけである。だから、料金が高くてもお客様は納得するのである。
ところで、自店とライバル関係の飲食店のことを競合店というが、飲食業の素人は、えてして競合店とは同じ業種のお店と思い込んでしまう。ここに落とし穴がある。
実は、競合店とは同業種のお店とは限らないのだ。先の焼肉店の例で説明したように、同じ商圏内の同業態の飲食店はすべて、競合店となるのである。逆に言えば、お客様にとって本当に重要なのは業種ではなく業態、ということになるわけだ。これは、飲食店経営で最も重要なポイントである。
ここで、もう少し詳しく業態について説明しておこう。売り方の方針というのは具体的に言えば、どんな客層のどんな利用動機に対して、何をいくらで、どのようなスタイルで売るのか、ということになる。
たとえば、内装とメニューくらいは決められるというが、メニューとは価格と内容が連動してはじめて価値をもつものだ。そして、その価格の根拠が業態である。つまり、どの業態を選ぶのかが決まっていなければ、業種以外のお店づくりの要素は何ひとつ決められないわけだ。
お客様は専門用語は使わないが、無意識に業態を見て利用するかどうかを選んでいる。したがって、お店づくりでは業種よりも、まず業態を重視しなければならないのである。