はじめてオープンする人が意外と軽視する傾向があるのが、オープン前のスタッフのトレーニングである。
オープン前は何から何まで未経験のことばかりで、ワクワクする気持ちと同時に、いろいろと不安を抱えているはずだ。ところが、トレーニングは軽く考えてしまう。
どうしてそうなるのかというと、まだ飲食店経営者としての自覚が足りず、お客様に対する甘えがあるからだ。つまり、オープン後しばらくの間は、「まだ開店したてで慣れていないものですから」という言い訳が通用すると思っているわけだ。これでは甘すぎる。こんな心がけでは失敗しても仕方がないというしかない。
飲食店はオープンしたその日から、プロの集団でなければならない。プロでなければ、お客様からお金をいただくわけにはいかないからだ。知人や友人なら大目に見てもくれるだろうが、赤の他人のお客様に一方的に甘えを押しつけるなど、許されるはずがない。
もちろん、少しくらいのトレーニングで、本当のプロといえるレベルに達するはずはない。また、実際問題としてパート・アルバイトで運営する場合、オープンから何年経とうが、同じ問題を抱え続けることになる。それでも、仕事に就く前のスタッフのレベルをできるだけプロに近づけることは、飲食店として当然の義務である。
また、オープン前のトレーニングをしたがらないもうひとつの理由として、「家賃がもったいない」というのがある。一般に家賃は、遅くとも内装工事が始まった時点で発生している。工事中だけでもムダな家賃を払っているのだから、工事が終了したらすぐにもオープンして、少しでも家賃のムダをなくしたい、というわけだ。しかし、「慌てる何とかは……」のたとえの通り、日先の利益に目がくらむと、必ず余計な苦労をすることになる。
とくにオープン時の失敗は、なかなか取り返しがきかない。きちっとした実績のあるお店なら、 一度や二度の失敗は許してもらえるだろう。しかし、新規開店のお店には実績がない。お客様の評価はこれから決まるのだ。必ず成功させたいと思うなら、ぶつつけ本番は絶対にやめることだ。どんなに短くても3日程度のトレーニング期間は予定しておくべきである。つまり、それまでにスタツフを募集して決めておかなければならないということだ。
トレーニングは、厨房とホールそれぞれで行い、最後に連携してのチームプレーを反復訓練するといい。いずれにしても、どの仕事をどのようにすればいいのかがわからなければ、スタッフは動きようがない。したがって、厨房での調理作業、ホールでの接客と、2つのマニュアルも用意しておく必要があるわけだ。
なお、トレーニングの最後には、全商品を実際につくり、サービススタツフも含めた全員で試食してみること。調理スタッフに経験させることはもちろんだが、サービススタッフもどんな料理なのかがわからなければ、お客様に対して説明のしようがないからだ。
また、トレーニング期間中もスタッフにはきちんと時給を支払うこと。タダで覚えさせようとしても、効果は上がらない。