接客サービスの目的は、お客様に気分よくすごしてもらうことだ。お客様が楽しく豊かな気分ですごせるように、いろいろと配慮して尽くすことが仕事である。当然のことだが、スタッフの言葉遣いには十分注意しなければならない。
しかし、言葉遣いというのは、意外とむずかしいものだ。とくに、ふだんの生活ではあまり使わないだけに、敬語の表現はむずかしい。よくクイズなどにも出題されるが、なかなか全問正解とはいかないのではないか。
接客サービスの言葉遣いで最も大切なことは、絶対にお客様の自尊心を傷つけてはならないということだ。これが飲食業の鉄則であり、敬語や丁寧語を使わなければならないのもそのためである。
言うまでもなく、お客様とお店との間には厳然とした一線がある。絶対に超えてはならない一線だ。そして、その一線をはさんでの礼儀というものがある。だから、お客様はお店の人間の言葉遣いに対して、非常に敏感である。ちょっとしたひと言で気分を害してしまうし、最悪の場合は本気で怒らせてしまう。
言葉遣いなど常識の範囲内でできることではないのか。そう思っているお店も少なくない。しかし、はたしてそうだろうか。悪気はなくてもお客様を怒らせてしまうというのはよくあるケースだが、たいていの場合、怒らせてしまうきっかけはスタッフの無自覚な言葉遣いにある。
一般に、接客サービスで必要な基本用語はそれほど多くはない。「いらつしゃいませ」に始まり、たしましょうか」「はい、かしこまりました」「申し訳ございません」「ありがとうございました」ぜい10種類くらいのものだ。これくらいの用語ならだれでも覚えられる。
しかし、当たり前のことだが、接客サービスは基本用語だけでは務まらない。基本用語はあくまで基本であって、オーダーを取るだけでも、お客様とのさまざまなやり取りがある。そして、そこでは絶対に敬語を使わなければならないのである。これがスタッフの「常識」だけですむことなのか。そこを真剣に考えなければならない。
たとえば、自分のことを「わたし」といっているようでは失格で、「わたくし」と言わなければならないが、こんなことも徹底されていないお店があまりに多いのだ。だから、平気で「うち」とか「うちの店」などと言ってしまうが、正しくは「わたくしどもの店」である。
その他、よく見かける誤用として「いいですか」「何人ですか」「ありません」「すみませんが」「知っていますか」「お連れします」などがある。それぞれ正しい言葉遣いは「よろしいですか」「何人様でいらつしゃいますか」で」ざいません」「恐れ入りますが」「ご存じでしょうか」「ご案内いたします」である。
スタツフに正しい言葉遣いをさせるには、敬語表現はむずかしいという前提で取り組むことが大切だ。想定問答集をつくって、日頃から練習させるのである。言葉というのは、使いつけていないと、なかなかスムーズに出てこない。
ただし、言葉だけ暗記させるのでは効果はない。おもてなしの心と一緒に教える。そこが肝心である。