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飲食店長が押さえておくべき、人件費管理の基礎知識

飲食店長が押さえておくべき、人件費管理の基礎知識

人件費をどうコントロールするか

店長の管理可能経費のうち、最大の経費は人件費である。このコストをいかにうまくコントロールするかは、店長の腕の見せどころだ。客数に応じた人員態勢をつねに維持すると同時に、社員の総労働時間を抑えてパート・アルバイトの労働時間を高めることが、そのコントロールの基本になる。

本書では人件費を変動費として扱っているが、このコントロールが適切におこなわれないと、人件費は回定費になって、損益分岐点を押し上げてしまう。つまり、人件費管理のできない店長は、みずから利益の出にくい体質をつくっていることになるわけだ。

ここでは、店長の人件費管理に最低限必要な公式を挙げて、その意味を把握しておこう。

人件費管理は「換算人員」で考えることから

よく、 一日に何人の従業員を使っているかと聞かれて「昼が何人で夜が何人、でも、昼と夜通しの従業員もいるし……」とまごついてしまう店長がいる。これは、従業員数を単純に個別の頭数でしかとらえていない証拠である。だから、1日10時間働いた従業員も3時間の従業員も、同じく一人と数えている。

こういう大ぎっばな人の使い方をしていれば当然、ムダな人員が出る。人員配置はお店の繁閑に応じて決められていなければならないのだが、とてもそんなコントロールはできない。早番の従業員がアイドルタイムにブラブラして時間を過ごし、夜のピークタイム前に帰ってしまうというのは、このムダな人使いの典型である。そして、ひと昔前までは、大半の飲食店がこういうムダを平然とくりかえしていた。それでも経営が成り立ったのは、給料が安かったからである。

しかし、パート・アルバイトの時給水準を見れば一目瞭然なのだが、いまの飲食店経営ではドンブリ勘定は適用しない。人件費管理はまず、従業員数を換算人員で考えることからスタートしなければならない。

換算人員とは、1日1人の標準労働時間を決めて、その標準労働時間の従業員が何人働いたか、と考える考え方である。これは各社の就業規則にもよるが、ふつうは一日八時間、 1カ月25日労働とする。したがって、1カ月で見る場合は、8時間×25日=200時間をもって一人とみなすわけである。

労働生産性を上げる4つの方法

自店の従業員数が適正かどうかを判断するには、従業員一人当たりの労働成果を見ればいい。この成果を生産性というが、その基本的尺度とされているのが労働生産性である。労働生産性とは、従業員一人当たりの粗利益高のことで、次の式で求められる。
労働生産性=月間粗利益高/従業員数(換算人員)=売上高-材料費/従業員数(換算人員)

この場合の粗利益高とは月間の粗利益高のことだ。要するに、従業員一人が一カ月にいくら稼いだかをあらわしているわけで、その額は給与水準と利益水準を決定する。

一般には、適正な利益を確保するためには、人件費の2.5〜3倍の粗利益高が必要とされている。これが労働生産性の日標額である。人件費から考えれば、粗利益高の32〜40%が適正ということで、かりに平均月給が30万円とすると、月間粗利益高は75〜90万円ということになる。

労働生産性を挙げるには、次の四つの方法がある。

①売上高を大きくする
②粗利益率を高くする
③従業員数を減らす
④省力機器を導入する

このうち、②と④ (結果的に従業員数が減る)は、会社のトップが戦略的見地で決定することであり、店長が責任をもつのは①と③である。①は販売促進努力であり、③は客数に応じた適切な人員配置である。

「人時生産性」を知る

労働生産性は一人当たりの粗利益高はつかめるが、1カ月単位なので、経営者のマクロ的分析には適している反面、現場の店長にとっては使いにくい数字である。パート・アルバイトなどの変則勤務態勢が常態となっているからで、一時間当たりの管理を重視する場合は、別の尺度が必要になってくる。その尺度が人時生産性である。

人時生産性は一人一時間当たりの粗利益高を示すもので、人の効率をはかる経営指標として、もっとも一般的に使われている値である。算出式は次のとおり。
人時生産性=月間粗利益高/総労働時間数=売上高-材料費/総労働時間数

日標額は平均時給の2.5〜3倍の粗利益高(1人1時間当たり)である。

従業員の働きによる成果は売上高

ところで、労働生産性と人時生産性は、月間および1時間当たりで従業員一人が稼ぎ出す粗利益高を問題にしている。従業員一人当たりの労働成果を見るのなら、基本になるのは売上高ではないのか――。

もちろん、店長のマネジメントの第一歩は売上高の確保である。なぜなら売上高とは、お客が支払った料金の集積だからだ。お客は商品、サービス、雰囲気(Q、S、C)の三要素のトータルな付加価値を判断して、飲食店を利用する。つまり売上高とは、お店の付加価値を認めてくれたお客の数をあらわしている。

売上高が上がるということは、客数が増えていることである。したがって、従業員による付加価値創造のもっとも直接的な成果は売上高ということになる。

ところが、ここで大きな問題が生じる。粗利益高は業種業態によってかなりの違いがあるからだ。つまり、従業員1人当たりの売上高(これを販売生産性という)の多寡が、そのまま労働生産性の大小をあらわすことにはならないのである。一方、粗利益高とは、売上高から材料費を引いたものである。

つまり、売上高のうち、お店の努力によって創造した付加価値は、直接コストである材料費を引いた粗利益にほかならない。したがって、粗利益高の高低はあらゆる業種業態の共通の、人の効率をはかる尺度となり得るのである。

「人時売上高」と「人時接客数」を把握せよ

しかし、現場の店長が最優先しなければならないテーマは売上高であり、粗利益高を決める材料費率は会社の戦略の問題である。したがって、店長にとってもっとも管理しやすい目標となる数字は、やはり売上高なのだ。

そこで、店長の現場管理の目標値をして用いられているのが、1人1時間当りの売上高を示す人時売上高である。人時売上高は次の式によって求められる。
人時売上高=月間売上高/総労働時間数

この数値は当然、高ければ高いほどいいわけだが、これまた当然、客単価の高い業態のほうが高くなることに注意しておいてほしい。また、一時間当たりの給与が正社員よりも低いパート・アルバイトが多いお店では、同業態の社員中心のお店よりも、目標額は低く設定してもいいことになる。一般に、日標額とされているのは、4,000〜5,000円である。

したがって、人件費の支払能力の裏付けとなる粗利益高の確保=労働生産性と人の効率を管理するためには、人時売上高とともに人時接客数と併せてチェックしていく必要がある。

人時接客数とは、従業員一人一時間当たりの来客数のことで、人時接客数とか接客生産性、労働指数などを呼ぶ人もいる。算式は次のとおり。

人時接客数×客単価=人時売上高

となる。つまり、人時来客数とは従業員1人1時間当たりの効率と労働生産性を示す数値である。なお、人時生産性は次の式で導き出される。
人時売上高=粗利益率=人時生産性

人件費の適正値とは

お店の損益から見れば、人件費は少なければ少ないほどいいわけだが、必要以上に人件費を削ってしまうと、お店のスタンダードが保てなくなる。人数が少すぎれば商品、サービスの質は低下するし、クレンリネスも維持できなくなる。給与が低すぎれば従業員の働く意欲が低下するから、やはり同じ結果を招く。そこに、人件費の「コントロール」の意味がある。

では、人件費はどれくらい適正なのか。別項で、売上高対人件費は25%が標準値だといった。算出式は次のとおりである。
売上高人件費=(人件費/月間売上高)×100

しかし、材料費と同様に人件費も、業態によって適正値がかなり違ってくる。これについては別項(第3章4項)で詳しく述べるが、単純に対売上高25%とはいかない。

人件費の適正値を求める指標は、労働分配率と呼ばれ、次の式で示される。

労働配分率=(人件費/月間粗利益高)×100

つまり労働分配率とは、粗利益高のなかに占める人件費の割合をパーセンテージで示したものである。なぜ、売上高でなく粗利益高が分母なのかというと、人件費や諸経費、つまり材料費を除くすべての費用は粗利益から支払われるからだ。
月間粗利益高=月間売上高-材料費
利益=粗利益高-(人件費+諸経費)

なぜ、人件費だけを労働分配率として特別に扱うのかというと、人件費の管理がお店の収益性にとっても大きな影響を及ぼすからである。

さて、労働分配率の適正値は、一般的に40%が限度とされている。かつては32%が理想とされていたが、世間並みの給与を支払うには事実上、不可能な数字になっている。現在の給与水準での目標値は32〜38%程度である。労働分配率が40%を超えなければ、お店のスタンダードを維持しながら適正な利益を確保でき、50%を超えるようだと危険である。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。