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店長は機会損失を防がなければならない

店長は機会損失を防がなければならない

販売チャンスを逸するケースは日常いっぱいある

飲食店の機会損失とは、本来なら売れるはずだったのに、何の対応策も打っていなかったばかりに、みすみす販売チャンスを逃がしてしまうことを意味する。

機会損失発生の可能性は、毎日の営業の中にゴロゴロころがっている。ところが、機会損失がいつ、どこで発生しているかは、ふつうはなかなか気づかない。

正確な数字によって記録に残るものではないからだ。たとえば、皿やグラスを割ったとか、機器が破損したとかなら、損害額は明らかだ。従業員もそのことを意識する。しかし、機会損失の場合は、そのことへの対処の認識がないと、まず意識されない。たまに気づくことはあっても、逸失利益の金額がはっきりしないから、そのまま兄過ごされやすいのだ。

「時間」と「収容力」の制約

実は、機会損失は飲食店の宿命でもある。ファーストフードショップは別にして、レストランは料理のジャンルにかかわらず、テーブルサービスが原則だ。つまり、原則として一組のお客がひとつのテーブルを占拠する。そして、その一組のお客がテーブルを占拠している時間は(渋滞時間)、業種業態によってある程度決まっている。このことから、飲食店は「時間」と「収容力」という、二つの制約をうけていることがわかる。そして、飲食店の機会損失の大半は、この二つの制約が原因になっているのだ。

「生きている席」を確保

この問題の根は、まず店舗レイアウトにある。売り上げは客数と客単価で決まるのだから、席数をできるだけ確保しなければならない、と誰でも考える。だから、ホールの設計では1席でも多くとろうとして苦心する。しかし、ここで考えなければならないことは、席数=客数ではないということだ。

お客に利用されずに空いている席を「死に席」という。レイアウト上でいくら席数がとれても、すべての席が有効に稼働しなければ意味がない。詰め込んで100席を確保していても、30席が「死に席」だったら、実質的には70席しかない。しかも正確にいえば、最初から70席を配置したレイアウトに比べて、はるかに居心地の悪い客席になってしまう。

同じ営業面積で70席なら、一席当たりの空間は単純計算して1.4倍強である。お客にとって、このゆとりの違いは大きい。せせこましく詰めるお店よりも、理である。実質的に70席なのだから、1人分の空間も同じこと、ということにはならない。

かりにガラガラに空いているお店でも、客席がギチギチに詰め込んであると、お客の日には狭苦しいとしか映らないものだ。モノを効率よく並べるのとはわけが違う。「生きている席」を確保するというのは、お客の居心地感のよさを前提にするということだ。

もちろん、ホールのレイアウトは店長の一存で変更できるものではない。しかし、修正はきくし、また、そうしなければならない。その前提として、この「生きている席」を確保する、ということの意味を、しっかりと頭に叩き込んでおいてほしい。

機会損失の具体例

ピーク時間帯の在席客数を客席数で割った数字を、満席率という。たとえば、ランチタイムには、ウエイティングの列ができる。このウエイティングが発生した時点が、満席状態である。ところが、ふつうは満席といっても、満席率は70〜80%前後でしかない。

この原因は、席のとり方にある。通常、レストランのテーブル席は4人掛けを基本パターンにしている。 一組当たりの客数を3〜4人と想定しているためだ。しかし、実際の1組当たり客数は一般に、平均して2人以下である。多いお店でも、せいぜい二人だ。みかけの席数はあっても、実質稼働率は低=死に席が多いのである。それなら、はじめから2人席にしておいて、 1組2人以上のお客の場合はテーブルをつなげられるようにしておくべきなのだ。

お客はふつう、相席をいやがる。混雑が当然のランチタイムでも敬遠されるし、ディナータイムならほかのお店へと流れてしまう。これが機会損失である。

たとえば、4人掛けテーブルに2人(1組)のお客が着席している。そこに1人で相席させられるのは、お客の心理として非常に抵抗がある。また、同じ相席でも、二人掛けテーブルだと、知らない人と向かい合っても、それほどの抵抗感はないものだ。

ピーク時間帯の満席率を高める

飲食店の最大のテーマは、売れるときにお客に迷惑をかけずに、いかにたくさん売るかということだ。季節変動があれば、売れる月にとにかく稼ぐ。同様に、曜日や時間帯によって来客数が違うのであれば、平日、土曜日、日曜・祭日、あるいは金曜日と、客席レイアウトを変えていく必要がある。ピーク時間帯の満席率をいかに高めていくかということが、店長の重要な仕事になるわけだ。

そのためには、自店のピーク時の満席率と、曜日、時間帯別の一組当たりの客数のデータをとり、集計・分析してみることだ。調査機関は、季節ごとにあるていど安定した客数が見込めるのであれば、各季節に一カ月間、曜日(平日、週末)ごと、時間帯ごと(ランチタイム、ディナータイム)におこなう(表2参照)。

データの分析というと平均値がつきものだが、この場合は平均人数を求めても意味がない。2人客と4人客が多いと、平均は2人ということになるが、2人を想定して4人掛けテーブルのみにしたのでは、元のモクアミである。この場合に大事なのは、もっとも多く来店する一組当たりの客数に対し、テーブル当たりの客席数がうまく対応しているかどうかなのだ。

与えられた条件のなかで改善できる店舗レイアウト

店舗レイアウトでは、従業員の作業動線も重要なポイントである。

まず、ホールの場合、どの席に対しても最短距離で行くことができ、テーブルでのサービスの支障にならないテーブル配置になっていることが理想だ。と同時に、厨房へのオーダー通しやテーブル・セッティングの準備、料理を運んだり皿を下げる、といった一連の仕事がスムーズに流れるようなレイアウトになっていなければ、ピーク時のサービスが混乱するのは必至である。その混乱が結局はお客の滞席時間を長くして、客席回転率を低くしてしまう。ウェイティング客が全員、黙って待っていてくれるわけではないのである。

また、厨房内の作業動線も重要だ。これの効率が悪いと、オーダーをさばき切れず、客席回転率の低下をもたらす、クレームの原因をつくることにもなる。

こういう基本的な店舗レイアウトについてはもちろん、店長の一存でどうこうなるものではない。しかし、だからといって、その点では店長の責任はない、ということにはならない。

レイアウトに欠陥があるならそれなりに、与えられた条件のなかでのもっとも効率のよりやり方を考え出すのは、店長の責任である。しかし、理想的な作業動線を確保できるレイアウトを知らなければ、なんとかそれに近づけようとする努力もできないわけだ。また、場合によっては、レイアウトの変更や手直し=改装を会社に提言することも、店長の役割なのである。

せっかくの売るタイミングを逃しているところで、機会損失は客数だけの問題ではない。サービスの仕方も大いに関係してくる。

たとえば、客単価アップは売上高増大の重要なテーマである。いちばん手っ取り早い方法は値上げだが、これが簡単にできるのなら誰も苦労はしない。一般に、1割値上げすれば客数は1割減少するといわれている。

そこでテーマとされるのが、推奨販売である。なかでも、追加オーダーは無理なく客単価を上げるため、多くのお店で少しでもとろうと努力している。

ところが、これがトップのかけ声ばかりでいっこうに効果が上がらない、というお店が少なくない。機械的に押し売りするばかりで、売れるタイミングということが頭に入っていないからである。

推奨販売に無理押しは絶対に禁物である。お客の意思を尊重しない強引な売り方は、必ずお客の反発を招く。お客の満足度はレジでおカネを支払うときにだいたい決まるが、そのとき「余計に使わされた」と思われたらおしまいだ。納得して払うかどうかは、金額以前の問題なのである。

そうではなく、お客がオーダーしたいと思っているそのときを逃さずに売る、これが、売れるタイミングということだ。

たとえば、別項でも触れたが、お客がそのサインを送って寄こしているとき。これを見逃してしまうお店が多いのだ。せっかくの売れるタイミングを、みすみす逃してしまうのである。お客の声が小さいから、アクションが小さいから、あるいはピーク時で忙しかったから、など言いわけはいくらでもあるだろう。しかし、それは言いわけにはならない。ぶつうお客は、わざわざ大声を出してまで追加の注文をしたりしない。

そういうお客ばかりだと思い込んでいたとしたら、多くの追加のサインを見落としていた証拠なのだ。

これは、店長の従業員教育の問題である。サービス要員全員がこのことをしっかりと頭に入れていれば、かなり機会損失を防ぐことができる。と同時に、サービス技術を訓練して、人時接客数を高めていくことだ。そうすれば、客回転もおのずとよくなっていく。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。