メニューを構成する商品は次の四つに分類される。
①売れて、しかも儲かる商品
②売れるが、あまり儲からない商品
③あまり売れないが、儲かる商品
④売れも儲かりもしない商品
メニューとは、分析してみるとまさに玉石混交であることがわかる。とくにメニュー数の多いお店では、この混交によって材料や調理手段にかなりのムダが出ている可能性が高い。したがって、商品一品一品についての貢献度を正確に把握することで、材料や調理の合理性を高めていく必要がある。このための分析手法を「ABC分析」という。
ABC分析とは、たくさんの管理対象物のなかから重点的に管理すべきものを探し出す計数手法で、対象をA、B、Cの3つのランクに分けて検討することから、この名称がつけられている。製造業や小売業でも盛んに用いられている手法である。
メニュー分析の手法としてのABC分析には、
①出食数ABC分析=消費者支持度別ABC分析
②売上高ABC分析=売上高貢献度別ABC分析
③粗利益高ABC分析=粗利益高貢献度別ABC分析
の三つがあるが、分析の手順はいずれも簡単である。
たとえば、①出食数ABC分析を例にとると、
(1)月間の品目別売行き個数を集計する
(2)売れ行き個数の多い順に、品目を一覧表にする
(3)全体の個数を100として、各品目別の構成比を算出する
(4)さらに、その構成比を順次累計する
(5)累計構成比が上位から七五%までの品目をAランク、95%までをBランク、それ以下をCランクとする
以上である。②売上高ABC分析の場合は売れ行き個数に単価を掛け、③粗利益高ABC分析の場合は、売上高に粗利益率を掛けて算出するだけだ。下記表24では、これらのうちの売L高ABC分析の例を示した。
75%、95%という区切り方をするのは、社会現象では一般に、少数のものの貢献度が大部分を占め、多数の貢献度は小さいという法則に基づいている。事例の表では、16品目中わずか3品目だけで売上げ全体の75%を占めているが、一般に、Aランクに入るのは、全商品のうちせいぜい10〜20%程度である。つまり、ごくひと握りのエリート商品(Aランク商品)を重点管理するだけで、全売上高の75%が管理可能になるということだ。
図3は、売上高ABC分析のデータをパレート図にあらわしたものである。イタリアの社会学者パレートが開発した構成比累積図表なので、パレート図と呼ばれている。要するに、各商品の構成比累計値を線で結んだもので、各商品の売上高構成比を順に積み上げていくと、パレート曲線になる。
パレート図にすると、いっそうメニュー分析がしやすい。もしもすべての商品が均等の働きをしているとすると、累計点を結ぶ線は直線になってしまうが、実際にはそういうことはほとんど起こり得ない。そして、パレート曲線のふくらみ具合が大きければ大きいほど、強力なエリート商品をもっていることを示す。
事例でいえば、上位3品目(d,f,a)の売れ行きがこれほど突出してなく、Bランクの2品目(e,c,g)に人気が分散していれば、パレート曲線はもっとなだらかなカープを描くわけである。
Aランクに属する商品の品目数が少なければ少ないほど、お店の主カメニューが明確であることを意味するから、材料の仕入れ、ロス管理、調理手順のムダの排除について、さらに高効率化を図れることになる。
ところで、実際に分析表を作成してみるとわかるが、売上高ABC分析、出食数ABC分析、粗利益高ABC分析の結果導き出される貢献度(順位)は、多少食い違ってくる。
たとえば、売上高では貢献度が一位なのに、粗利益高貢献度では二位に甘んじ、売上高では三位だった商品がトップに踊り出たりする。これは、商品の原価率が.品目ごとに違うために起こる現象だ。かりに全商品の原価率が一律=粗利益率が一律であるなら、売上高ABC分析の結果と粗利益高ABC分析の結果はぴたりと一致する。
しかし、全商品の原価率を一律にすることなど、常識では考えられない。原価率を先に決めて価格をその率とコストで決める方法を原価主義というが、これではとうていお客に支持される価格設定などできないからだ。
また、ABC分析の目的を誤解しているケースがあるので、注意を促しておきたい。いちばんの問題は、Cランク商品の扱いである。たとえば、その商品があることでファミリー客を呼べるとか、老人客にも喜ばれるなどのケースは少なくない。居酒屋でも子どもが好むメニューが必要な場合もある。子どもと老人への対応は、今後さらにその重要性が高まってくる。たんにレパートリーをひけらかしたいがために、あるいは無政策の結果としてメニュー表に載せているのなら、Cランクとわかった時点で切り捨てなければならない。しかし、立地条件や客層をも勘案した臨機応変さは絶対に必要である。
商品にはそれぞれ、役割分担がある。
粗利益率の高さで儲ける高収益型商品もあれば、粗利益率は低いが価格が高いため金額としては儲かる高収入型商品もある。また、売れ筋商品にお客を誘導するためのおとり商品や引き立て商品は、順位が下でも品揃えの必要がある商品だ。通年さばける商品もあれば、季節性による波の大きいものもある。したがって、あまりに分析の結果に従順すぎると、かえってメニュー政策がぼやけてしまうことになってしまう。
ABC分析の第一の目的は、売れているAランク商品がよりたくさん売れるように、管理の重点を置くことにある。