人間、人と違ったことをするのには勇気がいる。日本人は、みんなと同じなら安心という横並び意識が強いとよく言われるが、飲食業でもこのことが当てはまる。
個性が大切と口では言いながら、実際のお店づくりを見ると、ありきたりのお店のオンパレードである。そんなことだから、いつまでたっても繁盛できない。確実に成功したいのなら勇気を出して、自分流のお店づくりに徹することだ。たしかにいまは、飲食店の数が増えて競争の激しい時代だが、だからこそ、他店との違いを明確にする必要がある。そうでなければ、どこにでもある似たようなお店の一店にしかなれない。
つまり、自分から繁盛店になることを諦めることになってしまうわけだ。
繁盛するために他店とは違うお店にすることを差別化という。差別化には、商品、サービス、雰囲気づくりのさまざまな面でいろいろな方法があるが、基本は「右へならえ」の「常識」の発想をきっぱりと拒否することである。あえて極端な言い方をするが、要するに、自分の好きなことを好きなようにやるという、独断と偏見を大事にすることが必要なのだ。
ただし、お店はビジネスであって趣味ではない。当然、たんなる独りよがりではダメなわけで、あくまで「お客様の満足」という視点に立ってお店づくりを組み立てなければならない。アイデアとしてはいくら面白くても、お客様に支持されなければ話にならない。
ただ、注意しておきたいのは、「お客様の満足」を追求するのは必ずしも八方美人になることを意味しない、ということだ。どんなことでも、認める人がいれば必ずけなす人もいる。当たり前の話である。それなら、認めてくれる人にお客様になってもらえばいい。
そもそも、席数の限られた小さなお店なのだ。10人中8人、9人に認めてもらう必要などまつたくない。それを欲張るから、妥協の産物、つまり没個性のお店になってしまうのである。たとえば、無難な線を狙って60点のお店をつくったとしよう。達成率が80%とすると、実際は50点そこそ
このお店でしかない。現実問題として、100%の達成率などあり得ないのだ。それなら、あえて100点満点をめざすべきである。そうすれば、たとえ70%の結果だったとしても、70点を稼ぐことができるのだ。
しかも、無難な線の50点と勇気ある70点の違いは、たんなる20点以上の違いになる。ここに飲食店経営のむずかしさと面白さがある。
50点のお店とは、個性のかけらもない、当たり障りのないお店である。だから、お客様の好き嫌いの落差は小さいが、ハートをしっかりとつかむことはできない。 一方、100点をめざしたお店には確かな個性がある。個性的であるほど好きな人と嫌いな人とに極端に分かれるが、それだけに好きな人の支持はより強くなる。お店に共感してくれたお客様は、熱烈なファン=固定客になってくれる。
不安からつい八方美人になってしまう気持ちはわかるが、勇気をもつことだ。 一歩踏み出して「自分流」のお店づくりをめざすこと。成功への突破回はそこから生まれる。